真灯真美は魔王である   作:灯乃葵

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今回は短いです。真美と社の関係が決まるので、あんまり長いのもあれかなぁ、と思いまして。


09 私を信じて

「まーちゃんが、殺した?どういうこと?」

「そのままの意味。私が殺したの。この手で、観月姉を」

 

真美の口調はとても朗らかだった。単純に友だちと話しているかのような軽い調子。

 

だけど、彼女は笑っていなかった。喜怒哀楽のどの感情もない、完全なる無表情。

 

「殺した理由は、まぁ殺されかけたからなんだけどね。生活に苦しくなってさ、そしてら観月姉ってばいろいろとヤバイことに足突っ込んだらしくて」

「それでおかしくなって、いきなり私を襲ってきたわけ。で、小さい私は簡単に馬乗りになられて首を絞められてね」

「でも私も死にたくなかったから咄嗟に近くのカッターでグサッと」

 

真灯真美の言葉が続けられた。偽りの気持ちで塗り固められた中身のこもっていない言葉が吐き出される。

 

「(これがーーーーーー私が望んだことなの?)」

 

その言葉を受け止めて、社は自分に問いかける。

確かに、真美に全てを吐き出してほしいと願ってあたのは社だ。あそこまで他人を拒否してきた真美の本音を聞くことに若干の恐怖もあったが、それ以上に真美が心の底から思いをぶつけてきてくれたらとても嬉しいと考えていた。

 

だから、真美が全部話すと言ってくれたときは嬉しかった。心を開いてくれたと思った。

なのに、明らかに真美はまだ隠していた。結局、社ができたのは真美の強固な心の壁にほんの少し亀裂を入れることしかできなかった。

 

「(思い込み、だった)」

 

当然だ。何故なら社が真美の思いを受け止めるという覚悟を示していないのに、本音を口にすることなんてできないだろう。なのに、社は何もしなかった。自分は対価を支払おうとはせずに、一方的に真美に要求した。これでは初めての戦闘よりもタチが悪い。

 

「(.......だけど)」

 

だけど、そんな風に結論付けてまた諦めるのか?このまま真美の本心を聞かずに、なあなあで済ませるのが果たして正解なのか?

違うだろう。一度した失敗を繰り返しそうになっているなら、それを全身全霊で覆せばいい。そしてまたやり直せばいいのだ。どこからでも、やろうと思えばスタートすることはできる。

 

「.......『真美』」

「え、今あんた名前で呼んで.......」

「私ね、小さいときに迷子になったときがあるの」

「?どうしたの、突然」

「お願い、聞いて。その時は怖くて、寂しくて、どうすればいいかわからなくて、ずっと泣いてたの。その時だった、いきなり知らない女の人が私の頭を撫でながらこう言ったの。『そんなに悲しいなら、あたしが変えてあげる』って」

 

それは星城社の根本。

この言葉のおかげで社は勇者という力で知っている人たちも、知らない人たちも、みんなを助けると決意することができた。

 

社は真美を真正面から見つめて、言った。

 

「真美は?どうして他人を拒絶するの?」

「だからそれは、観月姉に殺されかけたから」

「今さらこう言うのもおかしいけど言うよ。私は私のことを教えたの、だから真美も教えて」

「え.......?」

「殺されかけたから?そんな、まるで他人に無理矢理やらされたような言い方、やめなよ」

 

その時、今まで無表情だった真美が明らかに揺れ動くのを社は見逃さなかった。社は一歩だけ真美に近付いて続けた。

 

「何を思って他人を拒絶したの?お願い、教えて。私は真美のことを知りたいの。安心して綺麗なことも汚いことも全部私が受け止めるから」

「や......し、ろ」

 

掠れたような小さな声。そして真美に明確な変化が生じた。それは些細な、しかし確実な変化。

ポツリ、と。真美の瞳から一筋の涙がこぼれた。同時に、真美が叫んだ。

 

「だって、私がいなかったら、ママもパパも、観月姉も自分の人生を無駄にしないですんだから!!」

「.......うん」

「私がいたからママもパパも死んじゃって、観月姉もおかしくなって!だから私は誰かに関わっちゃいけないのよ!!だから私は誓ったの、誰にも私を背負わせないって!」

 

言葉が紡がれるたびにボロボロと大粒の涙を溢す真美。今までの真美からはとても想像できないほど泣きじゃくりながら社の服を掴んでさらに叫ぶ。

 

「こんな私を背負えるっていうの!?あんたは私のこの、ひ、ひと、ヒトゴロシの手を握れるの!?ねぇ、答えてみなさいよ!!」

「握れるよ」

 

考えるまでもなく、社はそう答えた。そして、真美の両手を握りしめた。真美は驚いたように目を見開き、次いでその場にしゃがみこんだ。社もしゃがんでしっかりと目線を合わせて言った。

 

「だから、背負わせてよ。私と友達になろう」

 

 

「うふふ、良かったぁ。ちゃんとお友達になれたみたいで」

 

その少女は虚空を見つめながら呟いた。と、不意にベットに横たわる少女の隣に二人の人間が現れた。

どちらも女性だ。片方は少女の元担任で年は一回りも同年上だ。もう片方は始めて見る。綺麗な金髪の女の子で、年は少女より少し年下だろうか。

 

「久しぶり。調子はどう?」

「私はぜっこうちょーですー。先生はー?」

「あのね。何度も言ったけど、私はもうあなたの先生じゃないの。だから先生はやめてね」

「はぁーい、せんせー」

「.......はぁ」

 

溜め息を吐く年上の女性。少女は次に金髪の少女に目を向けた。視線に気付いた少女が小さな声で言う。

 

「初見」

「先生誰ですか、この子?」

 

少女が年上の女性に問いかける。しかし、何か言う前に金髪の少女がまた小さな声で答えた。

 

「新規」

「しんき?どーゆーこと?」

「新規、三人目、適正値最大」

「.......もしかして?」

 

その言葉に金髪の少女がコクンと頷いた。

 

「私、新規、勇者」

 

同時に赤色のスマホを取り出して蓮の花が描かれた画面に触れる。花びらが舞い踊り、次の瞬間そこに赤い一人の勇者が降臨する。

 

「私、守木熾純、最強、勇者」




最後の女の子の名前は「かみき・しじゅん」と読みます。
※ 内容をほぼ変更しました。

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