英雄と女王の子   作:剣の舞姫

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第六話 「初めまして」

英雄と女王の子

~Re-make~

 

第六話

「初めまして」

 

 ネギに案内され、アリスはこれから自分が副担任を務める事になるクラス、2年A組の教室の前まで来ていた。

 既にネギが先に教室に入り、HRを始めて直ぐにアリスが呼ばれる事になっているため、今は教室の前で呼ばれるのを待っている。

 

『おはようございます皆さん、今日は皆さんに新しくこのクラスに副担任として就任した先生を紹介します』

 

 教室の中からネギの声が聞こえた。その喋り方は随分と落ち着いていて、ネギも立派に教師の仕事をしているのだと兄としては安心の一言だ。

 

『では、アリス先生どうぞ』

「おっと」

 

 ネギが呼ぶ声が聞こえたので教室の中に入る。教室内には31人の生徒がそれぞれの席に座っており、全員が入ってきたアリスを見て呆然としているのが判った。否、全員ではない、幾人かは全く別の視線を向けているのを感じる。

 

「アリス先生、挨拶をお願いします」

「はい、ネギ先生よりご紹介に預かりました。本日よりこのクラスの副担任として、そして2年生の数学担当教師として赴任する事となりましたアリス・スプリングフィールドです。残り1年も無いですが、どうぞよろしくお願いします」

 

 アリスが頭を下げ、再び上げた瞬間、教室が爆発したかのような大歓声に包まれた。殆どが黄色い悲鳴のように聞こえるのはアリスが世間一般で言う所のイケメンという奴だからだろうが、それにしたって凄い歓声だった。

 ネギもそうだが、アリスも両親が美形なので当然だが顔は美形、更に母親似という事もあり女顔でもあるのでスーツを着ている姿は本人が気にしている通りホストなのだ。

 

「あ、ははは…これは凄いな(…へぇ、闇の福音がこのクラスにねぇ…それにロボット…いや、自動人形の類か? それに烏族のハーフに魔族のハーフ、それから純粋な魔族に幽霊…随分なクラスだな)」

 

 苦笑するアリスだが、その裏ではクラスから感じられる人外の気配の多さ、更には一般人よりも強い魔力の気配がそこかしこから感じ取れる事に内心、クラス編成に対する疑問が浮かんだ。

 

「は~い、そんじゃあクラスを代表して新聞部のこのアタシ、朝倉和美がアリス先生に質問するよ!」

 

 やはり来た、新任の教師には生徒からの質問はもはや定番と言っても良い。

 

「じゃあ先ずはアリス先生に一つ目の質問、苗字がネギ君と同じスプリングフィールドだけど、親戚か何か?」

「兄弟だよ、私が兄でネギが弟、実の兄弟だ」

「兄弟? にしては似てないね」

「よく言われるけど、それはネギが父親に似て、私は母親に似たからかな」

 

 本当に昔からよく言われる事だ。目元こそアリスはナギに似たが逆にネギの目元はアリカに似てしまったため、本当にアリスとネギは似てない兄弟と言われてきた。

 

「じゃあ、次の質問。アリス先生の歳は?」

「今年で18になるね、今はまだ誕生日が来ていないから17だけど」

「えっと、ネギ君もそうだけどそれで教師って出来るの?」

「まぁ、教員免許は持ってるよ、飛び級でMITの理学部を卒業しているからね」

 

 MIT、マサチューセッツ工科大学の理学部を卒業しているという事は世界でも有数の理数系専門家という事になる。

 勿論、アリスのこれは仕事で通っていただけの事で実際には卒業などしていない。それだけの知識は確かにあるが、卒業資格については必要に迫られて偽造したに過ぎないのだ。

 

「すっご……あ、えと、それじゃあ趣味! 趣味は?」

「趣味……」

 

 困った。趣味と言われてもアリスは趣味らしい趣味が無い。幼い頃から修業と実戦の繰り返しで、ずっと戦いの中を生きてきたから、アリスには趣味というものが無いのだ。

 

「生まれてこの方、無趣味で生きてきたから、趣味と言われても何も無いかな」

「うわぁ…それってつまらなくないですか?」

「う~ん…対して気にした事が無いからねぇ」

「そ、そうですか…じゃあ最後の質問! ズバリ! このクラスで気になる子は!?」

 

 まだ赴任したばかりなのに随分な質問だ。パッと見た印象で答えれば良いのだろうか、見覚えのある顔は闇の福音と木乃香くらいで、その他は全く知らないので困る。

 

「じゃあ…最初にこの学園で会って学園長室まで案内してくれた木乃香ちゃんと、マクダウェルさん、それと……っ!?」

 

 教室を見渡していて、一人の生徒の姿を見て驚愕した。

 オレンジ色の髪を鈴の付いたリボンでツインテールにしていて、アリスに何処と無く似た顔つきに、覚えがあり過ぎる青と緑のオッドアイ、そして感じられる魔力、その全てが彼女の正体を物語っていた。

 

「…神楽坂さん、かな?」

 

 神楽坂明日菜、彼女はこのクラスではそう呼ばれている。アリスの知る名ではない、だけど間違いなくアリスにとっては幼い頃に一度だけ会った事のあるアリスとネギの叔母。

 嘗て、魔法世界において黄昏の姫巫女と呼ばれた旧ウェスペルタティア王国の第2王女、アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア、まさか生きていたとは思わなかった。

 

「さて、質問はこの辺にしてもらえるかな? まだHRの時間だからそろそろネギ先生に進行してもらわないと」

「ん~、まだ聞きたい事があるけど、それはまた後日にしますかね」

「そういうことで、ネギ先生」

「あ、はい! それじゃあHRの続きに入りますね」

 

 教卓をネギに明け渡し、アリスは窓際に用意されたパイプ椅子に座ってネギの教師としての仕事を観察する。

 同時にクラスから感じ取れるアリスに対する興味以外の視線に対し無視を決め込みながら神楽坂明日菜の事について考えていた。

 

(まさか明日菜叔母さんが生きてこの場所にいるなんて…タカミチが連れてきた? だけどタカミチからはそんな話は一言も……私にすら隠しておきたい事がある、という事なのか、それとも…見た感じ、記憶が無いのか、私を見ても何も顔色を変えなかった)

 

 アリスの知る明日菜は無表情、無感情の叔母だったが、このクラスでの神楽坂明日菜は随分と活発な印象を受ける。

 他人の空似ということはあり得ない、だからこそ記憶が無いと考えるべきなのだろうが、何故記憶を消してまでこのクラスに居るのか、何故タカミチはこの事を教えてくれなかったのか、疑問は尽きない。

 

「では、HRはこれで終わります。そういえば皆さん、もうすぐ学年末試験ですが、ちゃんと勉強してますか?」

「学年末?」

 

 考えてみれば日本ではそろそろ試験シーズンなのを思い出した。学年末という事で一年間の勉強の成果を発揮し、来年度への備えとする大切な試験でもあるのだから、当然勉強はしているのだろうが、果たしてこのクラスではそれは当て嵌まらない。

 クラスの様子を見ても誰一人として勉強しているという空気は見えず、随分とお気楽に構えているという印象を受けるのだ。

 

「ネギ先生、このクラスの1年からの各中間、期末試験の結果は?」

「え? あ、はい…えっと」

「? そういえば学園長から資料が…」

 

 学園長から貰った資料を開いて2年A組の中間、期末試験の結果を見てみる。

 

「……全試験、学年最下位…」

『あ、アハハハハ…』

 

 まさかとは思ったが、予想以上に酷い有様だ。1年の最初の中間試験から今までに至るまで全ての試験が学年最下位という結果、確かに麻帆良学園はエスカレータ式で小学校から大学まで行けるが、だからと言ってこの結果は不味い。

 確か学園長から貰った麻帆良学園のエスカレータシステムについての資料には中等部から高等部に上がるにはエスカレータ式になっているとは書かれているが、それは成績がそれに伴う事が条件とある。つまり、中学での成績があまりにも悪い場合は高等部に進学する事は出来ないのだ。

 

「いくらなんでもこれは酷い、みんな進学する気が無いのか?」

「え~、でもどうせエスカレータ式で高等部にも大学部にも行けるんだし、勉強してもしなくても同じじゃないですか?」

「いくらなんでもそんなわけが無い。あまりにも成績が悪ければ高等部への進学は不可能、外部の高校受験をしなければならないし、それに落ちれば当然だけど浪人する事になる。エスカレータ式だからと甘く見ていると人生を一年分台無しにする事になるよ」

 

 これにはクラスの全員が初耳だという顔をした。まさか麻帆良学園に通っていてそんな基本的な事も知らないとは思わなかった。

 中等部入学の際の入学要項にも必読というところに書かれている事なのに、まさか全員、それを読んでいないという事なのだろうか。

 

「はぁ、先が思いやられる…」

 

 前途多難、アリスの麻帆良学園最初の仕事は生徒達の勉強に対する意識改革から始めなければならないと思うと、一気にやる気が滅入る。

 だが、やらなければならない。アリスも仕事のプロとしてのプライドがある。ならばこそこなして見せなければプロ失格だ。

 

「今日からの数学の時間は覚悟しておくように、今まで甘やかされていたみたいだけど、私は甘やかす気は無い、勉強しないのであれば、覚える気が無いのであれば高等部進学なんてさせない、進学したければ死ぬ気で勉強してもらうよ」

 

 これが、鬼の新田にならぶ悪魔のアリスが麻帆良学園2大恐怖の教師に数えられる存在として誕生した瞬間だった。




次回は図書館島にネギたちが行く話なんですが、アリスは別行動、タカミチが出てくるかも?

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