「………。……ン。」
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ーアリーナ
「遅かったですわね。恐れをなして逃げたかと思いましたわ。」
「すまねえ。ちょっとな。」
「まあいいですわ。逃げずに来たので最後のチャンスを差し上げましょう。今ここで謝り発言を撤回すれば許した差し上げてもよくてよ?」
セシリアが挑発する。謝れば許すと言っているが、こちらに銃口を向けているのでその気は無いだろう。
「へっ、やる前から諦めてどうすんだよ。おれは闘うぜ。」
「そうですか。では……、お別れですね!!」
試合開始の合図と共にセシリアが銃の引き金を引く。無数のレーザー弾がニールを襲う。
「うわっ!危ねえ!」
「さあ踊りましょう!ブルーティアーズの奏でるワルツで!」
セシリアが次々と引き金を引く。しかし、攻撃は全て回避された。
「ちょこまかと…!」
ニールはレーザーが当たる直前で回避運動を行っていた。セシリアは当たらないことに苛立つ。ニールの表情はマスクに覆われていて見えない。
(なかなか射撃の腕があるじゃねえか。こりゃ将来大物になるな。)
ニールは考え事をしながら回避運動を続ける。
(でもよ…!まだまだだぜ!)
その瞬間、ニールはホルスターから2丁のピストルを取り出した。背中のコーン型のパーツが音を立て、光を撒き散らした。
「これでどうだ!」
ニールはセシリアの攻撃を全てビームで相討ちにさせた。
「あれは…ビーム兵器!?そんな、どこの国もあれほどの物は作れていないはず…!あの男はどこでビームライフルを…」
その場で観ていた千冬と真耶以外の全員が驚いた。あれほど完成させられたビーム兵器など見た事が無かったからだ。エネルギーパックは見受けられない。
「見せてもらうぞ。ガンダムとお前の力を」
ディスプレイから試合の様子を見ていた千冬が呟いた。彼女は今朝の真耶との会話を思い出す。
ー千冬の回想
「織斑先生!デュナメスの機体データがまとまりました!」
「ご苦労だった。見せてくれ。」
「これを…。」
「ふむ…。レーダーやセンサーの類は第3世代ISと同等だな。しかし!頭部カメラだけは他のとは格段に性能が違うな。装甲材質は…Eカーボン?なんだこれは?」
「それが…、カーボンを織り合わせる事で強度と軽量化の両立を成功させた材質としか分かっていません…。ニール君の世界ではこれが当たり前に使われていたのでしょうか?」
「そうかもしれないな。他には…、シールドエネルギーは普通にあるが、動力源が既存のISとは違うようだな。GNドライヴ?これか。」
「はい。ですがその先はニール君のバイオデータを使ってもロックが解除できませんでした。おまけに複数のフェイクもかかってあります。」
「なるほど、機密中の機密と言うわけだな。武装は…、GNスナイパーライフルにGNピストルが2丁、GNビームサーベルが2基か。各武装についているGNとは?それに…、小型のビーム兵器だと!?」
「私も驚きました。小型化されたビーム兵器が実用化されているなんて…。」
「ライフルにはエネルギーパックが無いな…。どうやってエネルギーを供給するというのだ…?おまけにそれ以外の情報も解析不可能か。まったく、ビーム兵器の小型化といいあいつの世界の科学技術はどうなっているんだ。まあいい、今日の試合で少しは分かるだろう。」
〜〜〜〜〜〜
ー観客席
「何と言う機動性だ…。手合せ願いたいものだ。」
その時、生徒達の端末に一斉にデュナメスの機体データが表示される。」
ーAピット内
「箒、ニールの機体のデータが来たぜ。」
「そのようだな。センサーなどは第3世代ISと同等か。しかし、それ以上は不明…。どうなっているんだ。」
ピットに居る2人はニールの機体データを確認したが、思うようなデータは見れなかった。
ーアリーナ
「今度は…、こっちの番だぜ!」
ニールがピストルをしまい、肩に懸架してあるライフルを手に持つ。
(リモコン型コントーローラーと操作性は変わらないみたいだな。いけるぜ!)
ニールが引き金を引く。セシリアが回避運動を取る。しかし、避けきれず
「避けれなかった!?スカートギリギリを狙らわれた!?」
ニールは次々と引き金を引く。発射されたビーム全てがセシリアに命中した。
「射撃が正確すぎて…、ライフルを構え直す時間が…!アレを使うしか無いですね。」
ニールが射撃に集中していると、背後から攻撃を受けた。
「おわっ!何だ!?セシリアは前にいるのに俺の後ろから攻撃が!?」
「大したものですわ。初見で私にビット兵器を使わせるなんて。褒めてさしあげますわ。」
「そりゃどうも!」
(こんな感じの兵器どこかで…。そうだ!スローネが似たようなやつを!だとしたら…。)
ニールはガンダムスローネを思い出す。あの機体もファングと呼ばれるビット兵器を使用していた。
(やべえぜこりゃあ…!クソッ、こんな時にハロが居てくれりゃあ!)
「さっきまでの勢いはどうしました?」
(射撃をしたらあれの餌食に、避けたら反撃する暇がない。絶体絶命ってやつかよ!)
セシリアのビット兵器は自律型ではなく本人の意思で動かせる。そこが厄介だ。自律型なら誘い込んでの同士討ちを狙えるが、手足のように動くならそれは不可能だろう。
(右に避けたら左から、左に避けたら右から攻撃が飛んできやがる!)
どこに避けても追いかけてくるブルー・ティアーズにニールは手を焼いていた。
(反撃は…難しいな。避けるだけで精一杯かよ情けねえ!)
「まだ避けますか。では、数を増やしましょう」
「何!?しまった!」
ニールが囲まれた。一斉に攻撃を食らえばおしまいだろう。上にはセシリアが居る。逃げ場はない。
「おしまいですわね。わたくしをここまで苦戦させたのはあなたが初めてです。ご褒美に一撃で終わらせて差し上げましょう。」
セシリアもライフルを構える。いつでも発砲できる。
(俺は負けるのか…?どうやってこの状況を覆せばいい?クソッタレが…!ガンダムマイスター失格だ。いや……!」
「さようなら、ニール・ディランディ」
「そんな事……させるかああああああ!!」
ロックオンの叫びと同時に、あるシステムが起動した。
“Haro System Start”
ブルー・ティアーズからレーザーが発射された瞬間、ニールは回避運動を取っていた。唯一空いていた、下に。一見、それは無駄なあがきに見える。下に逃げても上から攻撃されるだけだ。余計に隙ができる。しかし、ニールは元ガンダムマイスターだ。彼の腕なら…。
セシリアにビームが当たる。
「なっ!?あの体制で射撃を!?しかも当ててくるなんて!?」
そう、落下していると見えるような体制でニールは自分に銃を撃ってきたのだ。しかも、命中した。
「へっ、久しぶりだなぁ相棒。お前には助けられてばかりだ。」
「ロックオンヒサシブリ!ロックオンヒサシブリ!」
画面に可愛らしい球体が表示される。ニールが元の世界で相棒呼び、数々のミッションを共にこなしてきた戦友、ハロだ。
「ああ、本当に久しぶりだ。お前が居てくれたら百人力だ!さあ行こうぜ、ロックオンストラトスとガンダムデュナメス、ハロの反撃だ!」
「まだですわ!ブルー・ティアーズ!」
驚いている暇わない。すぐにセシリアが追撃をかける。しかし、攻撃は全て躱された。またしても観ていた全員が驚いた。流石に千冬も驚きを隠せない。
「ブルー・ティアーズの攻撃を正確に避けながらも精度の高い射撃で応戦している。一体、奴はどれほどの実力を…。」
完全にセシリアのペースだった試合の流れがニールの方に傾きかけていたが、ある事がきっかけで試合は完全にニールのペースとなった。
「いただきだ!」
ニールはライフルをしまうと即座にピストルを取り出しブルー・ティアーズのビットをを攻撃し始めた。何発も叩き込まれたら耐えられない。とうとう1基が爆散した。
「わたくしの…ブルー・ティアーズを…。」
「一気に決めさせてもらうぜ!」
セシリアの応戦と360°からくる追撃を難なく躱しながら、ニールがセシリアに近づく。
「近づいてきた!?インターセプター!」
セシリアが近接格闘用のショートブレードを取り出す。滅多に使わない代物だ。それを呼び出すほど、彼女は追い詰められていた。
「これでもくらいやがれぇ!」
そう言うと、ニールはバーニア背部から白い物を取り出す。それは、まだこの試合で使われていなかった。ビームサーベルだ。瞬時に形成されたビーム刃はインターセプターの刃を溶かしていく。火花を散らしながら、インターセプターの刃はビームの熱に耐えられずみるみる溶けていく。ついに、刃が真っ二つに割れた。
「うおおおおおお!」
ビームサーベルがセシリアにヒットした。身体を捻り、もう一撃を加えようとする。セシリアもやられまいとブルー・ティアーズを動かそうとした。ブルー・ティアーズより速く、ニールのサーベルがセシリアに命中した。
「試合終了!勝者は、ニール・ディランディ!」
「うおおおおおお!すげえぜあいつ!
「ニールくんカッコイイー!」
「代表候補生に勝つなんて、やるな!」
ギャラリーから歓声と自分に対する褒め言葉が聞こえてくる。その声を後にしながら、ピットへと戻る。
ーAピット内
「ふー、終わったぜ。」
試合を終えたニールが戻ってきた。ISを待機状態にする。
「やったなニール!勝ったぜ!」
「おめでとう、ニール。」
ピットで待っていた2人が称賛の言葉をニールに送る。
「サンキューお二人さん。こいつがいなかったらヤバかったぜ。」
「こいつ…?」
2人が同時に声を出す。
「紹介するよ、俺の親友、ハロだ。ハロ、こいつらは俺のダチだ。挨拶しな。」
突然、ニールの方から声がした。
「ハロ、ヨロシクナ。ハロ、ヨロシクナ。」
2人は顔を見合わせる。声は、確かにニールのブレスレットから発せられている。
「それじゃあ分かんねえだろ?顔を出せよ。」
「ワカッタ、ワカッタ。」
ニールのブレスレットからホログラフィックで丸い機械が映し出される。
「ニール、それなんだ?」
「なんだその奇妙な物体は?」
2人が疑問をぶつける。ニールはそれに笑顔で答えた。
「俺の親友だ。ハロって言うんだ。」
「そのハロがいたから勝てたのか?」
箒がさっきのニールの言葉を思い出し、尋ねる。
「おうよ。セシリアのビットに囲まれた時、当然こいつが画面に出てきたんだ。小さい頃はこいつとよく遊んでたよ。」
「そいつが何をしたんだ?」
今度は一夏が尋ねる。見た限り、何かをしそうな機械ではない。一夏にはハロが情報記録端末の類に見えていた。
「こいつが俺の回避運動とシールド制御を補助してくれたんだ。俺の思った方向に機体を動かしてくれる。だからあの体制でも俺はライフルを撃つことができたんだ。」
「回避運動の補助にシールド制御を行えるプログラムだと!?ニール、お前のISはどうなっているんだ。一体どれだけの機能を隠している?ビーム兵器といい。それにお前自身の射撃能力も高い。」
「褒めてくれてありがとよ箒。小さく頃から射撃とは慣れ親しんできたんでな、それなりにできるつもりだ。」
「そういや結局あの光は何だったんだ?」
一夏がニールの機体から発せられる光を思い出す。
「ああ、それは…」
「ニール、話がある。ついて来い。」
ニールが口を開いた瞬間、千冬が入ってきた。
「どうしたんです?織斑先生」
ニールが尋ねる。呼び出されるような事をしでかした覚えはない。
「お前の機体についてだ。聞きたいことが山ほどある。」
「データは出たはずです。」
「詳しいデータはすべてロックがかかっていた。お前のバイオデータを使っても開かない。IS学園生徒は学校側に自分の機体のデータを全て開示する義務がある。つべこべ言わずに来い。」
「そういう事みたいだ。また後でな。」
「それから織斑、これから行われる予定のセシリア戦はお前の専用機が今日届かなかったことと、セシリアの機体の損害が激しくすぐにチューンできないため後日に持ち越される事になった。」
「わ、分かりました。てかニール!結局あの光は何なんだよ!?」
「まあ後で説明するわ。箒にもな。」
そう言うと、ニールは千冬とピットから出て行った。2人が光の正体を知るのはもう少し先になりそうだ。
第4話、お読みくださりありがとうございます。まさかのハロ登場です。友のピンチに颯爽と現れるかっこいいハロを書きたかった。オリジナル設定なのでハロシステムの説明をしますね。
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Haro System
デュナメスのデータファイルの1番奥に隠されていた機能の1つ。デュナメスの出撃と同時に目覚める。戦闘中のロックオンの声に応え、完全に起動した。00の世界のハロと同じ事が出来る。(例えば機体制御やデータベース閲覧など)
デュナメスと共にトレミーに戻ったはずのハロがなぜこの世界に出てきたのかは不明。
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追記
場所の追記、誤解を招く表現の訂正