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ーー全ての始まりはある人物の願いだった
ーーー其の者の願いは救い、救われない者達の救済だった
ーーいつしか思想は歪み、願いが果たされる事は無かった
ーー其の者は資格を失い世界から追い出された
ーーーただ、一つの願いを残して
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意識が沈んでいくのがわかる。
夢の世界へと至る感覚とは少し違うような。まるで、更に奥底に沈んでいくような…
そう、どちらかと言えば、あの甲冑の男性がいた場所へ至った時に似た感覚…
身体は動かない。呼吸をしているのかもわからない。ただ、意識だけはハッキリとしている。
みんなを感じることが出来ない為、ここが夢の世界だとは実感できる。
ここは一体……
◇
それからどれだけ沈んでいたのだろうか。
1秒かもしれない。10分かもしれない。2時間なのかもしれない。あるいは、それよりもずっと長い…
意識だけが加速していく中、気がつけば僕は立っていた。
地面に走る光のサークル。上に浮かんでいるのは輝く星。いや、よく見れば地面が透けてその向こうにも星が見える。
そこはまるで、宇宙に浮かぶ切り取られた空間のようだった。
光るサークルからは白い粒子が立ち上っている。
見たことのない幻想的な空間。この世の光景とは到底思えない領域。
僕は、そこに立っていたんだ…
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ーーそれは試練
ーーーある出来事を対処するために其の者が設けた
ーーそれは其の者が消えた世界においても訪れる
ーーー試練を受けるのは器
ーーー試練の相手は神
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世界の脈動が聞こえる。少しずつ大きくなっていく音は確かに存在している。
その音とともに自分の身体の感覚が現実味を帯びていく。
視界はハッキリとし、やがてこの空間を把握できるようになった。
光るサークルの中心…恐らくはこの空間の核となっている場所にそれは存在していた。
黒い人型の輪郭。その顔らしき場所には黄色く光った目。胸には薄く光る青い円状の何か。
手足にかけて胸の物と同じ色になっているその存在。
「……あなたは」
「………」
返答はない。僕の言葉に何のリアクションも取らない人型の影。
だけど、何となくではあるけど僕は理解した。
この影が僕をここに連れてきたのだ。
「………」
影が身構える。それと同時に影の横に現れる円盤状の何か。
僕はこの影と戦わなければならないらしい。
普段なら戦わないことも考えたのかもしれない。だけど、この時は戦わなければならないと感じたんだ。
身構える。相手の一挙一動を注視していつでも対処できるように……
今の僕の手には何もない。木刀でもあれば問題は無かったんだけど…
とかんがえると手に木刀が現れた。そう言えばここって夢の世界だったね。
まあ今は置いておこう。夢の世界と言っても影はみんなと同じようにここにいるだけの存在だろう。
故に夢の影響は受けない。ただ、僕が打ち倒すしかないというわけだ。
「行くよ!!」
「………」
木刀を手に駆け出す。それに呼応するように影は円盤を前に突きだしてきた。
盾か何かなのだろう。浮遊しているため、不用意に攻撃してしまえばどんな力で弾かれるかわかったものじゃない。
だからこそ、思いっきり叩く。
生憎とこの木刀は本物ではない。現実ならばへし折れてしまうほどの力で叩いても、夢の世界では壊れない。
だから思いっきり叩ける。相手のガードの上から叩いてしまえばガードもへったくれもないのだ。
木刀は円盤に当たる。反発する力を感じるが気にせずに押し込む。円盤はそのまま弾かれ、木刀は影を叩く。
近くに来て影の輪郭がはっきりとする。しっぽのようなものが生えた女性のような影。頭には耳のような物も見える。
身体を回転させて二撃目を放つ。
影はくるりと一回転し、木刀を躱した。それと同時にこちらに迫る円盤。木刀のフルスイングで再度弾き飛ばした所で、影がこちらへと接近してきた。
木刀は間に合いそうもない。なら
「ファイアーウォール!!」
炎の壁を自分を囲むように出現させる。影は後ろに跳ぶことで炎を躱した。
僕は影の方向に走る。炎の壁の向こうにいるであろう影への追撃。炎の壁を突き破って跳ぶ。
「紅蓮襲撃!!」
炎の纏った蹴りおろし。足は影の腹部に当たりその身体を吹き飛ばす。
まだ、これでは終わらない。更なる追撃のため疾走する。地面を這うように接近し木刀を振るう。
「虎牙破斬!!」
切り上げからの斬り下ろし。相手の体勢を崩して次に移る。
円盤はまだ戻ってくることはない。相手は完全に無防備である。
ここで決めてみせる!!
「閃け、鮮烈なる刃! 」
言霊を乗せて発動させる。
敵を移動しつつ叩き、すぐ切り替えして叩く。
「無辺の闇を鋭く切り裂き、仇為すモノを微塵に砕く!」
みんなから教えて貰ったとっておき。これの発動には言霊を乗せる必要がある。
本来なら言霊が決まっているわけでも無いらしいのだけど、僕にはみんなから教えて貰った言霊でしか発動できなかった。
だけど、それはみんながとっておきと言うだけあってとてつもない威力を持った攻撃となる!
「決まった! 漸毅狼影陣!」
接近し、刹那の内に数度木刀で殴りつけた。
ここまでの動きをなぞるように行える技。
それらを纏めて秘奥義と言うらしい。
秘奥義をくらった影はその場に崩れ落ちた。
◇
目を覚ます。どうやら夢から覚めたみたいだ。
右手を見る。さっき、確かに僕はこの手で影を倒した。あれは一体何だったのだろうか。
『何かあったのか?』
リッドさん達は夢であったことを知らないみたいだ。ますます謎は深まるばかりだね。
まあ、それはさておき。なのはちゃん達は温泉から帰ってくる日だ。お土産買ってきてくれるって言ってたから楽しみだな。
なのは「お土産は私なの!!」