二人のヒーローが死神の世界に現れました   作:落雷氷華

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息抜きで書いたものです
更新不定期です




ABLATION OF HERO
ヒーロー、消失する


一方通行は、小さな体を、離さぬように抱きしめた

今の一方通行は血だらけ

そして、抱かれているのは体力を消耗した打ち止めだった

「…よかった」

ポツリと、一方通行は呟く

「チクショウ…本当に…よかった…ッ‼︎」

小さな体を力強く抱きしめる

「感動の再会の所で悪いけどさ」

だが、番外個体の言葉で、現状を理解した

「このクソッタレの戦争は、このままハッピーエンドで終わってくれる感じじゃなさそうよ」

一方通行は嫌な感じを覚え、天空を見上げる

そこには、巨大な要塞が浮かんでいた

あの要塞がなんなのかは知らない

あの矛先が、どんな効果をもっているのかも理解出来ない

だけど

「…発射されれば、まともな結果にはなりそォにねェな」

一方通行は感じていた

あの矛先は、誰一人とも残さず、世界を破壊できると

一方通行も、番外個体も、打ち止めも、一人残さず

「…ふざけやがって」

吐き出すように呟いた

直後だった

ドシュッ‼︎と、一方通行の背中からドス黒い翼が噴き出した

彼の怒りの象徴

この翼を出せば、一方通行は自我を失っていた

だが

「…番外個体」

一方通行は自我を失っていなかった

静かに、一方通行の言葉が響く

「俺はあれを止めてくる。このガキを任せられるか?」

番外個体は聞きたいことを聞く

「ロシア側から?それとも学園都市側から?」

「全てからだ」

無茶苦茶な注文に、番外個体は息を吐いた

だが番外個体は逆に悪意に満ちた顔をした

楽しむように

鉄釘をジャラジャラと鳴らす

と、懐にいた打ち止めが、一方通行の袖を掴んだ

「何処へ行くの?ってミサカはミサカは質問してみたり」

打ち止めは一方通行が行う事を全て理解している

理解している上で、一方通行を止めようとしている

「何処へも行かないよね?ってミサカはミサカは確認を取ってみる」

「心配いらねェよ。直ぐに終わらせる」

帰るとも、戻ってくるとも言わない一方通行

だがこれで良いのだ

一方通行はそう思った

打ち止めの指を、一本一本外していく

黒い翼は、バキバキ‼︎と音を立て、そこから出てきたのは

 

純白の翼だった

 

「嫌だよ」

打ち止めがか細い声で呟く

「ずっと一緒にいたいよってミサカはミサカはお願いしてみる」

 

「…そうだなァ」

一方通行も、認めた

いままでの一方通行では、絶対しなかった

だが、今は自然に

子供のように、無邪気な笑顔を見せた

 

 

「俺も、ずっと一緒に居たかった」

 

一方通行は、打ち止めの肩を軽く押す

それだけで、一方通行の体は浮いた

打ち止めの腕が、一方通行に伸びる

だが、それは届く事はなかった

一方通行は、彼女らに背を向け、要塞に向かった

その直後

要塞から黄金の塊が投下した

それを一方通行は、怯えず、ただ前をみる

反射も効かない、得体の知れない塊

だがそれがどうした

一方通行はスピードを上げる

あの塊とぶつかる為に

 

(そォか)

一方通行は今更ながら思った

 

___これが何かを守る為の戦いなのか____

 

直後

 

上空ハ○○○メートルで、二つの巨大な力が激突した

 

 

その直後

 

 

一方通行は、この世界から消失した____

 

 

 

 

 

 

バキバキバキッ‼︎と、大地を揺らす

『ベツレヘムの星』が崩壊する音だった

ガラガラと、ベツレヘムの星は崩れていく

その落下速度が増す中で

 

上条当麻は全力で走っていた

 

北極海の沿岸、海面と陸地の狭間

そこで無理やりに大型上昇用霊装を破壊し、降下軌道を捻じ曲げた上条は、『大天使』に立ち向かう為、ただひたすら走り続ける

そして、何か凄まじいものが、高速で接近している

バキバキバキッと、白い大地を抉るように接近する

抉るように動く大天使

 

同時、『ベツレヘムの星』は真上から落下した

 

轟音を立て、大天使ごと巨大な要塞が重力に逆らい、落下した

だが上条は、速さを遅めず、ただひたすら下へ下へと走る

光もない、ただ暗闇

その中で、一つの静かな光が灯った

上条はそこに全力で向かう

あそこにいるのは大天使

右拳を握りしめる

莫大な殺意が溢れ出すなか、上条は最後まで足を止めず、あの光に向かっていた

 

ここに来るまで、色々な事があった

 

そもそもの始まりは記憶を失った所からのスタートだった

とある一人の少女を悲しませないように嘘をつく事から前へ進む事にした

特別な『血』を持つ少女を助けるために錬金術師と戦った

第三位の超能力者や彼女の妹達を助けるために、最強の怪物とも戦った

海の家ではクラスメイトの裏切り者と死闘を繰り広げた

八月三十一日には色々な事があった

AIM拡散力場の集合体たる『ともだち』を助けるために本物のゴーレムに立ち向かった

『法の書』を解読できるという触れ込みのシスターを助けるために十字教最大宗派にケンカを売った

常盤台中学の少女の後輩と関わった事もあった

大覇星祭では運営委員やクラスメイトが巻き込まれる事態になりながらも『使従十字』の脅威から学園都市を守った

イタリアのキオッジアではかつて敵だった少女を助けるために氷の艦隊に突撃した

九月三十日には変わり果てた『ともだち』を助けるため、『神の右席』の女と激突した

クラスの皆と食べたすき焼きは美味しかったし、常盤台中学の少女の母親を助けるためにスキルアウトともぶつかった

フランスのアビニョンではC文書を巡って『神の右席』と戦った

学園都市の地下街では天草式十字凄教と一緒に強大な『聖人』と戦った

イギリスのロンドンでは第二王女が主導するクーデターを食い止めた

 

そして今

 

長かった、と思う

 

ここまで来る間の出来事は、決して楽しい事ばかりではなかった

 

何度も何度も他人を傷つけ、他人に傷つけられ、そんな事を繰り返してきた

 

だけど

 

上条当麻はまだ走れる

 

それらの行動が、決して少なくない人達を助けて来れたのだという事を知っているから

 

最大の敵、大天使に向かって、真っ直ぐに向かって突き進む事が出来る

 

(確かに、この世界はいつか滅んでしまうかも知れない。惑星にだって寿命はあるし、その前に膨らんだ恒星に飲み込まれるって事も分かっている。そんな風になる前に、地球の表面から生き物がいなくなってしまう確率の方が高いかも知れない)

 

でも、と上条は思う

 

こんな悲劇の結末じゃなくていいじゃないか

 

そいつを食い止める為に、戦っていいはずだ

 

二つの影が、最短距離で激突した

 

十月三十日

 

上条当麻

 

彼は二度目の『死』を迎える事となる

 

そして

 

上条当麻は三度目の『生』を

 

一方通行は二度目の『生』を

 

迎える事となる________

 

 




第1話エンド

次回「ヒーロー、旅禍になる」

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