「・・というわけで、ハワイにいくことになった」
夜、俺は食堂で飯を食っていた一年生メンバーに取り合えずそう伝えた。
「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」
全員が唖然とするなか、一夏が先んじて口を開いた。
「・・・・・左遷、ってやつですか?」
「違う。ていうか学生に左遷なんてあると思うなよ」
「でも先輩問題起こしますし・・・・」
「アレはお前がカンバン片すからだろ!?」
一夏のボケに応戦していると、意外なことに狐うどんをフォークで食ってるセシリアが。
「まぁ、クレハさんの力が学園側に認められつつあるってことですわね。喜ばしいコトですわ」
なんて言ってうどんをちゅるちゅる食い進める。
「えー、でもたしか記録でしか知らないけど、クレハって一夏に負けてるんだよね? 大丈夫なの?」
「デュノア、負けた言い訳はしないがちょっと黙ってような?」
「ふむ、兄さんの実力が認められたのは確かに喜ばしいことだが、一緒に海に行けないとなると少し寂しいものがあるな」
「ラウラ、どのみち先輩は二年生で臨海学校には行けないのだぞ」
「ん、それもそうだな・・・・。時に兄さん、軍のIS実験と言いましたか」
「ああ、日本のお偉いさんが監視にいってこいって言ってるらしい」
サラダをむしゃむしゃヒツジ見たいに食うデュノアに、ソバのかき揚げをサクサク食うラウラ。
箒と一夏だけはちゃんとした定食を食ってる。
「・・・・で、帰りはいつ頃になんのよ?」
ラーメンどんぶりを抱えた鈴がスープくさい息を吐きながら尋ねてくる。
「多分だが、お前らが臨海学校から帰るのと同じくらいだと思う。予定通りに進まないこともあるだろうから一日二日は違うかもしれんがな」
「ふーん・・」
そう言って再びどんぶりを傾ける鈴。
? 質問の意図がよくわからなかったな。
「あっ、もしかして鈴。クレハに水着見てもらいたかったとか~?」
「――――ブッ! えほえほえほっ! ちっ、違うわよシャルロット! 変なこと言うんじゃないわよ!」
顔を真っ赤にして咳き込む鈴。
そう言われると、つい、本当につい想像してしまう。
まず俺の脳内に登場したのはイメージ的に青い水着に身を包んだセシリア。
お嬢様然とした振る舞いとはうって変わって自己主張の激しい白い肢体がとても眩しい。アリだ。
続いて登場したのはイメージ的に白か控えめな赤い水着を着ている箒だ。
欧州人であるセシリアを凌ぐほどの弩級巨砲を備えた身体を恥ずかしそうに隠している姿が容易に想像できる。これもアリ。
そして三人目のラウラは・・・・・・・・・。
・・・・・あれ?どうしたんだろうか。スクール水着以外のイメージが湧いてこないぞ。まいいか。妹だし。
これ以上は倫理的によろしくないという判断のもと、一部マニア向けにアリ。ということにしておこう。
そして四人目のデュノア。
天真爛漫な笑顔の裏に隠れた少し小悪魔っぽい性格が、オレンジ色のビキニを際立たせている。ギャップ、というやつかな。まぁ、アリだ。
ていうかこのイメージ。なんか知らんが勝手に
――――イメージ画像でお送りしております―――
って本当に合成写真を写してるんだけど。ナノマシンかなんか知らんが無駄に高性能だな。
そして最後に鈴。
長いツインテールを潮風になびかせ佇むその身体は上から73、65――――
「あんた、すっごい失礼なこと考えてない?」
「え・・・・・あ、凄い残念だとは思ってる・・・・って何でもない!」
「? 残念? ・・・どういうことよそれ?」
しまった! 勘づかれたか!?
俺は急いで瞳をもとに戻し、すぐさま退散する。
「じゃっ、そう言うわけで行ってくる!」
『いってらっしゃーい』
五人ぶんの声を背中に浴びながら、俺は次の人物のもとへと向かった。
@
「やったね・・・クッちゃん! 久しぶりの大仕事・・だね」
「ああ、簡単な任務らしいけど、気は引き締めなくちゃだな」
「うん・・。クッちゃんは凄いんだから・・・怪我だけは、しないでね?」
「ああ、また怪我するとお前が五月蝿くなるだろうからな。気を付けるよ」
雨の部屋を訪ねると、もうすでに知っていたのか、雨が弁当抱えて待っていた。
飛行機の中で食べて、とのことだったがどうせ荷物チェックで没収されるのでここで食うことにした。
久しぶりに摂る雨の料理。
中華は鈴の分野だが、和食は雨だな。ていうか雨はオールジャンルをソコソコのクオリティーで作る。
セシリアに少し技術を分けてやってくれよ。サンドイッチスゴく不味かったんだからな。
食事も一段落着いたとき、俺は自分がイヤにリラックスしていることに気がついた。
「・・・やっぱり、雨といると落ち着くな」
「そ、そうかな・・・?」
「幼馴染みだし、やっぱり空気があってんのかな?」
「お、幼馴染み・・・・・」
そう呟き、神妙な顔をする雨。どうしたんだろうか。
そして俺は前々から考えていた事を提案する。
「あ、そうだ。俺夏休みに実家に帰ろうと思ってるんだけど、雨はどうするんだ?」
「――――――」
「・・・雨?」
どうしたんだろうか。一瞬で雨が固まった。
驚いた様子でこちらを見ているが、なにがそんなに驚くことなんだよ。
もう3年以上も親の顔を見てないんだぞ。そろそろ帰らないとダメだろ。
最後に会ったときに見た両親の顔を思い浮かべる。
・・・・・ヤバイな。もやーっとしか思い浮かばない。瞳で記憶検索を掛けてもエラーを吐き出しやがる。ほとんどの忘れてるってことか。
「で、お前はどうする雨?」
「――――――わたしは、帰らない」
「え? 意外だな。雨が実家に―――」
「だから、クッちゃんも帰らないで」
怒ったような、知られては不味いことを知られてしまった子供のような顔をした雨。
切れてしまいそうな緊張感のせいで、俺は声を出すことができない。
なんだよ、何に怒ってるんだよお前は。
すると雨は、ハッとして照れたようにパタパタと両手をふる。
「―――あ、えーっと、わたし・・・クッちゃんにIS操縦・・・教えてほしいなー・・んて・・・だめ?」
なんだよ。
思いの外可愛い理由に、俺はずるっと転けそうになった。マンガか。
「・・・ああ、わかった。約束するよ」
「うん、ありがとう・・・・」
指切りを交わした俺は、そのまま雨の部屋を後にした。
@
アメリカ合衆国ハワイ州、ホノルル。
現在地。ホノルル国際空港。
俺たちは日本をたってから、ここの空港に降り立っていた。
「んで、なんでいるんだ湊」
「別に、ただ私もサポート要因として呼ばれたので来ただけです」
俺は横にいる蒼髪の少女を見て言う。
飛行機の中では見なかったのに、なんで今合流したんだよ。驚かせるな。
「いやー、ごめんね柊くん。伝え忘れてた」
あんたもう教員やめて兵士やってりゃ良いのに・・・・。
天候はカラッとした晴天。やはり南国だ。
海に面した空港なので強烈な潮風が鼻に突き刺さるような感覚を覚えさせられる。
実験を行うと言うアメリカ軍基地は、このホノルル国際空港と滑走路を共用しているヒッカム空軍基地で、三日後の実験日は一般人を立ち入り禁止にするらしい。
つまり、一般人に紛れ込んでも任務の遂行は不可能と言うわけだ。
そこで大倭先生が考え出した方法はこれ。
「
英語で黒く焼けた大男がこちらに向かって叫んでいる。
見れば、その男の回りは俺たちと歳がそう変わりなさそうな男女の集団で溢れかえっていた。
そう、学校。
大倭先生は学校のインストラクターとして、俺たちは一般訓練生として、アメリカ軍のキャンプに潜入するのだ。
これなら軍の施設を彷徨いても多少は気付かれないだろうし、基礎体力の増強にも繋がる。
さらに言えば、今年は偶然、狙撃のプロがホノルルにいてキャンプの教官として候補生の訓練を監督するそうなのだ。
俺にとっちゃどうでもいいし、むしろ反対したいくらいなんだが、湊がプロの狙撃主と聞いて興味を持ったらしく、頑としてこの方法を採用しようと言ってくる。それに俺は負けたと言うわけだ。
俺たちは更に怒られないように駆け足で男のもとに向かう。
「ん? アジア人か。珍しいな。名前は」
よし、瞳が英語を字幕翻訳してくれてるぞ。
しかも喋ろうと頭に浮かべた文章を自動で翻訳してくれているので、しゃべるぶんにも問題はなさそうだ。
「柊 クレハだ」
「・・・渚 ミナト」
「・・・よし、全員揃ったみたいだな。全員荷物を持て! 宿舎に移動する!」
『イェッサー!』
あ、やっぱりこれなのか返事。
宿舎は空港に隣接された施設の中にあって、丁度軍の格納庫とは滑走路を挟んだ反対側にあった。
五人組の部屋わけと仮のチームを編成されるとすぐに訓練服に着替えろという指示があの男から出された。
「・・・・・どうしたの」
偶然同じチームになったミナトも迷彩柄の訓練服に身を包んで駆け足移動している。
「いや、仕事とはいえ、運動してるミナトを初めてみるなーって思っただけだ」
「私だって運動くらいする」
何故かヘソを曲げたミナトと共に芝生の敷いてある運動場に移動し、整列する。
暑い。瞳の情報によると今日は35℃を越している暑さのようだ。大丈夫なのかこの暑さ。
と、俺が危惧していると三人の教官の登場だ。
勿論一人は大倭先生だが、もう一人、あの人が狙撃のプロって奴だろうか。
階級章から見て、あの大男の教官が伍長。大倭先生は仕方ないとして、あの男には階級しょうがないぞ? どういうことだ。
「それではお前たちにキャンプ中に使われる識別番号を与える! 耳をかっぽじってよーく聞けッ!」
『イェッサー!』
口悪いな伍長教官殿。
左から順に番号が言い渡されて行き、各々復唱して次にうつる。
・・・きた、俺の番だ。
「柊クレハ、908。いいな」
「柊クレハ! 908番!」
「よし、次ッ」
ふぅ・・・。こぇーあの教官。デカイからなおさら迫力があるぜ。
それにしても偶然って面白いな。
「おい、ちょっといいか。おい」
俺の番が終わったとホットしていると、隣の白人が声をかけてきた。うおっ、すげぇ筋肉質だぞ。
「なんだよ。暑くてイライラしてんだ。ちょっと黙ってろよ」
「おいおいなんだよその凝り固まったような英語は。発音がなっちゃいないな。日本人か?」
どうやら隣人は大雑把な性格らしい。
「そうだ。よくわかったな。外国人は俺たちの顔なんか見分けがつかないもんだと思ってたぜ」
「言ってくれるじゃないか」
「そこっ、喋るんじゃないッ!」
あ、大倭先生が形だけでキレた。
取り合えずピシッとしておく俺たちだったが、しばらくするとまたもや向こうが口を開いた。
「俺はボブ。ボブ・アンダーソンだ。似合わない名前だろ?」
「ああ、ボブっていうのはもっとゴリゴリした顔のやつが名乗るもんだと思うぜ」
「ハハハッ! そう思うだろ? だから呼ぶならサムって呼んでくれよ。母さんと神父様にゃ悪いが好きなんだよサムが」
「了解した。サム。クレハだ。宜しくな」
教官に見られないように握手を交わす。
まさかこんなところで外人の知り合いができるなんて思わなかったぞ。
それからしばらく待機していると、何処からともなく一組の男女が現れた。
「だからアイスはだめだといっているだろう。これから仕事なんだ。お前も教官なんだからしゃんとしてろ」
「うー、でもでも、あそこのアイス屋さんの限定フレーバー今日までなのよさ!」
「だったら連れてきたあのメイドにでも頼めばいいだろ。ていうか、体調管理はしてるんだろうな。増量してたら朝のランニング量を増やすぞ」
「うぇぇぇぇん、お兄ちゃんのバカぁぁぁ!」
っておい、あれ日本語だぞ。
よく見れば男の方は三十代半ば。女の方は二十歳位に見えるぞ。
「む、なんだ貴様ら。ここは立ち入り禁止だぞ出て行けッ!」
二人を発見した教官が大声をあげた。
大倭先生が「9029・・・・まさかあんなやつらがいるなんて・・・!」なんて驚愕してる。
「せっかく来てやったのに出ていけとはご挨拶だな伍長。引退した身なのに無理して来てやったんだぞ? 両手を上げて歓迎するのが普通じゃないのか?」
「ええいだまれッ! おいコイツらを摘まみ出せ!」
「むー、お兄ちゃんコイツちょっとウルサイのよ?」
二十歳くらいの女が少女のように耳を塞ぐ。
整列している全員が固唾を飲んで事の行方を見守っていた。
「なっ、わ、私はあの白騎士相手に勇敢に戦った戦闘機パイロットだぞ! それをうるさいとは何事か! 日本人風情がふざけるなッ!」
手が、出た。
教官は左足を踏み込み、十分二人を殺傷圏内に入れると、そのまま右手を突きだし、男の顔に拳を放つ。
「――――――マキナ。やってみろ」
「お任せなのよさ!」
しかし、拳が届く一瞬前、素早い体裁きで男の前に出た女が拳を弾き、逆に右の掌底を教官の胸にはなった。
パンッっと小気味よい音が響き、教官がフラフラと後ずさる。
「うぐっ・・・うっ、なん・・・なんだお前らは・・・!?」
「よし、まだ喋れる元気のある彼に一つ技術を教えてやれ。相手との距離を詰める基本的な武術だ」
「いくぞオラー!」
その時、掌底を繰り出した姿勢のまま、女が姿勢を低くすると、一瞬で教官の懐に潜り込んだ。
どうしたんだ教官。アンタなら反応できない速度じゃ無かっただろ?
「なっ、いつの間に・・!?」
それが、教官の放った言葉だった。
女はそのまま教官の袖と腰のベルトを掴むと、くるんっ。
キレイな弧をえがいて教官を一回転させてしまった。
「縮地だ・・・!」
「? なんだクレハ。縮地ってのは?」
同じように今の現象を不思議に思ったらしいサムが尋ねてくる。
「縮地ってのは日本の武道の技術で、一瞬で距離を縮められたような錯覚を相手に与えることからその名がついたんだ。たしかアメフトの走法にも同じようなのがあったと思うぜ」
「はー、縮地、縮地ねぇ・・。ようは一瞬でトップスピードで走って教官をのしたってことか? すげぇなあのちび」
「誰がちびじゃーーーーッ!」
マキナと呼ばれた女が叫んだ。
「おいサム。ちっとは声を抑えてくれよ。俺まで怒鳴られる」
「心配せずともさっきからこそこそやっているのは聞こえてるぞボウズ」
うっ、バレてる。ヤバい。
男は俺たちの前に立つと女共々胸を張った。
「このとおり、諸君らの教官は訓練中の事故に見舞われたので、この俺が諸君らの指導を引き継ぐ! 心して着いてこい! 返事はどうしたァ!」
『サー! イェッサー!』
―――――ソノ オトコ ガ レイノプロ ダ―――
―――――マジ デスカ―――――
「フム、和文モールス。それも随分と内輪の特性があるものだな。あそこのインストラクターはお前のなんだ?」
うおっ! すげぇな。この人。IS学園の二年で習う暗信を一発で見抜きやがった。
――――アヤシマレルナ、ヤリスゴセ――――
「いえ、彼女とはただの旧知の仲なだけであります! 同じようなミリタリー好きなため、オリジナルを作っていました!」
「・・・・・ふん、オリジナルの信号か。まぁ珍しいものでもないな。悪かったな変に勘ぐってしまって」
「いえ、問題ありません」
男が振り返った瞬間、瞳が妙なデータを出してきた。
――――右腕、肩口から全てに金属反応。義手の可能性。
腕がないってことか? 何者なんだよあの二人。
「よし、それでは今日のメニューを発表する! 嬉しいとは思うが騒ぐなよ。騒いだら倍の量を足してやる!」
ゲェッ、きっと鬼軍曹だぞアイツ。
見れば隣のサムも苦虫を噛み潰したような顔をしている。
そして、その新教官は。
「寝ろ!」
そう、叫んだ。
『・・・・・はい?』
「はいじゃない。すぐに実行に移せ。寝る場所は自由だ。木陰でも宿舎でもどこにでも行け。三日間しかないキャンプの一日目だが全部休養に充てる。日頃の訓練で疲れた身体を確りと休めろ以上だッ!」
・・・・・な、なんつー教官だ。
みろよみんなの顔。なんかもうカトゥーンアニメ見たいな驚きかたしてるぞ。って、大倭先生、あんたもか。
言われたからには仕方ない。
各々寝床を探して動き出すものもいれば、やってやんねーとぼやきつつトレーニングに向かう者もいる。
「どうするよミナト。この時間使って下見にでも行くか?」
「そうですね、ではさっさと抜け出して行きましょう」
そして二人してこそこそ逃げ出そうとしたときだ。
「おい、お前たちはこっちだ」
「逆らわない方がいいのよさ。腕が惜しくねーってんなら何処となりと逃げるがいいのよさ」
ま お う が あ ら わ れ た。
いつも読んでくださってありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。