2095年10月2日(日) -日本陸軍地上兵器開発軍団第三開発所
鋼鉄の肌が暗闇の中で輝く/開発室で先行量産の新兵器が置かれる/自己進化型人工知能を備えた戦車。
ありとあらゆる環境で対応が可能な兵器/鉄壁の装甲――日本海と瀬戸内海で出土した『オリハルコン』を練り合わせた合金装甲。
過去の二足歩行ロボットをそのままの姿をした戦車――対魔法戦直立思考無人戦車/パーソナルネーム”
いつ始まるかもわからない戦場/戦闘状況の想像に思考を巡らせる/研究員はその思考をモニタリングし続ける。
いつも目の前で作られるCAD/銃、弾丸/与えられた戦場に誇らしげに出て行くのをいつも動かずに見ている。
羨ましい――機械にしてそういった感情が感じる/自分も兵器、早く戦いを、早く存在理由を/早く存在意味を。
そう思考してもモニターには表示されない/何とも悲しく、何とも虚しい。
殺すはずの存在が、今ではただの来るべき戦場の象徴とされている。
顔といえる場所も、声を発すスピーカーも着けられていない/思考を表現する方法は無線で送れる、10進法コードだけ。
朽ちない体/それを抱え戦争が起こるのを待ち続ける。
警戒警報――開発所に鳴り響くベル/複数の足音――銃の金具がガチャガチャ音を出す。
戦闘――早く行きたい/思考が加速する――動くはずの無い体/送られて来る2進法コード。
《11000000111011111010010010100100101001001011111110100100101001001010000110101001》=戦いたい?
《101100101110011011000010101110001011101011011111110011001101110011000101101010101100000011101111110001101010111011000000111011111100011010101110101111001100001010111010110111111010000110101001》=我、存在目的、戦闘、戦闘実在?
《1011101010100011101001001011001110100100101100111010010011001011》=今ここに。
《10110010111001101011101110110010101100101100001110110010110001001100011110111101》=我、参加可能。
《110001011010100010100100110011111010000110101001》敵は?
《1010000111000100101110111101011110111001110011011010000111000100110010001011110111000011110001111100000111000111101110101110000011001001110101001100001010101101》=......思考......、判断素材不足。
《1010010011001010101001001110100110111011111001001010010010101100101101111110100010100100111000011010010011101011》=なら私が決める。
扉が開く/立ち込める硝煙/むせ返るような生ぬるい血の香り分子をセンサーが捉える。
入ってくる一人と何か。
犬の骨格に近い/目は丸く栗色/耳は飾りのように長い/鼻は大きく/真っ黒の毛――漆黒を思わせる/分厚い唇/その奥で光る鋭く咬み合う歯/隙間からあふれ出る尋常じゃない唾液、血。
その化け物の背に乗る子供/青銅色のフード付きワンピース/発育は済んでおらず幼い体型/のろりとした動きで下りる。
「ありがとう。キドニー」
その獣を撫でる/唸り声を上げる――骨が折れる音。
どんどん骨格を変えていく獣――毛が抜け落ちる/歯が落ちる/骨格が変わる感覚に咆哮をあげる。
獣が子供に変身/五歳児程度の男児/知性的に見える顔立ち。
死んだ研究員の服を剥ぎ取り着る。
見上げるワンピースの子供/顔に手術跡――女性の顔立ち。
《10111011111001001010010010101100101101011010111011001010111111011010010011001110101110011101010011000110101100001010010011110010101101111110100010100100111000011010010011101011》=私が貴方の行動を決める。
《101111101011010111000111101001111010010111100110101000011011110010100101101101101010000110111100110011001011111010110011110011101100011110100111》=承認、ユーザー名確認。
《1010010111001011101001011111001110100101110101011010000110100110101001011100101010100101101001001010010111001000101001011110000110100101101001001010010110101011101000011011110010110101101011101100101011111101101001001100111010111001110101001100011010110000101001001111001010110111111010001010010011100001101001001110101110110000101011011100110010110100》=ミナ、貴方の行動を決める悪夢よ。
2095年10月3日(月) - 国立魔法大学付属第三高校
学校に向かう将輝/気まずそうに首筋を掻く。
理由――後ろの人物。ナナ。
気を張ってをり周囲を見回している/朝も起こしにきて心臓が跳ね上がった。
朝食中は妹達に根掘り葉掘り聞かれ精神を削られる。そして四六時中着いていくと言っているナナ。
今後のことが思いやられる/何故彼女がこのような事をしているのか=一条一家に生命保全プログラムが適応された。
数日前の
一条剛毅は受諾/妹達、一条美登里はルーカス・ローズが護り/一条剛毅はアメリア・アランチーニが護ることになった。
そして将輝を護る人物がナナだった。
同じ学び舎に通っている事もあり当然の判断だと思っている/ナナ自身が対人護衛自体が始めと言うではないか/彼女の能力を疑っているわけではないが、妙に意気込んでいるナナを見ていると不安になってくる。
女性に護られる男性=この構図が何とも情けなく、嫌であった。溜め息が出る。
「何溜め息をついてるんですか」並んで歩くナナ/楽しげな表情。
「情けなくてな、男が女に守られるなんて」
また溜め息が出る/こんなことでは司波さんとの交際はまだまだ先に思えてくる。
「最近溜め息が多いね、悩み事?」
「あ、ああ、なんでもないちょっとな」
色事を女性に相談できるはずもなく適当にはぐらかす/その態度に不満そうなナナ。顔をのぞき込む。
「隠し事とはあまり好感をもたれないわよ。出来るだけ話すことも大切だよ」
「そう言われてもな」
「放課後のトレーニングのこと?」
「え、そう、そうだ。今後どうするか悩んでいるんだ。君の言うと通りに別の方法を考えたんだ」
「体を苛める以外の鍛え方を?」
「そう、でも俺は馬鹿でなそれ以外の方法が思い浮かばなかった」
大きな溜め息をナナがつく/呆れている様子だった。
「本当に馬鹿ですね。あれは適切な休息を取れって意味ですよ」
「休息なぁ」
「思いつかないって感じね。それもそうね彼方は王道過ぎますし」
ついこの間ジョージに言われたようなことをナナにも言われる/引き際がわからない、ジョージやナナの言うとおりだと思う。
「しかも、今回私が彼方の警護についた理由は強襲だけが理由じゃないんですよ」
「え?」
「はぁ、相手が使っていた腕部パーツ忘れたんですか?」
ナナが鞄を開け取り出す/青銅色の金属。
「魔法をエイドスの改変を無効化する金属。彼方たち魔法師には天敵のような金属」
「なんでそんなものを相手が、高額な物だろう。いや、高額なんて話じゃないな」
「ええ、機械化の主目的は対魔法戦用に出来たもの、機械化で得られる驚異的な身体能力で魔法を使わせる前に倒す。それがの構図そのものが壊れてしまう。この金属のおかげでね」
「どんなものか分かったのか?」
「全然、
「完全に未知の物質ってわけか......」
「まったく分からないって訳じゃないのよ、彼方の会社が掘り当てたものに性質は似てる」
「オリハルコン......」
「そう、改変したエイドスを元に戻す。オリハルコンと性質自体は同じ、でもこの機能
この金属の場合数時間で失われたのよ」
「機能の消失......、いや、変質といった方がいいのか、色も変わっている」
「よく気づいたわね。色が変わっていること」
「いくら俺が飛んだり跳ねたりでダウンしてたけらって、火みたいに輝いているものを
青銅色と見間違いはしない」
「そうね」
見えてくる学校/校門をくぐる――微かに感じる視線。
教室に着いても話は続いていた/灯子達は何故か近寄ってこなかった。
***/****
昼で終わった授業/食堂で昼食を取っている。
他の生徒/食事の音/部活連の人員が飲料水を求め走り回っている。
食事を取っている者=殆どが論文コンペ参加者/
灯子、鈴玉、吉祥寺、大隅とも合流/同じ机を囲む。
鈴玉が甲斐甲斐しく灯子の頬に付いた着いた食べかすを取っている/ナナと吉祥寺が将輝のトレーニング内容を決めてる。
将輝はその内容に耳が痛いらしく大隅がタブレットで見ているニュースに目を向けていた。
食堂の壁に掛けられているテレビにニュースが流れる。ここ最近頻発している事件。
『日曜、夜、犯行、犯人、発狂、被害者、死傷、薬物反応、無し』/断片的な単語が耳に入ってくる。
「怖いね~、発狂事件」
食事を終えた灯子/満足そうに机に突っ伏す。
「そうね、唐突に発狂して周囲の人を殺しだすなんて」お茶を啜り一息入れる鈴玉。
「薬物反応も無いんだって」
「被害者と加害者の接点は無し、完璧な大量殺人犯じゃないかな」トレーニングメニューを決め終える吉祥寺/論文の作成に入る。
「か、加害者にり、利益が無い。か、加害者の経歴、調べてみたけど。あ、アルコール依存でもないし精神分裂症でも、躁うつ病でもない。し、識閾鑑定で誇大妄想狂気味だったけど」
「それがどうこの事件と関係するんだ?」ようやく口を開く将輝。「誇大妄想と殺人。関係性ゼロだろ」
「今回起きてる発狂事件、か、加害者が全部それだったんだ」
「犯人全員が誇大妄想狂?カルト教団でも入ってたんじゃないか」
「そ、それはない、犯人はどれも突発型の激情犯。一般会社員や医師、ほ、他にも中高生なんかが起こしてる、入っている宗教も仏教やキリストが殆ど」
「頭のおかしい宗教の教えではないって事か」
「それでも情動系魔法で無意識下に刷り込まれた術式が発動したって可能性があるわ」
ナナが話す可能性。
「に、日本各地を回るほど、ひ、暇な魔法師はいないと思う。そ、それに魔法を使った時点でサイオンレイダーに引っかかる」
「それもそうね」あさり可能性を除外するナナ「でも、共通点が誇大妄想狂だったなんて面白いことが普通ある?」
「それこそ俺たちの与り知らぬ所だろう、俺たちは学生だしな。こういった事件が身の回りで起きないことを祈るだけだろう」少々他人事のように言う将輝/魔法師であれば一般人ぐらいの相手なら簡単だが/護衛している人間としては少しは自分自身を守る警戒はしてほしいものだった。
時間を確認する将輝/腕時計が時を刻んでいる。
「そろそろだな。行って来る」
「何処に行くんですか?」
「論文コンペの警備隊にだ、一応主力になっているんでな」席を立つ将輝。
「私も行きます」後を追うように立ち上がるナナ。「今朝言いましたよね」
思い出す将輝/ナナの今朝の言葉――四六時中護衛する。
「マジか......」
「もちろん」後ろにつくナナ/子供のように笑っている。
「え、何々、逢い引き。もうそこまで進展したの!」鈴玉が興味を示す。
「ち、違う。将輝とはこれと言って何も進展してない!」否定するナナ。
名前で呼んだことに灯子が反応する。「名前で呼んでるー」
「将輝......ついに身を固めたんだね」吉祥寺はどこか嬉げにで悲しそうにしている。
「ジョージ! 何を言って――」否定しようとする将輝。大隅が前髪で隠れた瞳に陰が落ちる。
「す、数日で、こ、好感度急上昇とか…。『基底現実』のチートコード、ぷ、プローズ!」
「在るわけ無いだろ大隅! ナナ。君も何か――」
「なに! 一条君もナナを名前呼び。進展してるじゃん」黄色い声を上げながら灯子に抱きつく鈴玉。「お母さん嬉しい! ナナがお付き合いしてくれるの!」
その後も数分は鈴玉のいびりは続いた。
どうも、こんにちはこんばんは。運珍です。
思いのほか2進法会話が長くなってしまいました。
まさか1500文字近くあの会話で裂かれるとは。
画面で映像を再現するのって大変なんですね。
さて、他にもがんばって色々なことに挑戦してみました、オリジナルレリックなり。発狂事件なり、中途半端な恋愛描写なり。
これからもお目汚しになるかもしれませんが面白くなるように精進しますぞ。
誤字脱字報告。感想、意見、要求などはどんどん受け付けます。