東方最凶覚   作:tesorus

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九:地上を嘲笑う囚人達

朝の六時。俺はにとりさんに叩き起こされて、今はにとりさんのバイクで地底へ向かっている。

 

「盟友、大丈夫?落ちたら最期、生きては帰れないよ?」

 

知っている。こう見えても俺は外界ではバイクの免許を持っている。恐らく、にとりは外界に行けばすぐに免許を取れるくらいに運転が上手い。

 

…まあ、取れてもスピード違反で捕まるか。

 

まるで、今の俺とにとりさんは江戸時代へタイムスリップした現代人のようだ。にとりさんのバイク、トップワン・ブラックニトリは古めかしい人間の里を駆け抜ける。見たこともない機械を前に、里の人間の中には腰を抜かす人も見られた。

 

「盟友、スピード上げるよ!平気?」

 

「だ、大丈夫です…多分。」

 

昨日みたいに爆発しないかな。それだけが心配だ。

 

地底の中に入ると、急に肌寒くなってきた。洞窟に入ると温度が低くなるらしいが、洞窟に入る機会はあまり無いが、俺は大体こんな肌寒いイメージがある。

 

「さて、送り届けはしたから。後はよろしく!」

 

「え?」

 

《ホバリングモード、起動。》

 

ブラックニトリがそういう声を発した途端、俺は地底の中でブラックニトリから落とされた。

 

「まずいって!俺、お前らみたいに飛べねえよ!勘弁…あれ?」

 

もうこれが最期かと思ったが、突然ポケットから飛び出した五つの青い薔薇のガラス細工が俺の周りに浮遊し、空中を旋回し始めた。俺の身体の急速な落下は止まり、自由に飛ぶことが出来るようになった。

 

〈マジック・ブルーローズ。〉

 

「え?」

 

〈それを使えば、想真は飛ぶこともできるし、私が攻撃のサポートもできる。もちろん、こうやって会話もできる。〉

 

「こいしちゃん?」

 

〈うん。とりあえず、地底の妖怪のみんなを守矢神社に連れてきて。妖怪達は性格が荒いから、一回倒しちゃった方が早いかも。〉

 

そうか、ならRPGみたいに倒して仲間にすれば良いか。

 

「AAAA!」

 

下の方で、何かが叫ぶ音が聞こえた。この鳴き声は明らかにとてつもない怪物だが、早苗曰わく、ここに居るのは化け物ばかりと言うことなので、あまり気にしない方が良いであろう。

 

「おお?君、人間だね?」

 

上の方から、そう言う声がした。それからまもなく、茶色のワンピースを着た少女が降りてきた。

 

「はい、まあ…そんな感じですね。」

 

「地底に何か用?」

 

「あ、はい。古明地鬱夜さんはご存知ですか?」

 

「鬱夜?知ってるよ。私、あいつと仲良いよ。なんか、最近地上で暴れてるらしいね。でもあいつ、意味もなく暴れることってないからさ。多分、何かしら意味があるんじゃない?」

 

〈そうだよね!私もそう思う!〉

 

その問いに、こいしちゃんがそう答えた。

 

「何?また鬱夜来たの?あ、何だ。人間じゃん。」

 

「妬ましい、地上で暴れられる鬱夜がうらやましい…」

 

さらに上から、桶に乗った緑髪の妖怪と、緑眼の妖怪が降ってきた。彼女達も古明地鬱夜を知っているようで、こいしちゃんが勝手に変に話を進めたお陰で、戦わずに済んだ。

 

〈でね、この想真とお姉ちゃんが、地上で力比べをするの!〉

 

「ふうん、そいつは妬ましい限りだ。」

 

「なんか、楽しそうだね!私達も仲間に入れてよ!」

 

こいしちゃんが地底の妖怪達と仲良く話しているのを見て、何だか、闘わなくても良い妖怪達のような気がしている。

 

妖怪達は皆、子供らしい格好をしているからか、俺はあまり自分から戦いたいとは思わない。子供を虐めている気がして、あまりいい気分がしないのだ。

 

「AAAA!」

 

その時、地下でまた何かが叫ぶような声がした。この声、この妖怪達ではなかったのか。

 

「あの…君達…この叫び声って…」

 

「電気百足、あいつの鳴き声だよ。」

 

電気百足、茶色ワンピースの少女はそう答えた。それにしても彼女達、一体何の妖怪なのだろう。

 

「あの、君達は何の妖怪なのかな?」

 

「私は蜘蛛の黒谷ヤマメ、あいつは嫉妬を司る妖怪の水橋パルシィ。」

 

「蜘蛛!?君、どこから見ても蜘蛛じゃないんだが…あ、蜘蛛を操る妖精ってこと?」

 

「いや、蜘蛛。本当にただの土蜘蛛。でも…嫌だなぁ…私を妖精だなんて…気に入った!ついて来て。地獄の底まで案内してあげる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

地底の底には、人間の里のような村があった。人の気配はなく、まるで襲撃にあったかのようにボロボロである。

 

「ここが、君達の塒かい?」

 

「は、まさか。ここは旧都。忘れ去られた地獄の都だよ。こんな廃屋に住んでいるのは、せいぜい鬼と怨霊くらいだよ。」

 

「鬼?」

 

「ああ、今は留守っぽいけれどね。」

 

旧都のことは、水橋が詳しく教えてくれた。やはり、その地域のことは地元の人に聞くべきだ。どの書物を読むよりも、詳しく知ることができる。

 

「なんで、俺にこれほどにまで教えてくれるんだい?黒谷はともかく、水橋に俺は何もしていないよ?」

 

「ああ、それか…似てるんだよ。お前は。あの博麗の巫女、霊夢にな。」

 

「博麗の巫女、巫女は霊夢さんって言うのか?」

 

「ああ。知らない奴なんてお前くらいだよ。全く、無知なのが妬ましい。」

 

何が悲しくて無知なことを妬まれなければならないのだ。

 

「ヤマメ、そういえばキスメは?」

 

「ああ、キスメ?たまにあの娘、変な行動するんだよね。それで、捜すと人間の里に居るんだよね。聞くと、「自分でもわからない」とか言い出すしさ。」

 

「なんだそれ、認知症とかの類じゃないのか?」

 

「馬鹿、私達は妖怪だよ?何で妖怪が人間の病を発病するの?あの娘、実は死者の魂が冥界に行けずに妖怪になった娘なんだよ。だから、前世の記憶とかそういう何かがあるんじゃない?私は生まれも育ちも蜘蛛だから解らない。」

 

「蜘蛛って格好いいですよね。外の世界には、蜘蛛の力を持つ青年の映画があるくらいに蜘蛛が好かれてるんですよ。」

 

「もう…私を褒めても糸くらいしかでないよ?」

 

そんな話をしながら三人で歩いていると、旧都はいつのまにか姿を消し、王家の城のような建造物が姿を現した。

 

「ここは…」

 

「地霊殿。古明地家が誇る地底最大の城だよ。とは言っても、今は主の三人は不在なんだよね。」

 

〈あれ?もしかして地霊殿に着いた?だったら、お空とお牢を連れてきてくれない?〉

 

薔薇から、そう言う声がした。お牢にお空、恐らく地霊殿に居る彼女達の召使いだろう。ソースはお燐。

 

「あの電気百足と核烏を連れてこいって!?無理だろ、あいつら化け物をなんて…」

 

旧都では全く口を開かなかった水橋が、今度は黒谷とは変わって口を開いた。

 

「仕方ないよ、まあ戦う訳じゃないんだしさ。」

 

「いや、空は良いとして…牢は無理だろ!あの荒っぽい性格…」

 

荒っぽい性格って、魔理沙さんみたいな感じだろうか。こう、あの利己的な感じの人物を相手にするのは嫌いだ。

 

「AAAA!」

 

また鳴き声がした。しかし、それは先ほどとは違い、煩いほどにはっきり聞こえる。

 

声のする方を見ると、黒い、巨大な百足が俺達を見下ろしていた。まるで地霊殿を丸飲みしてしまうかのような大きさの百足だ。

 

「お前がお牢か、罪はないが、ちょっと眠っていてもらうぜ!」

 

《鎖孤島「アルカトラズ」》

 

四本の鎖はお牢の足を捕らえ、ギリギリと締め上げる。しかし、お牢は微動だにしない。

 

〈想真、気をつけて!お牢は電撃を操る百足、長時間の束縛は命取り…〉

 

《雷百足「ブラック・ショック」》

 

お牢の腕から鎖を通じて、高電圧の電流が流れる。

 

〈ねえ、大丈夫?やっぱり、お牢に勝つなんて無茶…〉

 

《軌跡「漆黒の風」》

 

完全に電流に飲まれる前にスペルカードを発動させる。煙が立ち込め、お牢の意識を失わせる。電流は弱まり、なんとか動けるようになった。

 

〈大丈夫!?〉

 

「ああ、師匠が教えてくれた。意識が絶えそうな時ほど意識を保てと。お陰で、何とかなりそうだぜ。」

 

《大軌跡「八坂の黒風」》

 

「AAAA!」

 

やはりだ、虫には熱系の術が効く。幻想郷であろうと、この常識は通用するようだ。

 

〈ちょっと、息の根は止めないでよ?お姉ちゃんのペットなんだから。〉

 

「…この程度で倒れるような奴らじゃないだろ。妖怪ってのは。早苗からそれくらい聞いてるぜ。」

 

〈好きなんだねえ、早苗さんのこと。ラブラブだねえ。〉

 

「ちょっと!早苗と俺はそんな関係じゃな…」

 

〈そんな関係じゃなきゃ、友人一人の頼みで異世界に乗り込んだりするかねえ。〉

 

「まったく、その通りだよ。この程度でやられる僕じゃないよ!」

 

お牢の方から、そう言う声がした。振り向くと、青い長髪靡かせ、黒い翼を生やした少女が飛んでいた。

 

「君は…」

 

「雷百足牢だよ、よくも僕の身体を焼いてくれたね。」

 

雷百足牢…この娘がお牢?こいつ、人間の姿になれるのか。となると、お燐や黒谷も猫や蜘蛛の姿になれるのか?よく解らないな、地底の動物は。

 

「悪いけれど、煙なんて大したことないよ。お空の熱に比べればね。お燐やお空は人間の姿を好いているけれど、私はこの姿は嫌いだなあ。だって、さっきの姿の方が強そうじゃん?まあいいや、こっちの方が小さくて動きやすいし。」

 

《雷撃「マスタースパーク」》

 

お牢の光線を、直撃寸前でかわす。やはり彼女の言うように、百足の身体でなければ大した強さは無いのだろうか。

 

「悪いけれど、僕はこんな息苦しい場所で長い時間戦うのは嫌だね。できるならば、早く君とお空を連れて地上に出たいよ。」




話数がずれていたので修正しました。

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