艦隊これくしょん〜ゴップ閣下の優雅な引きこもり生活〜   作:rahotu

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第1話

突然だが皆さん、ゴップという名をご存知だろうか?

 

ガンダムをご存知の方には無能の代名詞、連邦の腐敗の権化にしてジャブローのモグラの異名を頂くあの男である。

 

最も最近では切れ者の軍政家としてレビル将軍と差別化が図られたり、グリプス戦役からの混乱期を生き延びた政治的怪物となってたりする。

 

だが、概ねの評価は後方で引き籠って踏ん反り返っているのが大体のイメージである。

 

果たしてそれが本当かどうか、彼の真の姿とは何なのかこれから見て行きたい。

 

 

 

 

 

ゴップ大将の朝は早い、毎朝6時にベッドから起きシャワーを浴び、用意された朝食を済ませコーヒーを飲みながらニュースをつけ、新聞に目を通していく。

 

ゴップ大将が飲むコーヒーは勿論最高級の豆を使用、朝食の材料も厳選されたものが選ばれている。

 

袖を通した制服はバッチリと糊付けされ、靴は鏡の様に輝いていた。

 

ゴップ大将が迎えの車に乗って鎮守府に着き執務室に入ったのは9時丁度。

 

既に秘書艦が本日の決算を待つ書類と熱いコーヒーを執務室の机に置き、隣の部屋で待機していた。

 

通常の鎮守府とは違いゴップ大将は常に秘書艦を側に置くことは無い。必要な時に呼び出し指示を出す以外は隣室で彼の決算を必要としない物を処理し、後は時々コーヒーのお代わりを持っていく以外やる事は限られていた。

 

ゴップ閣下の考えでは艦娘とは須らく戦力であり、一人たりとも遊ばせるべきでは無い、しかし、鎮守府ができてから第一艦隊の旗艦が秘書艦を兼務するのが慣例となっていた。

 

万事先例主義の海軍である、深海悽艦の出現から艦娘が出てきてこの全く新しい存在に対して当時の海軍人が如何に頭を悩ませたか。

 

何故なら見た目は完全に人間であり、しかし戦闘艦としての能力もある彼女等を既存の兵器の延長線上として考えて良いのか。

 

だが、そうしている間にも深海悽艦の脅威はまじかまで迫っていた。故に彼等は人道に関する問題を幸福なことか、考えずに済んだ。

 

そして何とか深海悽艦の侵攻を凌ぎ、鎮守府を作り組織としての体裁は整えたものの、艦娘に対する扱いは提督に一任するというのが今日まで続く各鎮守府の不文律として機能していた。

 

ゴップ閣下も鎮守府を預かる立場であり自分の艦隊も保有しているが、依然近海の状況は予断を許さないのが現状である。

 

しかし秘書艦がいなければ何かと不便であり、人間の秘書は常に人材が困窮している海軍にすれば贅沢依然の問題であると切って捨てられる。

 

故にゴップ大将は緊急時の時は秘書艦も直ぐに出撃出来るよう鎮守府内では最低限の事は自分でやっていた。

 

最も、鎮守府の外での彼の暮らしぶりは王侯貴族のそれと何ら変わりはなかったが。

 

軍隊での通例で士官将官は制服から住宅まで全て自費で賄わなければならない。これに交際費や諸々の費用がかかるので士官将官は高給取りであるが、それでも足りないことも出てくる。

 

しかしゴップ大将の家は代々の名家であり、実際彼は軍の給与が無くとも暮らしていけるだけの財がある。名家故に顔も広い。つまり、彼の生活は内と外で大分開きがあるのだ。

 

今日の執務を開始したゴップ大将は瞬く間に決済を済ませていく。彼のこの手の仕事は最早職人芸の域に達していた。

 

士官学校卒業後エリートコースに乗り、海軍大学を上から5番目の順位で卒業し海軍軍令部に参謀勤務。

 

以来後方勤務で成果を出し、顔を広めその地位は盤石なものと思われていた。

 

が、深海悽艦の出現と海軍の相次ぐ敗北、航路を断たれた故に起きた政治経済の混乱期に、ゴップ大将は敢えて前線へと赴いた。

 

無論自身が軍令部政財界の混乱に巻き込まれない様にするためであるが、表向きの理由として前線の激励と士気向上の為とされた。

 

口さがない者など都落ちや穴倉に引っ込む熊の様だと噂したが、艦娘の登場と鎮守府のシステムが全てをひっくり返してしまった。

 

艦娘登場以来その扱いは先にも述べたとおり、指揮官である提督に一任されていた。そして深海悽艦の脅威に対し各鎮守府が個別に対応し、徐々に前線から軍令部の意志が届かない、言い方を変えれば鎮守府は地方軍閥と化し提督はその親玉で艦娘は提督の私兵。

 

実際はどうあれ、軍令部から見れば面白くもない。まかり間違えれば内乱が始まってもおかしくないのだが、深海悽艦の脅威がその余裕を奪っていたのはある意味できの悪い冗談にさえ思える。

 

つまり前線と後方の力関係の逆転がゴップ大将には幸いした。ゴップ大将は勤めて善意の第三者を装いつつ、自身の艦娘と権力を使いかき集められるだけの物資を集め、それを全て最前線の鎮守府へと送った。

 

全体の必要量に対しそれは微々たるものであったが、常に物が不足しがちな前線では貰える物は何でも嬉しいのである。

 

また、奪還した海域と航路の維持に船団護衛計画の作成、その船団の護衛には各鎮守府を使い報酬という形で物資を配布。

 

(つまり、ゲームで云う所の資源の自然回復と各種デイリーウィークリーまわしの元締めである)

 

需要と供給の一致が孤立していた鎮守府同士を結びつけ、ゴップ大将の隠然たる影響力は軍令部のそれを凌駕していた。

 

そして元軍令部勤めという経歴が彼を紐帯として、軍として一貫した軍事作戦を取れるまでに回復していた。

 

(イベントのことである)

 

外面的には前線後方共に自身の影響力を拡大することに成功したゴップ大将であるが、彼本人は何をしているかというと…

 

「さあて、今日もココとココの帳簿を弄ってと、で次の作戦が近いから倉庫の接収前にあそこの社長に連絡してと、ああ次の鎮守府拡大の公共工事はあそこが受けるようにして」

 

見事俗物根治丸出しで今日もせっせと裏帳簿に記載される私有財産を増やしていた。

 

ゴップ大将又の名を此の世の俗物の権化である。

 

 


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