四:ハルトマンの盲目少女
氷の妖精、チルノと闘った次の日、俺はほとんど動くことができないくらいに疲労している。神奈子様曰く、俺の『鎖を操る程度の能力』は使用する度に身体は疲労しやすくなるらしい。乱雑に使えば、次の日には全く動けなくなるほどの疲労が溜まる。
「で、疲労が溜まってると言うことは闘ったのかい?宵闇の妖怪と。」
「いや、ルーミアさんは現れませんでした。けれど、代わりにチルノ師匠が現れましたよ。」
「へえ、あの氷の妖精のチルノ…え?師匠?」
「はい、彼女は幻想郷の色々なことを教えてくれましたから、もっと色々なことを教わりたいと思って。」
「ああ、そうかい。まあ頑張りな。」
神奈子様と話し終えた後、同じことを早苗に話したら面白がって笑い出した。
何故笑うのかと早苗に聞くと彼女は、逆に何故人間より弱い妖精に教えを請うのかと言った。俺は、先ほど神奈子様に言ったことと全く同じことを話した。すると早苗は、確かに妖精は優しいからね。まあ、彼女に色々教えてもらえばと言ってくれた。
それから数時間後、早苗はチルノの家を案内すると言って俺を外に連れ出した。死ぬほど疲れていると言うのに…人の話をあまり覚えていないのは昔からだなと思う。
「あら?あなたは確か…」
玄関を出ると、目の前に青いコードを身につけた少女が立っていた。瞳は澄んだ緑色をしていて、覗き込むと今にも吸い込まれそうだ。
「確か古明地こいしちゃん…ですよね?守矢神社に何か用ですか?」
「いや、その…お姉ちゃん来てない?来てたら、少し話したいことが…」
「いや、来てませんよ。さとりさんなら、地霊殿に居るんじゃないですか?」
「ううん、家には居なかったの。それでお空に聞いたら、お燐と二人で守矢神社に行ったって。」
「ああそう、なら二人ともうちに来るのかもしれませんね。どうします?なんなら少し神社で待ってみますか?」
「いや、私もう紅魔館に行かなきゃいけないから。今日フランと遊ぶ約束してるからね。じゃあ、お姉ちゃんによろしくねえ。」
青いコードを身につけた少女、とても不思議な感じがした。まるで心を閉ざしているかのように冷たい眼、そう見えるが本当はどうであるのか。
「なあ、さっきの娘って…」
「古明地こいしちゃん、たまに遊びに来るんだけど、すぐ帰っちゃうの。」
「そうか、古明地さんか…ん?古…明地…?なあ、そのこいしちゃんってまさか、さとり妖怪なのか?」
「そうよ。それも、こないだ神奈子様達が襲われた古明地鬱夜の妹。」
「はっ!?そ、そんな奴の姉が来るって…ヤバいんじゃないのか?」
焦って身構えると、早苗は俺の肩を叩いて大丈夫よ、と口元で囁いた。
「どうして…大丈夫なんて言えるんだ?」
「鬱夜さん以外のさとり妖怪は、ずっと昔に地底の底に落とされたの。だからきっと、鬱夜さんはそれが原因でとても怒ってる。けれど、さとりさんやこいしちゃんはそう思っていない。だから、大丈夫。」
「あの、すいません。守矢神社はこちらで良いですか?」
そう言う声が聞こえたので、再び玄関を見ると眼を包帯で覆った少女と、彼女を車椅子で運んで来たと思われる猫耳で、赤髪の少女が居た。包帯で眼を覆ってうる少女は覚妖怪だろうか。先ほどの古明地こいしちゃんと同じように赤いコードのようなものを身につけている。
「あの…さとりさんですよね?守矢神社に何かご用ですか?」
「はい、まあそんな所です。ごめんなさい、私の兄があなたの所の神様を傷つけてしまって。容態はどうですか?」
「どうって、どういう育ちしてるんだいあんたのお兄さんは!」
覚妖怪、古明地さとりの質問に答えたのは早苗、ではなく覚妖怪の被害者である神奈子様。その様子だと、もう怪我は治ったみたいだ。
「あ!お空に変な力使った神様だ!もしかして鬱夜様に負けたの?うわあ、地霊殿を騒がせた挙げ句その地霊殿の主に負けるとかw」
と、今度は猫耳の少女が神奈子様を挑発してきた。すると、神奈子様は今にも怒鳴りそうな顔で猫耳の少女を睨みつけた。
「神奈子様、落ち着いてください!今はそんなことをしている時では…」
「お前、乾を創造する程度の能力の餌食にしてやる!」
「お燐、やめなさい。いくら神奈子さんにお空をおかしくされたからって…」
「神奈子様も、やめてください!そんな怖いこと言わないでください!」
盲目の少女、さとりと俺ですぐさま二人を止めにかかる。流石にここで弾幕勝負をされては神社が崩壊する。
さらに早苗と諏訪子様とで二人を数分間説得をすると、わかってくれたようで二人とも落ち着いた。
「…それにしても、神奈子さんは無事だったのですね。私はすっかり、兄にもう能力を奪われているのかと…」
そうだ、確かに外の世界の早苗の話が本当ならば、神奈子様が僕に力を与えたり、弾幕勝負をしたりはできないはずだ。しかし、それができると言うことはどういうことだろう。
「ああ、それね。正確に言うと、神奈子様は不意打ちにあっただけだからだよ。確か能力を取ることができるのは心を読まれた人だけだからね。神奈子はギリギリ読まれてないから大丈夫って訳。まあ私は能力盗られてすっからかんだけどね。今攻撃されたら私はもうお手上げ。」
「ああ、そうなの。そういえば、私の妹がどこへ行ったのかはしらないかしら?兄の件もあるし、心配だから早く会いたいのよね。」
「ああ、こいしちゃんですか?彼女なら、先ほど守矢神社に来ましたよ。なんでも、紅魔館に行くから急いでると。」
早苗がさとりの疑問に即答すると、さとりは猫耳の少女、お燐に車椅子を紅魔館に移動するようにせがんだ。するとお燐は俺達に一礼し、車椅子に乗ったさとりを乗せて守矢神社を出て行った。
「…シスターコンプレックスなのか?さとりって人は。あれじゃあ、あの猫耳の従者も大変だろ。」
「いや、普段は車椅子になんて乗ってないの。しかもさとりさん、いつもはずっと地霊殿に居るの。お兄さんのこともあるからなのかもしれないけれど。」
それにしても、遥か昔に博麗の巫女に倒され、幻想郷を去った最凶の覚妖怪は、幻想郷の今を見て何を思うのだろうか。
「早苗、遥か昔ってどのくらい昔なんだ?」
「そうね…どのくらい昔なんですか?神奈子様。確か覚妖怪の話を河童達から聞いてきたのは神奈子様ですよね?」
「ああ。まあ聞いてきたと言うより、盗み聞きだがな。たしか、数百年前くらいとか言ってたな。それであの鬱夜とか言う覚妖怪は、ここが博麗神社だと思ってたらしい。それで諏訪子に向かって、巫女を出せとか言ってたな。」
「本当に困ったよ。それでここは博麗神社じゃないと言ったら、幻想郷に神社は博麗神社しかないとか言い出して…本当に大変だったよ。こっちは能力盗られてるから、ろくに抵抗できないし。まあ、でも数百年前の妖怪が今の幻想郷で生きていくには大変かもね。うちや紅魔館も昔はなかったし、幻想郷に城は地霊殿だけだったし。もしかしたら、幻想郷に城は地霊殿だけで良いとか言ってたりして~。ないか。」
諏訪子様の言葉を聞いて、その場に居た全員が凍りついた。考えたことは、早苗や神奈子様も同じだろう。
「おい、まさかそれ…本当にあの覚妖怪が思ってたらどうなるんだよ!」
「多分、紅魔館を消しにかかったりするんじゃないですかね…となると、咲夜さん達が危ない!想真、飛べる?」
「は!?」
訳がわからない、人間が空を飛べるわけないじゃないか。
お久しぶりです、Tesorusです。次回はほとんど咲夜さんのターンです。