紫髪の少女月村すずかは悩んでいた。彼女の親友である高町なのはがずっと落ち込んでいるからだ。
親友として力になりたいとは思ってはいるが、彼女に出来る事は無い。一度件の少年、藤崎優を月村家のお抱えの医者に見てもらったが診断結果が変わることは無く、事実上のお手上げ状態であった。
それでも自分に出来る事を考え、彼女は海鳴市の図書館へと足を運んだのだ。
自分が読書を趣味としているのも理由だがここなら何かしらの情報が得られるかもしれないと淡い期待を抱いてやってきた。
その道の専門職の人達ですらわからなかった事が簡単に判明するとは思っておらず自分がやっていることは無駄なのかもしれないと自覚しているが、それでも彼女は本を探すことをやめなかった。
多くの人が利用する図書館。そこで彼女は車いすに座った少女が棚の高いところにある本に手を伸ばしているのを見た。
流石に放っておくわけには行かずに彼女は車いすの少女へと近づき、その手の先にある本を手に取る。
「これ、ですか?」
車いすの少女は少し驚いた顔をした後、彼女が手に持つ本を見て笑みを浮かべた。
「はい。ありがとうございます。」
少し関西の訛りが入った口調。明るい性格の車いすの少女と月村すずかはそれをキッカケにお互いの事を話し合った。
「そっか、同い年なんだ」
「うん、時々ここで見かけてたんよ。あ、同い年くらいの子やって」
「実は私も」
お互いにここで見たことのあると知ると、少しおかしく感じたのか二人は笑みを零す。
すずかは思う。そう言えばこうして笑って話をするのは久しぶりだと。
少し顔色を暗くしたすずかに車いすの少女は首を傾げた後口を開いた。
「私、八神はやて言います。ひらがなではやて、変な名前やろ。」
「そんなこと無いよ。綺麗な名前だと思うな。」
「ありがとう。」
車いすの少女、八神はやては少し照れくさくなったのか顔を赤らめて頬を掻いた。
それにすずかは微笑み、自分の名前を言う。
「私、月村すずかって言うの」
「すずかちゃん…一つ聞いてもええ?」
「どうしたの?」
はやてが気になるのは先程のすずかの顔。初対面といえど親切にしてくれた人が暗い顔をしているのは、はやて自身良くないことだと思ってのことだ。
「なんかあったん?初対面の私が言うのも何やけど、話ぐらい聞くよ?」
「はやてちゃん…」
すずかは少し反省する。他人に気付かれるくらいに表情を暗くしてしまっていたのかと。
自分がこんなのでは親友を元気づけるなんてもってのほかであるとも思った。
「私のクラスの男の子が入院しててね。その子の事を好きな私の友達が凄く落ち込んじゃってるの」
「そうなんや。その男の子は大丈夫なん?」
「わからないの。お医者さんも目を覚まさない原因がわからないって」
「…そっか。それですずかちゃんも落ち込んでるんやね」
はやては少しその少年を羨ましく思う。誰かにそこまで思ってもらえるのはとても幸せな子だと。
同時にその男の子の身も心配する。原因不明の病気。その子の両親も気が気でないのだろう。家族を失った経験がある自分だからわかる恐怖。だからこそ、その男の子には元気になってほしいと切に願うのだった。
◇
夜、高町なのはは自宅で気持ちを落ち着かせていた。
夢の記憶によればそろそろとある少女による襲撃がある筈だ。そこで自分は負ける。
だけど、今回は負けるわけにはいかない。今も眠り続けている少年、藤崎優に顔向け出来るように、隣に並び立つために自分は勝たなければならないと感じていたのだ。
結界が展開される。それを察知した少女は自身のデバイスを手に外へと飛び出す。
【緊急事態ですマスター】
「わかってるよ。魔力反応がこっちに来ているんでしょ?」
首から下げたデバイスの警告を知っているなのはは、それを聞くまでもなく行動する。
ここで戦闘するのは危険だとわかっているため、移動する。なるべく広い場所へ…
【違います。魔力反応が海鳴大学病院、藤崎優の元へ向かっています】
「……レイジングハートセットアップ」
少女はその報告を聞き、変身する。
夢とは違う展開。そう言えば彼女たちの目的は魔力であったとわかっていた。
故に急ぐ。今の少年は動けないのだ。そんな状況で襲われでもしたら大変なことになってしまう…
いくら、夢では仲が良かったとしても少年を傷つける者を許すことは少女には到底できなかった。
「全力で飛ぶよ、レイジングハート」
【了解】
◇
そして少女は出会う。未来では仲間として戦うであろう現在の敵と。
「ねえ、待ってくれるかな?」
「……てめぇは?何者だ」
赤髪の少女、ヴィータは異様な空気を纏った少女、高町なのはと対峙する。とてつもない威圧感ととんでもない魔力を感じる。
自分の目的は魔力の蒐集、故に大きい魔力の元へと動いたのだが、目の前の少女も多くの魔力量の持ち主だった。
「流石にね、私でも我慢できない事ってあるの。」
「……グラーフアイゼン」
冷や汗を流す。目の前の少女が纏う空気は危険だと自分の頭へと警告している。
だからこそ、相棒を握りしめて魔力を込めた。
「頭、冷やそうか」
今ここに、未来でエースオブエースと英雄視され管理局の白い悪魔として恐れられる少女、高町なのはがその力を開放した。
序章と第1話の間にて
「優君が眼を覚まさないのはどうしてか…」
【わかりませんね】
「わかったの!きっとお姫様のキスが必要なの!そうと決まれば!」
【ま、待ってくださいマスター!!】
「ええぃ!邪魔するな、なの!」
A's編は夢想編と現実編に分けて投稿します。基本的には交互に投稿していきますので