真灯真美は魔王である   作:灯乃葵

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真美 「真灯真美です」
社 「星城社でーす!」
真美&社 「新年あけましておめでとうございます!」
真美 「昨年はこの『真灯真美は魔王である』を読 んでくださり、本当にありがとうございました」
社 「まーちゃんまーちゃん!お餅食べようお餅!」
真美 「.....皆様のお見汚しにならぬよう、今年も一段と頑張っていく所存ですので、何卒よろしくお願いいたします」
社 「まーちゃんってお餅にはきなこ派?砂糖醤油派?私は雪見大福派なんだ~」
真美 「.......社、あんたも少しは挨拶しなさいよね」
社 「ふぇ?あ、あけおめことよろー!!私は今年も頑張るよー!!」
真美 「適当!!」
社 「まーちゃんが固すぎるんだよぉ。それじゃあ最後に!ーーーーーーーーー私は今年も勇者になーる!!」
真美 「まとめるのはやっ!?え、えっとーーーーーーーーー私は今年も魔王になる!」





06 私の苦しみ

食べ終えた肉じゃがの食器を社と風と樹の三人で洗っていると、不意に風が社に聞いた。

 

「そーいえば社姉ちゃんさー」

「どうしたの風ちゃん」

「いやさ、社姉ちゃん少し遠くの高校に転校したでしょ?それでさ、友達できたのかなぁって」

「友達.......ね」

 

『友達』。その言葉を聞いて、社の表情が少しだけ強ばる。その些細な変化に気付いた風は怪訝そうに言う。

 

「社姉ちゃん?どうしたの?」

「あ、んーん。友達ならできたよ。少なくとも、まーちゃんよりはできたかな」

「まーちゃん?誰?」

「その人も社お姉ちゃんのお友達?」

「友達、なりたいんだけどね。ちょっと私が嫌なことしちゃって」

その言葉に驚いた表情をする風とその隣で食器の水滴を拭く樹。それは星城社はとても優しいということを知っているからだ。そんな彼女が無意識にでも人が本気で嫌がるようなことをするとは思えない。数秒の間が空き、風が意を決したように聞く。

 

どんなことしちゃったの?」

「....あはは、簡単にいうと説明不足ってことかな」

「??」

「えとね、例えば、風ちゃんが樹ちゃんと一緒に遊園地に行ったとするね」

 

コクン、と頷く風と樹。それを見て社が続ける。

 

「それでね、もしも風ちゃんが何も説明しないで樹ちゃんをお化け屋敷に連れて行きました。風ちゃんが説明しなかったのは、樹ちゃんを怖がらせないためなんだけど」

「けど社お姉ちゃん。それでも私、お化け屋敷の前まで来たら怖くて入れないよ」

「うん、そうだよね。それに風ちゃんは樹ちゃんが本当に怖がってたらお化け屋敷には連れていかないでしょ?けど、私はまーちゃんの意思を一切無視してまーちゃんが嫌なことに巻き込んじゃったの」

「話をまとめると、社姉ちゃんはそのまーちゃんに何も説明しないで、まーちゃんが嫌がる事に無理矢理放り込んだ、ってことね?」

「うん。結局私はまーちゃんに何一つ説明できないに、現在進行形でビミョーな関係になってるの」

 

えへへ、と笑う社。その笑みはいつもの暖かい笑みとは違って、どこか寂しそうだった。風と樹はもう一度顔を見合せると、今度は樹が口を開いた。

 

「けど、社お姉ちゃんはまーちゃんさんを嫌な気持ちにさせたかった訳じゃないんでしょ?」

「それは、そうだけど」

「ならそれをちゃんと言わないとダメだと思うよ。私だってお姉ちゃんに無理矢理お化け屋敷に連れていかれたら怒るもん」

「.......だーけーどー!」

 

頭を抱えてその場にしゃがみこむ社。言わなければいけないのはわかっている。それでも言いづらくて仕方ないのだ。しかも、事が事だけにそう簡単にすむ話でもない。最悪、社は真美に命を賭けてくれと言わなければならないかもしれないのだ。

そんな風にうじうじしている社を見て、風がじれったそうに吠えた。

 

「あーもう!社姉ちゃん携帯貸して!!」

「ふえ?なんでー?」

「そのまーちゃんに電話をかける」

「えええええええ!?だ、だめだよ!まーちゃんそんなの絶対嫌がるよ!」

「ええいままよ!大丈夫、どんなことだって『為せば大抵なんとかなる』んだから!!」

 

 

「んーんんーんんー、んんんーんーんんーんー」

 

真美は鼻唄を歌いながら温めたフライパンに卵を割って黄身を落とす。今から朝ごはんを作るのだ。ちなみに現在の時刻は午前11時。もう朝ごはんというか昼ごはんなのだが、休日はいつもこんな感じなので問題はあまりない。

フライパンに少し水を入れて蓋をする。次にトースターに食パンを一枚入れる。そして焼き上がるまでポケーッと椅子に座って待つ。

真灯真美は一人暮らしである。両親は五年前に事故で死に、そして兄弟もおらずやたった一人の親戚も死んだので、所謂天涯孤独というやつだった。

今の家はその親戚と暮らしていた家で、一人暮らしをするにはかなり広い。生活費も親の遺産がかなり残っているのであまり問題はない。さらにいえば、両親がいなくて寂しいと感じなかった。

何故だろう、と真美は自分に問いかけた事はある。一度も答えが出たことはないが。

 

「そろそろかな」

 

立ち上がってトースターから食パンを取って皿に取り、フライパンの目玉焼きが半熟になってるのを確かめてから食パンの上に乗せた。

 

「完成、ジ◯リパン!.......なに言ってんだろ私」

 

いただきますと手を合わせてからエセジ◯リパンを食べ始める真美。と、その時だ。ポン!とテーブルの上に真美の精霊が出てきた。三つ首の黒犬は物欲しそうにジーーーーーーとパンを見つめている。

 

「.......欲しいの?」

「ワン!」

「ワン!」

「ワン!」

 

仲良く同時に鳴きながら尻尾を千切れる程振るう精霊。そういえば、と真美は思う。社は自らの精霊にくりゅーという名前を付けていた。確かに名前がないと少し不便かもしれない。

 

「ねぇ、あなたたち何か要望がある?」

「ワン?」

「ワン!ワン!ワン!」

「.......クゥ」

「三者三用過ぎるでしょ。んー、それじゃあ真面目に聞いてるひー、聞かずにパンを食べているふー、もう興味無くして寝てるみーでいい?」

「ワン!」

「バタバタ(パンに顔を埋めている)」

「クゥクゥ.......」

「ひーは偉いね。ふー、あんたは食べ過ぎ。みーは.......寝てるなら放ってていいや」

 

真美は目の前のひーふーみーを眺めながら、社から受け取った漆黒のスマホを操作した。画面に表示されたのは【因子一覧】だ。

 

「あーあ。どうしよ」

 

あの戦いの後、社から説明はなかった。というよりも、元の世界に戻ったと気付いた瞬間、慰めてくれていた社を押し退けて真美が逃げたのだ。これには我ながらやってしまったと後悔した。

そしてその日の夜は眠らないでひたすら考えた。星城社の事、大赦の事、魔王の事、バーテックスの事、そして因子の事を。結果限られた情報の中で幾つかの仮定を出すことはできた。

ーーーーーーーーそう、できたのだが。

 

「(これが本当だったら、私はかなりめんどいことに巻き込まれたことになるのよね)」

 

ずっと寝ていたみーにつられたのか、首は三つでも胃は一つにでもなっているせいでお腹一杯になったのか、残りの二匹も眠たそうにうとうとし出した。その頭を一つ一つ撫でる。

 

「(ほんとにあーあ、だねぇ。星城さんに聞きたいけど、聞きにくいし)」

 

はぁ、と溜め息を吐く。同時に、手に握るスマホの画面がバイブと共に切り替わった。その画面には『着信』の下に『星城社』とあった。社から電話がかかって来たのだ。はぁ!?と思わず叫びながらどうして電話がかかってきているのとかこれ出なきゃいけないの?とかそもそも電話番号教えてないのに!などの思考が真美の頭の中を駆け巡った。そして、結局出た答えはシカトだった。これが一番無難で楽な方法だからだ。

 

「(そうよ、そうに決まってる。ここで無視して、学校で会っても無視して、戦いになっても無視すればいい。今までもそうだったじゃない)」

 

わかっている。真灯真美は独りでいい。あの時誓ったではないか、もう誰も自分を背負わせないと。

 

なのに、

なのに、

なのに、

 

「なんで、こんなに苦しいのよっ!!」

 

叫ぶ。

本当はもうわかっている、自分の気持ちも思いも。後は真美がそれを認めるだけなのだ。

震える指で画面に触れて通話状態にすると、画面の向こうで社が何か言う前に何も考えずに言った。

 

「今日の午後7時、楠木公園に来て」

 

それだけ言って通話を切る。テーブルで寝ているひーふーみーを抱き上げて、真美は言った。

 

「私は私の誓いに従う。そう決めたの」

 

 

「ほえー、これが魔王なんだ、すっごく強いね」

 

とあるどこかの場所で『彼女』はそう言った。

『彼女』はベッドの上に寝かされており、その小さな身体には包帯が巻き付けられ、あちこちから何かのコードが繋がられていた。

『彼女』はどこかを見詰めながら続ける。

 

「このお姉ちゃんたちが今の勇者なんだね。うん、強いんじゃないかな。あはは、わかってるよぉ、接触なんてしないから」

 

楽しそうに『彼女』が笑い、それに合わせて髪をまとめた青いリボンが揺れる。だがその笑顔も半分が包帯に隠れている。

 

「この黒いお姉ちゃんはすっごく似てるなぁ。心はぽかぽかだぁ」

 

言いながら髪の青いリボンを撫でる『彼女』。『彼女』の脳裏には、ある少女が浮かんでいた。

友達で、親友だった少女。そして、もうこの世にはいない少女。

 

「あーあ」

 

ポツリ、とあるどこかの場所で『彼女』は呟いた。

それは誰の耳にも届かずに、虚空へと消えていった。

 




今年もクロユリの魔王とスズランの勇者の物語を楽しんでください!

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