「あれから藤崎優君の動向はどんな感じかしら?」
「はい、艦長。一度封時結界を張ったものの、それ以降は特に目立った魔法の使用は無し。連日のように一人で海で遊んでいるようです。あと、ジュエルシードは肌身離さず持ってるみたいですね」
「そう。他のジュエルシードを集めているわけでも無さそうだし…本当に子供みたいね。だけど一人で遊んでるなんて、友達いないのかしら」
◇
管理局から逃げてから早5日目。今日も僕は海中のジュエルシードを回収していた。
あの日、山の土の中で息を潜めていた僕になのはちゃんが念話で話しかけてきた。
その時になのはちゃんは海中に6つのジュエルシードが沈んでいると教えてくれた。管理局と行動を共にしてるから自分達は目立った行動は出来ないと言ってたので、変わりに僕が回収することになった。
そして、管理局からの監視もあるからあまり派手に動かないで欲しいとも頼まれた。何かなのはちゃんの言い方、何処かのスパイみたいでカッコ良かったな。
少しワクワクしてきたよ。
まあ、どうしてなのはちゃんがジュエルシードの場所を知っているのかは教えてくれなかったけど、回収しておかないと大変な事になるらしい。
既に海の中で3個見つけ出す事は出来た。魔法を使う訳にも行かずに虱潰しに探してるけど、これが中々厳しい。
息は持つし水圧も平気なんだけど、海の底って暗いんだよね。懐中電灯使ってるけど見える範囲が狭くなっちゃう。ジュエルシードは少し光ってるから近くにあったらすぐわかるんだけどね。
昼間は学校に行かなきゃならないし夜には家に帰らないと怪しまれちゃう。その時に魚を捕まえておくのも忘れない。僕は夕飯をとってるのだと思わせるように。
まあ、もう日も傾いてきたし帰るとしよう。今日の収穫は蛸2匹にカンパチ1匹。結構活きが良いし、母も喜ぶだろう。
こら、君のじゃないよ。また今度お菓子持ってきてあげるから我慢してね。
◇
布石は整ってきたの。プレシアさんを止めるには時の庭園に行かなきゃだけど、その方法を知らないから、夢のとおりにやるしか無いの。
だけど、それのせいでフェイトちゃんが傷付くのは正直嫌だ。だから優君に頼んでジュエルシードを既に回収してもらうの。優君は優しいから快く返事してくれたの。すっごく嬉しかった。
地上にあるのは管理局の指示通りに回収してるの。これなら夢のとおりに進むから問題ない。もし万が一優君が回収しきれなくても、少なくなった分フェイトちゃんの負担は減ると思うの。後フェイトちゃんの危機にすぐ駆けつけられるように命令の拒否権も手に入れておいたの。これで何もかもが完璧なの!
出来ればプレシアさんも助けたいけど、それに関してはどうすればいいのかわからない。
私はやっぱり考えるのは苦手だから。でも、どうしてだろうか。優君ならなんとかしてくれると思えるよ。暫くしたらフェイトちゃんの事も話しておかないといけないね。
◇
そして、決戦の日。
黒の魔法少女は既に残りのジュエルシードは海の中にあると目星をつけていた。
あれだけ管理局や自分達が探しているのに見つからない"6個"のジュエルシード。
それと、その両陣営以外の少年が持っているジュエルシード、合わせて7個。それを何としても確保しなければならなかった。
しかし、少女は少年の持つジュエルシードを後回しにした。何故かはわからないけど、彼を襲うのは気が引けたのだ。だから、最後の最後に頼もうと少女は考えていた。
「本当にやる気かい?フェイト」
「うん。管理局が来る前に回収しないと」
魔力を集中させる。少女がしようとしているのは、海に向かって魔力を帯びた電撃を打ち込み、海中内にあるであろうジュエルシードを発動させて封印するという荒業だった。
ただ、それに誤算があるとすれば、海中内のジュエルシードを少年が回収してしまっている事だろう。
今も海中内にあったジュエルシードは少年の海水パンツのポケットの中に収められている。
「絶対に私が邪魔させないからね。だからフェイト、無理だけはしないで」
「わかったよ、アルフ。」
少女は今、雷撃を打ち込んだ。
◇
「なんてことしてるの、あの子達は!」
時空管理局の巡航艦アースラ通信主任、エイミィ・リミエッタは画面に映るCAUTIONという文字を見つつ叫ぶ。
魔力メーターは振り切り、今にも焼ききれそうな状況。その目的を理解したため、更にそれがどれだけ無謀なのだとわかる彼女は更に焦る。
いくら、敵対しているとはいえ、あの年の少女には荷が重すぎる状況。なんとかしてあげたいと感じるが、局員として助けるわけにも行かない。
それに内心歯痒い思いをしつつ、少女を見守った。
雷撃を打ち終えた少女は肩を揺らしながら息を吐き、疲労を隠せていない状況。そこから更に6つのジュエルシードを封印しなければならないとは…
「あれ?」
しかし、ここで気づいた。アースラが捉えた反応は1つしか無いことに。
画面に映る少女もそれに気づき、困惑した表情を浮かべていた。
そして、彼女は思い出す。連日、海で遊んでいた少年の存在を。
今思えばおかしかったのだ。春先に一人で海で遊ぶ少年がいるはずがない。確かに魚介類をとっていたが、それもカモフラージュのためだったのかもしれない。
「リンディ艦長!大変です!」
「わかってるわ。彼女が複数のジュエルシードを発動させたのでしょう?」
「違います!発動はしましたが、複数ではなく1つです!」
「……どういうことかしら?」
「藤崎優君が既に回収していたのだと思われます!」
「まさか……いや、ありえるわね。彼は今どこに?」
「今日も海に来ています!」
何故少年があの段階で海中に沈んでいるのかを知ることの出来ない艦長は頭を抑える。子供だと甘く見ていたら既にそこまで手の負えないことをしでかしている少年だとは思いもよらなかったと。
そして、更に追い打ちを駆けるかのごとく、司令室に入ってきたクロノ執務官が口を開いた。
「…報告します。高町なのは、ユーノ・スクライア両名が海上へ出撃しました。」
「……はぁ、彼女たちを止める命令を言っても拒否するでしょうね。仕方ないわ、クロノ貴方も出撃してジュエルシードを回収してきてくれない?」
「了解しました。」
◇
「ん?なのはちゃんの魔力?少し距離あるね。見当違いのところ探してたのか」
トビウオと並泳していた少年は街の方向を見て呟く。大きな魔力の変動と知り合いの魔力を感じ、すぐさまその方向へ向かう。
少年は最期のジュエルシードを探しきれなかったのだ。
虱潰しといえど粗はあり、少年が探しきったと思った場所に一つだけ見落としていた箇所があり、そこにたまたまジュエルシードがあったのだ。
少年は限界まで身体を動かし泳ぐ。
特に疲労しているわけでもなく、おおよそ人間では考えられない速度で泳ぐ少年は、すぐさま荒れた海に辿り着いたのだ。
そこには、立ち上る水流が1本あり、そこにジュエルシードがあるのがとひと目でわかった。
少年は更に加速して水流を目指す。
上空では少女達が水流をバインドなどで固定しようとしているのが見える。取り敢えず先に封印してしまおうという魂胆のようで、今は白の魔法少女も黒の魔法少女も協力していた。
少年は水流に突っ込む。
白の少女に頼まれたのは海中に沈むジュエルシードの回収。ならば、ここにあるものも回収したほうがいいのだと判断し、立ち上る水流の中にあるジュエルシードを無理矢理掴み、魔力で抑えつけた。
少し右手に痛みが走ったが気にする程度ではなく、少年はすぐさまジュエルシードを海水パンツのポケットに突っ込む。
ただ、問題があるとすれば、少年は立ち上る水流に突っ込み、その元凶を消してしまったために水流は消えて落下していってるのだと。
いきなり現れていきなりジュエルシードを回収していった少年に白の魔法少女以外の人達が唖然と落ちていく少年を見つめる。
そして、そんな少年と、それを見ていた次元巡艦に雷が落ちた。
「……なの」
もし、アースラに優君も呼ばれていたら
砂糖をお茶に入れるリンディを見て
「ちょっと、優!?その剣は何!?何かすっごい光ってるけど!?」
「わからないよ。何か勝手に出てきて、身体が勝手に振り上げてるの」
『日本茶に砂糖など、食材へ失礼です!!私の宝具で懲らしめてやります!』
「いや、確かにそうだけどさ、懲らしめるってどういうこと?」
「貴様!艦長に剣を向けるとは正気か!?」
「優君に暴言吐くなんて、頭冷やす?クロノ君」
「何この子達」
こんなほのぼのが起こるに違いない