ガンダムGジェネレーションオンライン   作:朝比奈たいら

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第五章『コンバット・スーツ』(1)

 

「我々は、機械によって生み出された存在である。

 これは人でない事を表すのか。否、我々は確かにこの世界で生きているのだ。

 ジェネオンの正式サービスが開始されたのは先日の事である。

 それに伴い、多数の新機能が実装されたのは諸君の知る通りだ。

 我らNPCも、人工知能の搭載により現実の人間と変わらない心を手に入れた。

 諸君らプレイヤーからして見れば、それはただのプログラムなのかも知れない。

 しかし、我々は確かにこの世界に存在しているのだ。

 NPCに与えられた役割は、あくまでゲームを盛り上げるものに過ぎない。

 だが、私は宣言する! このバーチャル世界に生きる者として、

 NPCは自我を持ち、自分の主義の為に戦う者であると!

 我ら仮想空間の住人は、自我を持つ事で初めて人間となる事が出来る。

 その事実を、ジオン公国の勝利という形で表現するのだ。

 無能なる他の陣営にそれを思い知らせ、ジェネオンの未来の為に

 我がジオン公国国民は立たねばならんのである!

 ジーク・ジオン!」

 

サイド3、ズムシティの会場の客席で、ノイルは感動に背筋を震わせていた。

隣に居る松下も、鳥肌を立てて溜息を漏らしている。

演説の締めには、会場全ての人間がジーク・ジオンの声を張り上げた。

そこにはプレイヤーもNPCも関係無い。

自分がジオン公国に属する者である事を誇りに思うのみである。

 

第三次降下作戦が終了してから二週間ほどが経った日、

ガンダムGジェネレーションオンラインは正式サービスを開始した。

その際、新機能のアップデートとゲームシステムの調整が行なわれたのだ。

中でも大きな変化は、NPCが人工知能により自我を持つようになった事である。

これにより、プレイヤーは原作のキャラクターと実際に会う事が出来た。

 

今演説を行なったのは、ジオン公国総帥ギレン・ザビである。

彼は自我を持つと、すぐに自分に与えられた役割を把握した。

しかし彼はただの道具である事を良しとせず、

自らの存在意義を確立する為にジオン公国を勝利させる事を目的とする。

数日間戦力の調達と根回しを行い、それから明確な意思を演説として表現する事で

ジオン公国の方針は固まりつつあった。

 

演説が終わり、ノイル達は会場を出る。

興奮冷めやらぬノイルら観客は、会場の外で余韻に浸りつつたむろしていた。

まるで現実のコンサートに行ったような感覚だと、松下は思う。

周囲の同胞を見渡しながら、ノイルが体力を使い果たしたように呟く。

 

「いやぁ……すげえよな。ガンダムの世界が、実際に出来ちまうなんてよ」

 

「ああ。ロボットが心を持って人間を支配する物語はよくあるが、

 ゲームのNPCに心が宿る日が来るとは思わなかったなぁ。

 バーチャルシステムが発明された時から最近の科学は随分進んでると思ってたけど、

 まさかこれほどとは思わなかった」

 

「噂では、他のVRMMOでもNPCに人工知能を使う話が出てるってよ。

 確か今度発売される……フレンズの何とかって言ったか。

 何にしろ、俺が得するから大歓迎だ」

 

「そらそうだ。……と、俺はちょっと用事に行ってくる。

 今日はお前、どこでやってるか?」

 

「新しい陣営のとこ行くぜ。

 連邦以外のモビルスーツがどんな感覚なのか、まだ解ってないからな」

 

正式サービス開始に当たり、ファーストと一年戦争関連以外の世界も実装されていた。

登場したのはガンダムSEED、ガンダム00、ガンダムAGEの陣営である。

各国家の領土は、結局既存の領土が割り当てられる事となった。

SEEDの地球連合はベルファストを、

OOの三大国家陣営は全てまとめられ、ペキンを本拠地とされている。

オーブ国は原作通りソロモン諸島だ。

これらの領土は元々連邦軍の支配化にあったが、

どうやら運営は、比較的争いの少ない拠点を新陣営に割り当てるつもりだったらしい。

連邦にしてみれば強制的に領土を取られて迷惑極まりない話であるが、

降下作戦であれだけ争ったオデッサ、北米、キリマンジャロを

いきなり新陣営のものにするよりはマシだった。

 

ちなみに、ソレスタルビーイングは宇宙空間に小惑星を改装した秘密基地を本拠地とし、

ザフトはサイド1近辺にプラントを。

ヴェイガンはここ、サイド3から少し離れた場所に宇宙要塞アンバットを所持している。

AGEの地球連邦はファーストの連邦と一緒くたにされたようだ。

それにより、連邦軍にはAGEのMS、

《RGE‐B790ジェノアス》を扱うプレイヤーも増えている。

 

正式サービスが開始されてすぐ、ノイルは新陣営の機体を狩りに行った。

実装されてすぐであるから、機体もプレイヤーもまだレベルが低いと思ったのだ。

それはいわゆる初心者狩りであるが、ともあれノイルを初めとしたトイレッツ隊員は

既に何機かの新機体を撃破していた。

だが、今回実装された世界の機体は宇宙世紀のそれとは勝手が違う。

詳細な情報もまだ出回っていないから、実際に戦って感覚を掴む必要があった。

 

ノイルは松下と別れ、部隊格納庫へと向かう。

グフ重装型は第三次降下作戦の時に一回撃破されてしまったので、新しく買い直した。

またLV1からやり直しであるが、

ノイルは少なくとも一年戦争終結までこの機体を使い続けるつもりであった。

いったいこの機体のどこが琴線に触れたのか、それはノイル以外知る由は無い。

 

ノイルが戦場へ向かう頃、松下はまだサイド3に居た。

とある建物の一室で紅茶を飲みつつ、目的の人物を待つ。

しばらく待たされた後、部屋にやって来たジオンの将校は神妙な顔で松下を見やる。

将校が腰掛けると、松下は遠慮をするわけでもなく本題に入る。

 

「初めまして、トワニング准将。

 あなたの未来を救う事になる、松下太白星と申します」

 

将校、トワニングは口を真一文字に結んだ。

この人物はアニメに登場したキャラクターで、NPCである。

作中ではほとんど目立つ事は無かったが、松下はこの脇役を記憶していた。

ほとんどのプレイヤーが主役級のNPCに殺到する中、

松下はわざわざこの人物に接触する為奔走していた。

その理由は彼が准将という階級を持っている事。

そして最も大きな理由が、彼の所属である。

 

「たかが私と会う為だけに、ここ数日随分動き回ったそうではないか。

 一兵卒から士官まで、必死にコネクションを作り上げたと聞いている」

 

「そらそうですよ。そして、あなたがラストスパートです。

 ……さっきあなたの未来を救うと言いましたが、

 それはジオンの未来にも繋がると断言出来ます」

 

「ジオンを勝たせるつもりか」

 

自我を与えられたNPCは、自分達の未来を知っていた。

原作では、ジオンは戦争に敗北している。

このトワニングも最終決戦の後降伏し、捕虜となるはずだ。

 

「このゲームのイベント戦に勝ち続ける。

 そうすれば、ジオン公国の滅亡を避けられる。

 あなたも捕虜にならずに済むという訳です」

 

「私はNPCだ。未来を知るNPCだ。

 だからこそ、ギレン総帥の掲げるジオンの勝利がどれほど難しいか知っている。

 未来で私達は、学生すら動員せざるを得なかったのだぞ」

 

「確かに、コロニー落としが既に失敗している以上、

 ジオンがこのまま勝つのは難しいでしょう。

 でもこれはゲームです。

 ゲームはバランスが大事でありますから、ジオンが連邦その他に対抗する事も可能です。

 実際、プレイヤーの数で言えば均衡しているのでしょう」

 

「確かに我がジオンの国力は連邦の30分の1以下だった。

 だが、NPCの戦力は全陣営バランスよく配置されている。

 既にギレン総帥は、プレイヤーに頼らないNPCのみの部隊で各地の攻略を進めている」

 

「それでもです。ジオンという組織には致命的な問題がある。

 オデッサや北米を制圧し、資源や人材に満たされていたとしても、

 これが解決しない限りジオンの未来は無いでしょう。

 勝てない、ではありません。未来が無いのです」

 

「派閥抗争、な」

 

古今どの時代でも、軍人や政治家同士の対立は見る事が出来る。

一年戦争もその類に漏れず、ジオン公国ではザビ家各人による派閥が作られていた。

ザビ家にはギレンとガルマの他、

長女であるキシリア少将と三男であるドズル中将が存在する。

ガルマを除くザビ家兄弟は、お世辞にも仲が良いとは言えない。

原作では戦局の悪化にともないさらに不和が深まり、

最終的にはザビ家同士で殺し殺されをするほどであった。

 

松下は、ザビ家内部の問題が解決しなければ必ずどこかで綻びを生むと考えていた。

それにはまず上層部とのコネクションを作り、

自分自身がザビ家に影響を及ばせられる立場にならねばならない。

だから正式サービス開始からすぐにNPCとの接触を始め、

今やっとトワニング准将の下へと辿り着いたのである。

 

「出来るとは言いませんが、自分はギレン総帥に直接会って説得するつもりです。

 その為には、総帥の幕僚であるあなたとの関係が必要だった。

 ギレンの野望とかのゲームではキシリア派的発言の目立つあなたですが、

 よくよく考えたらキシリアがギレンを殺したからそっちについただけであって

 トワニング准将自身は元々ギレンの傍に居たわけですからね」

 

「ギレン総帥は天才だ。私達凡人の言葉など聞かぬよ」

 

「そりゃあそうです。だから、秀才の自分が行くんじゃないですか」

 

松下は涼しい顔でそう言って見せる。

彼は自分をオールドタイプとしているし、大人の事情という奴も大嫌いであった。

ギレンと違い、『知能』も一般の域を出ない。

しかし、物事を冷静に考え続けられる『知性』という面に関しては自信を持っていた。

ニュータイプにはなれないが、オールドタイプの中では優秀であると自負している。

あくまで人格の話であって、パイロットとしての能力は平均前後だったが。

 

「どの道誰かがやらなきゃならんのです。

 自分の他にも、似たような事をする奴はいるでしょう。

 ……そう深く考える事はありません。

 自分とあなたが動くだけで、国一つが救えるかも知れんのです」

 

「それと私の立場もな。……了解した。

 出来る範囲で私は国と、なによりも自分の為に働いて見せよう」

 

「期待しています。あなたは『ツヴァイト・ジャモカ』のスポンサーなのですから」

 

松下は腰を浮かせ、手を差し出す。

トワニング准将は軽く溜息を吐くと、それを握り返した。

松下はその手の温もりに、確かな命を感じたのだった。

 

 

 

宇宙要塞アンバットは、ジオン公国本土であるサイド3からさほど離れていない。

それにより、ヴェイガンとジオンは必然的に戦闘状態が続いている。

ジオンプレイヤーは防衛ラインである月のグラナダ基地と、

宇宙要塞ア・バオア・クーを拠点にアンバットへの攻撃を行なう。

ジェネオンではイベント戦でない限り本拠地を占領する事は出来ない。

しかしヴェイガンからして見ればいきなり頭を押さえられてしまうので、

戦線を押し込まれ身動きが取れない状況は辛いものがある。

このままでは地球への侵攻は夢のまた夢であろう。

 

とはいえ、ヴェイガンにも有利な点はあった。

ジェネオンは他勢力の機体も購入する事が出来るが、

自軍の機体はより安く購入出来るという利点があった。

そして、ヴェイガンのMSはザクやジムと比べて強力である。

 

この時点での主力であるドラゴン型のMS《ovv‐fガフラン》は

連射が可能なビームバルカンと高出力のビームライフルを持ち、

単独で飛行する事も可能である。

ジオンでは対ガフラン用の戦術開発が急務とされ、

ノイルも例に漏れず直接戦闘によるデータ収集を行なっている。

サイド3から部隊ルームに帰ったノイルは、

出回っている情報を見てからアンバット方面へ向かう予定であった。

 

ノイルがシャワートイレッツの部隊ルームに行くと、

セイレムが椅子に座ってメニューウィンドウを開き、ゲーム内掲示板を眺めていた。

ルミやスミレはまだログインしていないらしい。

よう、と軽く挨拶をする。

セイレムがゆったりこちらを向き頷くのを見て、どことなく彼女が人形のように見えた。

ノイルは彼女の隣に腰掛け、何か会話をしようとして言葉に詰まった。

トイレッツ入隊からしばらく経つが、無口なセイレムとは未だに打ち解けられた感覚が無い。

 

どうしたものかと考え、すぐに解決策が見つかった。

人と楽しい会話をするには、お互いの好きなものの話をすればいいのだ。

ここはガンダムのゲーム内である。

ならば、話す事はガンダムの話以外に無い。

 

「掲示板、何か面白い話はあったか? ドムの改造機とか」

 

ドム、という単語を聞いた途端、セイレムはピクリと反応する。

彼女がドム好きなのは今までの行動でよく知っている。

その名前を出すだけで無口な彼女と会話が弾むのだから、

ノイルとしては大いに助かっていた。

 

「ドム向け……の、試作ビームライフルが売ってた」

 

「ドムにビームか。ジオニックフロントであったなぁ。

 ありゃあ化け物みたいな強さだったけど」

 

「ドムのホバー……に、ビームが合わさり最強に見える」

 

確かに機動力他、高い性能を持つドムが高出力のビームライフルを持てば

連邦のノーマルジム程度なら圧倒出来るであろう。

小説版の設定であるが、ドムはビームバズーカの使用が可能なのだ。

アバンタイトルでもリックドムがビームバズーカを放つ描写がある。

ドムにビーム兵器を搭載するのは可能であろう。

セイレム自体、シャワートイレッツの中では一番パイロット能力が高いと思えるから、

彼女がビームライフル装備のドムを手に入れられればイドラ隊にも勝てるはずだ。

 

「早く……ドム、欲しい」

 

「本当にドム好きなのな。でも、一年戦争が終わったらどうするんだ?

 グリプス戦役もドムで戦い抜くつもりか?」

 

「ドワッジ……は、ZZまで現役。

 後はドライセンもあるし、RFドムも」

 

「ドライセンからRFドムまで30年以上間があるぞ!?」

 

宇宙世紀88年のドライセンで123年のデナン・ゾンとやり合うセイレムを想像し、

ノイルは呆れるどころかむしろ感心してしまった。

自分とてグフ重装型という相棒が居るものの、

それで数十年先の機体と戦えと言われれば躊躇するだろう。

ひたすらレベルを上げ続ければ可能ではあるかも知れんが。

 

「さすがに敵わねぇなぁ……さて、

 俺はアンバットでガフラン狩りでもしてくるよ。

 情報がまだ少ないし、高性能機は経験値が美味しいからな」

 

ノイルが席を立ち、格納庫へ向かおうとする。

すると、左腕に引っ張られる感覚を感じる。

何事かと振り返ると、セイレムがまったくの無表情で袖を掴んでいた。

表情は無いのだが、どことなくやる気満々な雰囲気が見えるのは気のせいでないだろう。

 

「早く……ドム、欲しい」

 

 

 

ノイルとセイレムは、宇宙要塞アンバット方面へ向けて移動する。

移動に使うのは、レンタルした《ヨーツンヘイム級試験支援艦》だ。

これは元々民間貨客船であるが、軍に徴用され武装とMS用の設備が増設されている。

戦闘能力は低いが、今回は砲雷撃戦をするわけではないから問題ない。

いい加減戦艦の一つでも買いたいものだが、第三次降下作戦でトイレッツ隊は全滅した為

それほど財布に余裕は無かった。

 

ほどなくして、二人は戦線に到着する。

このゲームでは移動にそれほど時間はかからないのだ。

ヴェイガンはアンバットの手前に防衛ラインを作っていた。

正確に言えば、ジオンプレイヤーの攻撃により形成されたと言っていいだろう。

陣営の本拠地は制圧出来ないのだから、アンバット要塞に直接攻撃をかけるのは無意味だ。

だからジオン側は要塞から近すぎず遠すぎずの所でヴェイガンのMSをもぐら叩きにしていた。

 

二人は艦隊が密集している地点にヨーツンヘイムを留め、機体を出撃させた。

ノイルは高機動型ザクで、セイレムが宇宙用高機動試験型ザクである。

第三次降下作戦で地上用の機体はイドラ隊に撃破されてしまったが、

宇宙用の機体は無事であった。

二人の機体は着々とレベルを上げ、もう少しで新たな機体に開発出来る。

特にセイレムは、ガフランを後数機撃墜出来ればリックドムを手に入れられる。

だからこそ、微妙に気分が昂ぶっているように見えるのだろう。

 

(でも、わざわざ俺に付いて来るのは……そういう意味じゃねえよな)

 

セイレムの実力ならば、例えガフランタイプでも後れを取る事は無い。

やろうと思えば一人で経験値稼ぎの狩りに出かけられるだろう。

ノイルは、彼女が自分に付いて来た理由が効率の為だと思うようにした。

見知った奴と一緒ならば連携も出来るからだと。

そうでないと、この人形みたいな少女が自分に好意を抱いているのだと勘違いしそうになる。

ノイルとて、まだ女心が理解出来ていない若者なのだ。

 

そんな考えを端っから覆すように、セイレムは全速力で戦線に猛進した。

よほどドムが欲しいのだろう。

別に彼女がどうというわけでもないが、ノイルは少し残念な気持ちになる。

このちょっとした鬱憤は、ヴェイガンにぶつけようと思った。

セイレムに続き、高機動型ザクを走らせる。

 

戦場は、対連邦とは少し違った趣きを見せていた。

ジオンのプレイヤーが何時にも増してチームワークを重視している。

ソロプレイヤーも味方と行動を共にするくらいの事はしていた。

これはヴェイガンの戦力が強大である事を意味している。

 

ヴェイガンのガフランがジオンのザクに突進をかける。

ザクはマシンガンを連射するが、その程度で撃破はされなかった。

ガフランの装甲能力のおかげでもあるが、

最も大きな理由は正式サービスに当たってのゲームバランス調整のせいだ。

 

先日の調整で、機体の耐久力が大幅に増加していた。

具体的に言うなら、ザクがガンダムのビームライフルの直撃を受けても

一発なら大破しないくらいである。

このような調整が入った理由は、一瞬で勝負が決まってしまう為

初心者がすぐに撃墜されてしまうからだった。

性能の低いジムトレーナーやザクⅠで出撃したはいいが、

上級者の攻撃を一発喰らってすぐに撃破されてしまう。

そういった敷居の高さがあった為、大幅な調整が行なわれたのだ。

今までは一発受ければ死亡のリアリティがあったが、

このアップデートである意味従来のGジェネに近づいたと言える。

 

耐久力増加の背景には、ある人物達も関係していた。

プレイヤー達が「だいたいこいつのせい」と口を揃えて言うのは、

何を隠そうノイルの事である。

彼は第一次降下作戦の際、敵の後方に抜けてHLVを多数撃墜した。

あまりにも派手にやりすぎた為、

「HLVや戦艦の耐久力を上げてほしい」との要望が始まりだった。

その後、一撃死が可能なビームライフルが出回り、

それを装備したガンダムやゲルググなどの高性能機が現れ始めると

さらに多くのプレイヤーがゲームバランスの調整を求めるようになった。

 

結果、全体的に機体の耐久力が大きく増えたのだ。

これにより、上手くすればザクでガンダムを落とせる可能性も増える。

もちろん、パイロット能力が物を言うのは変わらない。

そういった意味では、相変わらず敷居が低いとは言えなかった。

残念ながら、対戦ゲームとはそういうものだ。

 

ガフランはダメージを受けながらもザクに向けて突き進む。

両手を突き出すと、そこからビームバルカンを放った。

ザクは直撃を受け、焦りに機体をよろめかせる。

今ならまだ挽回が可能であったが、今までの一撃死に慣れたパイロットは

自分が今の攻撃で撃破されてしまったと勘違いし、動きを止めてしまった。

接近したガフランの腕からビームサーベルが伸び、ザクの胴体を切り裂く。

止めに尻尾であるビームライフルを肩に展開し、至近距離からコックピットを撃ち抜いた。

連撃を受けたザクは一瞬にして爆散する。

 

しかし、そのガフランにもう三機のザクが襲い掛かる。

このザクは全員野良(部隊に所属していない者)プレイヤーであるものの、

味方と共に行動するのが得策と判断していた。

通信も繋いでいないので連携はしていないが、一機に対し三機という数で当たる事は出来る。

ガフランは奮闘したが、三機からの集中砲火を喰らって爆発した。

 

ヴェイガンは新勢力な為、プレイヤーの数は連邦やジオンと比べて少ない。

そのほとんどが初心者であったり、他の勢力に属する者の別アカウントであったりする。

機体性能に恵まれてはいるものの、経験やプレイヤー数では連邦とジオンに劣っていた。

新勢力同士で戦わせられれば良かったのだが、

サイド3の近くに本拠地を配置したのは運営のミスであろう。

(両方とも位置的にはラグランジュ2に存在するので、原作通りではあるが)

とはいえ、油断出来ないのは事実だ。

 

「セイレム、二人で集中攻撃をかける。

 山分けでかまわないだろう」

 

モニターの中で、セイレムが頷く。

横殴り対策の為、共同で撃墜した場合はダメージの量に応じて経験値が入るようにもなった。

当然、その要望を送った中の一人には、以前戦闘機にドムを取られたインパラが居る。

 

二人は速度を合わせて連携機動に入る。

高機動型ザクと宇宙用高機動試験型ザクの速度はほぼ同等だ。

今までの機体では足並みを揃えられなかったが、

今回ノイルはセイレムとのチームワークを重視するつもりだった。

 

一機のガフランが前進して来る。

その機体は何やら不審な挙動をしており、周囲をキョロキョロと見回している。

ノイルがザクマシンガンを撃ち込むと、ガフランは混乱したように動きを止めた。

 

「正気かい!?」

 

即座に接近し、ヒートホークで斬りかかる。

振り下ろしから薙ぎ払いに繋げ、スラスターを噴かせて側面に回りつつ

セイレムと共にマシンガンを叩き込む。

ガフランは原作でビームスプレーガンを無力化するほどの装甲能力を見せたが、

ジェネオンでは普通にダメージが通るらしい。

連続攻撃を受けたガフランは爆発四散する。

 

「敵地に入って止まる奴がいるか!」

 

「敵地……に、入ってるのはこっち」

 

「言ってみたかっただけだぜ。次、11時方向の奴!」

 

二機目のガフランへ向け、マシンガンを放つ。

今度の敵は回避機動を取るものの、反撃のビームバルカンは明後日の方向へ飛んでいった。

マシンガンのみでガフランを撃墜するなら少々多めの弾数が必要だったが、

二機からの直撃に晒され続けたガフランはそれほど間もなく撃破される。

 

思うに、やはり新勢力には初心者が多いのではないか。

ガフランの性能は高くとも、パイロットの腕はそれほどでもない。

オープンベータからプレイしているノイルやセイレムは危なげなく戦果を上げていく。

そんなガフランに、ノイルは少年兵を動員したゲルググの姿を重ねた。

ゲルググも性能は高かったのだが、最終決戦では大部分のパイロットが学徒動員だった為

ほとんど性能を発揮出来なかったのだ。

 

ガフランタイプ数機を撃破し、経験値を手に入れる。

レベルは低くとも、元々の機体性能が高いおかげでかなり稼ぐ事が出来た。

だが、まだ足りない。

ノイルが求めている機体に届かせるには、もう少しのレベルが必要だった。

マシンガンの残弾が少なくなったのを確認し、周辺の空間を見回す。

被弾はしていなかった為、弾薬だけ現地調達するつもりだ。

戦況はジオン有利であったが、もちろんこちらとて無傷では済まず

撃破されたザクの残骸が所々に散らばっていた。

 

セイレムが周囲を警戒し、ノイルが武器を探す。

撃破されたF2型のザクを見つけ、マシンガンを拝借した。

これは通常のザクマシンガンではなく、

対MS用に強化された《MMP‐78》型の銃であった。

幸いな事に、ザクの残骸には予備弾倉も設置されている。

 

レディーファーストとしてセイレムに銃を放ってやる。

それを受け取ったセイレムは、何かに気付いたように機体の頭を横向けた。

戦線より少し奥の敵陣でピンク色のビームがいくつか走り、爆発の光が増える。

最初、それは味方が進出しすぎているのかと思った。

しかしそれにしてはおかしな点がある。

ジオン製のビームはピンク色ではなく、黄色なのだ。

ついでに言えば、ヴェイガンのビームも黄色である。

 

「ピンク色……の、ビームが見える。多分連邦製」

 

「はぁ? 連邦がここまでやって来たって、ここはアンバットだぞ!?」

 

サイド3の近くであるアンバットまで連邦が進出しているという話は聞いていない。

ここまで来るには、宇宙要塞ソロモンやア・バオア・クー、

月のグラナダ基地が形成する防衛ラインを突破して来る必要があるのだから。

仮に連邦でなくとも、現在の制宙権はジオンにある。

どの勢力が突破して来たとしても問題なのだ。

 

ピンク色のビーム光は徐々にこちらへ近づいて来ていた。

一機のヴェイガン機、《ovv‐aバクト》が後方のそれに気付き、

ジオン側に背を向けて迎撃に向かった。

バクトは対ビーム装備である電磁装甲を持っており、ビーム兵器に対する防御力は高い。

バクトもそれを理解していたのだろう。

実弾装備のザクに構わず、ビーム光に向けて機体を飛ばす。

 

ピンク色のビームを放っている機体は、バクトに気付くと高速で機体を突進させた。

放たれたビームを受け止めつつ、バクトはビームバルカンを連射する。

しかし相手はそれを当たり前のように回避し、バクトへ向けて接近。

後退しながら引き撃ちをするバクトの懐へ飛び込み、

二本のビームサーベルを背中から抜いて乱舞した。

電磁装甲と言えど、無限に耐えられるわけではない。

腕がちぎれ、頭を叩き割られるとバクトは激しいスパークを起こす。

相手の機体はそれを蹴り飛ばす事で爆発から逃れた。

 

「冗談じゃねえぞ……」

 

あれは連邦の機体である。

そう知ってなお、ノイルはあの機体が

連邦製のMSを使ってるジオンプレイヤーの物だと思い込みたくなった。

それほどに、そのMSが自分の前に居る事から逃避したい気持ちである。

ピンク色のビームの主は、明らかにガンダムタイプであろう顔をしていた。

 

よく見るとすれば、通常のガンダムと細部のデザインが違うのが分かるであろう。

機体色もトリコロールカラーではなく、赤を基調としたものである。

ノイルがデータを確認すると、それがRX78系列ではなく、

ゲームに課金する事で製作が可能になるオリジナル機体である事が判明した。

 

「ガンダム。ガンダムアライブ」

 

エールステップ隊とやらに所属しているらしいその機体は、

呆然としているノイルに向けてスラスターを噴かす。

目を付けられたのは運が悪いとしか言い様がない。

ノイルは背中の毛が逆立つ感覚を覚え、慌てて自機に回避機動を取らせた。

直後、ビームが左腕をかすめる。

 

「セイレム! あいつは無理だ!」

 

こう見えてもノイルは冷静に状況を分析出来るタイプである。

例えゲームの仕様変更があったとしても、

あの機体に勝つには戦力が足りないと理性も直感も判断していた。

だからセイレムにそう言ってみせたのだ。

 

彼女は接近してくるガンダムアライブに対し弾幕を張る。

相手はシールドを持っていなかったが、

数発の被弾をものともせずにこちらへ突っ込んで来た。

そこで何を思ったのか、セイレムはヒートホークを抜いて正面から立ち向かう。

ガンダムもそれは予想外だったのか、急激に上方へ機動をかけて斬撃を回避した。

 

「やられられないでしょおぉぉッ!」

 

瞬間、ノイルは驚いてビクリと身体を飛び上がらせた。

通信から聞こえたその声がセイレムの雄叫びだと気付くのに、

いつもの三倍の速さで頭を回転させねばならなかった。

それほどに、彼女が叫ぶという状況は通常考えられないものだ。

 

セイレムは必死の形相で、ガンダムアライブに吶喊する。

ヒートホークが右脚を削るが大したダメージではない。

反撃のビームサーベルをヒートホークで受け止めるが、それが失敗だった。

ガンダムには二本のビームサーベルがあり、

右手のサーベルを受け止めたとしてもシールドを持っていない左手が空いている。

ガンダムアライブは左のサーベルで、

鍔迫り合いをしているセイレムのザクの右腕を跳ね飛ばした。

 

「セイレム!」

 

ノイルが援護射撃を加える。

右腕を失ったセイレムは、ノイルの後ろへ隠れた。

しかし、隠れた、と思ったのはノイルだけだったらしい。

セイレムはノイルの高機動型ザクをガンダムアライブへ向けて蹴っ飛ばすと、

スラスターを全開にして撤退して行った。

 

「な、なんだぁ!?」

 

「ごめん、ノイル、私の為に死んで!」

 

自分は囮にされたらしい。

先程と違い、そう判断するのには時間はかからなかった。

今になってやっと、セイレムの思惑に気付く。

彼女は何としても生き残りたかったのだ。

 

――ああ、リックドムまでの経験値が溜まったんですね――

 

そう考えれば、彼女があれだけ必死になった理由として納得出来る。

出撃前の淡い感情も合わさり、自分が酷く不幸な存在になったように感じた。

一つ文句を言うならば、新機体を欲しがっているのは自分も同じだと言うことだ。

そういえば、今のセイレムはいつもの特徴的な喋り方をしなかったなぁとか、

これで死んだら女を守った扱いになるのかなぁとか考えつつ、

ノイルは引きつった顔でザクにヒートホークを抜かせた。

ガンダムアライブは困惑し、機体の首を傾げている。

 

「ウラァ! やってきんしゃいコノヤローめ!」

 

やけっぱちになりながら、ノイルはガンダムアライブに斬りかかる。

あっさりかわされた次の瞬間には、

ビームサーベルの二刀流を受けてノイルのザクは頭と右脚を失っていた。

補助カメラに切り替えつつ、オープンチャンネルで声を上げる。

 

「あー、くそ、お前インパラじゃねえだろうなぁ!?」

 

言ってみたものの、その可能性がほとんど無いのには気付いていた。

インパラのガンダムは銀色であるし、彼はエールステップ隊の所属ではない。

思わず言ってしまったのは、単なる気まぐれである。

 

しかし、ただの気まぐれが奇跡を生む事だってあるのだ。

ガンダムアライブは動きを止め、しばらくその場に浮かんでいた。

回線がラグったのかと思っていると、相手がこちらへ通信を繋いでくる。

ミノフスキー粒子は撒かれているが、映像による通信であった。

 

「あんた、インパラの知り合い?」

 

現れたのは、十代後半とも二十代後半とも取れる女性であった。

突然の事に動揺しながらも、ノイルは返答する。

 

「白銀のインパラなら、うちの隊の松下って奴がライバル同士ですよ?」

 

さすがに、女性に向かって「シャワートイレッツ」などという言葉を使うのは躊躇われた。

実際、この部隊に入隊した唯一の後悔はその部隊名のみだ。

ガンダムアライブのパイロットはすぐに理解したようで、感心したような声を上げる

 

「へぇ、あんたがシャワートイレッツなのね。

 偶然会ったとしちゃあ、世間は狭いわほんと」

 

「こっちとしてはこんな所に連邦が居るのがおかしいんですが」

 

「私にかかれば制宙権がなんぼのもんよ。

 ヴェイガンなんて、全然地球までやって来ないんだもの」

 

そらそうだ、とノイルは呆れ顔になる。

ヴェイガンは地上に拠点を持っていないし、

宇宙空間のほとんどを制圧下に置くジオンとの戦いに忙しいだろう。

地球で待ってたってヴェイガンはそうそうやって来るはずがない。

だからこそ彼女はここまで侵入して来たのだろうが。

 

「あー、じゃあ今言っとくわ。

 インパラが松下って奴とやり合いたいらしいわよ。

 フォイエンもイドラ隊の新型をぽこじゃか作ってるし」

 

「はぁ、伝えておきます。

 ところで俺、どうなるんですかね?」

 

「いいんじゃない、別に。

 もっとレベル上げてくれたほうが面白いし、経験値にもなるし。

 じゃあ、わたしゃーもそうするわー。

 あ、言い忘れてたけど、エールステップ隊のオグレスね、私」

 

オグレスはノイルをその場に残し、去っていった。

その際にジオン、ヴェイガン両軍の攻撃を受けるが、どちらも返り討ちにしている。

どうやら命拾いしたようであるが、さて予想外の強敵が現れたなと思う。

フォイエンという人物は知らないが、イドラ隊の機体を作っているらしいから

そいつも関係者の一人なのだろう。

早いところ計画を完遂させねばと同時に、

自分という男を捨てたセイレムにどう文句を言おうか悩む事にした。

 

 

 

オデッサ鉱山基地は現在ジオンの領土となっている。

第一次降下作戦で占領したこの土地には膨大な鉱物資源が眠っていた。

オデッサ基地司令のマ・クベ大佐は

この地域から産出した資源だけでジオンは後十年戦えると言っている。

ジェネオンが十年もサービスが続くかどうかは分からないが。

 

そんなオデッサ周辺は以前にも増してだいぶ激戦区になりつつある。

ベルファストが連合の物となり、

ペキンを初めとした東アジアが三大国家陣営に制圧されると

必然的にオデッサは各勢力に包囲される形となった。

第三次降下作戦でキリマンジャロを攻略出来なかったのも痛手だ。

 

東ヨーロッパのとある都市では、

地球連合がオデッサ方面に対して戦線を構築していた。

ベルファストの西側は大西洋であり、敵が来るとしたら北米からのジオン水泳部となろう。

しかし、それにしては距離が遠すぎるはずだ。

ジオンの潜水艦部隊がベルファストへやって来る可能性は低いと考えられていた。

そんな事をするなら、真っ先にハワイや極東に向かうだろう。

それにより、連合は対オデッサ戦に戦力を割く事が出来た。

 

とある連合のプレイヤーは、ポーランドの都市部でジオン軍と交戦していた。

搭乗機は《GAT‐01ストライクダガー》。

ガンダムSEEDの主役機、ストライクガンダムの量産型であり

連邦で言えばガンダムに対するジムの関係に当たる。

性能は決して高くないが、ビーム兵器を装備していた。

 

ストライクダガーのパイロットは、

接近してくるマゼラアタック戦車に向けてビームライフルを放つ。

大破したマゼラアタックは車体を捨て、砲塔を宙に浮かせた。

この戦車は砲塔部分がVTOL機能を持っており、

戦車の砲塔が飛行するという奇抜な機体である。

 

さすがに、砲塔部分だけではまともな防御力も無かったのだろう。

現実のCIWSとほぼ同じ役割を果たすバルカン砲《イーゲルシュテルン》の直撃を受け、

マゼラアタックの砲塔、マゼラトップはちぎれ飛んだ。

 

――何故、戦車なんぞを使っている……?

 

ストライクダガーのパイロットは疑問を浮かべつつ、索敵を続ける。

撃破されたマゼラアタックのパイロットは、

レベルを上げる事で大型モビルタンク

《YMT‐05ヒルドルブ》を開発するつもりだったのだが、

ガンダムはSEED以外の作品をあまり知らないこの連合プレイヤーがそれを知る事は無い。

 

ストライクダガーは街中を駆け走る。

この街の名前は何だったかなと考えていると、前方から実弾の銃声と爆発が起こった。

ストライクダガーのメイン武器はビームライフルだ。

銃声が聞こえたという事は、敵の実弾に味方がやられたのだろう。

武器を構えつつ、慎重に進む。

 

すると、交戦中の味方機を見つけた。

味方のストライクダガーは後ずさりしつつ、イーゲルシュテルンを起動させる。

だが、その動きがどうも安定しない。

照準もろくに付けれない初心者かと思い、援護に向かおうとする。

瞬間、味方機が上を向いたかと思うと、上方から銃弾の雨を降らされて仰向けに倒れた。

 

上から降ってきたのは弾丸だけではない。

見た事も無い灰色のMSが、味方機の残骸を飛び越えて着地した。

連合のプレイヤーは一年戦争に詳しくなかったが、明らかにザクやグフとは違って見える。

 

正体不明のMSに対し、ストライクダガーはビームライフルで迎撃する。

そこで信じられない事が起きた。

敵機は一瞬身を屈めたかと思うと、スラスターも使わずにジャンプしたのだ。

ビームを回避し、着地した敵機は高速で走り回る。

それはまるで、生身の人間と間違えそうにもなる動きだった。

 

イーゲルシュテルンを敵の周囲にばら撒き、動きを止めようとする。

だが灰色のMSは踊るようにそれを回避し、

マシンガンを放ちつつストライクダガーへ接近する。

ここまで、スラスターは一切使っていない。

連合のパイロットは、味方機の動きがおかしかった理由に気がつく。

あんな機動を行なわれては、照準が安定しないのも当然だ。

 

敵のマシンガンが命中し、機体を揺らす。

通常のザクマシンガンよりもダメージが大きいのは、恐らく新型の銃器なのだろう。

ストライクダガーはビームサーベルを抜き、接近戦で片を付けようとする。

動きを止めた格闘戦ならば、あの機動は発揮出来まい。

相手もそれに応じ、腰部から剣を取り出した。

ビームサーベルではなく、実剣である。

それならば、ビームサーベルで圧倒する事が出来ると思った。

 

接近し、サーベルを振るう。

それは相手を捉える事は無く、虚しく空を切った。

敵機はすり足で素早く側面に回り込み、ストライクダガーの脇腹に剣を当てる。

剣は甲高い振動音を立て、火花を散らしながら装甲に沈み込むようにして機体を両断した。

 

――ソニックブレイドか!

 

ガンダム00でこのような武器が使われるシーンは知っている。

ただの実剣だと侮っていた。

ストライクダガーは二つに分かれ、地面に落下する。

爆発を起こす寸前、まだ生きていたモニターに街の看板が映った。

 

――そうか、ここがウッチという街か。

 

現実の街をここまで忠実に再現するという細かさに感動しつつ、

連合のパイロットは敵機のデータを開く間も無く死亡した。

後に残った灰色のMSは、ラジオ体操のように機体を飛び跳ねさせると

次の目標へ向けて機体を走らせて行った。

 

 

 

「俺達は、とんでもないものを作ったのやも知れん」

 

「当たり前だ。私は銀色のエースであるからな」

 

フォイエンとインパラは、格納庫で一機のMSを見上げていた。

正確に言うなら、それはMSですらない。

二人が共同で作り上げた新型のオリジナル機体。

インパラはこれをCS(コンバット・スーツ)と呼んでいた。

 

やや丸みを帯びた身体は全身灰色に塗装されている。

頭部には二つの目があるが、顔はガンダムタイプではなくアンテナも付いていない。

当初はインパラの持つプロトガンダムを参考にしていたのだが、

設計途中でインパラが『とんでもないもの』を発明してしまった為、

完全オリジナルの実験機となった次第である。

インパラはこの機体を、《MKT‐2マルファス》と名づけた。

 

「人工筋肉とZOエンジンは――」

 

「好調だ。サブマシンガンもな、上手く飛んでくれる」

 

「ある意味怖くはあるな……」

 

このマルファスに装備されたとんでもないものとは、

本来ガンダムの世界に存在しないはずの技術、人工筋肉である。

ロボットの身体に筋肉の役割を果たす機器を内臓する事で、

より人間に近い動きが行なえるようになっていた。

スラスターを使わなくとも、筋肉の伸縮のみで跳躍する事も可能である。

 

その他にも、ZO(ズィーオー)エンジンという新型の動力炉を持っていた。

フォイエンが見たところ、これはミノフスキー粒子を利用した核融合炉の一種であるらしい。

従来のミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉に比べて

エネルギー効率が良くなっているらしいが、詳しい事はよく分かっていない。

人工筋肉やZOエンジンを発明したインパラ自身、

「何か色々やってたら出来てた」と言うのみでどうやって生み出したのか理解していないのだ。

開発プランから複製は可能なものの、

作り出した当の二人にとってもこの技術はブラックボックスであった。

 

「本来なら、こんな技術を作るにはジェネオンのシステムを熟知しているか

 現実の高度な理系知識が必要なんだがな。

 異世界からやって来たんじゃないか?

 このスーパーロボット大戦の

 ゲシュペンストとヒュッケバインを足して割ったような機体は」

 

「異世界の妖精さんか? 私も自分でビックリまっくりだが、構わんだろ。

 使える事は使えるんだ」

 

「その代わり、ものっそい金喰いだがな。

 ここだけの話、イドラ隊用の改造資金にも手を付けてるんだぞ。

 お前の本命、ガンダムシルバーの為にもな」

 

「そこはそれ、戦果を持ってお返ししよう。

 現に連合ジオンを蹂躙してきたではないか」

 

インパラはマルファスに搭乗し、連合とジオンの戦闘に介入していた。

マルファスはインパラが愛機とする予定のガンダムシルバーを開発する為、

実験機として製作された機体である。

様々な敵と実戦テストを行なう事でノウハウを得る必要があった。

それは設定を共有したオグレスのガンダムアライブも同じ事であり

彼女も人工筋肉を搭載したガンダムアライブでテスト戦を行なっているはずだ。

 

「まだ強くなるのだろう? 私のマルファスは」

 

「ZOOCシステムのテストも行なわんとな。

 後、火器に関してはジオン製のを使う」

 

「ジオンだと? ザクマシンガンか何かか?」

 

「いや、ジオン側にオリジナル銃器を売ってる奴らがいるんだ。

 たしか、『フレンズ』とかいう部隊だったな。

 試しに一つ買ってジムに持たせてみたが、それなりに優秀だった」

 

「死の商人か……」

 

敵味方問わず武器を販売する輩を、死の商人と呼ぶ。

ガンダム世界では、軍産複合企業としては最も大きな

アナハイム・エレクトロニクスがそう呼ばれていた。

アナハイム社は宇宙世紀最大の軍事産業であり、

連邦ジオン両軍で使われている多くの電子機器がアナハイム製である。

国家や組織の対立、人類の存亡をかけた戦い。

いつどこであっても、アナハイムという企業は死の商人となる事で世界の勝者であり続けた。

 

インパラとしては、そのような組織は進んで好めない。

他人を犠牲にして得た利益で得をするなど言語道断である。

しかし、インパラはその考えが、言い換えれば

「俺達が苦しんでいるんだからお前も不幸になれ」と言っているのと同じだと気付き、

はてどうすればこの問題は解決するのだろうと頭を悩ませた。

フォイエンはそれに気付くわけでもなく、話を続ける。

 

「目の付け所は悪くないな。

 そのフレンズはムサイ級を改造し、対空戦闘も可能にしているらしい。

 くぜがわと言ったな、その艦は。

 ジオンの艦隊はモビルスーツの輸送と支援砲撃が主だが、

 対空能力にも優れた艦船が広まればこれから面倒になっていくだろう」

 

インパラの心中に気付く事なく、フォイエンはペラペラと評価して見せる。

死の商人に関してはまた後々考えようと結論付けたインパラは、

顔を上げるとマルファスを指差した。

 

「何でもいいがな、フォイエン。

 君が忘れてるとは思うまいが、私の名前を言ってみろ」

 

「インパラだろう? 動物か昔の車かは知らんが」

 

「違う! インパラという言葉が動物の名称だとは知らなかったのだ!

 ……そうではなくて、私のパーソナルカラーの話である!」

 

「白銀の、ねぇ。……分かりましたよ相棒。

 ちゃんと全身銀色に塗っておくさ。

 一応聞きたいが、俺はお前専属の整備士じゃないぞ?」

 

「そんな……俺とお前の仲じゃないか!」

 

「いきなり素になるんじゃねぇ!

 そういう気持ち悪い事するから胸張ってくっつけないんだよ」

 

インパラは肩を落とし、不満気な表情を作る。

フォイエンの台詞が、逆に言えば気持ち悪い事をしなければ

堂々とくっつけるのだと気付いたのは、しばらく後の話であった。







~後書き~
2015年11月17日改正

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