いぬがみっ!   作:ポチ&タマ

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 連投三日目。

 以下を修正しました。
・一部描写の追加。


第六話「志望動機」

 

 どうも、こんにちは。先週お婆ちゃんの犬神から「お前が富士山だ!」的なお言葉をもらった川平啓太です。

 さてさて、今のところ不自由なく健やかな毎日を送れている。

 これもお婆ちゃんたちが俺の秘密――霊力全開がやばい結果に――を他言せずに胸の内に秘めてくれているからだ。

 おかげさまであの測定試験から晴れて川平家の落ちこぼれの称号を貰い、狙い通りハイエナどもの魔の手から逃れることが出来た。

 万事上手くいっている。

 

「よう啓太。ちょっとサンドバッグになれよ」

 

 そう。同年代の子供たちからちょっとした暴行を受けても上手くいっているのだ。

 

「た、たくまさん! おれもいいですか!?」

 

「おうやれやれ。いい練習台になるぞ」

 

「はい! てりゃー!」

 

 拳を握り締め、右の頬を殴ってくる。

 続いて腹に膝を数発。

 

「よーし。今度は俺様の番だ、ぜっ!」

 

 側頭目掛けて回し蹴り。勢いがあるため、そこそこの衝撃が走った。

 

「オラオラどうした! やられっぱなしかよ人形ちゃんよォ!」

 

 滅多打ちに攻撃してくる二人。俺はただ、されるが儘だ。

 なにせ。

 これといったダメージがないもの。

 

「ハハハッ! サンドバッグにゃ丁度いいな!」

 

 喜悦の声を上げて攻め手の速度を上げるが、平然と受け止め続ける。

 顔色一つ変えずに何の抵抗も見せない俺に、次第と当惑した様子を見せ始めた。

 

「た、たくまさん……? コイツ、なんでここまでして平気な顔してるんですか?」

 

「お、俺様が知るかよ! くそっ、これならどうだ!」

 

 霊力を込めた拳で腹を殴打するが、結果は変わらず。

 ちょっと強かったかな、程度の問題だ。

 

「な、なんなんだよコイツ……」

 

 一方的に殴っている少年たちの方が、逆に恐れおののく。

 さて、少年たちの霊力を纏った攻撃は一般の大人の一撃と変わらない効果を発揮する。

 そんな攻撃を身構えもせずに無抵抗で受け続け無傷なのはちゃんとした理由がある。

 そう、鍛錬の成果という理由がなっ!

 苦節二年。柔軟性の向上から始まり、基礎体力や筋力トレーニング、よく分からない知識に基づいた体の運用法等々、様々な鍛錬に時間を費やした。

 その中にはもちろん霊力を扱う鍛錬も行っている。

 偶然書斎で発見したある人物の手記にその鍛錬方法が書かれていたのだ。

 その筆者は霊力にあまり恵まれていないため、試行錯誤して霊力をコントロール術を身につけたとあった。

 この筆者を心の師とし、ひたすら霊力の扱い方というのを学んでいった。

 その結果!

 なんと、身体に霊力を流せば、なぜか耐久性が向上するという意味不明な現象を引き起こすことが出来るようになったのだ!

 その他にも筋力向上や、部分的に集中させれば五感を向上させることも可能!

 霊力とそれらの関係性にかなりの疑問を感じるが、まあ細かいことは気にしないことにする。

 結果がすべて! もともと考えるのは苦手だしな。

 

「たくまさん、コイツ変ですよ……も、もしかして化け物なんじゃ――」

 

「啓太くん!?」

 

 おっと、第三者のお出ましのようだ。

 声のした方に目を向ければ、驚いた表情で我が唯一の友である薫が立ち竦んでいる。

 

「やべっ、薫だ! 逃げろ!」

 

「あっ、待ってくださいよたくまさーん!」

 

 蜘蛛の子を散らすように逃げ出す琢磨たち。

 それと入れ替わるように慌てて駆け寄ってくる。

 

「啓太くん大丈夫!? また苛められてたの?」

 

「大丈夫」

 

 そう、琢磨たちにちょっかいを掛けられるのは今に始まったことではない。

 度々大人たちの目を盗んではメンチを切ってくるのだ。

 

「もういい加減宗家に報告しよ? さすがに目に余るよ」

 

「子供のすること。放っておいて大丈夫」

 

「でも……やっぱり納得できないよ」

 

「大丈夫。それに、もうちょっかいかけてこない」

 

 あの様子じゃあね。

 それに終わったことをぐちぐち掘り返すのも面倒だし。

 第一、子供のすることに一々お婆ちゃんに報告するのも馬鹿らしい。

 

「それより遊ぼ」

 

「うーん、いいのかなぁ?」

 

 細かいことは気にするな。

 

「最近嵌ってるのがあるの」

 

「なに?」

 

「大道芸」

 

 

 

 1

 

 突然だが、俺は動物が好きだ。

 中でも犬や猫、狐などが大好きだ。

 あの尖った耳が好きだ。垂れた耳が好きだ。ふわふわの耳が好きだ。

 愛くるしい姿は保護欲を誘い、擦り寄られたらもうたまらない。

 ぶんぶん振る尻尾は構ってと訴えているようで、もう心の底から構いたくなり。

 滑らかな毛触りには感動すら覚える。

 そう、だから……。

 俺がはけの尻尾に現を抜かしていても、なんらおかしくないのだ。

 

「うみゅう~」

 

 行儀良く正座したはけの濃紫色の尻尾。

 猫じゃらしのようにぶんぶんっと振られたそれに釣られ、畳の上をゴロゴロしながらじゃれつく。

 ああ、こんなの俺のキャラじゃないのに……。

 頭の隅の隅には「まるで猫みたいじゃねぇか」とか「つか、うみゅうってなんだ」だとか突っ込む俺がいるのだが。

 この魔性の尻尾には無力。

 絹のような滑らかでありながらふさふさした尻尾。

 猫? いいじゃないか気持ちいいんだから。うみゅう? 仕方ないじゃないか勝手に出るんだから。

 嗚呼、このままずっとじゃれていたい……。

 

「……啓太様にこのような一面があったとは」

 

「うみゅう~」

 

「なんとも可愛らしい……」

 

 目を弓のように細めたはけもデレデレしてる。

 うむっ、これぞウインウインの関係ですな!

 

「……はけ」

 

「――ハッ!」

 

「お主はこんな婆より啓太がいいんじゃな……。そうよな、時の流れには逆らえぬ。老いた者より若い者がいいんじゃな……」

 

「主!?」

 

「いいんじゃよいいんじゃよ。なんならこのまま啓太のいぬかみになっても」

 

「そんな! お待ちください主!」

 

「うみゅ~……う?」

 

 おや、動かなくなってしまった。……ん? なんだ修羅場か?

 ふんふん、なるほど。

 

「お婆ちゃん。からかいすぎ」

 

「ほっほっほ。まあ、たまにはいいじゃろうて」

 

 楽しそうに笑い飛ばすお婆ちゃんに深いため息を零すはけ。

 

「まったく、心臓に悪いですよ主」

 

「いや、すまぬすまぬ。しかし啓太がこうまで機嫌がよくなるとは驚きじゃな。……啓太や、犬神は好きかい?」

 

 どういった意図での質問かは分からない。

 が、まだ尻尾の余韻に引かれていた俺は深く考えずに答えた。

 

「好き」

 

「それは何故?」

 

「尻尾もふもふ」

 

 ぽかんと口を半開きにしたお婆ちゃんは次の瞬間には声を上げて笑った。

 

「はっはっは! そうか、もふもふか!」

 

「ん。もふもふは正義」

 

「そうじゃな、確かにはけの尻尾はもふもふじゃな」

 

「啓太様……」

 

 なんともコメントし難いといった顔で困惑するはけ。

 お婆ちゃんは愉快な答えを貰ったとでもいうように一笑した。

 

「お主は良い犬神使いになれるじゃろうな」

 

「当然」

 

 その言葉に胸を張って答える。

 

「お婆ちゃんの孫だもの」

 

 そして犬神使いになって一日中もふるんだ!

 いや、犬神の本来の姿は大きな犬の化生とあるから、人化を解かせてお腹をもふるのもいいかも。

 うは、夢が広がるな!

 また一つ、犬神使いにならなければいけない理由が出来た俺であった。

 

 




 犬っ娘の尻尾や耳っていいですよね。

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