紅魔館の地下、そこへたどり着いたのは夜中の三時。紅魔館は遠いので、空中浮遊ができる早苗に運んでもらっても守矢神社からはそのくらいかかってしまう。地下の書斎は、たくさん本が崩れ落ちていて、いかにも襲撃にあったという感じであった。俺は今、倒れていた紫髪の少女に水をせがまれたので飲ませている。
「大丈夫ですか?怪我とかは…」
「少し、足を挫いたくらいかしら…あなたは?」
「守矢神社の者です。神奈子様の命で、紅魔館の方々を助けに参りました。」
「神奈子…?ああ、あの神様ね。一応…外界に居る魔理沙に連絡を取ってみたけれど、ダメだったわ…もう魔法もあの妖怪に取られちゃったし。」
「魔法を取られたって!?パチュリーさんがですか!?」
俺と魔法使い、パチュリーさんとの会話に割って入ったのは早苗だ。どうやら面識があるみたい…そういえば、早苗は幻想郷に来てからかなりたつのか。そりゃあ知ってるか。
「お前ら知り合いなの?」
一応聞いてみる。
「ええ、かなり前に魔理沙さんと一緒に変な珠になって神社に参拝に来られてですね…」
「私達でフルボッコにしたの。」
なるほど。
それより、今もどこかに覚妖怪が潜んでいるはず。そう思って、俺はパチュリーさんを早苗に任せ、書斎を走り回った。すると、黒いコードを身につけた少年と赤髪の少女が睨み合っていた。恐らく、さとりさん達の姿から推測すると、彼が古明地鬱夜と見て間違いないだろう。
「どうする?もう降参するか?それとも…隠れているお前も出てくるか?」
早速バレた、そう思った瞬間、彼は…古明地鬱夜は俺の目の前にいた。
「なるほど、お前は界郷想真って言うのか。神社の巫女に頼まれて幻想郷に…それで…」
しかし、彼は心を読まれて数秒で表情を変えた。それは先ほどの殺気に満ちた表情とは違い、呆れたような表情だ。
「とりあえず、紅魔館からは身を引いてやる。あのパチュリーとか言う魔女を医者に見せて、早く神社に帰りな。」
「え!?」
と叫び、驚きの表情を浮かべたのは俺だけではない。先ほど睨み合っていた赤髪の少女もだ。
「じゃあな。」
「ま、待てよ!何で…」
「何で倒さないのか、だろ?悪いな、心が読めて…流石に、こいしが居る城で暴れる訳にはいかない。」
「ダメだ、俺がお前を倒す!ここがお前の墓場とな…」
《圧死「チェイン・ショック」》
地面から大量の鎖が俺を襲い、きつく締めつける。そうだ、忘れていた。こいつは人の能力を奪う妖怪…
「じゃあな。」
「くそ…この…」
しかし、鬱夜が身を引こうとした時、太い光線が彼に襲いかかった。鬱夜は避けたが、光線は右腕をかすり、そこからわずかに血が出た。
「なっ…魔法使いの魔法は封じたはず、ならば誰がこんな光線を…」
鬱夜と俺、赤髪の少女が辺りを見回す。まさか、早苗が!?と思ったが、流石にパチュリーさんの介抱を棄ててまで攻撃に参加する奴ではない。咲夜さんや美鈴さんは外で気を失って倒れていた(今は室内に運んでおいたが)ので、彼女たちではないだろう。だとすると、部屋で遊んでいたこいしちゃんかフランという少女か、あるいは…
「おいおいパチュリー、妖怪一人にこんなにされちゃあ魔法使いの面目が立たないんじゃないか?」
「誰だ!」
「霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ!」
頭上からそう答える声がしたので、上を見上げてみたが誰も居ない。けれど、確かにそう答える声がした。これは…どういうこと?
「霧雨魔理沙、そうか。お前が霧雨魔理沙か。キスメ達がその名前の魔女にやられたと聞いていたが、お前だったのか。」
「キスメ?ああ、あの死に装束着てる妖怪か。そいつは私が軽くあしらってやったぜ。さあ、お前はどこまでやってくれるんだ?」
《病照「デス・デュアルマスタースパーク」》
空中から二本の雷の光線が降り注ぐ。その光線は書斎全てを照らし、何故本棚が雷で焼けないのかが不思議だ。きっと、あの霧雨魔理沙が結界でも張っているのだろう。
「魔理沙!」
「あん?なんだよパチュリー。愛してるぜ。」
「そういうことじゃなくて、結界を張ってるからと言って、そんな荒っぽく攻撃をしてたらそのうち結界が壊れて、紅魔館に火が移ってしまうわ!」
「別に構わないぜ。紅魔館なんてどうでも良いだろ!」
こいつ、狂ってやがる…それじゃ本末転倒じゃないか。
「魔理沙!」
「ったく、うるせえよ!」
「魔理沙、レーヴァテインとスーパーエゴ、どちらを想起してほしいかしら?」
書斎ごと鬱夜を消し炭にしようとする霧雨魔理沙に、さとりさんは書斎の入り口の門を開きながら叫んだ。すると彼女は舌打ちをして、二本の雷の柱を消し、地上に降り立った。
「えっ…お前が、霧雨魔理沙?」
黒いTシャツに白いズボンを身に纏い、金髪の髪と澄んだ水色の瞳を持つ少女…彼女は正に、俺が図書館で出会った少女だ。
「ん?あ、お前!あの時のガキじゃねえか!何で幻想郷に居るんだよ!」
どうやら古明地鬱夜は、咲夜さんから奪った「時間を操る程度の能力」を使って逃げたらしい。
まあ、それはともかく紅魔館が無事で良かった。決して俺が守った訳ではないが。
「パチェ?何してるの?」
と言う声がしたので、振り向いてみるとこいしちゃんと金髪の娘…彼女がフランと言っていた友人だろうか。その二人が唖然として見ていた。
「いや…これは違うの、こいし。ちょっと…」
「お姉ちゃん?包帯なんか巻いて、怪我でもしたの?」
「いや…その…修行よ。修行の為に目を隠してるの。」
「ふーん、そうなんだ。変なの。」
しばらく、古明地鬱夜は襲ってこないだろうか。鎖が出し入れできている辺り、俺の能力は消えていないらしいが、連戦は流石に危険であろう。
「あの、皆さん。」
パチュリーさんが怪我を早苗が介抱し、霧雨魔理沙と俺が見つめ合っていて、赤髪の少女は蛇に睨まれた蛙のようにその場に立ち尽くしていると言う修羅場を前に、早苗が口を開いた。
「こんな場所でこんなことをしててもアレですから、一旦私の神社に来ませんか?お茶くらい出しますから。」
しかし、その言葉を前にしても、誰一人として動こうとしなかった。唯一動こうとしたのは、霧雨魔理沙くらいだ。
「おお、良いな。それじゃあ私は、この書斎で本でも借りていってからのんびり行くぜ。」
「魔理沙さん、あなたにも少し話があります。寄り道は無しです、私はパチュリーさんを運ぶので、あなたは想真を頼みます。」
「なんだよ、ここから守矢神社って半日くらいかかるじゃねえか。面倒くせえなあ…まあいいや。それより、お前想真ってのか。私は霧雨魔理沙、少し前までは人間だったんだがな。本当にただの魔法使いになっちまった。」
「あ、じゃあまた会いましたね。霧雨魔理沙…さん?」
「よそよそしい、魔理沙で良いぜ。おい小悪魔、いつまでも気を失ってるんじゃねえよ。」
魔理沙さんが乱暴に赤髪の少女、小悪魔の髪を引っ張ると、小悪魔はまるでDVDの一時停止を解除したかのように、急に倒れた。
「ぱ、パチュリー様!ご無事でしょうか、私は…私は…あれ?魔理沙さん、また泥棒しに来たんですか?」
「ああ、まあそんな所だ。パチュリーと咲夜が怪我してる。パチュリーは早苗が運ぶから、お前は咲夜を守矢に運んできな。」
「は、はい!」
守矢神社から紅魔館へ、紅魔館から再び守矢神社へ。これだけで1日かかるなら、もう紅魔館で何かとやる方が良いと思うのだが、主であるレミリア嬢の用事もあるらしく、守矢神社で休むと言うことになった。
紅魔館から守矢神社、かかった時間はわずか2分。結局、魔理沙さんが移動魔法を使ってくれたので、大した時間を食わずに済んだ。先ほど決めた役割分担とは何だったのか。
守矢神社に着いてみると、中には神奈子様と諏訪子様。それに魔法学校の生徒のような服装をしている金髪の美少女、あとは、何故かチルノ師匠も居る。幻想郷はかなり田舎だと聞いていたが、この異常なほどの金髪率は何だ。
「とりあえず、魔理沙さんはこっちに来てください!」
「なんだよ、巫女ごときがこの大魔法使いの霧雨魔理沙様に説教かよ!」
大丈夫かな、早苗。見たところ、魔理沙さんは相当性格悪そうだけれど。
「隣、良いかしら?」
神社の外に出て、携帯をいじっていると、先ほど見かけた金髪の美少女が歩み寄ってそう言ってきた。彼女はまるで人形のような少女で、とても美しい。
「別に良いですが、あの魔理沙って魔法使いは何なんですか?あなたも、魔法使いですよね?」
「ええ、鋭いわね。流石、魔理沙様が目をつけただけのことはあるわ。私はアリス・マーガトロイド。今は魔理沙様の召使いよ。」
魔理沙さんの、召使い?けれどなんとなく、アリスさんは魔理沙さんよりも強いような気がする。それと、本気を出したらパチュリーさんくらいの力を出せるような気も。
「あなたはいつから、魔理沙の召使いになったの?」
と、今度は俺の左隣にパチュリーさんが座ってきた。何このハーレム状態。
「パチュリーさん、お怪我の方は…」
「大丈夫よ。まだ治らないけれど、大した怪我じゃないから…」
「あら?パチュリー、魔法は使えないのかしら?」
「ええ、覚妖怪に能力を吸い尽くされてしまったわ。アリス、治癒魔法を使ってくれないかしら?」
パチュリーさんが傷をさすっていると、アリスさんがすぐにその傷に手を当てた。すると、パチュリーさんの傷は完治してしまった。
魔法使いって、ゲームで見たようにいくつもの魔法式を組み合わせて魔法を使用したり、魔法陣を使ったりしているイメージがあるが、こんな簡単に魔法を使えるのなら誰でも使えるのではないかと思うが。
「想真、どうかしたの?」
「いや…ってかパチュリーさん、何で名前知ってるんですか?」
「早苗に聞いたわ。それより、そんな不思議な顔をしてどうしたの?魔法は見慣れないから驚いたかしら?」
「いや…その、ゲームとか本とかでは、魔法っていくつもの魔法式を組み合わせたり、魔法陣を使ったりするじゃないですか…そういうこと、しないんだなあって思いまして。」
相手が本物の魔法使い二人なので、感動半分でかなり緊張しながら喋ってしまった。変な人に見られてないかな。
「そうね、ゲームと言うものは知らないし、あなたがどのような本を読んでいるかは知らないけれど、確かに魔法式や魔法陣は実在するわ。他には、魔法についてどのような知識をお持ちかしら?」
「ええと…本物の魔法は見たことありません。あとは、魔法に属性がある?ことくらいです。実際にはそんな物ありませんよね。」
「ご名答、あるわ。けれど、基本的に呼び名は決まっていないわね。魔導師ごとに呼び方は異なるわ。ちなみに私は火・水・木・金・土・日・月と呼んでいるわ。無論、全て使用可能よ。」
火水木金土日月?なんか、曜日の名前みたいだな。てか金属性って何だ。
「あの、質問良いですか?」
「ええ。」
「火水木土は想像できるのですが、金と日は何ですか?」
「金は丈夫さと豊さ、日は能動と攻撃と言う意味よ。まあ、強力な魔法を使うには呪文の詠唱…あなたの知っている言葉に置き換えると長い魔法式が必要なの。まあ、今は覚妖怪に奪われているから使えないけれど。」
…これは期待できるかもしれない。聞いた話はゲームで見たものと同じ。と言うことは、RPGでよく見るあの光景も再現可能?
「あの、パチュリーさん!」
「何?そろそろ、中に入りたいのだけれど。」
「魔法使いでなくとも、弱い魔法なら使うことができますか?」
「…半分可能、半分不可能ってとこかしら。」
半分可能で、半分不可能?どういうことだ。魔法使いの話はレベルが高すぎてよくわからない。
「あ、あの…」
「はいそこまで、続きは中に入ってからにしましょう。」
もしかしたら、俺も魔法が使えるかも?そんな良いところで、今度は金髪の魔法使いが間に入った。話を聞くに、早苗が何かを話すようだ。お楽しみは一旦、お預けみたいだ。
魔理沙きた!これで勝つる!
今度こそ、年内最後の投稿です。パチェさん質問攻めですよ。
それでは皆さん、よいお年を。
追記:見やすいように章を設定しました。