〜医務室〜
「アンタ、霧と艦娘のハーフになってみない?」
「………は?」
あまりにも予想外だったので言葉が出なかった。
ハーフってなんだっけ。ドレッシングとかマヨネーズとか?
「さすがに半分になるのは嫌だな」
「……そっちじゃなくて、混ざる方」
「ハーフっていうかハイブリッド?」
「まぁ…そんな感じね。むしろその方が正しい表現かも。
アンタは艦娘として戦いながら、必要となれば私達霧みたいにナノマテリアルを操って戦う。
霧もどきになる方法だけど、あなたの中に大量のナノマテリアルを注入してユニオンコアを形成するだけだから上手くいけば10分ぐらいで終わるわ」
「…失敗したら?」
「たぶんもがき苦しんで全身傷だらけ血だらけって感じで死ぬけど、私なら死ぬ前…というか痛みを感じるか感じないかの時点で何とか出来るから大丈夫」
サラッとエゲツない事を言うな。
「失敗する確率はどれぐらいなんだ?」
「あなたの場合だと2割、けど失敗と分かった時点で私が対処するから実質0よ」
自信満々にそう言うヒュウガ。
失敗する確率が0なら悪い話って訳でもなさそうだし…よし、受けてみるか。
「わかった。なら今すぐやってくれ」
「…え?」
「待て待て待て!お前まだ完全に回復し切ってないだろ!」
さすがのヒュウガも今すぐと言われると思ってなかったのか目を丸くし、提督に至っては押し倒しそうな勢いで肩を掴んで止めてきた
「大丈夫だ。それに…あまりのんびりしてられないだろ?」
「ばっ…お前が回復する時間ぐらいある!」
「もう、そんなに心配しなくても大丈夫だって!こんだけ死にかけて無事なんだ。俺がそんな簡単に死ぬ訳ないだろ?」
「そりゃそうだけど…!」
「良いの?今やっても完全に回復するまではナノマテリアルは一切操れないし、後でやっても変わらないわよ?」
「だったら尚更今やる。思い立ったが吉日って言うだろ?」
「それ使い方違うと思うわよ…」
「似たようなもんだ。それに…3度目の正直とも言うだろ」
「3度目?」
提督とヒュウガが首を傾げて聞いてくる。
「ここに着任した時に1、そして今回で2度、俺は助けに行って助けられた。
もうこんな想いはたくさんだ」
チート性能を持って建造されたはずなのに、いつも苦戦をしてしまう。
あの時の女神はさぞかし俺に苦労させる気なんだろうな。
「……わかった。あたごがそこまで言うならお前の意見を尊重しよう。ヒュウガ、頼めるか」
「わかったわ。じゃああたごはそのまま横になってて頂戴。イオナ姉様、サポートお願いします」
「わかった」
ヒュウガの身体から白い靄のようなものが出てきて俺の身体に入っていった。
これがナノマテリアル…か。
何だろう、だんだん眠く…
「っへっくし!」
「いたっ!」
「あたご!?!?」
突然、全身に静電気のような痛みが走る。
そしてヒュウガが少し慌てながら叫んだ。
「あっぶな!」
「ちょ、何があったんだ?」
「えぇっと……くしゃみしたら失敗しそうになっちゃった……」
「そっかぁ……てことは俺今死にかけたのかな?」
「てへっ」
「てへっ…じゃねー!」
「大丈夫大丈夫、今みたいに危なかったら何とか出来るから!さ、気分とり直してもっかいやり直すわよ」
「大丈夫かよこれ…」
さっきと同じようにまたナノマテリアルが俺の身体に流れ出す。
みんなに心配をかけさせない為にも、俺が強くなって、守る側にならないとな…
特にみらい、アイツは何かあるたびに泣きそうになってるし、今回も泣かれたし…
休みの日に2人でどこか遊びに行けたら良いなぁ、大阪とか。
みらいだけじゃない、龍田や金剛、電や他のみんなとも……また…一緒に………
………
……
…
「お目覚めかしら?」
「……どれくらい寝てたんだ?」
「終わってから30分ほど。無理に起こして不調とか出たら困るからそのまま寝かせておいたわ。気分はどう?」
「なんか…さっきと何も変わってない気がする」
「今はまだコアにロックをかけてるからね。そのうち分かるわ」
「わかった。…あれ?加賀さん…いつの間に来てたんだ?それにイオナと提督は?」
部屋にはヒュウガと加賀さんしか居なかった。
「彼女はさっき来たばかりよ。あなたの今後の予定を伝えに来たらしいわ。イオナ姉様は艦体の修復と説明、提督とみらい、他の艦娘たちも一緒に行ってるわ」
「そっか…」
「あと言い忘れてたけど、出来ないと思うけど間違っても自分でロックを外そうなんて思わないことね。もし無理矢理ロックを外したら地獄を見ることになるわよ」
「地獄?」
「制御不能になったコアの暴走。定着する前にやると最悪身体が八つ裂きになるわ」
八つ…裂き?
サラっと言ってるけどそれかなりヤバくないか?
「……え、そんな物が俺の中に入ってるのか?大丈夫なのか!?」
「定着前に自分で解除しない限りはね。じゃ、そろそろ私はイオナ姉様のところに行かないと行けないから。加賀、後は頼んだわよ〜」
そう言って手を振りながら部屋から出て行くヒュウガ。
「なんか緊張感抜けるよな…」
「それは貴女が元々緊張感ないからじゃない?あたご」
そう言いながら加賀さんは俺の寝てるベッドに腰掛けた。
なんだろう、外の光がうまい具合に差し込んでるからすごい美人に見える。
特にうなじとか。
「どうしたの、ぼーっとして」
「へ?いや、なんでもない」
「……そう」
「……」
「………あの時」
「?」
「…あの時、貴女のおかげで制空権が取れた。そしてかなりの子達が生き残る事が出来たわ。ありがとう」
「……!?」
え、今なんて?
加賀さんがデレた!?
「貴女が何を考えてるかは大体の想像はつくわ。……まぁ、正直私も自分の言動に驚いているのだけれど」
「お、おう」
そういや普段から加賀さんとあまり喋ったことなかったな…
どう会話して良いのかイマイチわからねえ….
加賀さんも同じことを思ったのか、立ち上がり手に持ったバインダーをめくり始めた。
「さて、そろそろ私がここにきた目的を果たすわ。
これからの貴女の予定だけど、貴女が完治した翌日から2日間は休み。その後コアが定着するまで雪風の訓練に参加してもらうわ。
最初は操縦訓練、それが出来たら次は私と赤城さん、そしてみらいを相手に演習ね」
「わかった。コアが定着してからは?」
「それは彼女がその時に決めるらしいわ」
「了解っと……まぁせいぜい頑張るとするか」
そう言いながら背伸びをすると
「…貴女には期待しているわ、しっかりね」ポンッ
「……!?!??」
そう言いながら頭をポンっとすると部屋から出て行った。
……こんなに良くしてくれて、しかも加賀さんのこんな一面を見れるのならこれからもっと積極的に負傷……いやいやいや、落ち着け俺。
まずはそんな事考えるよりも回復が先だ。
あの戦闘機に乗るってことはあの変態的な動きに巻き込まれるって事だから一刻も早く全快しないと身体が持たない。
そう思い滑走路方面の空を見上げると、遠くの方でF-15がロケットのような速さで垂直に上に………え、なんであんな速度で垂直上昇してんの。
確かに垂直上昇は可能とか何とか聞いた覚えはあるけど、あんな速度でできるのか?
しばらくすると角度を緩めはしたものの速度は衰えず、そのままロケットのように視界から消えた。
「もし…かしてあれF-15じゃなくて雪風…か?」
あと数日で俺はアレに乗るんだよな?
これ俺生きて帰れるのか…?
やっと更新できました…!
これからしばらくは仕事も落ち着く予定なので、次の更新はうまくいけば3月下旬の予定です!
(うまく行けばっていうかうまく行かせます)