真灯真美は魔王である   作:灯乃葵

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えと、やっぱり前書きにはなんか書いた方がいいと思ったので、なんか書きます!


03 強い意思

社が木から跳躍した。した、のだが、その距離と高さが尋常ではない。もうほとんど空を飛んでいるのと同じだろう。そして何度か木や根っこに着地して跳躍を繰り返して、ほんの数秒で敵ーーーーーバーテックスの元に辿り着いた。

スマホのレーダーで確認したところ、今回の敵は魚座らしい。高い金属音を鳴らしながら、魚の口が開いていく。

攻撃が来る。そう察知した社は回避するのではなく、全力で前に跳んだ。

 

「それじゃあ、全力全開でいく、よ!!!!!」

 

魚が完全に口を開く寸前、鉄扇を振り上げて、力の限り上顎に叩きつけた。ガヅン!!と轟音が鳴り、魚の身体が震える。今度は頭を蹴りつけると同時に真横に跳び、そのままもう一匹の頭を殴り付けた。

 

「まだまだぁ!」

 

真上に跳んで二匹の魚を結びつけている鎖の結び目に鉄扇を振るう。

 

「うらああああああああ!!!」

 

連続で金属音が鳴り響く。トドメとばかりに社は身体を回転させながらの一撃を入れる。強烈な一撃が結び目にクリーンヒットし、鎖が木っ端微塵に砕け散った。

支えを失った二匹の魚が地面に落ちる。その拍子に巻き込まれた木々が黒ずみ、枯れ葉となって消えた。それを見た社の表情が歪む。

 

「けど、今のうちに御霊を壊せば、これ以上被害は広がらない!」

 

御霊。バーテックスの心臓にして唯一の弱点。勇者はこれを儀式という行為でバーテックスから取り出し、これを破壊する事で勝利となる。

だが、ここでもう一度だけ言おう。御霊とはバーテックスの『唯一の弱点』。『唯一』ということは、他の攻撃は一切通用しないという事である。

 

「ッ!?」

 

追撃しようとした社は、しかしその動きを止めた。

理由は簡単。横倒しになったバーテックスの鱗が突然青く光り、無数の光線を放ってきたからだ。

飛来する光線を鉄扇で時に受け、時に弾き返し、時にくりゅーに防御してもらいどうにか事なきを得る社。

その間にバーテックスは完全に自らの身体を修復し終わっていた。

このように、バーテックスは心臓である御霊を破壊しない限りいくら破壊しても修復してしまう。だからこそ御霊がバーテックスの『唯一』の弱点となるのだ。

 

「くぅ、これじゃあまた.......!」

 

歯噛みしながら社は鉄扇を構える。だが先にバーテックスが動く。二匹は大きく口を開けて、目一杯空気を吸い込んだ。

 

『キオオオオオオオオオオ!!』

 

バーテックスが吠える。その強烈

な大音量にビリビリと社の身体が震え、動きが固まってしまう。

そして、それが決定的な隙となる。

バーテックスの皮膚の一点が強く輝く。次の瞬間、青色の閃光が社目掛けて撃ち放たれた。

 

「しまっ」

 

硬直が解けるや否や鉄扇を持つ腕を動かそうとするが既に遅く、社を守ろうとしたくりゅーごと、その身を凄まじい衝撃が貫いた。

そのまま社は真下の樹木の上に叩きつけられる。

 

「がはっ、ごほっ.......すっごく痛い、ね..」

 

傷を確認してみると、腹に穴が開くという程ではなかった。くりゅーと近接戦闘であるがゆえの防御力の高さが功を奏したのだろう。

しかし身体に響いた衝撃まではどうにもできなかったらしく、何度も口から血を吐く社。それでもどうにか立ち上がり、バーテックスを見る。どうやらバーテックスはもう社を倒したつもりでいたらしく、目的を果たすためにシンジュ様がある方向へと移動している。

 

そして、その方向には先程置いてきた真灯真美もいる。

 

「ーーーーーーそれなら、余計に諦めたりとかできないよね」

 

勇者として、何より友達として、ここで退くわけにはいかない。

 

社は鉄扇を構えると、バーテックスに向かって大きく跳んだ。攻撃範囲に入るやいなや、左の魚の尾びれに力の限り鉄扇を叩きつけた。バーテックスは悲鳴を上げると同時に、まだ敵を殺していない事に気付き、身体を旋回させた。 真正面からバーテックスを睨み付ける。

 

「勇者を、なめるなあああああああああああ!!!!!」

 

絶叫し、迫り来る巨大な体躯に一人立ち向かっていく。

 

 

「.......」

 

白の少女がたった一人で巨大な化け物と戦っているのを、真灯真美はただ黙って見ていた。

あの化け物、バーテックスへの恐怖は消えていない。今も気を抜けば気絶してしまいそうだった。

それでも目を反らすことができないのは、あの時社が戦いに行く姿がどうしても忘れられないからだった。それぐらい真美の目に社の行動はとても異端にだった。

 

『キオオオオオオオオ!』

 

突然、バーテックスが大きく吠えた。まるで音が壁にでもなったかのような圧迫感を感じ、真美はその場にしゃがみこんでしまう。

これではいざという時に動けないと真美はバーテックスの動きを確認しようと顔を上げて、

 

「.......ッ!!」

 

息が詰まる。何故なら、今まさにバーテックスから放たれた青い閃光によって、社が貫かれたからだ。

さらに状況は悪化する。真美はその状況を理解すると同時に、息が詰まり、視界がどんどん狭まっていくのを感じた。

 

「どうして、こっちに向かってきてるの.......!?」

 

先程まで社にしか興味がなかったバーテックスが、真美がいる方向に向かってきているのだ。

 

今まではバーテックスが真美に直接危害を加えるようなことはなかった。最初に叫んだのだって、あの恐ろしい姿が単純に怖かったからだ。

だが、今回は違う。このままでは確実に死ぬ。

逃げないと。分かっているのに、身体が動かない。思考が続かない。呼吸が乱れる。

 

恐怖が、溢れ出す。

 

「に、にげ、けどどこに?どうやっ、やって?」

 

考えても考えても案なんて浮かばなかった。むしろ、自分が殺されるパターンさえ頭に浮かんでくる。

もうダメだ、と真美は悟った。

社はいない。自分は動けない。他に術も思い付かない。

 

「.......諦めよ」

 

もう声も涙も出ない。立ち上がろうと込めた力が抜けるのを感じた。

 

「(どうせ大した人生でもなかったし。こんな私、いなくなってもいいんだ)」

 

ついに瞳を閉じて、身動き一つしなくなる真美。

 

その時だ。

 

「勇者を、なめるなあああああああああああ!!!!!」

 

思わず目を見開く。

 

見ると、ついさっきバーテックスの一撃に貫かれた社が、再度バーテックスに弾丸のような速度で突撃したのだ。

 

「な、なん、で?私たち、初対面なのよ!?」

 

あの時、星城社は言った。

 

『私は、みんなを守る勇者だから』

 

みんなを。その言葉にはどれだけたくさんの人間が含まれているのだろう。

社の家族に今日初めて出会った真美や他のクラスメイト。全く知らない人間も入っているのかもしれないし、さらにいえば世界中全ての人間も含まれているのかもしれない。

諦めればいいのに。逃げればいいのに。決してそれをしない。

 

「.......私は何をしているのよ」

 

手に握る黒いスマホが真美の言葉に呼応するように震える。

真美が立ち上がる。そして目の前の巨大な敵を、バーテックスを見据えて彼女は叫ぶ。

 

「守られてばかりで、何もできていない!『あの時』誓ったでしょう、真灯真美!もう絶対に、私を誰かに背負わせないって!!」

 

それはとおる出来事をきっかけに、真灯真美が己に定めた一つのルール。孤独に生きると決めた真灯真美の源だ。

 

「私はあんたに言いたいことがたくさんある。なのに、こんなところで死なれても困るし、私も死ねないの。だから、」

 

真美はスマホを頭の上に掲げて、液晶画面に咲いた黒いユリに親指で触れた。

 

 

「私は、私のために、魔王になる!!」

 

 

黒い花びらがいくつも束なり、何本かの鎖を形作ると真美の華奢な身体を縛る。それは魔を統べる王の力を封じ込めるための封印だ。

全身に力を込めて、黒の鎖を引きちぎる。散らばった鎖の破片が真美の全身を包み、漆黒のドレスへと変わる。

さらに残った破片がドレスの上に落ちる。するとその箇所に黒いユリの装飾が花開いた。

真美は長い髪をとくように両手を動かす。それに合わせて、大きなユリの髪どめが長髪に咲いた。

 

最後に腰に現れた鞘から黒い片手剣を引き抜いて構えると、真美は言う。

 

「私は、魔王になる」




ちなみに、ですが真灯真美のシンボルはクロユリ、星城社は鈴蘭の花です。


その、感想まってます!

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