目が覚めると辺り一面草原だった。
字面にするとここまで不自然なものはないと思う。だけど言葉の通りの状況に陥ってしまっているのだ。
確か普通に家で寝て、夢の中でエミルさんと組手してから目を覚ました筈なんだけど
現在は寝た時の格好でこの場にいる。裸足で草の上に立つのってくすぐったいね。
変に澄んだ空気をしているこの場所は、とてもこの世のものであるとは感じれなくて…
「とうとうここまでやって来たようですね。転生者」
だからこそ、後ろに立っている人物に気付くことが遅れてしまった
殺気を帯びた言葉に息を呑んで振り返る。
金髪を後ろに束ねている男の人が鎧を着て立っていた。
男からは惜しみもなく殺気が漏れていて、今にもどうにかしてしまいそうに感じてしまう。
だけど、それよりも気になることをこの男は言った。
僕の事を転生者と呼んだのだ。
勘違いにも程がある。憑依は間違いなく拒否できたのだ。確かにそのせいで色々とおかしくなってしまっているけれど、僕は元々の人格であるということには変わりない筈だ。
この男はきっと勘違いをしているのだろう。そう考えると怒りが湧いてくることも無くなった
「違うよ。僕は転生者なんかじゃないよ」
「とぼけても無駄です。既に知っていますから。あなたが私の剣を使おうとしていることを」
一体この人は何を言っているのだろうか。
これ、本当の事をこの人が知ったらどうなるのだろうか
「この剣を貴方のような人に渡すことなど出来ません。だから貴方はここで倒させてもらう」
男は両腕で何かを握ると、右足を半歩後ろに下げて構えた
ちょっと、僕何も持ってないんですけど
「覚悟して下さい!」
その言葉とともに男が目の前に現れた。嘘、早いってレベルではないぞ!
眼前に迫る彼の持つ何かに嫌な気配を感じ、とっさに身体を捻ることで躱す。
そして息をつく間もなく第2波の攻撃が迫ってくる。
さっきよりも集中しているためか腕の振りはよく見える。しかし、相変わらず得物を見ることは出来ないため、後手に回ってしまう
後ろに飛び退いて躱したのだが、相手は再度こちらへ接近してくる
「どうしたのですか転生者。貴方の実力はそんなものですか!」
「はなしを、きいてよ!」
振り下ろしを間一髪避けて、次の横薙ぎをバックステップで躱し、そのまま相手の後ろに回り込む。
ジュードさんの得意技術である集中回避。覚えておいてよかった
「クッ!」
男は話を聞く様子もなく振り向きざまに攻撃してくる。
それをもう一度集中回避して背後に回りこむ。
間合いが分からないため、必要以上に避けないといけないのは不利だ。長時間戦えば得物の長さとかが感覚で見えてくるかも知れないけれど恐らくはそこまで打ち合う程、僕の実力では難しいだろう。
これってどうしようもないのかもしれない。
だけどそれでそうやすやすとやられるつもりもない。
僕はまだ生きていたいんだ。たとえ人外となったとしても、僕はここに生きているのだから。
それでも僕を殺そうと言うのなら、僕は戦う。
戦って、戦って、生き延びなければならない!
「貴方がどうして僕に攻撃しているのかはわからない。だけど僕を殺すというのなら、全力で抵抗する!」
そう僕が叫んだと同時に空気が震えた。いや空間が震えたという表現が正しいか。
空に亀裂が走り、轟音を立てて何かが現れた。
黒い鎧に背中から生えた白い帯。鎧の所々に走る白い線
僕は見たことがある。記憶の中にある物語の一つである人物が至った力。
その人物、ルドガー・ウィル・クルスニクが槍を携えやってきたのだ
「……貴方は何者ですか」
「……」
ルドガーさんは言葉を発す事もしないまま相手の方向を見ている。
顔も見えないため考えを読み取ることが出来ないが、一つだけわかったことがある
「僕を、助けに?」
そう、声を漏らすとルドガーさんは何も言わずに頷き、槍を相手に向ける。
「そう、ですか。邪魔をすると言うのなら、貴方も排除させて貰う」
相手の男も見えない得物を構えて臨戦態勢をとる。
空気が静まり返り沈黙が場を支配する。
先程まであった亀裂はいつの間にか無くなって太陽が照りつける。
何かを拍子に2人の戦いは始まるのだろう。
息を飲む。ルドガーさんの凄さは知っているけど相手も相当凄い人だと思う。この2人が戦えばどうなるのだろうか。
僕には全く想像もつかない。
「……貴様がここへ来るのは少しばかり尚早であろう」
突然背後から声が聞こえ、僕の意識は途切れた
本編は、頑張ってもシリアスっぽいで終わってしまう