東方最凶覚   作:tesorus

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※申し送れましたが、この小説内には二次設定が多数存在します。ご了承ください。


壱:悲しき覚妖怪

地霊殿、そこは旧地獄に堕ち、忘れられた化け物の城。私はその城の主をしている。

 

私、古明地さとりは化け物である。私達覚妖怪は、人の心を丸裸にする力の性で忌み嫌われ、長い間人に接触を拒まれてきた。

 

しかし、そんな私を博麗霊夢と言う巫女は受け入れてくれた。かつて息の音を止める寸前まで追い詰められた、その博麗の巫女に。まあ、実際に私達が追い詰められたのは別の巫女だったのだけれど。

 

彼女は、この私を自分の神社にいつでも来て良いと言ってくれた。私はその時、素直に嬉しかった。だって、彼女の心には一切の悪意が無いのだから。

 

しかし彼女は、ある日突然どこかへ行ってしまった。博麗霊夢は、あのとても優しい楽園の素敵な巫女は半年前に姿を消したきり、二度と博麗神社に戻ってきていない。噂によると、もう博麗の新しい巫女を決めるかどうかと言い出す人まで居るらしい。

 

けれど霊夢、安心して。あなたがもう既に死んでいるとしても、あなたが天国で安心して暮らせるように、必ず私があいつを地底の、この地霊殿よりも底に葬ってあげるから。

 

「さとり様!大変です、こいし様…が…あれ?」

 

「お燐、お帰り。こいしがどうかしたの?」

 

「さとり様、目は…どうなされたのですか?」

 

「大丈夫よ、何ともないわ。」

 

「でもさとり様…包帯を…」

 

「あなたは余計な心配しなくて良いの、ああ…そうだわ。地下にある車椅子を取ってきてくれないかしら?」

 

 

 

先ほどお燐が言ったように、私は今、自らの目を包帯で覆っている。それも、サードアイだけではなく、顔にある2つの眼をもだ。けれど、それは決して自らの能力を封じようとしている訳ではない。

 

私はこいしに教えられた、目を閉ざすことがどれだけリスクを負うかと言うことを。

 

こいしが眼を潰すことにより得た力、それは無意識を操る能力。それは本来、覚妖怪が得ることを最も恐れる《零》と呼ばれる禁忌の力…霊夢と共に私達を訪ねてくれた八雲紫は、霊夢が居なくなった直後にそう私に言った。

 

しかし、私はそう思わない。あの能力は、きっとこいしを守ってくれる。だから私は、あの能力が禁忌であると、《零》であるとは決してこいしには言わないと決めた。

 

あの《零》は、確か極めれば他人の能力をかき消すことすら可能である。勿論それも、こいしは知らない。

 

現在、《零》を持つ覚妖怪は私の妹、古明地こいしともう一人、古明地鬱夜の二人のみである。というか、そもそも幻想郷に存在する覚妖怪は彼らと私しかいないのだが。

 

古明地鬱夜、私の兄は《零》の力を極めている。そして、それだけではなく、覚妖怪に隠されたもう一つの能力によって、あたかも他人から能力を奪っているかのようにしている。それだけだ。

 

兄に対抗するには、私が大分前に読んだ古文書に書いてあった、兄が得た《零》ではない方の能力を私が入手するしかない。それには、その能力を得るには辛い修行を積む必要があるとも書いてあった。

 

しかし、兄はそのもう一つの能力を得るための辛い修行も積まずに生まれつき持ち、なおかつ本来はサードアイを閉ざすことでしか得ることのない《零》の力をも生まれつき持っていた。要は生まれつきの異端児であったと言う訳だ。

 

私は、残念ながら異端児ではない。まあ、《零》は持たないほうが良いとは言われたが。だから、私は今こうして修行を積んでいる。

 

修行と言っても、それは一時的に3つの眼を全て使用不能にするというものだ。大体1ヶ月くらいの間そのままにしておけば、もう一つの力を得ることができる。

 

確かに少し不自由であるが、その間はお燐やお空に私の眼となってもらえば良いだろう。まあ、あくまでその期間兄が私に攻撃して来なければの話ではあるが。

 

「さとり様、車椅子持って来ましたよ。で…どちらへ?」

 

「そうね、緑の巫女の居る所に行こうかしら。」

 

こいしは、私の妹は大丈夫なのだろうか。兄の目的、それは恐らく博麗神社の霊夢であろう。しかし、霊夢は今は失踪中で居ない。となると、標的にされるのはもう一人の巫女であるあの子。私は必然的に、兄はあそこへ現れると思った。

 

 

 

地霊殿を抜けて、旧都へ向かう。そこはいつになっても寂しく、大した物などない場所だ。

 

「お、地霊殿のお嬢さんじゃないか!どこへ行くんだい?」

 

「別に大したことじゃないわ。ちょっとばかし巫女の所へ、ね。」

 

「巫女、旧地獄へ殴り込んできたあいつかい?生憎あいつは確か…」

 

「わかってるわ、霊夢ではなくて、緑の巫女よ。」

 

「ああ、あっちの方か。どうかしたのか?そういえば、あんたの妹は大丈夫なのかい?兄貴が見つかったとかで嬉しそうにしてたぞ?」

 

「え!?こいしは、こいしはどこへ向かったの!?」

 

「さあ、知らないね。それよりどうしたんだ?あんたの眼…なんだ、そんなに急いでどうしたんだ?別に守矢の巫女くらい逃げねえのに…」

 

 

 

兄が見つかった、と言うことはこいしが危ない。そう思った。もしかしたら、こいしが痛い目に遭うかもしれない。何せ兄は完璧主義者、自らの計画を邪魔する者は、人であれ妖怪であれ排除するほどの妖怪。

 

「早く、こいしを保護しないと!」

 

「さとり様、それは無茶ですよ!こいし様は、捜せば捜すほど見つからない…それを一番知っているのは、他でもないさとり様自身ではありませんか!」

 

「うっ…」

 

わかっている、本心ではそれは痛いほどわかっている。それに、下手に動けば兄の眼に入ってしまうことも。こいしの持っている《零》、それは兄も持っている。兄が私を探せたとしても、私は兄を探すことができない。お燐が言っていることが図星すぎて、返答ができない。

 


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