東方最凶覚   作:tesorus

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前記の通り、ずっと咲夜さんのターン。想真とさとりんは今回はお休み。


伍:月時計を得たflowering night

紅魔館、そこは私の職場にして、私の大切な人の家でもある。

 

私とお嬢様との出会いは、幻想郷へ来る前に遡る。かつて紅魔館は幻想郷にはなく、遥か遠い別世界の街外れにあった。そこで私は生まれ育ち、吸血鬼を狩るための訓練所に収容されていた。ナイフで戦う技術は、全てその忌々しい場所で身につけたものだ。

 

しかし、私はそこを抜け出した。理由は簡単で、吸血鬼に対して人がしている行為が醜いと思ったからだ。そこで人間が吸血鬼にしていた行為は、虐殺したり、魔物を召喚するための儀式の生け贄にしたりという物だ。私は、そういうことをするために吸血鬼を狩るハンターとして育てられた。

 

逃げ出した後、私が向かったのは紅魔館。そこで今の私の主であるレミリア嬢に出会った。

 

今でも、この選択は間違っていなかったと自負している。あの時に逃げていなければ、私は今頃バンパイアハンターとして吸血鬼を狩っていて、最悪お嬢様を殺していたか、魔術師にお嬢様を売り渡していただろう。

 

「咲夜、ワイン飲まない?」

 

お嬢様達の食事が終わり、食器を片づけていると、お嬢様からワインを薦められた。いつもはワインなど薦めて来ないのに。今日は妹様の御友人が来て機嫌が良いのだろうか。まあ、お嬢様からワインを貰える機会などあまりないので、ご好意に甘えて頂こう。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「全部飲んで良いわ。主人からの褒美、ありがたく受け取りなさい。」

 

お嬢様から頂いたワインはとても美味しく、思わず笑顔になってしまうほどに良い香りがする。

 

「美味しい?」

 

「ええ、とても美味しいです。」

 

「そう?ならもっと与えてあげる…吸血鬼の血をね。」

 

「え?」

 

お嬢様は私を見た後、自らの右手に傷口を付け、その傷口を私の口に押しつけた。私は不覚にもそれを飲み、意識を失ってその場に倒れ込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

私が目を覚ましたのは、私自身の部屋であった。いけない、まだ食器の片づけも終わっていないのに倒れてしまったようだ。やはりストレスだろうか。そういえば、お嬢様から美味しいワインを頂いたような気がする。あれはお嬢様本人が買ってきたワインなのだろうか。それとも、私をメイドとして雇う以前から所持していたもの?

 

月時計を見ると、針は夜の10時を指していた。食事の片づけをしていたのは八時。あれから二時間も眠っていたようだ。片づけは妖精達がやってくれただろうか。或いは放っておかれているだろうか。だとしたら、お嬢様達にはとてつもない迷惑をかけたことになる。

 

「お前が十六夜咲夜か。門番が困ってたぜ?とんでもない上司が居るってな。」

 

聞き慣れない声がした。声の主は黒髪の少年で、黒いコード…覚妖怪のサードアイらしき物を身につけている。

 

「お前のことか?吸血鬼のメイドさん。」

 

「多分そうよ。美鈴、そんなに私のことが嫌いなのかしら?けれど、こんなに簡単に侵入者を通してしまうのだから、厳しくしないとそのうち誰かに殺されちゃうわ。」

 

「変に妖怪を雇うからだ。俺の妹みたいにペットを飼ったらどうだ?食費はかかるが給料はいらない。」

 

「そう?けれど生憎、私は動物好きではないの。」

 

間違いない、さとりさんを妹と言ったあたり、彼は古明地鬱夜だろう。そうなると、目的は紅魔館か、あるいは家に居るお嬢様達。

 

「なるほど、俺が来た理由は紅魔館を狙いにきたか、あるいはお前の主を倒しにきたか…それで、危害が及んだらいけないから始末する必要があると。良いぜ、かかってきな。久し振りに地上で暴れるのも悪くないからな。お前自身のトラウマで潰れるが良い!」

 

《想起「ブレイブ・クロス」》

 

覚妖怪が札をかざすと、無数のナイフが私を目掛けて襲ってきた。けれど、私を倒すことは無駄な話。すぐさま時を止めて館の外へ走る。走る理由は、別に逃げる為ではない。紅魔館の外へ敵を誘い込む為だ。

 

外へ駆け込んで時を元に戻すと、無数のナイフは紅魔館を突き抜け、私を目掛けて襲ってきた。やはりこのスペルカードは、私が訓練所を抜け出す時に教官が私を捕らえる為に放った魔術、ブレイブ・クロスを再現したものであろう。

 

ブレイブ・クロスは魔法使い以外でもとある指輪さえあれば使え、私の世界では吸血鬼ハンターならば誰もが訓練所で使えるようにしてもらえる魔術だった。しかし、私はその指輪を訓練所に置いてきてしまった為、もう使うことは無いだろう。

 

そんな誰もが使う魔術な為、当然私は対策法を知っている。と言うか、メイドとしてお嬢様に仕えるようになった時にお嬢様から教えてもらったのだが。

 

『そうだわ、咲夜。ブレイブ・クロスの対処法はご存知?知らない状態で、メイドとして仕えるなんてできないでしょうから教えてあげる。あれはね…』

 

しかし、今相手にしているブレイブ・クロスは本物ではなく覚妖怪が私の記憶から引きずり出した偽物。この対処法が効くかはわからないが…

 

「ブレイブ・クロスの対処法は…決してよけないこと!」

 

私が走ることをやめ、その場に止まり続けると、ブレイブ・クロスのナイフは私をかすって消滅していく。

 

何故ブレイブ・クロスが逃げない標的を狩れない理由、それはブレイブ・クロスがそう作られているからだ。何故そう作られているかはまた後日。

 

「ほう、なかなか戦い慣れているな。流石だ。」

 

「もう終わり?終わりならもう帰ってくださらない?」

 

「そうだな。だがお前…もう積んでるぜ?」

 

古明地鬱夜がそう言って、私の後ろを指差した。後ろを見ると、そこには怒り狂った美鈴が私にナイフを向けている。よく見ると、眼が緑色に染まっている。

 

「くっ…美鈴?悪ふざけはよしなさい。無事なら協力して一緒に…」

 

「咲夜サン…イツモ咲夜サンバッカリ妹様ニ…」

 

違う、いつもの美鈴はこんなことをしない…これは、鬱夜の能力?

 

「嫉妬心を操る程度の能力。こいつは友人からの借り物だ。さて、そろそろ痛くなってくるころかな?」

 

「何が、悪いけどナイフ一本くらい何てこと…うっ!」

 

痛い、ナイフが触れた所が腫れるように痛い。まるで金属アレルギーになっているかのようだ。

 

「吸血鬼は銀に弱いって聞いたぜ。お前吸血鬼だろ?」

 

「そんな…ことない…私は人間よ…吸血鬼なのはお嬢様達…だけ…」

 

「お前、そのお嬢様に吸血鬼にされたんじゃないのか?だから言ったじゃねえか。「吸血鬼のメイド」ってな。」

 

「う…そ…」

 

そういえば、お嬢様にワインを頂いた時、お嬢様から血を飲まされたような気がする。それで、私は吸血鬼に…

 

「さて、地下の書斎に魔女が居るな。そいつの能力を戴くとするか。やはり、最初から想起ではなくて本物を使えば良かったな。ついでにお前も嫉妬心に潰れてもらおうか。パルシィ、悪いがしばらく借りるぜ。」

 

《嫉妬「緑色の目をしたみえない怪物」》

 

 




メリークリスマス。彼女が居る人が妬ましい。パルパルパル。

皆様知っているかとは思いますが、サブタイトルは全て原作の曲の名前を元につけています。今回は咲夜さんということで、「フラワリングナイト」と「月時計」です。

更新は今年中にするかな?多分します。

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