いぬがみっ!   作:ポチ&タマ

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 狐の鳴き声って「コンコン」じゃないんですね。
 なんか「キューン」のような犬みたいな声でした。

 以下を修正しました。
・啓太の台詞の一部を修正。


第十一話「出会い その二」

 

 どうも。人間の汚い所を再確認した川平啓太です。

 とりあえず、このファッキン野郎共は後でお婆ちゃんに差し出すとして、今は気絶させておこう。

 頚動脈を絞めて落とす。淡々と気絶させていく姿に少年の怯えた視線が突き刺さる。

 程なくして二人の意識が落ちたのを確認した俺は霊力を物質化する力で頑丈な鎖を作り出し、雁字搦めにして放った。

 

「さて……」

 

 問題はこの狐ちゃんだ。俺を警戒しているのか低い呻り声を上げながら威嚇している。

 ――追い込まれた狐はジャッカルより強暴だ!

 

「……?」

 

 なんだろう、一瞬前世の記憶が電波を受信したような……気のせいか?

 まあいい。今はこの子をなんとかしないと。

 目線を下げてあまり刺激を与えないように、そろそろ~っと手を伸ばす。

 

「キュァーッ!」

 

 うおっ、歯を剥いたぞ!

 思わずビクッと手を引いてしまったが、そんなことでへこたる俺ではない。

 もふもふの前にはこんな恐怖、飼い慣らしてくれるわー!

 などと威勢よく心の中で叫んだは良いが、結局そろそろ~っと手を出す。噛まれるかもと思ったら、ね。反射的に、ね。

 

「キュゥゥゥ……ッ!」

 

 差し出した手に噛み付く狐。

 反射的に身体強化で肉体の耐久性を上げたおかげで痛みはそんなに感じなかった。

 ……そうだよな。罠をかけられて危うく売り飛ばされそうになったんだから、そりゃ警戒するよな。

 ここは距離を置いて刺激を与えないのがベストなのかもしれないが、俺には出来そうにない。

 

「……大丈夫」

 

 優しく、優しく、傷ついた心を癒すように。慈愛の気持ちを込めながら触れるように頭を撫でる。

 俺は敵じゃない。ここにキミを脅かす存在はいない。

 

「怖くない」

 

 時間にして十秒くらいだろうか。

 荒れた心を宥めるように撫でていると、呻り声が止む。

 

「キューン……」

 

 それどころか、か細い声を上げて噛み付いた手を舐めた。

 ペロペロと舐めるその姿から、ごめんね、ごめんね、と声なき声が聞こえてきそうだ。

 表情を緩ませた俺は少し強めに頭を撫でた。

 

「大丈夫。気にしない」

 

 そういえばと、狐の足を見る。

 相変わず忌々しいトラップが狐の足に噛み付いていた。

 

「外すから。ちょっと痛むかも」

 

「キュゥ~」

 

 なるべく痛みを与えないようにそっと罠を解除する。

 前世の謎知識はトラップの解除方法まで知っていた。久々に役に立ったな謎知識。

 ちなみにトラップの種類はトラバサミと呼ばれるものである。

 

「ん……よし。良く頑張った。偉い偉い」

 

 相当痛むであろうに大人しくしていた狐を褒める。

 刃はそこまで食い込んでおらず、傷もそんなに深くなかったのが幸いだった。

 本当はこのまま治療に移りたいんだけど、生憎手元には消毒液も包帯もない。

 仕方がないので服の袖を破って包帯の代わりにする。あとは自然治癒に期待するしかないだろう。

 一通りの処置も終えて、ようやく一息つける。

 

「……ん?」

 

 狐ちゃんがマイリュックに顔を寄せてスンスンしているではないか。

 食べ物の匂いに釣られたのかな?

 食べようとしていたおむすびを取り出すと案の定。おむすびをガン見してきた。

 右に左にと持っていくと同じように顔が動く。やばい超可愛い……。

 

「一緒に食べよう」

 

 幸いおむすびは二つある。それに知らん振りできるほど性根が腐ってるつもりはないし、こんな可愛い生き物をシカト出来るほど俺の精神は強くない。

 取り出したおむすびをあげると鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。その後、大きく喰らいついた。

 

「おー。良い食べっぷり」

 

 あぐあぐと一心不乱に口を動かす。

 俺ものんびりとおむすびをぱくついた。

 

 

 

 1

 

 

 

 名残惜しそうに「キューン」と鳴く狐と別れる。

 そのまま頂上を目指したいところだが、この馬鹿二人をお婆ちゃんの元に届けないといけないから戻らないと。

 ということで、馬鹿二人を担いで来た道を戻りお婆ちゃんの所へ向かう。

 

「おばーちゃん」

 

「ん? なんだい啓太……なにやってんだい?」

 

 両手がふさがっているため行儀悪く足で襖を開ける。お婆ちゃんは両肩に担いだ荷物に目を丸くしていた。

 ぺいっ、と乱雑に荷物を放り捨てる。

 

「啓太っ、そんな乱暴にするんじゃないよ!」

 

「お婆ちゃん。こいつら……ファッキン野郎」

 

「は?」

 

 こいつらが山でなにをしようとしていたのかを説明すると、お婆ちゃんの目がスッと細まった。

 

「……啓太。それは本当かい?」

 

「ん。そう言ってたし、現行犯逮捕した」

 

「……そうか。はぁ、この子たちは前から色々と問題を起こしてきたが、まさか犬神を売るなんて大それたことをするとは……」

 

「たぶん、本人たちは白を切る」

 

「だろうね。それで、啓太はどうしたいんじゃ?」

 

 流石お婆ちゃん話が分かる。

 ニヤッと顔を歪めた――実際は少しだけ目が細まった――俺は胡乱な目を向けるお婆ちゃんを見据えた。

 

「口を割らす。お婆ちゃんは口を出さないで」

 

「……本来なら止めるべきなのじゃが、事が事だしのぉ。あまりやりすぎるなよ?」

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

 さて。話もついたことだし、早速ご本人たちに説明してもらいましょうかね。

 おらっ、起きんかい!

 鎖を解いて気付けの一発を放つ。

 

「――げほっごほっ!」

 

「――……うぅ、なんなんっすかぁ?」

 

 どうやら目が覚めたようだなファッキン野郎ども。

 まだ目覚めたばかりで状況がよく理解できていない二人の前に立つ。

 

「あの山に入って、何しようとした?」

 

「な、なんもしてねぇよ! テメェ……覚悟しろよ。このことは母ちゃんに言うからな!」

 

「なんにもしてないなんてウソ。見てたよ。犬神捕まえて売ろうとしてたでしょ」

 

「知らねぇよそんなの! そうまで言うなら証拠出してみろよ!」

 

 し、白々しいなこいつ。親の顔が見てみたいぜ……。

 まあそう言うならそれはそれでいいよ? 聞きだす方法なんて無数にあるんだから。

 

「……ならいい」

 

「あぁ?」

 

「言いたくないならいい」

 

 琢磨少年の両足を掴み、股の間に足を差し込む。

 

「身体に聞く」

 

 そのままガガガッと股間に振動を加えた。

 俗にいう電気アンマだ。

 

「おおおおおおぉぉぉッ!?」

 

「た、琢磨さん!」

 

 子分がこちらに寄ってこようとするが、お婆ちゃんの睨みと俺の殺気に腰を落とした。

 お前も後で味わうんだから今は大人しく見ておけ。

 

「て、てて、テメェェェ! ききききたねぇぞぉぉぉおおおおおお!?」

 

「なにしようとしたー?」

 

「ぐぐぐぐぐっ! こ、これしきのことでぇぇぇ……ッ!」

 

「啓太がギアを二つ上げた件について」

 

「おおおぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼッ!?」

 

 ほれー、ほれー。このままじゃ生殖機能に障害が生じるぞー?

 将来困ったことになるぞー?

 男としての尊厳を失うぞー?

 

「わわ、分かった! 言う! 言うからっ!」

 

「言いたくなって言ったから、言わなくていい」

 

「あああああ!! 言いますッ! 言わせてくださいお願いしますっ!!」

 

 なんだもう終わりか。根性無しめ。

 最後に一際強く蹴り「あふんっ!?」電気アンマを終了する。

 あとで入念に足を洗わないと。

 

「なら言う。誤魔化したり言い淀んだら……分かってるね?」

 

「はぃぃぃ……」

 

「た、琢磨さん……」

 

 ポロポロと大粒の涙を零しながら『計画』を喋り出す琢磨。

 そんな彼の変わり果てた姿を子分は震えながら呆然と眺めていた。

 

 

 

 2

 

 

 

「はぁ……頭が痛いわい」

 

 あの後すべての話を聞いたお婆ちゃんは至急二人の両親を呼び、此度の事件を説明。

 これは川平の者として。否、犬神使いとして決してやってはならないことであり、それがたとえ子供であったとしても罪は重い。

 よって、二人は犬神使いの資格なしとして今後、裏の世界と関わらないことを言い渡す。また、子の責任を取るため、二人の両親は川平と縁を切ることになった。

 ちなみに琢磨少年とその子分は両親から勘当を言い渡されたらしい。まあ自業自得だが、この先二人はどうするのかねぇ。聞いた話では親戚の家に厄介になるらしいが、肩身が狭いだろうな。まあ、俺にはもう関係ない話か。

 今回の話は内々に処理され、事件を知っているのは当事者のみ。

 お婆ちゃんお疲れ様だね。

 

「あの二人には可愛そうなことになったが、こればかりは仕方が無い話じゃ……」

 

「元気出す」

 

 お婆ちゃんは人が良いからなぁ。気に病んでいる祖母にお茶を淹れてあげる。

 

「おお、ありがとう啓太や」

 

 ずずっと一息ついたお婆ちゃんは何かを思い出したのか勢いよく顔を上げた。

 

「そうだ忘れておった。啓太や、来週から仙界に行ってもらうから」

 

「……ん? 仙界?」

 

「毎年この時期になると仙界と繋がる道が開かれていてな。八歳になったら仙界で修行を積み、仙人と契約してもらう慣わしなんじゃ」

 

「お婆ちゃんも?」

 

「ああもちろん。儂も啓太と同じくらいの歳に修行に向かい契約したよ。これは犬神使いとして必要なことなんじゃ」

 

「なるほど」

 

 仙界……仙界かぁ。どんなところなのかな?

 仙人ってやっぱり白髪が生えたお爺ちゃんで霞を食べてるのかな。

 なにはともあれ、来週から仙界に向かうことになりました。

 

 




あ、あれ? なんか、なでしこよりようこの方にフラグが立ってしまったような……。
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