いぬがみっ!   作:ポチ&タマ

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 連投で一日一話お送りします。
 連投一日目。

 ご指摘を頂きましたので、以下を修正しました。
・年齢を3歳 → 5歳に変更。
・一部描写を修正。



第四話「試験当日」

 

 

「ではこれより、基礎霊力測定試験を行う! 名前を呼ばれたものは前に出るように!」

 

 どうも皆さんおはようございます、まだ眠気が取れない川平啓太です。

 とうとう基礎霊力を測る試験が迫って参りました。

 時刻は午前九時。裏庭にはドンッ!と一メートル程の漬け物石が鎮座しており、その前に俺を含めた十二人の子供たちと試験官の男が集合している。

 つか漬け物石でかっ!なんて感想を人知れず抱いていると、次々と名前を呼ばれた子供達が漬け物石にアタックをかましていく。

 どうやらこの漬け物石は特殊な術式が施されており、霊力を付与した攻撃でないとダメージを与えられないんだと。

 しかも、その込められた霊力が直接ダメージに換算されるため、たとえ筋骨隆々の大男が大剣を全力で叩きつけても、それが蝋燭の火程度の霊力しか籠っていなかったら微々たる傷しか残せないらしい。

 目の前には各々のやり方で漬け物石に攻撃する子供達の姿がある。

 ある子は霊力を込めた符を投げつけ、またある子は棍棒のようなものを叩きつけたりと様々だ。それをボード版を持った試験官が紙に結果を記入していく。

 

「大島夢、一〇〇漬け物石! 次、山城琢磨、前へ!」

 

 しかし、霊力の単位なんとかなんないのかねぇ。漬け物石って……そのまんまやん。

 

「たくまさん、がんばってください!」

 

「おう! ……はぁー!」

 

 子分のような子供に声援を送られた琢磨少年は手にしていた木刀に霊力を込めると、気合一つ叩きつけた。

 そこそこ大きい音を出しながら漬け物石の一部を破壊する。

 

「……山城琢磨、五〇〇漬け物石!」

 

「やりましたね、たくまさん!」

 

「おうよ! まっ、オレさまにかかればざっとこんなもんよ!」

 

「さすがたくまさんだ!」

 

 うはー、典型的なガキ大将かよ。なんかス○オとジャイ○ンを彷彿させるんだけど。

 面倒そうだし、関わらないようにしよっと。

 

「次、川平薫、前へ!」

 

「はい」

 

 川平薫? ということはあの子が俺の従弟か。

 髪は耳を隠す長さまであり、中性的な顔立ちをしたその子はパッと見たら女の子のようだ。

 

「いきます。やっ!」

 

 薫少年は懐から一枚の符を取り出すと一瞬の瞑目の後、俊敏な動作で投げつけた。

 先ほどの琢磨少年とは比べ物にならないほどの轟音が鳴る。

 なんと、漬け物石は三分の一ほど破砕されていた。

 

「川平薫……九一〇漬け物石!」

 

 試験官の驚いたような顔から察するに、この歳では結構な数値なのだろう。

 

「九〇〇!?」

 

「すごーい!」

 

「キャー!」

 

「た、たくまさん……」

 

「ちっ」

 

 薫少年は結果に驚くことなく優雅な一礼をしてみせると元の場所へ下がっていった。

 うは、あの歳で大人びてるなぁ。もっと喜んでもいいだろうに。

 

「いま直すからちょっと待ってろ。~~!」

 

 試験官が呪文らしき言葉を唱えると、青白く発光した漬け物石が独りでに修復されていく。

 修復機能付きかよ……。漬け物石のくせに高性能だなオイ。

 

「よし。次、川平啓太、前へ!」

 

 お、いよいよ俺の番か。

 

 前に出ると子供達のひそひそ声が聞こえた。

 

「あれがけいたくん……」

 

「パパが人形っていってたよ? ねえどーいういみ?」

 

「しらないわよ。お人形さんが好きなんじゃないの?」

 

「けいたくんもかおるくんと同じくらいなのかなぁ」

 

 おおう。子供たちの注目を浴びるぜ。無垢な瞳が突き刺さる。

 

 ふと強い視線を感じた。

 

「あの人が、啓太くん……」

 

 見れば薫少年がジッと俺を見つめていた。目が合っちゃったため一応手を振っとく。

 ビックリした顔をした薫少年を尻目に漬け物石と向かい合った。

 

「武器は使わないのか?」

 

 俺が何も持ってきていないのが不思議に思ったのだろう。尋ねてきた試験官に頷き返す。

 

「……男の武器は拳」

 

「そ、そうか。見た目に寄らず男気溢れる言葉だな。では始めなさい」

 

「ん」

 

 右手を引き正拳突きの構えを取る。

 想定した結果を明確にイメージして、それに必要な霊力を生成する。

 確固たる意志のもと、毛の先ほどの油断も過信もかなぐり捨てて。

 これは試験であり、鍛錬である。

 持てる技量のすべてを費やし、この一撃に!

 

「せい!」

 

 大きく踏み込み、拳を放つ。

 大地に根を張った大樹のような重い感触が拳を伝わり返ってきた。

 結果は……。

 

「……川平啓太、一〇〇漬け物石!」

 

 試験官の報告に場がどっと沸く。

 

「一〇〇?」

 

「ぼくは三〇〇だったー!」

 

「夢ちゃんと同じだー!」

 

「ぼく知ってるよ! こういうのを落ちこぼれっていうんだって!」

 

 落ちこぼれー、落ちこぼれーと楽しそうに連呼する子供たち。こういうので騒ぐのはもっぱら男の子だ。

 しかし女の子たちの視線も可愛そうな子を見る目で地味に傷ついたりする。

 まあ俺は喜びで一杯なんだがな!

 

「うっし」

 

 思わずガッツポーズを取る俺に試験官の呆れたような視線が返ってくる。

 

「この結果になんでガッツポーズが取れるんだ君は……」

 

「望んでいた結果」

 

「変な奴だな」

 

 うん、自覚あります。

 恐らく二年前から地道に鍛錬を重ねてきた俺が本気で事に望んだら、それこそ薫と同等かそれ以上の結果を残してしまうだろう。

 そうなればただでさえハイエナのようにしつこい連中が、さらに執拗に迫るのは目に見えている。

 そんなの御免こうむるばい!

 ということで、いっそのこと落ちこぼれと思われればいいんじゃねとの結論に達した俺は思いっきり手を抜くことにした。

 だが、ただ手を抜いたのでは味気ない。そこで霊力のコントロールの鍛錬と思って挑んだのだ。

 今回の目標は小指程度の大きさの傷を残すこと。そのために必要な霊力だけを生み出すことに意識を向けた。

 結果は想像通り、パーフェクト!

 落ちこぼれ認定も受けたことだし。大満足だ。

 

「……ハッ!」

 

 ちょっと待てよ? そうなると、わざわざ落ちこぼれと親しくなろうと思う奴なんていないんじゃ……。

 そうなると、もう一つの目的である『友達を一人作ろう!』が達成できなくなってしまう!

 なんてこった! 策士策に溺れるとはこのことかッ!

 はぁ、今日も友達が出来ませんでした……。

 んじゃ、帰んべ。いつまでもここにいても仕方ないし。

 

「待ってください!」

 

 背後から俺を引き止める声が。

 

「あ、あの、ぼく薫と言います」

 

 薫少年だった。

 緊張しているのか、少し身体が硬くなっているのが分かる。

 

「……啓太。よろしく」

 

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

「ん。それで、なに?」

 

「あの、一つ聞いていいですか?」

 

「ん」

 

「さっき、なんでガッツポーズをしたのかなって……」

 

 あー、アレね。というか見られてたのね、お恥ずかしい。

 

「他のみんなに落ちこぼれなんて言われてるのに、一人だけガッツポーズしていたので気になって」

 

「簡単。嬉しかったから」

 

「えっ?」

 

「力を示しすぎてもよくない。なにごとも程々が一番」

 

「程ほど、ですか……」

 

「ん。これでバカどもに纏わり付かれない。安心」

 

「えっ?」

 

「なんでもない」

 

 いけね。いらんこと言っちまったぜ。

 薫少年は満足したのか微笑んだ。

 

「……面白い人ですね、啓太くんって」

 

 お、おお?これはもしかして、チャンス到来なのではなかろうか。

 よ、よし!ここは押すべきだ。いくぞ、いっちゃうぞ……!

 

「なら友達になって」

 

 内心どきどきしながら、されど外面は涼しげに、さらっとなんでもないように言う。

 薫少年はポカンとした顔で一瞬呆けると、腹を抱えて笑い出した。

 

「あ、あはははは!」

 

「むー。なにがおかしい?」

 

「い、いえ、すみません……ふふっ」

 

 目尻についた涙を拭うと手を差し出してくる。

 こ、これは……!

 

「はい。こちらこそよろしくおねがいしますね、啓太くん」

 

 キター!

 啓太。この歳で初めての友達が出来ました!

 

「ん。よろしく」

 

 しっかりと握り返し返事をする。

 自然と顔が綻んだのが分かった俺であった。

 

 




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