あたごコレクション   作:今瓜リタ

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お久しぶりです。
約半年ぶりに再会できました!
お待たせしてもう少し訳ありません!


21話、風の妖精

 

〜工廠前防衛ライン〜

ーあたごー

痛みで身体が動かせない、例えるなら全身筋肉痛の時のような感覚。

痛みを無視して、渾身の力を込めて起き上がろうとするが、身体がうまく動かせない。

 

「あたごさん!!!」

 

みらいが駆け寄ってくる。

 

「あたごさん!しっかりして!起きてください!あたごさん!!……!そんな……!」

 

身体をぐったりさせて声を発する事も出来ず、虚ろな眼をしている俺を見て何を誤解したのかみらいは涙を流しながら立ち上がった。

 

「もう…失わないって決めたのに…どうして……!!」

 

勝手に殺すな。

 

 

ーみらいー

嵐の中、仲間や姉さん達と離れて私は1隻だった。

私に語りかけたり祈ったりしてくれる、時代を共有した仲間はいるけど私の声はみんなに届かない。

そうして月日が流れ、沈み、艦娘としての生を受け、やっとの思いで私と時代を共有して会話できる仲間と再会したのに…

その仲間であるあたごさんは今、私の眼の前でぐったりしている。

どうして…?なぜ…?

もう失わないって決めたはずなのに。

どうして…私から奪うの。

返して…お願いだから返して

 

「して……返して……返して…!あたごさんを……返せェ!!!」

 

許さない、私から奪ったことを後悔させてやる。

自己の生存、弾薬の節約より、敵の撃破を最優先。

もう出し惜しみはしない、持てる力の全てで撃破してやる。

 

「ハアアアアアアッ!!!」

 

腕を動かし主砲を右側の敵6機に照準、間に合わないので砲塔の固定を解除、腕を動かしつつ手首の上で砲塔旋回、発砲。CIWS作動、ハープーンをリ級に発射。スタンダード及びシースパロー、順次発射。

回避行動よりも主砲やCIWSにとって最小限の動きだけで敵を狙えるように身体を持っていくことを優先。

たとえ刺し違えてでも、沈めテやル。

 

 

 

ーあたごー

その瞬間、みらいのCIWS、主砲、VLSが一斉に火を吹き、明らかに動きが変わった。

いつもの慎重なみらいの動きじゃない。

俺でも分かる、あのままじゃいずれ撃破される。

その前に止めねえと!

 

「みら…い」

 

何とか声は出たがとても今のみらいに聞こえるような音量じゃなかった。

なら無線で……

 

《あたご!あたご!聞こえるか!?ある程度撃ったら皆を連れてこっちに来い!新しい艤装がある!》

 

誰だ…HYUGA…?でも提督の声…誰でもいい、とにかく伝えないと…

 

「………あ」

《どうした?おい、あたご!?》

「あー…悪い、動けそうに…ない。あと…みらいを止めてくれ…」

《何を言ってる!?あたご?あたご!!》

 

無線も壊れたのか通信が途切れた。

くっそ…何か手はないのか…!?

 

「くうっ!」

 

みらいの悲鳴が聞こえたので見ると右肩のCIWSが破壊されてた。

早くしないとみらいが!!

 

「くっそ……みゲホッ……みらい…!」

 

何とか声が出る程度には回復していた。これなら腹の痛みを無視して腹に力込めればもっと出るはず!

 

「…っ、みらいっ…………!」

「あたごちゃん今は声出さない方がいいっぽい!」

「大丈夫だ…、今はそんなこと言ってる場合じゃ…!」

「連装砲ちゃん!三手に分かれて加賀さんとあたごちゃんの護衛について!残りは私と行くよ!」「「「「キュッ!」」」

 

いってぇ……けど、今はそんなこと言ってる場合じゃねえな。

筋肉痛の酷い状態と思い込めばたぶん大丈夫、それが無理なら死ぬ気で声を出すまでだ。

 

「み…みらい!!くっそ…さっさと気づけ!腹いってぇんだぞこれ!みらい!」「キュキュキュゥ〜!」

「ちょ、それ私の魚雷っぽい!」

 

連装砲ちゃんも一緒に叫んでるのに全く気づかねえ、気づかないどころか夕立の魚雷奪ってイ級撃破してるし……

他の誰かに呼びかけて貰おうと周りを見渡すが、いつの間にか長門と加賀さんは大破、夕立は中破、唯一無傷だった島風も2匹の連装砲ちゃんを俺と加賀さんの護衛に回したせいでさっき被弾して今は小破。みんな自分のことで手一杯だった。

敵の数も最初よりは減っているがまだまだ残っている。

余裕がない以上、自分でみらいに気づいてもらうまで叫ぶしかないか…

 

「みらい!こっちみろ!おいみらい!あぁくそっ、みらい!俺は!あたごはまだ生きてるぞ!ていうか勝手に殺すなぁ!!」

 

なんで俺だけいつもこんなボロボロに…

どっかでフラグでも立てたか?

 

ガゴンッ……ブヴォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!

「キュゥゥゥウッ!!(ドンッドンッ」

 

そう思った時、自動モードにして生き残っていた1基のCIWSと連装砲ちゃんが上空に向けて射撃を開始。

 

「うん?」

 

俺の息の根を止めようと敵機が群がっていた。

 

「ちょ…空気読めよ!!」

 

CIWSと連装砲ちゃんの弾幕によって敵機6機と爆弾4発を迎撃するが、その破片によってまだ全てを迎撃していないのにCIWSが破壊された。

 

そういえば俺の運って13だったよな…

絶対13も無いだろ、1.3の間違いだろ。

 

「嘘…生きてた…!あたごさん!!!」

「え?」

 

反射的に呼ばれた方を向くと、みらいがすぐ近くまでCIWSと主砲を撃ちながら走って来ていた。

爆撃と砲撃の盾になるように俺を抱き締めるみらい。

 

「おまっ、馬鹿さっさと逃げ…」

「ありがとうございます」

「馬鹿っ…!」

 

何とかして俺が盾になるように全力でみらいと俺の身体の位置を入れ替える。

 

「あたごさん!!?」

 

そして着弾。

 

「ーーーーーっ!」

 

そこで意識が途絶えた。

 

 

 

〜格納庫〜

ー雨霧ー

「アイツは妖精さんと共同開発した戦闘偵察機、FFR-31MR、スーパーシルフだ。パーソナルネームは雪風。一応2人乗りだが1人でも無人でも飛ぶことができるぜ」

 

離陸した雪風を眺めながら自慢気に胸を張る整備員。

 

「あのー…なんで妖精さん?」

「戦術の幅を広げるためだとさ」

「戦術の幅…?」

「あいつ1機でそれこそアメリカの軍事基地だって威力偵察したあとに空戦やって帰ってこれる性能を持ってる。司令はそれを深海棲艦に使うつもりなんだとさ、」

「……マジですか?」

「嘘だと思うんならあの動きとこれを見てみな」

 

整備員が差し出した端末。

 

『TARGET INSIGHT』

『MODE AAG』

『RDY-GUN』

 

そこには雪風の状況が書かれていた。

そして雪風は宣言通り敵機に銃撃し、一気に3機ほど落とした。

 

「すごっ……これ1機で戦局を大きく変えかねませんよこれ…!」

「それだけじゃないぜ、アレは高度な人工知能により他の兵器の支援を受けることも出来る。それこそコントロールを奪ってでもな」

 

端末を見ると、整備員の言った通り雪風が使える兵器がないか探しているところだった。

 

『CFG DDG177』

 

 

 

 

 

〜工廠〜

ー榛名ー

工廠では、工廠の守りをイオナちゃんに託し、行動不能と思われるあたごちゃんを回収、高速修復後に新しい艤装に換装させるために榛名とヒュウガさんがあたごちゃんの元へバケツと艤装を持って向かおうとしていた。

 

「……待って、ヒュウガ」

「どうしたのですか?……はっ!まさかイオナ姉様!この私の身を案じて…!?あーん!なんて勿体無いお言葉!ですがイオナ姉様、ご心配には及びませんわ!このヒュウガ、イオナ姉様の為なら…」

「違う」

 

そう言いながらイオナちゃんは提督の前まで歩き、提督に見えるように映像を展開。

そこにはこう書いてあった

 

『CFG DDG177. DDH182. LOST』

 

「……っ!それは……やられた…ということか?」

「断言できない。瀕死で生きているか、何かのエラーという可能性もある」

「……わかった。ヒュウガ、榛名!一刻も早く行ってくれ!」

「…仕方ないわね、行くわよ、白い方の榛名!」

「白い方って…榛名は黒い服持ってません!」

「世間には色々いるの!」

 

そう言いながら私に荷物を渡すと跳躍、辺りを見渡しながらオレンジ色の結晶のようなものを作り出すと周囲の敵機に向けて高速で発射した。

 

「その光すごい便利ですね…どうやってやるんですか?」

「ハルナならともかく、艦娘のアンタが出来る訳ないでしょーが!ホラ、今のうちに行くわよ!」

「榛名は艦娘ですよ…?」

 

文句を言いながらヒュウガさんと一緒にクラインフィールドに守られながら最後に2人が確認された場所へ駆け出した。

ヒュウガさんが守り、私が攻撃の連携。

この変なバリア私にも欲しいです。

 

「そういえば榛名!」

「はい!なんでしょう?」

「さっきから上空でバンバン敵落としたり地上攻撃したりしてる戦闘機は一体何!どこのデータベースにアクセスしても見当たらないわ!」

 

上を見上げると確かに1機、味方らしき戦闘機が空を舞うように飛んでいた。

前に響ちゃんが言っていたクルビットという機動をしながら後方の敵の一部を撃ち墜とし、そのまま急降下しながら燃料タンクを投下してフレアを発射、ついでに下の敵艦にむけて爆弾を投下。

一気に複数の敵機とイ級1隻を撃破。

 

なんでしょう、榛名もあんな戦闘機は見たことがありません。

 

「わかりません!でも今は味方みたいです」

「アテになるのかしら…と、見つけたわ。あの子ね」

 

地面に横たわってるあたごを発見。

だが、その付近にみらいの姿がなく、代わりに敵に応戦する連装砲ちゃんの姿があった。

 

「連装砲ちゃん、もう少し頑張ってね!」

「キュッ!」

「あたごを確認、生命反応は…すごく微弱だけどまだあるわね…海だったら間違いなく沈んでるわ」

 

ヒュウガさんがかろうじて生きていたあたごちゃんに向けてバケツをひっくり返す。

 

1秒、少し光りだす。

2秒、艤装が修復されていく

3秒、身体には変化なし

4秒、艤装の修復完了

5秒、身体の変化なし

………………

…………

……

 

艤装の傷は治ったのに身体の傷が治らない!?

 

「榛名?どうしたの?」

「身体の傷が…治りません、いえ、治る速度が遅すぎます」

 

轟沈と同規模のダメージを受けたのか身体の修復がかなり遅い。

このままじゃあたごちゃんが死んでしまいます。

 

「ヒュウガさん!あたごちゃんを担いで今すぐ工廠に!」

「ちょっと…みらいはどうするの!」

「私が探します!榛名なら大丈夫です!」

「探すって…ただの艦娘にそんなことが出来るわけないでしょーが!」

「でも…!」

 

私がそこまで言ったところであたごちゃんの艤装が作動した。

 

「え…?なんで……今あたごの意識は覚醒していない。という事は…外部から!?」

 

ヒュウガさんがオレンジ色の映像を展開しながら上を見上げる中、突然あたごの艤装に残っていた対空ミサイルが次々と発射、上空の戦闘機に追随し、散開、敵機に向かって飛んでいった。

 

「な…なにこれ」

「わかりません…榛名もこんな光景初めて見ました」

 

「おぅっ!あの戦闘機はっやーい!」

「島風ちゃん!?無事なの!?」

「私は大丈夫!そう簡単には当たらないよ!」

「そう言いながら中破してるんですが…」

「大丈夫!これぐらいじゃやられないから!」

「その様子じゃアンタもあの戦闘機を知らないみたいね…」

 

そんな会話をしているとヒュウガがガッカリした様子で話しに加わった。

 

「えっと…だれ?」

「説明はめんどくさいから後!あーもう、なんでどこのデータにもあの戦闘機の説明がないの…と、ん…?接続しろ…?」

「どうしたのですか?」

「……上空の戦闘機から持っている艤装の電源を入れるように指示が来たわ。どーでもいいけど、アレ雪風って言うのね」

「……どういうことなんでしょう?」

「さあーね、ま、取り敢えずやってみるわ」

 

そう言うとヒュウガが立体映像を展開し、持っている艤装とリンク。

 

「これ…人間にしちゃ複雑なもの作るわね」

「そうなんですか?」

「ええ、まぁ艦娘というのも関係しているのだろうけど。……あの戦闘機からの要請が来たからコントロールを渡すわよ」

 

ヒュウガがそう言いコントロールを渡した瞬間、さっきのあたごを上回る量と速度で大量の対空ミサイルが発射、更にハープーンやアスロックまでもが発射され、片っ端から深海棲艦に着弾したり、上空に投下して爆破していった。

そして主砲とCIWSが残弾を全て吐き出すように敵艦に牽制射撃、その隙に高高度まで上昇した戦闘機がアフターバーナーを点火しつつ急降下爆撃、その運動エネルギーの威力も合わさってリ級のエリートを撃破。

この数十秒の間の雪風と雪風が誘導するあたごの新旧の艤装の連携で深海棲艦と敵機の8割が沈黙。

そこで残弾が切れたのか艤装が沈黙した。

 

「っ…!ほら、突っ立ってないで早く!アンタより私の方が確実だから安心しなさい!」

 

確かに、あの不思議な力がない私よりヒュウガさんの方が確実かもしれません。

なら私のやるべきことは1つです。

 

「わかりました…では、行きます!」

 

あたごちゃんを担ぎ上げ、工廠に全力で走る。

 

「榛名!無事か!」

 

後ろから声をかけられたので振り向くと、長門と長門に肩を支えられた夕立がいた。

 

「長門さんに夕立ちゃん!はい、榛名は大丈夫です!それより2人こそ…」

「私は大丈夫っぽい、それよりあたごちゃんは大丈夫っぽい!?」

「艤装の損傷は治ったのですが…ダメージが轟沈レベルまでいっているので身体の傷の修復がかなり遅い状態です」

「そんな…!」

「でも今から工廠で治療するので大丈夫です!」

「わかった。ではあたごは頼んだぞ。夕立、すまないがもう少し頑張ってくれ」

「うぅ…了解っぽい!あたごちゃんには後でお説教っぽいー!」

「はい!榛名もお説教します!」

 

 

3人がその会話をしている間にヒュウガはもう一度上空に飛び上がって周りを見渡す。

雪風の参戦や、雪風がコントロールしたあたごの艤装の圧倒的な物量、夕立、長門達の奮戦もあり、全体的にも敵は撤退しつつあり、そしてその先頭は既に海に出ていた。

 

「もしかして………アレ…?」

 

その先頭で、ちょうど人影がカ級が持つ球体の入れ物に鹵獲されるところだった。

 

「んもう…仕方ないわね!」

 

少ないナノマテリアルを使いクラインフィールドを展開、そのままカ級を攻撃しつつ球体に突っ込む。

すると攻撃が当たる前に球体を放置してカ級が潜行し攻撃を回避したが、無視して救助を最優先。

 

「みらい無事!?」

 

球体を壊し問いかけるが返事がない。

 

「効果があるのか分からないけど、取り敢えずバケツを使ってみるしかないわね」

 

自分が持ってきたバケツをみらいにかける。

すると今度は艤装に加え、身体の修復も進んでいた。

 

「う……」

「私の声が聞こえる?」

「だ…れ?あた…ご…さ……ん?」

「意識は戻ったようね…え、ちょっと、何!?」

 

突然、海面から現れたさっきみらいが入れられていた物より一回り大きい球体の中に拘束された。

 

「この程度で私を拘束しようなんざ100年早いわぁ!」

 

クラインフィールド展開、内側から球体を破壊すると同時にみらいを担ぎ上げる。

 

「さっさと工廠まで逃げるわよ!」

「えっちょ、痛っ、誰ですか!?」

 

そしてそのまま工廠まで撤退。

途中、戦闘中の夕立や長門達に余ったバケツをぶっかけた効果もあり、形勢逆転するのにそう時間はかからなかった。




仕事が忙しいので、最低でも次の話は12月までに投稿できたらと思います!
話の展開自体はかなり先まで考えてあるので、時間さえできればサクッと書いて投稿したいと思います!
いずれは、最初の頃の更新ペースに戻していくのでもう少しお待ちください!

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