いぬがみっ!   作:ポチ&タマ

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 引っ越し~♪ 引っ越し~♪ さっさと引っ越し~♪
 さすがに古いか(笑)

 前書きに書いた感想での注意事項ですが、多くの方に不快な思いをさせてしまうとのことなので、あらすじに移動しました。
 読者の皆様には大変不愉快な思いをさせてしまい、真に申し訳ございませんでした。

 ご指摘を頂きまして、以下を修正します。
・LDK → 1LDK(脱字)
・買い物の描写を一部修正。


第十六話「お引越し」

 お婆ちゃんが紹介してくれたアパートがある神奈川へと向かった俺たち。

 大家さんには事前に連絡してある。

 

「ここが今日から住むお家なんですね」

 

「ケイタケイタ! ここに住むの~?」

 

 アパートを見上げて感慨深そうに目を細めるなでしこと、キラキラした目ではしゃぐようこ。

 俺もこれからお世話になる我が家を見上げた。

 どこにでもあるような普通の二階立てアパート。外壁には亀裂もツタもなく結構綺麗な外観をしているだ。

 さて、まずは挨拶をしないと。

 

「大家さん、挨拶いく」

 

「そうですね。これからお世話になりますから」

 

 なでしこの言葉に頷き、事前に聞いていた号室へ。

 インターホンを鳴らす。

 

「はーい」

 

 大家さんは中年のおばさんだった。

 中肉中背のパンチパーマのおばさん。噂好きの主婦のような感じだ。

 しかし、表情は柔らかくパッと見の印象は悪くない。

 大家さんはなでしこを見て、となりに立つようこに視線を移し、最後に俺へと目を向けた。

 

「あら、もしかして?」

 

「はい。今日からお世話になります。川平啓太です」

 

 ぺこっと頭を下げる。

 大家さんはパァっと顔を輝かせた。

 

「君が啓太くんね! お婆様から話は聞いてるわ。私が大家の高松順子です」

 

「よろしくお願いします。彼女たちは僕の犬神、なでしことようこです」

 

 俺の紹介になでしこがうやうやしく頭を下げる。

 

「なでしこです。主ともどもよろしくお願い致します」

 

「あらあら、ご丁寧にどうも。それじゃあ早速案内するからついて来て」

 

 簡単に挨拶を済ませ、大屋さんに先導してもらう。

 階段を上った一番手前が俺たちの部屋だそうだ。

 

「さ、入ってちょうだい」

 

 促されて部屋に入る。

 

「おー」

 

 中は思っていたより結構広い。

 部屋は1LDKのI字型で広さは二十畳。襖を境に八畳の和室と繋がっている。

 トイレと浴室は別々。和室の奥側にはベランダがあり、日差しが差し込んでいる。

 部屋は広いし日当たりもいい。エアコンも完備してあるのは嬉しいね。

 予想以上の好物件だ。

 

「いい部屋ですね」

 

 部屋の中をざっと確認したなでしこも好印象。ようこはふ~んと言いながらキョロキョロ見回している。

 

「気に入った。感謝」

 

「気に入ってくれたようなら嬉しいわ」

 

 大家さんも俺たちの反応にニコニコ笑顔だ。

 その後、ゴミ出しの曜日や家賃、アパートのルールなどを教えてもらった。

 

「――とりあえずはそんなところかしらね。なにかあったら遠慮なく相談しなさい」

 

「はい」

 

「ご丁寧にありがとうございます」

 

 さて、大家さんを見送った俺たちだが、まずは買い物をしないと。

 

「では近辺の地理の確認も含めてお買い物に行きましょう」

 

「ん。色々と入用。テレビ、冷蔵庫……」

 

「流石に一度には買えませんよ? 持ち帰るのが大変ですからね」

 

「あ、そか。じゃあなに買う?」

 

「ケイター、ねえねえ遊ぼうよ!」

 

 ねーねーといいながら抱きついてくるようこ。

 ふむ。時間も丁度昼時だし、腹ごしらえからするかな。

 

「……食べに行くか」

 

「そうですね。確か駅前にファミリーレストランがありましたね」

 

「……? ふぁみりーれすとらん?」

 

 可愛らしく小首を傾げる。犬神だからそういったところに行ったことないのかな?

 

「美味しい食べ物、たくさんあるところ」

 

「ホント! おむすびもあるの!?」

 

「おむすび?」

 

 多分ないんじゃないかなぁ。つか、なぜおむすび?

 と、そうだ。その前になでしことようこの服を買わないと。

 今二人が着ているのは前に見た割烹着と着物だ。流石にこの格好で食事にはいけない。

 んじゃあ、まずはデパートからだな。

 

 

 

 2

 

 

 

「ねーねーケイタ! あれなーにー?」

 

「……自販機」

 

「じゃああれは~?」

 

「……郵便、ポスト」

 

「あっ、あれいい匂いする~!」

 

「ふらふら、行かない」

 

 さっきそれで勝手に売り物に手を出したんでしょうがお前さんは。

 見るものすべてが新鮮らしく、あっちにふらふら、こっちにふらふら。

 しかも社会の常識にも疎く、美味しそうな食べ物を見るとひょいっとつまみ食い感覚で手を伸ばす。本人には悪気がないというか、叱ると『なんで?』と純粋な目で見てくるからたちが悪い。

 でも、なでしこはその辺の常識は大丈夫なんだよなぁ。単純にようこがアレなだけか? この辺りもちゃんと教えていかないとダメだな……。

 

「……」

 

 それにしても視線を集めるな、この二人は。

 街中を歩いていると男たちの視線がなでしこたちに集まり、次いで俺に視線が向い「なんだあの男は?」と殺気をこめて睨まれる。

 中には同じ女性でありながら見惚れる人が出てくるんだから、改めて彼女たちの容姿が抜群に秀でているのだなと再認識した。

 ピンと背筋を真っ直ぐ伸ばして楚々と歩くなでしこ。桃色という目に優しくない髪はいわゆるショートボブ。両端だけ肩の高さまで伸びている。

 翡翠色の眼は柔らかく優しげな色を浮かんでいる。 

 対してスキップなど躍動感溢れた動きでうろちょろするようこ。彼女は緑色というある種のファンタジーを感じさせる髪でお尻の高さまである。長髪だからさぞかし洗いにくいだろうなぁ。

 紅緋の眼は好奇心に満ち溢れ、本人の明るい性質が色濃く表れている。

 どちらも整った顔立ちをしており、テレビの向こう側でも十分通用するレベルだろう。そこいらのアイドルよりよっぽど可愛いと思う。

 可愛い系美少女のなでしこと綺麗系美少女のようこ。タイプは違えどどちらも美少女な上に二人とも着物を着ているんだから視線が集まって当然か。

 ていうか、何気に三人歩いていて気がついたんだが、この中で一番俺が身長低いんだよね……。

 現在一五〇センチの俺だが、彼女たちの方が目線が若干上なのだ。たぶん一六〇辺りはあるんじゃなかろうか。二人はそんなに差はないようだけど。

 いいさいいさ。成長期で育ち盛りだからすぐに追い抜かしてやるもんねー。

 

「買うもの買った。ご飯行こう」

 

「そうですね。荷物はようこさんのおかげで自宅に運べましたし、このままお食事にしましょう」

 

「ん。ようこ、頑張った。なんでも食べていい」

 

「ホント!? じゃあじゃあ、わたしおむすび十個食べたい!」

 

 だから、ファミレスにおむすびないって。帰りにコンビニ寄るからそれまで我慢しなさい。

 デパートでは取り合えず着替えや食器、食材などを買い、冷蔵庫や電子ジャーなどの家電製品、家具などは後日にしようと思っていたが、ようこのおかげで良い方向に予定が狂わされた。

 なんでも『しゅくち』という周囲のものを瞬間移動させる技が使えるようこ。その技を遺憾なく発揮してもらい買ったものを片っ端から自宅に転送してもらったのだ。

 人前で『しゅくち』を使うと目立つが、そこは俺。周囲に気を配り人目がつかないように事を済ませ、気がつけば大体のものを購入し終えていた。後はテレビなど契約が必要なものを買うだけだ。

 いやー、宅配という概念に喧嘩を売るような能力だわ。ようこ様様。

 出会ってから極めて短い時間のなかで何度も俺を困らせてきた問題娘だったが、今なら如何なる悪事を働いても仏の心で赦せそうだ。

 ということで、大活躍したようこさんには特別にメニューのものを何でも頼んでもいい権利を与えたのだ。

あ、なでしこも遠慮しないでね? なでしこのお陰で買えたんだから。

いざ買おうとしたとしたところでふと思ったのだが、電製品どころか家具一つ買えないのではと気がついた。

なら前世でも大変お世話になったネット通販で購入するしかないかなと、そっち方向に手を伸ばそうと思ったが、そこで待ったをかけたのがなでしこだったのだ。

ネット通販ではなく実際に目で見ないとサイズなどが正確に分からない、目で見て手で触れるからこその買い物なのだと懇切丁寧に説明。支払いは代わりにしてくれるとの話なので代金を持たせて代わりに買ってもらった。

なのでなでしことようこ、二人がいてくれたからこそ今回の買い物というミッションは成功したのだ。で、あればなんらかの形で報いなければならない。まあ、早い話がありがとうということだ。

 ちなみに今二人が着ている服だが、ようこの方だけTシャツにスカートという服装に着替えてもらっている。なでしこは今のままでいいとのことなので、一応数着買いはしたが自宅行きだ。

 

「いらっしゃいませ~」

 

 ファミレスに入ると元気な店員さんの声が出迎えた。

 昼時だからそこそこ人がいるな。あ、禁煙席で。

 ウエイトレスさんに四人掛けの席へ案内してもらいメニューを貰う。

 席はなでしことようこ。向かいに俺という形だ。

 

「人間の食べ物ってどれも美味しそうね~!」

 

 熱心にメニューに目を走らせるようこ。その隣ではなでしこが微笑みながらメニューに目を落としている。

 

「啓太様は何になさいますか?」

 

「オムライス」

 

「わたしこのお肉!」

 

「ん。なでしこは?」

 

「あ、はい。私はこの和風定食セットにします」

 

 ようこはハンバーグでなでしこは和風定食セットね。というか、なでしこさんの和風定食セット、白ご飯と味噌汁、焼き魚、サラダ、漬け物って、まんま朝ごはんのメニューやん。これで納豆と卵焼きもあれば完璧だな。

 ようこはハンバーグにご飯もつける? はいはい。

 ウエイトレスさんに注文する。あとは待つだけだ。

 

「啓太様はオムライスがお好きなんですか?」

 

「んー。まあまあ好き。なでしこは? なにが好き?」

 

 そういえば俺、なでしこのこと全然知らないんだよな。好きな食べ物や嫌いな食べ物とか。

 

「私ですか?そうですね……特にこれといったものはありませんね」

 

「そうなの? じゃあ嫌いなのは?」

 

「私、好き嫌いがないんですよ」

 

 密かな自慢なんです、とはにかむなでしこに驚く。

 好き嫌いなし!? そいつはすげぇ!

 俺なんて口に入れるだけで拒絶反応を起こすものとかあるのに。好き嫌いな意味で。

 

「ケイタ! わたしにも聞いて聞いて!」

 

 それまでメニューを熱心に眺めていたようこが顔を上げた。

 といっても、お前さんの好物なんて……。

 

「……おむすび?」

 

「すごーい! よくわかったねケイタ!」

 

 わからいでか。

 

「おむすびはね、わたしの思い出の味なんだ」

 

 そう言って俺の目をジッと見つめる。なんだ、そんなに見つめて。

 しばしジッと見つめ合う俺たちだが、ようこが嘆息とともに視線を切って終わった。解せぬ。

 

「啓太様は嫌いな食べ物ってありますか?」

 

 俺の嫌いな食べ物? たくさんあるよ。

 

「ブロッコリー、ピーマン、カボチャ、ニンジン、インゲン、セロリ、ナス、トマト……」

 

「た、たくさんありますね」

 

 ぶっちゃけ緑黄色野菜全般です。あ、キュウリとレタスとキャベツは大丈夫。

 

「この辺りは改善していかないとダメね……。わかりました。私がなんとか食べられるように工夫しますので、一緒に頑張りましょうね!」

 

 おうふ。そんな頑張りはいらないです……。

 キラキラした目で見ないで。

 

 

 

 3

 

 

 

「おいしー!」

 

 ハンバーグを食べたようこの感想がこれだった。

 目をキラキラ輝かせている。何気にこれがようこにとって初のハンバーグだな。

 

「おいしい?」

 

「うん! あのねあのねっ、食べたらお肉がジュッてなってブワーッて!」

 

 身振り手振りで感動を分かち合おうと表現してくれるが、擬音ばかりでさっぱりだ。

 だが、本人はとても満足しているのは確か。よかったよかった。

 綺麗に食べつくしたようこは満足そうにお腹を撫でる。

 隣ではなでしこが上品にナフキンで口元を拭いていた。

 

「デザートにする」

 

「でざーと?」

 

 ……とりあえずようこはチョコレートケーキでも食べとけ。

 甘いものが好きな女の子でこれが嫌いな子はあまり見ないし。

 

「なでしこ、なににする?」

 

「私は大丈夫です」

 

 微笑みながら優しく断るなでしこ。んー、やっぱりまだどこか遠慮してるところがあるっぽいなぁ。

 どうしたもんか、と内心では首を捻りながら俺はクリーム餡蜜にする。

 さほど待つことなく届くデザート。

 

「ケイタ。これがちょこれーと?」

 

「ケーキ」

 

「ふーん。確かに甘い匂いがするね」

 

 ま、一口食べてみ。

 フォークで小さく切り分け、その小さな口の中へと消える。

 瞬間、フォークを加えたままピシッと石のように固まった。……あ、あれ? もしかして口に合わなかった?

 とりあえず口直しに俺の食べさせるか。

 そう思いスプーンを掬おうとするが、石化が解けたようこはでれっと顔を蕩けさせた。

 その反応で十分だった。

 

「……おいしい?」

 

 喋るのも億劫というようにコクコクと無言で頷く。

 そっすか。まあ気に入ってくれたのならよかったよ。

 なでしこはそんなようこの反応を微笑ましそうに眺めていた。

 

「なでしこ」

 

「はい?」

 

「……あーん」

 

 俺たちだけデザートを食べるのもあれだしな。

 お裾分けとスプーンを差し出すと、ポカンとした顔のなでしこは顔を赤らめた。

 

「あ、あー……」

 

 小さく口を開ける。恥らうその顔めっさ可愛ええ……。

 なんか、俺まで恥ずかしくなってきちまったじゃねぇかコンチクショウ!

 何食わぬ顔で食べさせた俺だったが、少しは顔に熱を持っているかもしれない。とりあえずさっさと食べようと、再びクリーム餡蜜を口に運ぼうとすると。

 

「……」

 

 なでしこの視線がスプーンに向けられているのに気がついた。

 恥ずかしそうに俯きながらチラチラとスプーンをチラ見している。

 ――ハッ! これは、もしかしなくても間接キスになるじゃまいか!

 どうしよう。新しくスプーンを取り替えるのも言外に意識してますよと言ってるようなものだし、ここは気づかない振りをするべきか?

 チラッとようこを見る。大丈夫、チョコレートケーキを食すのに夢中でこちらの微妙な空気には気づいていない。

 

「……」

 

 結局、そ知らぬ顔でクリーム餡蜜を食べました。空調が利いてるはずなのに顔が熱いです。

 恥ずかしくてなでしこの顔が見れません。クリーム餡蜜? さあ、美味しかったんじゃないの!?

 




アパートが神奈川なのは特に意味はありません。実家からほど遠い場所ということでそうなりました。

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