それは夏休みの事だった。宿題を滞り無く終わらせた僕は、友人と遊んだり山の中で特訓をするという日々を送っていた。
特訓に関しては魔法のことは取り敢えず置いておくことにした。何と言っても情報が少なすぎるのだ。まあ、剣に絞ったお陰でそちらの方は随分と強くなったと思う。
その日も手に持った木刀で技の反復、動きの調整などを行っていた僕は、山の中腹にある廃墟に人がやってきたことに気付いた。
珍しいこともあるもんだと考えた僕は気になって廃墟に入ろうとしている人達に気付かれないように近付いた。
まあなんというか、あれだった。クラスメイトのアリサちゃんとすずかちゃんが抱えられて中に入るのが見えた。
誘拐なのかな?でも決めつけるのって良くないし…
「離しなさいよ!あんた達!!」
…誘拐かぁ
随分と古典的なような展開だと思いつつ、2人を助けるべく、思考を巡らす。
まず最初に、2人に姿は見られたくない。すずかちゃんやなのはちゃんは未だに変にこちらを見てくるし恐らくは僕になにかしらの不信感を抱いてるのだと思う。
だとしたら顔を隠すのが一番なんだけど、生憎と今ここに顔を隠すためのものがあるわけでもない。かといって取りに行っている時間もないわけだ。助けないという選択肢は無いし。
ここは心を決めて顔を見られる覚悟で行くべきなのかな?
どう思う?みんな
『助けに行くべきじゃないのかな?』
まあ、そうだよね。僕もそう思うよルカさん
『でも、ばれない方がいいんだよな?』
うん
『よし、助けに行こう』
ちょっと待っててくれるかな?スタンさん
『でも結局は行くんだろ?ならとっとと行こうや』
まあ、ユーリさんの言うとおり何だけどさ
『わかった。見えない速さで助ければいいんだ!』
そこまで人間やめてないよ、シングさん
『……ちょっと待っててくれ。聞いてくる』
どうしたの?ルドガーさん
『ああ、あいつならどうにでも出来そうだとは思うけど』
ルークさんを筆頭にみんながうんうん頷く。
え?みんな何を知ってるの?
『ああ、貸してくれるだってさ』
『そうか。良かったな。これでばれないぞ』
いまいち状況を飲み込めない僕は、どういうことか聞こうとした時だった。
突然目の前に何かが現れた
これは…!!
◇
「嘘よ!すずかが吸血鬼だなんて!」
金髪の少女は叫ぶ。誘拐犯が告げた事を否定するために。
対する誘拐犯は愉快そうに笑い、紫髪の少女へと視線を向ける。
「嘘じゃないさ。現に否定しないだろ?」
「すずか、嘘だって言ってよ!」
紫髪の少女はその言葉に肩を震わせて小さな声を零した
「…ごめん…アリサちゃん…」
少女の嗚咽する声が響く。そのことに金髪の少女は理解する。
この男が言っていることは真実なのだと。同時に考える。何故隣の少女は泣いているのか
男の高笑いが聞こえるがそんな事には気を向けない。
どうして自分にそんな重大なことを隠していた?
どうして自分に嘘をついていた?
わかってる。この少女はバレるのを恐れたのだ。自分が化け物であると罵られることを
そして、理解する。何故化け物であるといけないのか
「…っさいわね…」
男の高笑いに気付き、鬱陶しそうに金髪の少女は言葉を零した。
男は怪訝そうな顔をし、金髪の少女へ視線を向ける
「よくよく考えればそうだわ。すずかが吸血鬼だなんて関係ない。すずかが私の親友だってことには変わりないのだから!!」
少女は断言し気付く。
そうなのだ、そうなのだ。たとえ紫髪の少女が化け物であるとしても関係はない。寧ろこれまで一人で抱え込ませてしまった自分へ怒りを覚えるくらいに。
その言葉に紫髪の少女は腫らした目を金髪の少女へ向けて涙を零す。
「アリサちゃん…!!」
「私とすずかは何があっても親友でしょ?なのはもだけど」
笑顔で告げる金髪の少女に男は機嫌を損ねる。目の前の少女は一体何なのだ?
自分は今まで騙されていたという絶望に落ちる少女の顔を期待したのだ。
人間と馴れ合う同族へそんなことは無駄なのだと教えてやろうとしたのだ
なのに、今の状況は何だ?絶望に落ちるどころか希望に溢れた紫髪の少女がいるだけではないか
こうなってしまったのは何故だ?どうして自分の考えは外れたのだ?
全てこの金髪の少女のせいか
男はそう結論に至ると、不思議と何も思わずに、拳銃を金髪の少女へ向ける。
「っ!!!」
少女たちの顔がこわばる。その表情に男はやっと望んだ顔を見ることが出来たと感じた。
そして、その引き金に指をかけた…
「ガッ!!」
突然ガン!という鈍い音を立てて男は倒れた。
それに少女たちは困惑し、その音を立てた存在へと視線を向けた
丸々と太った身体。ふさふさとした毛並みにどこに目があるかわからない模様
「パン…ダ?」
そう、偉く小奇麗なジャイアントパンダがその手に看板を持って"足で"立っていたのだ。
看板に少し血が付いてる所を見ると、看板で男の頭を強打したのだろう。
パンダは男が気絶したのを見ると少女たちに近付く。
困惑した少女たちはどうすればいいのかわからずに喋るという事すら忘れてパンダを見る
パンダは少女たちの前まで近づくと看板に何かを書き込みだす
【
ご丁寧にルビまでふっている看板に少女たちは更に困惑する。一体目の前の存在は何なのだろうか。自称神であり師匠であるパンダ
謎の存在は正直いって怪しい。だけど一つ言えることはこのパンダは自分たちを助けてくれたのだと。
そのことに少女たちがありがとうと告げようとしたが、突如けたたましい足音が聞こえて口を閉ざしてしまう。
パンダ師匠も無言で部屋の入口へと視線を向けて看板を持つ手に力を入れる
「今の音は何だ!!いったい何が」
入ってきたのは男。恐らくは今倒れている男の仲間であろう存在を見たパンダ師匠はその手に持つ看板をぶん投げた。
男は一瞬のうちに視界全てが看板に遮られ、ワンテンポ遅れて頭部に凄まじい衝撃を受けてふっとばされる。
およそ人間の力では考えられない威力の投擲に少女たちは、目の前の存在は本当にパンダなのではないのか?と考えだす。
それもつかの間、また足音が響きだす。先程よりも大人数が来る音だ。
少女たちは、慌てた様子で身体を動かし、自身を拘束する縄を解こうとする。
しかし、固く結ばれた縄は容易に外れることはなく、足音はどんどんと近づいてくる。
焦り、少女たちはパンダ師匠を見た。そこにはどこから取り出したのかはわからないが、片手には看板。片手には木刀を持ったパンダ師匠が立っていた
七ツ夜という文字が書かれた背中は先程よりも大きく見え、不思議と安心できてしまった。
少女たちはそれから見た光景を忘れないだろう。
パンダ師匠は
そして、またどこからか看板を取り出し、投げては衝撃波を飛ばす。
意味がわからなかった。漫画のように飛び交う人間たちを見た少女たちは先程までの緊張感はどこへ行ったのやらポカーンと口を開けて荒ぶるパンダを見ることしか出来なかったのだ。
気がつけば男たちは全て倒れ伏せて気絶していた。そこにパンダ師匠の姿は無く、全ては夢だったのでは?と少女たちは感じたが、部屋の隅に転がる多数の看板にその考えは捨てた。
その数分後、現れた月村忍と高町恭也により少女たちは助けだされ、男たちは捕まった。
月村忍と高町恭也は少女たちがいうパンダが神だったという言葉に頭をかしげるのはまた別の話である
最後が駆け足気味になってしまった
レンタル物
パンダ師匠なりきりセット
特殊効果
看板を召喚することが出来る
王様は娯楽好き