マルドゥック・マジック~煉獄の少女~   作:我楽娯兵

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ようやくクロスらしい物が出来てきた?


プリモ・ピアット5

 懇親会が終わり翌日――長旅のための休養/大会委員の計らい。

 皆=旅行気分――ある者/興奮。ある者/高揚。

 競技が翌日に控えていないものは、喋り、友との交友を深めている。

 だが一方――翌日の競技出場者=大半が就寝/静かに寝息を立てている。

 微かに聞こえる声――起きている者の声/どれも女性の声/消灯時間が無い為、話に華が咲いているのだろう。

 一方でナナはCADの調整に後を追われていた。

 競技中に対人用魔法『膨張』を使う訳にもいかず、ただ単純なサイオン波を衝撃に変換し標的にぶつける魔法をCADにインストールしていた。

 このCADの仕様=対人殺害目的/一般用には作っていない。それが祟り、途轍もない時間を割かれていた。

 時間も過る/かちかちと音――三針時計が午後八時半を示す/それと同時にCADのインストールが終わる。

 

ウフコックの問い「出来たのか」

 

「ええ、出来た。こんな仕様にするんじゃなかった」

 

 首を回せばぽきぽきと音が鳴った/あまりにも長い時間、画面を見すぎ目が疲れていた。

 

「今日は練習を休むか」気遣うような声。

 

「まさか、するわよ」

 

「練習熱心なのはいいことだが、明日は早撃ち(スピード・シューティング)だ。早めに寝たらどうだ」

 

「そうだけど、最後に”歌”の練習したいの」

 

 ウフコックの溜め息――子供に振り回される親のよう。

 私はくすりと笑う/出来たばかりのCADを腰のホルスターに入れる/立ち上がり、部屋を出る/ロビー――そのまま出る。

 窓ガラスなどが無い壁を探す/林付近に発見/周囲に人がいないことを確認=電子撹拌(スナーク)に反応無し/重力(フロート)を張り、壁に立つ。

 空が地平に/地面が壁になる――何とも不思議な光景/壁を歩きホテルの屋上へ向う。

 屋上――空調機器/外調機/音を立て動いている。

 重力(フロート)の向きを変る/正しい地面に足を付ける。

 ひと気=軍の施設のためあるはずも無く、月明かりが屋上を淡く照らす/”歌”の練習には打ってつけの場所だった。

 空調機器や外調機の音が届かない場所へ――微かにもれるハミング。

 音の静かな場所に着く――ボイス調整開始。

 アメイジング・グレイスを詠う――イギリスの牧師ジョン・ニュートン作詞による讃美歌。

 私の好きな曲――心が落ち着く。

 私にとっては讃美歌ではない――息継ぎのたびに聞こえる/僅かな音のずれ。

 呪詛と言っても相違ない/私だけの音の枷――歌の後半/意識が統一され周囲の音が遮断される。

 CADを使わない魔法――情動系の一つ/自己催眠に分類できる。

 集中力が異様に上がる/最後の一節。

 ウフコックの鼻が匂いを嗅ぎ取る――私への警告。

 

「悪意の匂いだ!」警戒の声。

 

「場所は」

 

 ホルスターからCADを抜く。

 

「左の林、数は四人、他にも一人いる」

 

了解(コピー)

 

 すでに臨戦態勢に入ったナナは左端に行き、CADを構える――電子撹拌(スナーク)で林の辺りを調べる。

 生垣に変装した侵入者を代謝性金属繊維(はだ)が捕える――そしてもう一人/生垣の向かいに一人。

 ラフな格好をした幹比古だった/彼もそれを追っていた――手に持つ紙=呪符。宙に投げ、光を佩びる。

 侵入者の三人は走りながら幹比古に銃口を定める――その進行方向の先から魔法の反応。

 何かの魔法は侵入者の銃を直撃――銃は音を立て崩れる――音を立て地面に落ちる。

 スライドから引き金、マガジンまでバラバラだった。

 直後、雷撃=幹比古の呪符/殺傷性ランクC相当の魔法/四人は雷に撃たれ崩れ落ちる。

 幹比古は生垣を飛び越える/侵入者に動き――銃を抜いてない一人が動く/銃を抜き、銃口を幹比古に向ける。

 それを見逃さずナナはCADにサイオンを送る/狙いは侵入者/引き金(トリガー)の感触/心が凍り静かに引く。

 『共振』を撃った――宙を走る直線的な光/サイオンの弾丸/敵の体を目指す――着弾。

 敵の脊椎を大きく揺らし、脳にまで届く振動/揺れは脊椎の一つ一つに伝わり、次第に大きな衝撃となる/衝撃は頭蓋を揺らす=脳震盪。

 侵入者は揺れに耐え切れず意識を手放す。

 

「なかなかの狙撃だ」

 

「ありがと、ウフコック」

 

 銃を下ろす/銃をばらばらにした魔法を使ったであろう人が歩いて現れるのが見える。

 薄着の青年/Tシャツから覗く筋肉質な体/顔もイケメンの部類。

 静かなに音を立てる海のよな瞳――突如、強烈なビジョン/重なる兄の姿/思い出せない声――記憶が軋み、兄の姿と彼の姿が重なる/首を振り現実に戻る。

 こちらを覗く彼/幹比古に指示を出す/私は彼に無言で口を動かし話掛ける。

 

Who are you?(あなたはだれ?)

 

 軋む記憶が吐き気を誘った――私は彼の返答を聞かず部屋に帰った。

 

 

 **/*****

 

 

Who are you?(あなたはだれ?)

 

 幹比古に指示を出す/ホテルの屋上にいる白髪の少女/俺に向かい、質問を投げかける。無言の質問/返答を聞かず姿を消す。

 にわかに人の気配=風間玄信/唐突に現れた――大天狗と云われる由縁/九重八雲の弟子で達也より遥かに長い期間教えを受けている=九重門下の筆頭。

 

「随分容赦のないアドバイスだったな、特尉」

 

 幹比古へのアドバイスの対処/俺の態度の批判/屋上の彼女が気になる/ぞんざいに敬礼をする――ニヤリと笑う少佐。

 

「他人に無関心な特尉には珍しいな」

 

「無関心は言いすぎでしょう」

 

「身につまされたか? あの少年も貴官と似た悩みを抱えているようだが」

 

「あのレベルの悩みなら、自分は卒業済みです」

 

「つまり、身に覚えがあると」

 

 容赦のない追撃/人の悪い笑みを浮かべる/話を変えようと考える。

 彼女が気になり横目で見る。

 

「それとも、特尉は団子より花、か?」

 

「それは......」

 

 少佐も彼女の姿を見ていたのだろう/探るような目――存外に楽しそう。

 

「確かに彼女は見目麗しい少女だ。私に息子がいるなら手放しで薦められる。......だが彼女はやめておけ」

 

「何故です」

 

「何だ、本当に気があったのか」

 

 その言葉に溜め息が出そうになる/少佐はそれを察し話を戻す。

 

「話を戻そう、彼女はやめておけと言った理由はある」

 

「理由?」

 

「特尉、マルドゥック機関という組織を知っているか」笑みは消え真剣な顔。

 

「マルドゥック機関……、確か25年前に出来た北アメリカの 聖遺物(レリック)

究の中心とする研究所、と聞いてますが」記憶を探りなんとなく思い出す。

 

「表向きはそうだ、だが他の面もあそこは持ち合わせている」

 

「他の面?」

 

「前身はただの人命保護し事件を解決する法令の一つだったそうだ、それが未だに機能

 している。そんな彼等が何故か、九島閣下の護衛を担当し何かを嗅ぎまわっている。国を出てまで行う捜査だ、大きなやまなんだろう」

 

「そのマルドゥック機関と彼女が何の関係が」

 

「せっかちは短所だぞ特尉、......屋上の彼女はマルドゥック機関の関係者かもしれないということだ。マルドゥック機関は捜査の一環で、国際連邦法の魔法項目や機械化項目に違反している対象を無差別に『処分』している。我々には関係のない事だが、あまり関わり合いにはならない方が身のためだ」

 

「わかりました」

 

 少佐の警告/あまり関係のないように思える――彼女の姿を思い出す。

 白灰色の髪――燃えカスのような色。/目――どこか探るような瞳。

 俺は侵入者を少佐に引渡し、部屋に戻った。

 

 

 

 2095年8月3日(水) - 九校戦 スピード・シューティング控室

 

 

 

 開始された九校戦/昨夜の事件――音沙汰なし/ドクターへの報告=検討中。

 ナナは椅子に座りCADをくるくる回す=ナナの集中法/人に注目される度にそわそわする。

 早撃ち(スピード・シューティング)より気になる――昨日の侵入者。

 軍の施設にもにもかかわらず銃を携帯し侵入した/日本の軍隊の警備はそこまでざるなのかと思ってしまう。昨夜のような事態を引き起こす気の抜けた国なら第三次世界大戦を生き残れない。

 別の可能性=手引きした者の存在。

 事前にドクター達や日本軍の調査が入った施設に送り込む可能性はそれしかない。

 戦闘専門のナナは無い知恵を搾って考え付く/その前に九校戦があった。

 観客(ギャラリー)も一日平均一万人が来る/それの初日、スピード・シューティングに参加する初心者=ナナ。

 予選が開始し、会場に入った/思ったより観客(ギャラリー)少なかった/落ち着き予選を勝ち抜く/そして準々決勝。

 対戦相手――七草真由美/十師族/七草家の長女/妖精姫(エルフィン・スナイパー)/前年度のスピード・シューティングの優勝者。

 刻一刻と迫る時間/不安要素があり過ぎた。

 一つ――ナナの経験不足/CADではなく火薬銃のほうが長く持っていた。

 二つ――CADの魔法式の展開速度/急いで拵えた魔法のため銃身の展開に時間が割かれる。

 三つ――相手の方が強い/七草真由美の魔法/魔弾の射手の実用性。

 他に挙げればきりがない/負けを覚悟で出場――時間まであと少し。

 ノック音/三度――立ち上がりドアを開ける。

 

Good morning(おはよう)。ナナ」

 

 両手にアタッシュケースを持ったスーツ姿のリアム/思わずドアを閉める/隙間に差し込まれる大きなアタッシュケース。

 

「顔見て締め出すのは行儀が悪いですよ」

 

 仕方なくドアを開ける/中に入るリアム/右手に大きなアタッシュケース/左手に小さいアタッシュケース。

 

「おはようウフコック」

 

「警護の方はどうした。リアム」

 

 サボっていると思い込むウフコック。だが匂いが少しおかしい/どこか可笑しそうな顔。

 小さいアタッシュケースを私の前で見せびらかす――悪戯っ子のような笑顔。

 

「いいですか? ドクターとイライジャのプレゼントですよ」

 

 その言葉で疑いがなくなる/リアムはやれやれといった感じ――小さいアタッシュケースを近くの机に置く。

 小さいケース/プラスチック製/400mm位の大きさ/パチン錠を外す。

 黒い衝撃吸収用のスポンジ/四つのバッテリー/他、何かのマガジン/その中央――私の作ったCADそっくりの大型拳銃形態の特化型CAD。

 

「それは、ドクターからのプレゼントです」

 

 スーツの内ポケットから紙を取り出す――ドクターからのメッセージ。

 

「えーと、ドクターの話だと、今ナナが持っているCADの強化改修版だそうです。銃

身の展開速度の向上、感応石のサイオン信号と電気信号を相互変換の速度改良、他イライジャが別の魔法をインストールしたハードを入れています」

 

 銃把(グリップ)部分に指紋起動用の機構がある。

 手に持つ/私のより重い/指紋が認証される――銃把(グリップ)や銃口のLEDが青く爛々と輝く=起動。試しに銃を可変させる。

 側面部のパーツが開く/上下部の銃身が開き内部の機構が露出する/一秒も掛らず展開する/感応石が私のサイオンを喰らい、透き通た蒼い光を輝かせる。

 気分が高揚する/早く試してみたい――子供のような気分/頬が緩む。

 それを見て、憫笑するリアム/毒されている私を哀れむような。

 次に、大きなケースを机に置くために持つ/音を立てて置かれるケース=相当な重量/かなりの大きさ対物ライフルでも入ってそうな/ケースの前に恭しく私を招く/引掛パチン錠を開ける。

 ケースを開ける――本体内部が革製なのか、開けた瞬間張り付いた革同士がばりばり音を奏でる/中で眠る被造物(クリーチャー)が目を覚ます。

 先ほどと似た姿をしたCAD/あれをそのまま狙撃銃(ライフル)にしたような形/人間工学を意識した銃把(グリップ)/照準補助を内蔵した機関部/ハンドガード部分には剥き出しの青いディスク/その下に二脚(バイポッド)

 相当な大きさで持つのに多少苦労する/銃把(グリップ)の穴に指を通す/銃床(ストック)は折曲式・折畳式・伸縮式の機能を一切兼ね備えていない/肩に銃床(ストック)を当て照準器を覗き込む――数回の光の点滅=網膜認証/銃口、銃身が赤く輝く/非常に重く対物ライフルを持っているような感覚/だが機能もさる事ながらCADでは初ではないだろうか――構成した単純な系統魔法を即時インストール・使用まで出来る機能まで付いている。

 二丁のCADは『共振』『膨張』『破壊』を標準搭載している/全体を見ようと側面を見る――銀で刻まれた文字/大型拳銃形態も見る――これも刻まれている。

 拳銃の文字――MOW/”私の唯一の流儀(マイ・オンリー・ウェイ)

 狙撃銃の文字――WOM/”私しかいない道(ウェイ・オンリー・ミー)

 ドクターからは『私の流儀を見せてやれ』というメッセージだろう。

 イライジャは『私の力で皆、捻り潰せ』という断固たるメッセージ。

 皮肉めいた文字に頬が吊りあがりる/笑いが漏れる=リアムの身震い/さぞかし恐ろしい顔を、私はしていたのだろう。

 

「もうこれは使えるの?」

 

「えぇ、デバイスチェックはもう済ませてます」

 

 心が凍るような微笑/漏れてしまいそうな歌声。

 

Magnificent(すばらしい)




どうも、こんにちはこんばんは。運珍です。

今回の反省点はCADの説明に文字を割きすぎました。
実際は今回で七草先輩との早撃ち勝負を入れる予定でしたが次回にします。
CADはもうサイコパスのドミネーターだと思っていいです。
書いてる時、想像し易いですドミネーターだと。
それにビジュアルを考えるのも疲れました。

誤字脱字報告。感想、意見、要求などはどんどん受け付けます。

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