人生最初の戦い。自分よりも大きな体躯で実力も相当なものだと予測できる恭也さんの動きを見る。
まっすぐこちらを射抜くように見る目から察するにこちらの出方を見ているのだろう。恭也さんからすれば僕に稽古を付けているようなものなのだから当たり前ではあるけど…
両手の木刀を逆手に持ち替えた後、走りだす。ドタドタと幼稚園児の走るであろうスピードで
それに恭也さんは反応し、迎撃の体勢なのか一歩後ろに下がった。僕はそのままスピードを変えずに恭也さんとの距離の所まで走る。
恭也さんの足を注視し、力が加わったのを確認したと同時にこちらも足を精一杯踏みしめて加速する。
「舞斑雪!」
「なっ!?」
脇をすり抜けるように加速し、それと同時に薙ぐ
しかし、恭也さんはとっさに横に跳び木刀を避けた。
更に足に力を込めて切り返す。まだ成功率は高いとは言えないが何故か必ず成功する気がする。
「斑雪返し!」
ノークッションで繰り出された技に恭也さんはかわしきれず、右手に持った木刀で防いできた。まだ僕が未熟とはいえこれを防ぐなんて。どんな反射神経しているのだろうか
だけど、恭也さんはガードのために足が止まっている。
再度床を踏みしめて今度は前に回転して跳びながら切り返す
「重裂波!」
両手の木刀を思いっきり叩きつけるようにして振り下ろす。
回転の力も加わり、恭也さんの体勢が少しだけ崩れた
「虎牙破斬!」
切り上げ、切り下ろし、着地。なんとか形にはなったといったものだけど、なんとか成功
切り上げは脇腹、切り下ろしは肩へ当たった。そして地面を踏みしめて両手に力を入れる
「双針乱舞!」
双剣での乱舞。ルドガーさんのとっておきで真っ先に教えられた技だけど、一番習得には時間がかかりそうな技
だけど、それだけあってとても強力なものらしく、ここぞという時に使っていけと言われた。
身体を回転させ、両手の木刀での切り上げ
左手で切り下ろし、右手で切り上げに続き左手で切り上げ
回転するように右手、左手での切り下ろし
少し跳び上がりつつ右手での切り上げ
交差させるように両手での切り下ろし
最後に蹴り上げつつ後方へのバックステップと発動させるのだが…
「あっ」
最初の切り上げで木刀がすっぽぬけて、あらぬ方向へ回転しながら飛んでいき、カランと音を立てて道場の床に落ちてしまった
その切り上げも恭也さんにガードされていて、なんとも言えない雰囲気となってしまった
「…そこまで」
士郎さんの言葉とともに一気に疲れと痛みが身体を襲う
おそらくは未だに身体が技についていけてないのだろう。
僕の腕はプルプルと震えて握力もないようなもの。足の筋も痛めたようで、歩くのが億劫だ。
だけど、もうちょっとで勝てそうだったのに
「凄いよ!優君!」
いつの間にかいた美由希さんが近付いてきて僕を抱きかかえる。結構力あるんだね
それより、少し汗かいたんだけどいいのかな?
「お前は何処かで剣術でも習っていたのか?」
恭也さんが木刀を持ったまま近付いてきた。そのタイミングで美由紀さんにはおろしてもらい、恭也さんに視線を向ける
どうだろうか、一応は習ったみたいなものだけど…
ここで習ってないというのは無理があるかな。技名も叫んでたし
「うん。ルドガーさんが教えてくれたんだ。使い方は教えてもらえたけどまだ使いこなせなくて」
「そうか。だけど気をつけろよ?まだ身体が出来てないのにそれだけ動くのはよくないからな」
「そうなの?」
まだ筋が張ってるけどそこまで酷いってわけじゃあ無いんだけどさ。まあ、使いこなすには反復は必要そうだけど
っと、恭也さんと話していると審判をしていた士郎さんが僕の頭を撫でてきた。一体どうしたんだろうか
「君に教えた人の流派は何て名前かわかるかい?」
流派か。ええっと、クレスさんはアルベイン流でルークさんはアルバート流、他の人は名前が無かったんじゃなかったっけ?しかも、大半が我流だったと思うし。
今回のルドガーさんの技に名前は無かった筈だ
「無いよ。ルドガーさんの我流だし」
「我流でそこまでの使い手がこの辺りにいるとはね。もしよければ会うことは出来ないかな?」
うん。無理だね
なんたってルドガーさん達って僕の中にいるんだし
「無理だよ。だってもういないし」
「いない?」
「うん。遠い遠い所へ行っちゃったんだ」
夢の世界に行かないと会えないんだよね。
だけどユーリさん曰く繋がりが強くなってくると普通に話せるようになるらしい
「……そうか」
「……?」
何故だろうか。士郎さんの目が少し優しくなって撫でてる手も僅かに触り方が柔らかくなった
少し勘違いされてる気もするけど、まあ気にする必要もないか
「美由希、優君を風呂に連れて行ってあげなさい。」
「わかったよお父さん」
美由希さんはまた僕を抱きかかえて歩き出す。
美由希さんが僕を見る目も優しかったのは何故だろうか。
◇
「……大丈夫か?恭也」
「ああ、父さんと稽古した時の方が痛むよ。体重が無いから威力がそこまで乗っていないってのは正直助かった」
「逆を言えば、お前にそれだけのダメージを出したのが単純な腕力だけだったということだが」
「なのはと同じ年とは思えないな」
「あの子に剣を教えた人、ルドガーさんと言ったか。聞いたこともない名前だ」
「最後に出そうとした技の初動の速さは神速を使った父さん並だったよ」
「わかっている。おそらくあの子は身体能力だけでなく、動体視力や反射神経も優れているのだろう」
「優れているレベルでは無い気がするけど」
「勿論それだけでは無いさ。あの技の一つ一つがあの子を昇華させていたのだと思うね。まあ、まだ身体がついていけてないようだけど」
「あの年であの強さなんだ。将来的には相当な実力を持つな」
「僕を悠々に越えていくだろうね。それを間違った使い方をしなければいいけど」
「ああ。だけど父さん、優が言っていたルドガーさんと言うのは」
「……名前からして外国人だろうし海外にいるのだとは思う。しかし、優君が言った時にした目はもう会えないと言っているようだった」
「…父さん」
「ああ、優君がいいと言うのなら、彼をこの道場に通わせたいね」