連投二日目。
始めてアニメ版のいぬかみを見ました。
駄目だしするほどではなかったですが、正直う~んな感想でした。声もイメージしていたのと違ったし、なによりあのこてこてした絵が個人的に合わない。
どうもこんにちは。なんとか明日を迎えることができました川平啓太です。
もう先日の依頼は地獄のようだった。誰だよ簡単とか言ってたの! 俺ですねすみませんっ!
長いようでいて短い濃密な時間を過ごした俺は帰宅早々に布団にもぐりこんだ。帰宅した時刻は夜の八時を回っていた。
ようこがお土産お土産うるさかったが、もう寝かせてくれ。ご飯食べる気力もないし……。
一晩寝ることでなんとか最低限の気力が回復した俺であったが、まだ昨日の依頼で負ったダメージは抜けていない。
幸い今日は日曜日。もう今日は丸一日使って心身ともに癒そう。療養だ療養。今決めた、そう決めた!
「ねーケイター! お土産はお土産~!」
時刻は朝の九時。さてどうしようか。
朝日を浴びながら、ぬぼーっと光合成しているとようこが背中に引っ付いてきた。
キッチンからお茶を淹れて来たなでしこが苦笑する。
「ようこさん、あまり啓太様を困らせてはいけないですよ」
「ふーんだ。あんたはいいよね。昨日ケイタと二人っきりで出かけてさ。そういうのをでーとって言うんだよね? ねーねーケイタ~、わたしともでーとしてよ、でーえーとー」
ガクガクと首を揺すってくる。ていうか昨日留守番したのはお前から言い出したんだろうが。
「……やめい」
「きゃん……!」
気持ち悪くなってきたのでズビシッとチョップを食らわせる。
怯んだその隙に立ち上がりようこから離れる。
「まったく……。ちょっと待って」
なでしこから熱いお茶を受け取り、啜りながら冷蔵庫を開ける。
取り出したのは小さな箱。
「うー……。……? なあにそれ?」
頭をさすっていたようこが手にした箱を見る。
ちゃぶ台に置き、箱を開けると。
「……わぁ~! ちょこれーとけーきだー!」
現れたのは三ピースのチョコレートケーキ。
しかも限定品の『にゃんにゃんケーキ』九八〇円(税抜き)だ。
一応帰りが遅くなってしまったからお土産を買ってきたのだ。ようこのことだからおむすびにしようか迷ったが、なでしこの分も考えてチョコレートケーキにした次第である。
「ケイタケイタ! 食べてもいい!?」
「ん。ちゃんといただきます、するんだよ?」
「うんっ! いただきまーす! あむっ」
小皿に分けてあげると待ちきれないといわんばかりにフォークを突き刺す。
頬に手を当てて全身で喜びを味わうその食べっぷりに思わず苦笑した。
隣に座ったなでしこにも小皿を出す。
「……食べようか」
「はい」
……ふむ。にゃんにゃんケーキって言うから猫の顔の形でもしているのかと思ったら、表層に突き刺さってるチョコに猫の絵が描いてあるだけか。
これで約千円とか、ぼったくりじゃね? まあ美味しいけど。
早速、全部食べきったようこが物欲しそうな目を向けている。そんなようこになでしこが自分の分のケーキを半分分けてあげた。
「はい、ようこさん」
「……お礼なんていわないから」
「コラ、ようこ」
「いいんですよ啓太様。私があげたかっただけですから」
そうは言うがな……はぁ。
仕方ないから自分のケーキを半分に切り分け、なでしこの小皿に片方を乗せる。
「啓太様?」
「俺はこれで十分。多いから食べて」
なでしこの顔を見ずにそういうと横からようこが厚かましくもフォークを伸ばしてきた。
「じゃあわたしが食べるー!」
「お前は自分のがあるでしょ」
ペシンと手を叩き落とし、さっさと食べるようにジェスチャーすると、申し訳なさそうでありながら嬉しそうに顔をほころばせた。
「ありがとうございます、啓太様……」
「ん?」
「いえ、いただきますね」
「あー!」
可愛らしく小口を開けて食べるとようこが悲鳴を上げる。
お前、もう少し自重ってのを覚えろ……。
1
昼頃。お昼ごはんも食べ終わった俺はお婆ちゃんの家に言って依頼の報告と報酬をメールで確認したところだった。
報酬金額は十万円。まあ、まずまずといったところか。お金はお婆ちゃんが用意してくれた講座に振り込んでくれるとのことなので、お礼の言葉を返信する。
お婆ちゃんも依頼主の住職からお礼の言葉を貰ったようで機嫌がいい。
(やっぱりパソコン必要だな~。明日あたり学校終わったら買いに行くか)
さて帰んべ。
「帰る」
「おお、気をつけて帰るんじゃぞ。また啓太に任せられそうな依頼があったら紹介するわい」
「ん、よろしく」
お婆ちゃんの家を出て家に帰る。
帰宅途中、ふとペットショップが目に入った。
「そういえば……」
(まだアレ、買ってなかったな)
財布の中身を確認。大丈夫、諭吉さんが光臨している。
ペットショップに入りささっと目当てのものを数個購入。色々種類があったけど、とりあえず店員さんに聞いて一番人気のものを買った。
なでしこたちの喜ぶ顔を思い浮かべると自然と機嫌がよくなる。
軽い足取りで歩行者通りを歩いていった。
「ただいま」
「おかえりー!」
「おかえりなさいませ、啓太様」
出迎えてくれる犬神たち。
ああ、お帰りって言われるのっていいなぁ。なんてサラリーマンのパパさんのようなことを考えつつ部屋に上がる。
「それでどうでしたか?」
「ん。なかなか良い反応だった。お金も結構な額、振り込んでくれた」
この調子でなんとかやっていきたいものだ。
「あら? そちらは」
手に持っていたビニール袋を不思議そうに見るなでしこ。
それにニヤリと――心の中で――笑みを浮かべた。
「……気持ちいいもの」
さて、栄えある
「ようこ、来る」
「ん~? なにケイター」
絨毯の上でゴロゴロしながら漫画を読んでいたようこも呼び出す。
そしてペットショップから購入したものを取り出した。
「……手入れの時間」
――右手に毛梳きブラシ、左手に爪きり。
それらをヒュンッと手の中で回しながらシャキーンと構えた。
そう、ペットショップで購入したのは犬用の毛梳きブラシと爪きりである。
なぜ毛梳きブラシ? なぜ爪きり? と疑問に思うひともいるだろう。甘い、ココアのような甘ちゃんである!
なでしこたち犬神は犬の化身。普段は隠しているが当然尻尾もある。
犬神たちの尻尾は犬のそれと同じく千差万別。ようこはもっさもっさした大きい尻尾。対してなでしこはスラッとしたスマートな尻尾。
定期的に手入れをしないと
それにお婆ちゃんから聞いたところ、犬神たちも主人とのスキンシップを好む傾向があり、主人に触れてもらうとことのほか喜ぶとか。
はけもブラッシングや爪きり、頭や背中を撫でたりなどは犬神たちにとって格別のご褒美になるとか言ってたし、もうまんま犬だなと思いましたはい。
なので定期的にブラッシングや爪きりなどをしたり遊んであげるといいとのありがたいアドバイスを貰いました。
要はあれだなあれ。犬がされて喜ぶことは犬神たちも嬉しいということだな。まあ犬の化身だしあながち間違いではないのかも。
今回の依頼ではなでしこにも苦労をかけたし、ようこも一人で問題を起こすことなくお留守番できたから、俺の精神回復の意味も込めて初スキンシップを図ろうかと、まあそういうことだ。
「わぁ♪ お手入れしてくれるの!?」
ようこもやっぱり嬉しいのか目を輝かせてドロンと狐色の尻尾を出すと、それを膝の上に乗せた。
なでしこも後ろで「いいなぁ、ようこさん」と言いたげな目で見ている。
苦笑した俺はなでしこにも後でやってあげると声を掛けると、彼女も嬉しそうに小さく微笑んだ。ドロンと出したスマートな尻尾が小さく波打っている。
なでしこですらこうなのだから本当に犬神たちはスキンシップを好むんだなと改めて感じた。
「ねえケイタ! 早く早く♪」
「……はいはい」
ちなみになぜようこが最初なのかというと、彼女の尻尾がなでしこより大きいというのと、多少失敗してもコイツなら許される気がするというゲスい思考によるものだったりする。
まあ爪きりならともかくブラッシングで失敗もクソもないと思うが一応な。
「じゃ、早速……」
購入した毛梳きブラシは今一番売れ行きがいいもの。製品名ファー○ネーターというパッと見、髭剃りのような形をしているブラシだ。というかター○ネーターみたいな名前だな。
毛を梳く部分はステンレススチールの刃になっており尖っていてちょっと痛そう。というか肌に押し当ててみるとちょっと痛いし。
これは気をつけて使わないといけないな。毛を梳きました、血だらけになりましたじゃ話にならん。
「えーと……」
説明書と睨みっこする。
なになに、まず傷の有無の確認? うむ、もっふもっふしていて大丈夫だな。
本品のグリップを軽く握ってステンレス刃を直角(九十度)に当てて軽く梳くと。
「……おおっ」
面白いくらい梳けるな!
こんなに大きいんだから毛の絡まりや引っ掛かりがあるかと思ったが、まったく抵抗なく刃が通る。
あ、なんかこれクセになりそう。
さり気にもふりつつブラシを動かしていく。
「~~♪」
ようこも気持ちよさそうだ。
ようこの毛はもっさもっさしているが触り心地はそんなに悪くない。
サラサラしたような質感ではないが、毛深いため弾力がある。
「……それにしても、ようこの尻尾、大きい」
まさしくもふりがいがあるってものだぜ。
俺的には褒め言葉に近い好意的な意味で言ったのだが、それを聞いたようこはなぜかショックを受けた顔をした。
ふわりと、尻尾が手の平から離れていく。
「大きすぎるの、いや……?」
お、おいおいおいおい。なんだよその反応。
恥ずかしそうに俯きながら、不安そうにチラチラこっちみちゃってさ。
くそ、ようこにこういう態度を取られると調子が狂うな……。
「そんなことない。健康そうでなにより」
「そう……よかった」
ホッと吐息を漏らすようこ。しかし、ここで終わらないのがようこがようこたる所以だった。
「じゃあ、啓太は大きいのと小さいの――ううん、わたしの尻尾となでしこの尻尾、どっちが好き?」
「え?」
突然自分が引き合いに出され、素っ頓狂な声を上げるなでしこ。そんな彼女を余所にニマニマと悪戯っ子の笑みを浮かべて聞いてくる。
よくある漫画や小説に出てくる主人公ならここで慌てふためき、どっちもなんて優柔不断な言葉を述べることだろう。
しかしこの啓太、そんな心にも無いことを述べることなぞせぬ!
自分に素直に、正直に! たとえ相手がそれで傷ついても言葉に偽り無くはっきりと明言する。
なので、素直になでしこと言いました、はい。
「なっ……!」
「えっ……?」
二度目のガーンを喰らい、ショックを受けるようこ。その後ろでは方向性が真逆な衝撃を受けながらも恥ずかしそうにもじもじするなでしこの姿があった。
だってねぇ。大きい尻尾もいいけれど、なでしこくらいの尻尾のほうがスマートでいいと思うし。
それにそんなに大きいと夏は地獄ですよ? なでしこの尻尾は触っていて気持ちいいもの。
まあようこの尻尾も好きだけどね。冬には快適だと思います。
というか、俺がもふもふで妥協するとでも思ったかー!
「……ポチっとな」
ある程度梳いたらブラシの突起を押し込む。すると、刃に溜まった抜け毛を取り除ける仕様になっている。
これはいいな。二千円でこの使い勝手はお買い得じゃないか?
一通り毛を梳き終わると、ようこはぐでんぐでんのタレようこと化していた。そんなに気持ちよかったんかい。
さて、お次はそこで座りながらモジモジと膝を揺すっているなでしこさんだ。なんかトイレを我慢しているように見えるからお止めなさい。
膝に乗った尻尾をペイっと払うと、勢いに任せてそのままくてんと倒れるようこ。そんな彼女の隣で開いた膝を軽く叩く。
「……次、なでしこ。おいで」
「はい……」
やめて、そんな恥ずかしそうにしないで。俺も恥ずかしくなるから。
「……なでしこ。ちょっとスカート、上げる」
「はぅ……はい」
なでしこが着る和服はスカートの丈が長いから、尻尾の大半が隠れてしまう。そのためスカートを上げてもらわないとちゃんと梳けないのだ。
(というか、いつも思うがなでしこの服って和製メイド服だよなぁ……)
羞恥で頬を薄く朱に染めながら殿部のスカートを上げる。
一瞬下着が見えそうになるが、見えるか見えないかのギリギリのラインを保つ。ふっ、さすがはなでしこ、自然と男心を巧みにくすぐる。
なでしこの尻尾は綺麗な銀灰色をしている。ようこの狐色の尻尾といい、どういう基準でそういう色になっているのだろうか……。
そっと膝の上に乗せた尻尾を軽く握ると、ビクンッと身体を震わせるなでしこ。それを見て俺もビクンッと驚く。
「な、なに? 痛かった?」
「い、いえ、すみません……! 少し驚いてしまいました」
そ、そうっすか。じゃあ気を取り直して。
なでしこの尻尾は片手に納まるサイズだ。ようこのは両手でがっちり握れる太さだからな。
質感もなでしこの髪と同じくサラサラで、撫でていて非常に気持ちが良い。
「あっ……ん、ふっ……」
ついつい素手でシュッシュッとしごくように撫でていると、なでしこさんの口から艶かしい声が出てきました。
おうふ……。これ以上は俺の理性がガリガリ削れるから自重しよう。惜しいがな!
スチャッとファー○ネーターを構え銀灰色の尻尾を優しく梳く。
「ん……これはいいですね」
「そう? 気に入ってもらえたなら、よかった」
気持ちよさそうに目を閉じて毛を通す感覚に身を任せる。
俺も朗らかな気持ちでブラシを動かした。
一通りブラッシングが終わる。さすがにようこのようにぐでんぐでんにはならないが、それでもいつもより表情が柔らかい。
「……じゃあ、次は爪きり。ほらようこ。寝てたら先に、なでしこからやるよ?」
「待って~! わたしからわたしから!」
慌てて起き上がるようこに苦笑する。
今日は良い一日になりそうだ。
ファー○ネータはアマゾンで調べたら出てきました。
啓太の口調ですが、普段は短文または単語しか喋りません。
しかし依頼や社交辞令など必要に駆られればそれなりに喋ります。
なでしこやようこなど家族、もしくは気の許した相手でもそれなりにしゃべります……が、やはり短文が多いです。
ちなみに長文を喋ろうとすると以下のようになります。
「今日お隣さんの家からカレーをお裾分けしてもらったから夕飯はカレーにしよう」
↓
「今日、お隣さんの家からお裾分けしてもらった。カレー。夕飯はカレー」
このように句読点で区切るか、言葉を入れ替えないと喋れない仕様になっております。
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