セコンド・ピアット1
2095年10月1日(土)- 一条海洋掘削株式会社 25階カフェエリア
昼を過ぎ傾きだした日差し/日の高い時間のように鮮やかの感じられない色/山吹色に染まるビル群。
壁に掛けられたテレビから流れる事件速報/各地で起こる突発的発狂/原因不明。
九校戦も終わり夏休みも終わった時期/舞い込んで来る要求――『失楽園』の主、首しかない神/チャールズ・ルートヴィヒの要求=『
事件捜査中にそのような要求は通らない――普通なら。
その成果=マルドゥック市有数の大企業、オクトーバー社の不正解決/報酬=
新カルタヘナ国際法に従事、マルドゥック市だけではなく国外でも活動が出来るようになった連邦司法局所属機関。
その過程で組織的、技術的拡張を行う際に吸収合併された研究所=『楽園』
後の『失楽園』。
このことに反対した人間――チャールズ・ルートヴィヒ。
意見――『我々は連邦政府との戦闘を出来る人員を要している。箱舟の扉を開きたいのならそれなりの態度を』
脅しに近い言葉。政府の態様/追加予算の申請/人員の申請/被験者の提供/魔法技術の提供/
無茶苦茶な要請や申請も通す/『楽園』が持ちうる壊滅的な技術で。
そしてチャールズがもっとも興味を示したもの=
『マルドゥック機関』はその活動からさまざまな地域に行く/行った地域で産出される
そのたびにドクターの護衛に手が空いている人員が選ばれる。
ナナ/ウフコック/アメリア/ルーカス。今回の護衛に選ばれた人員。
日本は犯罪を病的に嫌っている/今でも犯罪の発生件数は低い。
一階上で行われている
『オリハルコン』
古代ギリシア・ローマ世界の文献に登場する金属/英雄ヘラクレスの脛当てはオリハルコン製だったそうだ。
日本海北西部で産出/発見報告――「錆が一切見当たらない発光する金属だ」
調査研究――「3000以上前の物」「密度の割りに比重が比例しない」「サイオン放射を一切受け付けない」「受けた魔法のエイドスを元に戻した」
にわかに信じられない報告の数々/特に最後。
「受けた魔法のエイドスを元に戻した」
現代魔法の定義――事象に付随する情報体、エイドスを改変する技術。即ち魔法は改変した情報体、エイドスの塊。
事象改変した魔法/改変前の事象に戻す/魔法師中心社会を壊しかねない
「持って来たぞ」紙コップを両手に持つ一条将輝。「コーヒーでよかったよな」
一条家の当主一条剛毅/その仕事を手伝っていた将輝/
「あ、ありがとう」口ごもりつつ名前を呼ぶ「ま、将輝......」
「お、おう」
今まで苗字で呼んでいた/違和感があった。
ナナの少し気恥ずかしげに呼ぶ姿/一条の調子を狂わせる。
「髪型一つで印象、変わるもんだな」
「そう」肩で切りそろえられた髪/指でいじる。「身体検査で、ね」
「大変だな、機械化というのも」
「そのおかげで私は生きている」コーヒーを受け取る「金属探知機にすぐに引っかかて不便だけどね」
「ははは、そうだろうな」コーヒーに口を付ける将輝。「便利か不便かよくわからないな」
「便利ではあるわよ、脳にハードを埋め込めば無線通信できるし、体の機械化は身体機能の向上にも繋がる。代謝の制御、知覚の鋭敏化。外部パーツによる機能の拡張、サイボーグになれとは言わないけど手足の機械化は勧めるわよ」
「魔法師は出来ないな。部分機械化でも魔法が使えなくなるって聞いたぞ?」
「とんだデマよ。脳のフル機械化で魔法演算領域を失った人の言ったことよ、無意識領域を自分で傷つけてそれを機械化のせいにするのは都合が良すぎるわ」
納得したように頷いた将輝/自分の手を握ったり開いたり。
機械化に興味を抱いたように見えた/あまり勧めたくはなかった/機械化の影響で精神を病んだ例は幾つはあった。
将輝に限ってないと思う/人間である以上絶対無いとはいえない。
何よりナナは彼の行為を気に掛けていた。
「最近かなりストイックなトレーニングをしてるんだって?」
「聞いてたのか」
「聞かなくてもわかるよ。体も疲労してる、少し休んだ方がいいよ」
「いいや、もう少しでわかる気がするんだ。白兵の感覚が」
「モノリス、気にしてるの?」
「......あれが初めてだったんだ負けてのは。死ぬほど悔しくてな」
「悔しさを糧に自身を向上させる精神は讃えられべきだけど、それで自分を壊したらただの馬鹿だって言われちゃうよ。練習過程見てたけど、あれじゃあ体を壊そうとしてるよ」
いつも以上に魔法実技で気合を入れ魔法を使い/放課後、論文コンペの警備のために体を虐める。
警備のための体造りは酷いものだった/体を壊そうとしているようにしか見えなかった。
「ナナから教わった対人戦術も活かせないままやられたんだ、投げ飛ばされた経験も用を成さない」
「長期に亘る経験を短期間で身に付けることはできない、『継続は力なり』昔の人はいいこと言ったわ」
「君の白兵戦術は
「それもある、でも知識自体は自己防衛のためにこの『体』になった時に無意識に刷り込まれたわ」
「それでか、君が組み手があんなに強かったのは」
「......でもまだ越えられない、私自身の
***/****
その後も続く話/機械化/体術/戦術知識/ナナの経験した話せる範囲の解決した捜査。
どれも戦闘に関する質問「機械化で得られる身体機能の最大は」「マジック・アーツを越える体術は存在するのか」
知識の探求/それの応用――実戦/一般的なものを殆ど知らないナナにとっては助かった。
アドバイスがしやすい/最もそれぐらいしかなかった。
話している間だわ己を忘れられる/何に成ったのか/何に成ってしまったのか。
アメリアからオープン通信。《彼氏とカフェデートは楽しいかい》
《で、デートじゃない!》
ルーカス。《初々しいなぁ。聞いてらんねえよ。こっちが恥ずかしくなってくる》
アメリア。《そっちは社内警備だからいい。こっちは外で何もすることなくて恥ずかしさで死にそうだよ》
《デートじゃないこれも警備。ドクターの身辺を守るためよ》
《でも楽しんではいるだろ》ウフコックが目を覚ます。
手を叩く音。《ネズミの旦那も言ってるぞ。ナナ》ルーカスの愉快な声。
アメリア《自分を抑圧しない方がいいよ。この先もっときついことだって――》通信が途切れる。再度通信。《玄関口に変なのがいるよ》
はっとする/立ち上がる。
「どうした?」
「ここって玄関口の警備は?」
将輝に聞く/よく状況が飲み込めてない。
「防犯カメラと炸薬反応型のスキャンがあるだけだが?」
窓際に行く/外を確認――
玄関口――一人の人物/パーカ―/ジーンズ/前つばの帽子/体格からして男。上を見上げている。
《面接を受けに来た......にしては格好がラフすぎるね。話を聞いて見るか》車から降りるアメリア。
真っ直ぐ男に向かう――動き。男が屈む/ズボンの裾を掴む――破り捨てる。
現れた足――機械化された義足。足に内蔵されていたローラーブレードが姿をあらわす。
高速で回転を始める――地面と擦れる/煙を上げる。走りだす。
袖を捲くるアメリア――間に合わない。
飛翔――男が飛び上がった/建物に向かい進む。
体を回転させる――足を壁につける――駆け上がる。
体を捻り/腕を使い/手を使い/足を振る。器用に重心をずらしながらビルを上って行く。
目の前を通過していく/ローラーがガラスを亀裂が走る。
さらに上に/ガラスの割れる音。
テレビを
一階上の取引会場のカメラ――ヒット。映る会場。
煙/スモークが焚かれて見えにくい。
ドクターからの通信。《入ってきた奴が
窓が割れる音/壁を吸い付くように下りる男――壁を蹴り電線に移る。地面に下りる/走り去る。
窓に向かい走る――飛び出す。ふわりと内包物が浮く感覚/
着地し走る/駐車場を見る――追いつくための車両を探す/見つける。
一番手前に止められているバイク――8200ccを搭載するモンスターバイク/ルーカスの愛車。
エンジンに火が入る――震えだす/咆哮を上げだす。落下する影。
将輝がナナと同じように飛び降りる/減速魔法を四重掛け。後ろに乗りる。
「下りて将輝、危ない!」
「構わない。奴にガラスの弁償をさせないといけない!」
バイクの咆哮に掻き消されながら叫ぶ/下りそうにもない。
「ああ、もう! どうなっても知らないから!」
発進させる――怪物のような叫びを上げるバイク。走り出す。
《ナナ! 俺のシャーリーンをどうする――》ルーカスのわめき/通信をきる。
全身に感じる風/寒さ。道路に付く二つの黒い線/スリップ跡――ローラーブレードが付けたもの。
追う/跡を/
咆哮を上げ続ける
大通りを抜ける/北に向かうスリップ跡/過ぎていく町並み/人影。
旧金沢バイパスに向かっている――スリップ跡が消える。建物の壁につく黒い跡。
「飛ぶわよ、将輝ちゃんと掴まって!」
「ちょっと待て! バイクで飛ぶってどう言うことだ!」
最大出力で
484kgある車体が浮き上がる――屋根に乗り上げる。跡を追う。
旧金沢バイパス/車が走っている――中に混じる人間。足を機械化した男。
道路に飛び乗る――男を追う/並走する。
帽子の下から覗く驚きの表情/パーカーのしたから取り出される銃。発砲。
再び追う/体を上げる将輝。腕に握る深紅の特化型CAD。撃ち放たれる魔法/得意の爆裂。
身を動かし避ける男/ローラーブレードがスリップする/正面を向く。発砲。
ナナの支援――ウフコックが
甲高い音を響かせる/空中で飛び散る火花/弾丸の破片。
爆裂が破片の隙間を縫い男に向かう/重心を戻すとしている男/避けることは不可能。
迫る死/咄嗟に腕で顔を隠す――隠した腕が変化/腕も機械化を施している。
皮膚装甲が開く。腕の中で煌めく金属/焔のように赤く揺らめく金属。
違和感――空気を伝い感じるエイドスの動き/爆裂が『元に戻される』
「効かない!」魔法を無効化されわめく将輝。「魔法が効かないぞ!」
風圧で掻き消されそうな声「わかってる。これを使って!」
ウフコックが銃を抜け出し新たな銃を作り出す――30口径オートマチック拳銃/将輝に渡す。
銃を受け取る/恐る恐る構える――撃つ/反動に腕か跳ね上がる。
ナナの腕に戻るウフコック/50口径リボルバーに
銃弾の中を避け続ける男/ミラーにもう一つの人影。車を追い越し走り追いついてくる者。
「ナナ! シャーリーンに傷つけてないだろうな!」
100キロ近く速度を出しているバイクに走り追いついてくるルーカス/常人ではありえない/魔法でもこれだけの速度は出るかわからない。その答え=ナナと同じ存在。
ルーカスの特殊検診の成果=超高速運動能力/一般人が得た特異な運動能力/肉眼では捉えきれない速度/監視カメラの一フレームにも写らない走り/想定最大速度=360キロ/今後の識閾値上昇で更なる速度を手に入れる可能性。
「俺の『女』に傷を付けるなよ!」
「ルーカスそれよりあの男捕まえて!貴方にとってこんなの小走りでしょ」
この言葉に機嫌を良くするルーカス/腰に下げる二振りの鉄パイプを手に取る。
「当たり前だ。見てろ!」
次の瞬間、姿が搔き消える/それを見ていた将輝/ルーカスの姿を探す。
ナナは一点を見ていた=ルーカスの姿――機械化男を追い越す。
Uターン/回転させた体――鉄パイプが男の膝を砕く/流れるような動作で腹にも一撃。
無血主義ルーカスの相棒――彼曰く聖なる鉄パイプ。
ただの鉄パイプではなく最新科学によって作られた物/膨張率の違う金属で出来たパイプ/金属内部には、血管のよに無数の管が存在する/その中を通る特殊な精油/握り手で操作した精油――移動によって一ミリ単位での操作が可能になる/慣性の法則と流体力学の結晶――ルーカスに与えられた
足を割られた男――残骸をばら撒き転がる。最後の力/飛び上がり――高架下に。
「掴まって!」
落ちていく男――それを追うバイク。ウフコックを
ギプスのように
炸裂。強烈な光/空気を揺れる――耳を裂く爆音。
真っ直ぐ放たれた弾丸――男を貫き/弾けさせる。抜けた弾丸は地面を抉った。
男だった物が降り注ぐ。金属/肉/血/精油、男を形成していた残骸たちは地面に赤い花を作り上げた。
バイクが地面に着地する/車体が僅かに地面に擦れる。
飛んだり跳ねたりでぐったりしている将輝/それを尻目にバイクを降りる。
花の中を歩き
残骸の中に埋もれいるそれ/手を赤く染め掴み上げる。
主人を失ったにもかかわらずその金属は今も焔のように赤く美しく、炎の揺らめきのように綺麗だった。
どうも、こんにちはこんばんは。運珍です。
マルドゥックシリーズを見ている皆さんルーカスの能力、レイニーやワイズのどっちかと思った?残念アノニマスのナイフュー・ストーンホークでした。
今回からは横浜騒乱編です。
はいでも第三高はあまり描かれていなので無茶苦茶できます。
灼熱のハロウィン始まるまでオリジナルが続きます。
ではまた次回。
誤字脱字報告。感想、意見、要求などはどんどん受け付けます。