「と、いうわけだから! 覚悟してねケイタっ」
いや、どういうことだってばよ!
あとはもう寝るだけだったため、なでしこたちにお休みの挨拶をしてから自室に戻り、ベッドに潜った。
そして、二時間ほど経ち、時刻が零時を過ぎた頃だった。
コンコンとノックの音が聞こえてきたのだ。
こんな夜更けに部屋に尋ねてくるなんて珍しいなと思いながら入室を促すと、やってきたのはなでしことようこの二人で。
それぞれ水色とピンクのパジャマを着た二人は恥ずかしそうに顔を赤らめながら、頭の上にハテナマークを乱舞する俺の前にやってくると、突然。
『わたし、ケイタのことが好き! 大好きっ! なでしこの次でいいからわたしもケイタの恋人にしてよ!』
と言ってようこがベッドの上に押し倒してきたのだ。
急な展開に目を丸くしていると、ようこは俺の上に馬乗りになりながらポツポツと心情を明かしてくれた。
ずっと俺に好意を寄せていたこと。俺はようこのことを家族としてしか見ていないこと。俺がなでしこのことを想っていること。なでしこも俺のことを想っていること。俺たちが恋仲になったのがすぐわかったこと。
そして、自分の居場所がなくなるんじゃないかって不安に思っているということ。
その告白を聞いて、俺は胸が締め付けられるような思いだった。
初めて恋人が出来たことに浮かれていた。ようこのことも気に掛けてはいたが、ここまで思いつめていたとは知らなかった。
後悔の念が顔に出たのだろう。ようこは「もう、そんな顔しないで?」と優しく俺の頬に手を当てた。
「別に責めてるわけじゃないんだ。ケイタとなでしこが想い合っているのは知ってたし、事実お似合いだとも思うもん。でもね、言ったでしょ。ここにもケイタのことが好きな女の子がいるって」
ようこは妖艶に微笑むと頬に置いた手を輪郭をなぞる様に滑らせた。
どこか蠱惑的な雰囲気を纏わせながら甘い声で囁いてくる。
「ねぇ、ケイタ。ケイタはわたしのことどう思ってるの? ただの家族? それとも、少しは女の子として見てくれてる?」
ちょっ! なんかヤバイ、ヤバイって!
ただでさえ美人なようこが好きだと告白してきたんだ。健全な一般男子としてはかなり理性に訴えてくるものがある!
でも俺にはなでしこがいるんだ! ていうかなでしこさん、あんた止めに入んなくていいの!?
なでしこに視線を向けると、彼女はなぜか困った顔で立っていた。
困ってるのは俺だよぉぉぉぉぉぉぉおおおおお~~~~っ!!
「ケイタがわたしのことを家族として見てるって言うなら仕方ないね、今日のところは諦めるよ。でも、もしわたしのことを少しでも意識してくれてるならさ――」
――二番目でいいから、わたしのことも可愛がってよ……。
耳元で囁かれた妖艶な言葉にぞくぞくと背筋に走るものがあった。
二番でいいって、えっ? 要するに愛人になるってこと??
「あ、ちなみに言うと愛人とかじゃないよ? わたしをケイタの二番目の恋人にしてってこと」
ああ、そういうことね。って、そんなの許されるわけないだろ!? 俺はまだしもなでしこがダメって言うに決まって――。
「ああ、そうそう。ついでに言うと、なでしこからも了解を取ってるから」
なでしこさぁぁぁぁぁん!? 一体どういうことだってばよっ!
もう混乱の極みに達しそうだ……。
「……な、なでしこはいいの? それで」
困ったような微笑を浮かべたなでしこもベッドに上がると、俺の頭を持ち上げて自分の膝の上に乗せた。俗にいう膝枕というやつだ。
なんか今日のなでしこさんも積極的ですね! いや、前にしてもらったことあるけどさ!
なでしこは俺の頬に手を触れながら、優しい声で言った。
「はい。急に言われて啓太様は戸惑いかと思いますが、私もようこさんも納得の上です。もし、啓太様がお嫌でなければ、ようこさんも啓太さんの女にしてくださいませ」
ま、マジっすか?
「私も、啓太様と同じくらいようこさんのことが好きです。もちろん、これは親愛という意味ですけど。このままようこさんだけが仲間外れになるのはどうかと思っていましたので、わたしは賛成です。もちろん啓太様がお嫌でなければ、の話ですが」
「どう、かな……ケイタ。わたしのこと嫌いじゃなかったら……わたしもケイタの彼女にしてください」
俺の目を真剣な眼差しで見つめてそう言うようこ。改めて告白されているんだなと感じさせた。
もちろん、ようこのことは嫌いじゃない。これまでも異性を見る目で見たことは、何度かある。
だけど、正式になでしこを彼女として迎え入れた身としてはようこをそういう対象として捉えてはいけないという考え――倫理観があった。
しかし、当のなでしこ本人が認め、こうして勇気を出して告白してきた女の子がいるんだ。
これを無碍に出来るか? 出来るわけないだろ……。
――なんだかんだ、俺もようこに惹かれるところがあったのは事実だし。もう、これは男として向き合い、けじめをつけるしかないか。
「……ようこ……退く」
「ぁ……」
俺の一言にようこはショックを受けたようだ。確かにこの言葉だけ聞いたら拒絶したようなものだよな。
だけど済まん、こんな体勢じゃバシッと決めるものも決められないんだよ!
今にも泣きそうなようこの顔を見ると罪悪感で自殺したくなるが、心を鬼にして体を起こした。
そして、俯いて震える彼女の肩に手を置く。
「……え?」
「ようこ」
「は、はい……!」
真剣な目でようこを見つめると、彼女は緊張した顔で背筋をピンと伸ばした。
拒絶されるかもしれない恐怖と闘い、勇気を出して胸の内を明かしてくれたようこに応える。
それが、主として、いや男としての責任の取り方だと思うから。
「……ありがとう。好きって言ってくれて嬉しい。二番でいいというけど、それは無理」
確かに俺はなでしこのことが大好きだ。けれど、だからといって女の子に優劣を付けるつもりはないし。その考え自体嫌いだ。
だから、なでしこもようこも、俺の彼女になるなら――。
「なでしこもようこも、大切な女の子。どちらも同じくらい大切にする」
「――っ! じゃ、じゃあ……?」
ぱぁっと顔を輝かせるようこに頷いて見せた。
「……これからも、よろしく」
「~~っ! ケイタ、大好きっ!」
抱きついてくるようこ。全身で喜びを表現してくる彼女を見ていると、なんだか俺まで嬉しくなる。
再びようこに押し倒された俺の頭はなでしこの膝の上にライドオン。ただいま、膝よ。
なでしこもようこが恋人仲間になり、自分のことをように喜んでいるようだった。
まあ、これで一件落着、かな。ところでようこさんや、いつまで人の上に乗ってるつもりですかい?
「んふふ……♪ ケーイーター♪」
ご機嫌のようこは目をトロンとさせて猫のように頬をこすりつけてくる。
圧し掛かることで潰れる二つの膨らみや、ようこの甘い匂いが鼻孔をくすぐり、俺の平常心を崩しにかかる。
頭に感じるなでしこの柔らかな太ももの感覚や、この状況そのものに言いようのない興奮を覚え、理性が削れていくのが分かる。
先程から頬に触れているなでしこの繊細な指使いも、なんだか猥らに思えてきました。
ええ、と……なにごと?
「ねぇ、ケイタ? わたしもなでしこもね、今夜覚悟してケイタの部屋に来たんだよ?」
「……かくご?」
「んもう、ここまで言ってもわかんないの? ケイタのにぶちん」
可愛らしくぷぅっと頬を膨らませたようこはなでしこにチラッと視線を送った。
どこか緊張を孕んだ顔で小さく頷いたなでしこは膝から俺の頭を下すと、ようこの隣に移動する。ようこも体をずらした。丁度、俺の体を境に右にようこ、左になでしことそれぞれ添い寝をするように体を寄せてきたのだ!
顔を赤らめながら潤んだ目で顔を見上げるなでしこ。色っぽい空気を漂わせながら、熱い吐息とともに囁いてきた。
「啓太様……お慕いしております……。もし、啓太様さえよろしければ、今宵……契りを交わしてくれませんか?」
契りって、これはそういう意味、だよな……。
知らず知らず、ごくりと唾を呑み込んだ。
「ケイタ……おねがい。ケイタの手で、わたしを女にして?」
妖艶な目を向けながらようこも囁く。まるで魔性の女が男を誑かすように、頬をエロティックな手つきで撫でてくる!
ぬぉぉぉぉ~~! 理性がぁぁ! 平常心がぁぁぁっ!
「啓太様……」
「ケイタぁ……」
据え膳食わぬは男の恥。
ドロドロに理性が溶かされた俺はその夜、一匹の獣と化した。
多分、R18版も書くと思います。そのうち。