それと一般曹候補生の1次試験合格しました!
提督がみらい呼び出してから暫くするとドアをノックする音が聞こえた。
「みらい、参りました!」
「ん、入ってくれ」
「はい!…………なんであたごさんが居るんですか?」
「故障した艤装の件で説明受けてたからな。まぁ取り敢えず座ったら?朝みらいが言ってた事について提督が説明するから」
「え……良いんですか!?」
「ああ、別に機密でも何でもないしな」
「ありがとうございます!ついでに深海棲艦と艦娘の歴史も教えて欲しいんですが…」
「今からそれを話すつもりだ。その方が何故人類が負けたのかも説明しやすいからな」
みらいが提督の反対側に座っている俺の隣に座り、紅茶を一口飲んだのを見てから提督が話し出した。
「2010年8月18日、太平洋戦争が始まった日と同じ日にハワイ近海に深海棲艦が出現、最初の被害は物資を満載した大型タンカーだ。その後、やれ敵は人型だとか巨大なタコだとか宇宙人だとか情報が混乱するなか、人類史上初の深海棲艦との交戦を海上保安庁の巡視船、しきしまがした。
しきしまが人型の深海棲艦からの攻撃を受け、自衛の為に小銃や機関砲で反撃したが勿論その程度の弾じゃ殆ど被害は与えられず撃沈。
その時銃による攻撃が殆ど効かなかったから[敵は通常の物理攻撃は通用しない]って情報が全世界を駆け巡った。
そしてその後アメリカ海軍第3艦隊のミサイル駆逐艦が深海棲艦を3発のハープーンで攻撃、撃破した。更に偵察飛行や爆撃を繰り返した結果、敵は通常の物理攻撃が通用しないのでは無く、装備や装甲は大艦巨砲主義の艦艇と同じなだけだという事が分かった。
その後偵察や研究を繰り返し、深海棲艦についてある程度のことが分かってきた。
深海棲艦は海中から出現し、海上に出るまで我々人類を捕捉する事は可能だが海中からは一切攻撃出来ない、だが人類は海中にいる深海棲艦を一切捕捉出来ず、万が一捕捉出来ても攻撃が効かないという事だ。もし至近距離で浮上されれば今の艦艇はかなり不利な戦いを強いられる事になる。
ただ一部例外があり、その深海棲艦は、潜行中もお互い捕捉、攻撃が可能だったのでこれを潜水艦と分類した。
2011年、自衛隊が無くなり日本国防軍が誕生した。
まあ自衛隊と違うところといえば大雑把に言うと行動範囲が広がった事と階級の呼び方が変わった事ぐらいだけどな。
次は太平洋海戦だ。
なんでミッドウェー島沖とかパールハーバー沖とかじゃなくて太平洋という広大な海域が海戦名になってるかと言うと、一部の限定された海域ではなく太平洋全域で発生したからだ。
2012年、人類はアメリカを中心とする国連軍で太平洋各海域にて活動している深海棲艦の同時掃討作戦を開始した。
日本は護衛艦ひゅうが、あたご、まきなみ、すずなみの4隻の艦を派遣しこの作戦に加わった。
作戦開始から2週間で海上で確認されている深海棲艦の9割が撃破され、残った潜水艦に分類された深海棲艦も殆ど壊滅、あとは残った深海棲艦を掃討するだけだった。
20日目、作戦もそろそろ終わりかと思われた頃、人類が恐れていた事が起こった。
0230時、太平洋全域に散らばった全ての艦艇の後方に深海棲艦が4体以上、ほぼ同時に浮上した。
人類は不利な砲雷撃戦を強いられ残り約6割まで壊滅、その後の戦闘で更に1割が撃破され、残り半数となった所で全艦隊が撤退するも既に周りは包囲されていて撤退は難しい状況になっていた。
その時に艦娘が登場、最初は深海棲艦と思われていたが艦隊を包囲している深海棲艦を次から次へと撃破し人類の味方として認識され、一緒に戦闘し港に帰還した。
その後の研究で深海棲艦には人類の艦ではなく、至近距離に浮上されても対抗出来る艦娘が有効と判断され、大湊、横須賀、舞鶴、呉、佐世保等の各基地に艦娘専用施設を作りそれを鎮守府、もしくは泊地と呼称し、基地司令に鎮守府の指揮を、副司令に基地の指揮を取らせることにして今に至る」
話の半分しか理解出来なかったけど…とりあえず浮上するまで探知、攻撃が不可とかチート過ぎるという事だけはよく分かった。
「なるほど…ありがとうございます」
「いえいえ。それであたごは?何か質問あるか?この際他にも知りたい事があれば言ってくれ」
「じゃあ…護衛艦あたごがどうやって沈んだか、知っている範囲で良いから教えてくれ」
まぁ大体予想は付くけどな…
「詳しくは憶えてないんだが…6体の深海棲艦を沈め、7体目を大破に追い込んだところで艦体が真っ二つに割れて轟沈したと思うぞ」
予想を遥かに上回ってた!?
6体を撃沈って…!
「ありがとう」
「もう質問はないか?」
「うん、満足した」
「それじゃ4人を中に入れるか」
「「?」」
そう言うと提督はドアの外に聞こえるような声で言った。
「おい!そこの4人!とっくにバレてるから中に入って来い!」
「「…?」」
俺とみらいが頭の上に[?]を浮かべていると扉から恐る恐る夕立や長門、加賀さんと島風が出て来た。
「えっ…みんな!?どうして!?」
「もしかして全員覗き見…?」
「私は違います、覗き見なんてしてません」
「加賀さん…もうバレてるはっぽい…」
「……すみません、みらいさんが部屋に入る時に中にあたごさんがいるのを見て気になってしまい、少し覗いていました」
「夕立達は加賀さんが覗いてるのをみて覗き見してたっぽい」
そんなに気になるのなら一声かければいいのに…
「それにしても…いつから気付いていたんですか?」
「みらいが入ってくる時から」
加賀さんの質問に対し提督はドヤ顔で答えた。
「はっやーい!」
「だってみらいの背後から加賀さんのポニーテール見えたし…」
「…っ、不覚でした…」
「まぁそーゆー訳だ。さて、これからどうする?折角皆集まったんだし演習まで時間あるから何処か行くか?」
「今からいける場所あるのか?」
「ヘリがある」
「それって公私混同って言わないか?」
「細かい事は気にするな」
全然細かくねぇ…
ホントなんでこれで提督になれたんだよ…
「じゃあ山下公園なんてどうだ?」
「昔から行きたかったっぽい!」
「いい考えですね」
「行くなら早くいこーよー!」
長門の提案にみんなが賛成した。
「わかった、それじゃヘリを呼ぶぞ」
そう言って受話器を取り何処かに電話をかけ2分ぐらい喋ると…
「お願い!1機でいいから!そこをなんとか!お願い!あ、ちょっと!」ガチャッ
「「「……」」」
「……無理でした」
「「あったり前だろぉぉぉお!!」」
「しょーがない、車で行くか」
〜山下公園〜
「ほら、ついたぞ」
あの後、ゴルフトゥーランという6人以上乗れるのに割とスポーツカーに近い走りをする車に乗り込み、30分程かけてここについた。
「広いっぽい!」
「あ!氷川丸!久し振りっぽい!」
「昔とそんなに変わってませんね」
到着するなり夕立と加賀さんが港にいる船に話しかけていた。
あれは…氷川丸だっけ?
「あたご…艦娘って船や艦と会話出来たのか…?」
「さぁ…?俺には何も聞こえないから…たぶん人が物に話しかけるのと同じだと思うぞ?」
「ああ、なるほど」
そんな会話をしていると長門まで話しかけていた。
「氷川丸…懐かしいな、元気だったか?」
「なんか…本当に艦娘が船と会話しているみたいだな、あたご」
「だな」
「そんな所で話してないで駆けっこしよーよ!」
「ちょっと待t」ボキッ!
「提督!?」
2人で悩んでいると島風が提督の頭に飛び込み、提督の首から嫌な音が鳴り響いた。
「島風…一旦降りてやれ、提督が死ぬぞ」
「おぅっ!」
「ふぅ…危うく死ぬ所だった…」
何で返事がその島風特有の鳴き声なんだよ…
「早く駆けっこしよー!前してくれるって言ったじゃん!」
あ、そう言えば連装砲ちゃん借りる時にそんな事言ったな…
「わかった。じゃあ提督、合図頼んでいいか?」
「おう、まだ首が痛いけど任せろ」
「それじゃ氷川丸のある所から向こうの1番端の地面にタッチして、先にここまで戻って来て提督にタッチしたらゴールいいか?」
「えっ、ちょ、あたごさん?」
「良いよー!」
「良いよー!じゃなくて!それ下手すると俺が…」
「夕立も参加したいっぽい!」
「良いよー!」
「島風さっきから、良いよー!しか言ってないだろ!」
「そんな事よりも早く始めよー!」
「人の話を聞けー!はぁ…もう何でもいいや。俺にタッチする時は速度落としてくれよ…それじゃ位置について…」
提督の言葉で俺も島風もクラウチングスタートの格好になった。
「ようい」
腰をあげ…
「スタート!」
地面を蹴って前に踏み出す。
加速力では俺のほうが優れてるのか、少しだけ島風と距離が空いて来た。
になみに夕立との距離は6mぐらい空いている。
「はっやーい!でも、負けないよー!」
「追いつけるもんなら追いついてみろ!」
「ちょっ…速過ぎっぽぃい!?」
この距離ならゴールまである程度本気で走っても体力は持つな…よし、さっさと勝つか!
「この勝負貰ったぞ島風!」
「負けないって…言ったよね!本気だすよ!これ以上速くなっても知らないから!」
そう言うと一気に距離を詰めて来た。
艦でいうと2人とも最大戦速の状態。
「追い抜いちゃうよ!」
やば…並ばれた!
「まだ…ゼッ…は、速く…ハッ…速くなるっぽぃ…!」
島風に追い抜かれる直前で折り返し地点に辿り着いた。
方向転換しながら最低限の動きで地面に手を付け、走り出す。
「追い抜いたー!」
「くっそぉぉお!!」
「もう…キツイっぽい…」
ここから提督の場所までなら全力疾走してもギリギリ大丈夫かな…?
「俺が…勝つ!」
「負っ…けないよー!」
俺と島風は機関一杯の状態で提督に向かって全力疾走しだした。
「こいつら減速するどころか加速しやがったぁぁあ!!」
それを見るなり全力で逃げ出す提督。
ゴールに動かれると俺の体力が…!
「動くな提督兼ゴールゥゥウ!」
「じゃあ頼むから減速してくれえぇぇぇえ!!」
「提督も意外とはっやーい!」
「うるっせぇぇぇええ!」
俺の50cm前に島風、20m後ろに夕立がいる状態で提督に向かって全力疾走していた。
「お前ら頼むから減速…やべっ、行き止まり!?」
よっしゃ!提督が止まった!これなら体力が持つ!
あれ…提督の何処にタッチすればいいんだ?
まぁいいや、取り敢えず飛び込めば勝てるかもしれない!
「私が…1番っ!」
「おらぉぁあっ!」
少しでも早く到達するために俺と島風は提督の鳩尾あたりに飛び込んだ。
「ゴフッゥ!?」
「勝った!」
「くっそぉお!島風に負けた……ってあれ?提督…大丈夫か!?」
「全然大丈夫じゃな「やっと追い付いたっぽい!」ゴフッ…」
「提督!?」
「ああ…川の向こうでひいばあさんが手を振って…」
夕立が飛び込んだ衝撃で完全に白眼をむいていた。
「ちょ、提督!!三途の川から帰って来い!」
「…………」
「気絶したっぽい?」
「……まぁ、たぶん、何とかなるだろ」
「あれー?みんなはー?」
島風が言ったので周りを見るとみらい以外誰も居なかった。
「みらい?加賀さんと長門は?」
「あたごさん達が勝手に競争始めたので先に氷川丸の中に入ってます」
「わかった」
「あたごちゃんどうするっぽい?流石に気絶した提督を置いて行く訳には行かないっぽいし…」
「かと言って運んで行っても騒ぎになりそうだしな……て事は結論は…」
「「待つ!「おぅっ!」」」
ー10分後ー
「提督!?一体どうした!?」
「!?一体誰が…!」
戻ってくるなり白眼をむいていた提督を見て長門と加賀さんが大声で驚いていた。
「まぁ、色々あって…」
「あたご!?色々って一体何が!」
「その…まぁ、ねぇ?」
「島風さんと夕立さんとあたごさんが提督に向かって全力疾走で飛び込みました」
「みらい!?「みらいちゃん!?」」
俺と夕立が同時にみらいに反応した。
「また2人ですか…」
やばい…加賀さんめっちゃ睨んでくる…怖ぇよ…怖過ぎて長門も若干引いてるよ……
「……誰が車運転するか分かってますか?」
「えと…提督です「提督っぽい」」
「今、提督はどういう状況ですか?」
「気絶しております…「気絶っぽい」」
「どうやって帰るつもりですか?提督が目を覚ます頃まで待っていたら間に合いませんよ」
「えと…俺が運転…とか」
「免許持ってるんですか?」
「持ってません」
「それじゃ無免許運転になりますね。それに夕立さんや島風さんも無免許ですよね?」
「みらいは…?」
「私バイクの免許しか持ってませんよ」
「じゃあ長門か加賀さん…?」
「全く…長門さんが持っていなかったらどうするつもりだったのか…これから提督を気絶させる時は後先考えてから気絶させてください」
「後先考えたら気絶させてもいいの!?」
「死なない程度なら問題ありません」
「えぇ…」
「返事は?」
「あ、ハイ」
なんか加賀さんも色々ぶっ飛んでるよな…
「それじゃ長門さんに運転任せていいですか?」
「よし、任せろ。私はゴールドだからな」
「分かりました、では車に乗りましょう」
運転席に長門、助手席に加賀さん、その後ろに俺とみらい、その後ろに気絶した提督と夕立と島風が乗り込んだ。
「よし、じゃあ出発するぞ」ヴォン!
《ETCカードを確認しました》
長門の運転で駐車場を出てしばらく道路を走行していると、ある異常に気づいた。
「なぁ長門、ここ60キロ制限なのになんで40キロで走ってるんだ?」
「あっ、すまん、忘れてた」
そう言って加速のためにアクセルを踏み込んだかと思えば、48km/hですぐに加速が止まった。
「………長門?」
「ちちち、違うぞ!断じて違うぞ!別に怖いとかじゃないからな!」
「……長門、もしかして…ペーパードライバー?」
「!」ギクッ
「ゴールドって…単純に運転してなかっただけ?」
「…ま、まぁ、偶然運転する機会が無かったからな」
その言葉を聞いた加賀さんが溜息をつきながらシートベルトを外して言った。
「…じゃあ私に変わってください、このままじゃ絶対間に合いません」
「……クッ…悔しいが仕方ない…」
そう言って一旦路肩に車を止め、運転を交代した。
加賀さんが運転席に座ると、車のラジオをCDに切り替え、TAXIという映画でカーチェイスをするシーンで聞いたことのある曲を流しだした。
「あの…加賀さん?この曲…」
「ミザルーです」ヴォン!ヴゥゥゥォン!
そういいながらアクセルの感触を確かめると
「行きます」ヴゥゥゥォォォオオオンッ!
その一言で走りだした。
ちょっ…速過ぎ!?
今……140km/h!?
「加賀さん!?ここ制限60なのに140って…」
「おぅっ!はやーい!」
「これでも無事故無違反です」
「おもっきり今違反してないか!?」
コーナーを曲がる時はドリフトをせず、少しでも短時間でコーナーを抜けるためにちゃんとグリップで曲がっていた。ちなみに横に3Gはかかってた。
そしてそのまま500m程進んだところでパトカーが追い掛けてきた。
《そこの車!止まりなさい!止まれ!》
「警察に見つかったっぽい!」
「追い付くことはまず無理です」
「なんでそういう思考になるの!?」
《そこの暴走車!60キロの道路を150キロで走るな!止まれ!》
加賀さんはスゥッと深呼吸をすると一言、某ロボットアニメのセリフと同じイントネーションで言った。
「…私がっ!艦娘だっ!」
「だからなんだぁぁあ!!」
間違ってないよ!間違ってないけど…そこガンダムじゃないの!?
「トランザムッ!」ヴオオオオンッ!
「加賀さんってこんなキャラだっけ!?」
「問題ありません!」
「問題しかねぇよ!」
そんな会話をしていると提督が目覚めた。
「…ん?ここは何処だ?」
「提督!良かった!早く加賀さんと運転を…」
「何を言っ…速ぁ!?一体どれだけの速度でッ!(ゴッ」
コーナーを曲がったGで提督がドアに頭を打ち付けて気絶した。
「……もうダメだ…」
「警察の追跡を振り切りました、大丈夫です」
「そーゆー問題!?」
「あとはこのまま鎮守府まで行きましょう」ヴォッ…ガコッ…ヴォオンッ!
〜横須賀鎮守府〜
「到着しました」
「はぁ…やっとついた…!」
「生き延びたっぽい…」
やっと横須賀鎮守府に到着して車を降りると、長門と加賀さんは満足気な表情でみらいと話していた。
ちなみに島風は終始はしゃいでいた。
そして出迎えに来てくれたイーグルアイ提督が車の中で口を開けて放心状態の提督を見るなり叫んだ。
「お帰り…って秋津大丈夫か!?」
「何とか…生きてる…」
「一体何があったんだ…?タイヤもパンク直前まで摩耗してるし…」
「まぁ、色々と…な…」
「色々って…何。戦車戦でもして来たの」
提督も俺も夕立も、砲雷撃戦や戦車戦の方が良かったなんて口が裂けても言えなかった。
我が鎮守府にクワイエットを招いて雨の中遊びたい(・ω・)ノ