いぬがみっ!   作:ポチ&タマ

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 連投最終日。



第八話「異能」

 

 

 どうも皆さんこんにちは。最近鍛錬で伸び悩んでいる川平啓太です。

 ただ今俺は中庭ではけと組み手をしている。

 ここ最近独りでの鍛錬に限界を感じていた俺ははけに頼み組み手の相手をしてもらっている。

 はけなら結界を張れる上に戦闘経験も豊富だ。さらに俺の保有霊力量も知っているから気兼ねなく相手として最適でもある。

 

「しっ!」

 

 霊力で強化した身体能力を遺憾なく発揮し、両手に持つ二本の刀を振るう。

 対してはけも扇子で上手く刀をいなし、あるいは受け止めて凶刃からするすると逃れる。

 

「破邪接破一式・凶刻」

 

 扇子を振るうと左右から霊力で出来た刃が襲い掛かった。

 刃の挟撃。

 身体を独楽のように回転させてそれらを叩き斬る。 

 

「やりますね、啓太様!」

 

「そっちも。ふっ!」

 

 逆手に持ち直した刀を二本とも全力で投擲。

 危なげなく結界で防がれるが、僅かな隙を逃さず接近する。

 新たに生み出した刀を右手に把持して。

 

「霊力の物質化でしたか。ここまで厄介なものとは!」

 

「お財布にも優しい」

 

 そう。この刀も、先ほど投げた刀も、すべて俺の霊力で出来ている。

 鍛錬の中で偶然発見することが出来た能力。それは霊力を明確にイメージした形に形成して外界へ固定するという規格外な力。

 それが、二年前に発見した俺の能力『霊力を物質化する力』だ。

 逆袈裟懸けの一撃を扇子で受け止める。

 はけの持つ扇子も霊力か何かで強化しているのか、破損する様子なく両者の力が拮抗した。

 

「しかしっ、物質化する速度が速くなってきましたね!」

 

「超頑張った!」

 

 俺の『霊力を物質化する力』も万能というわけでなく制限というか、欠点がある。

 それは物質化する対象を明確にイメージしないと、生み出せたとしてもひどく脆い質と構造になってしまうという点。

 そのため、刃物などのイメージしやすい構造ならまだしも、銃器の類など内部構造がよく分からないものは物質化できない。

 そしてもう一つ、物質化に費やす霊力量によって、対象の物質化有効時間が左右するという点だ。

 例えば物質化するのに十の霊力を費やした場合、数十秒後物質化した対象は霧散してしまう。が、百の霊力を費やした場合、霧散するまで数時間の猶予があるのだ。

 また、一度物質化したものは時間経過で霧散するか破壊しない限りその場に在り続ける。逆に言うと、いつでも出したりしまったりが出来ないのでちょっと勝手も悪い。

 この力で作り出した武器を扱えるように、武器の鍛錬も開始した。また、迅速かつ明確に武器をイメージできるように空いた時間では武器大全集のようなものを読んでいる。

 ちなみに武器大全集を読んでいるところを偶然侍女に見られた際、彼女の顔が「啓太様も男の子なのですね」と微笑ましいものを見る目だったのは記憶に新しい。

 

「――ハッ!」

 

 上手く力をいなされ、刀を頭上に持っていかれる。

 がら空きになった腹にはけの蹴りが襲う。

 

「くっ」

 

 間一髪、刀を戻して剣腹で受け止めることが出来た。

 しかし踏ん張ることが出来ず後方へ蹴り飛ばされてしまう。

 咄嗟に地面を蹴ることで衝撃を逃すが、その分間合いが開いてしまった。

 

「破邪接破三式・風刃過流」

 

 扇子を一閃。十枚もの刃が弧を描くようにして接近してくる。

 自身が渦の中心にいるかのように、バラバラに放たれた刃の群れが時計回りに周回しながら近づいてくる。

 幾重にも張り巡らされた刃の檻はまるで結界だ。

 さて、どうしようか。

 強行突破……何枚かはいけるだろうが突破は無理そう。

 襲い来る刃をすべて叩き斬る……いけるだろうがリスクが大きい。

 頭上から脱出……足場があればいけるか?

 足場になる最適な武器は……槍および大剣、長剣。

 結界の有効範囲はざっと目測五メートル。

 物質化できる槍は全部で三本。長剣は五本。

 その中で最適なものを選択する。

 

「創造開始」

 

 生み出すものはグレートソードと呼ばれる一振りの大剣

 身の丈を超える巨大な剣は見た目相応の長さと重量を誇る。

 霊力で強化した腕力で持ち上げ、大地に突き刺す。

 少し離れてから助走をつけて跳躍し、大剣の柄を足場に跳ぶ。

 強化脚力の補助もあり、風の檻から脱出することに成功した。

 

「お見事です啓太様」

 

 はけの隣に着地すると柔和な笑みが出迎える。

 そんな彼に俺はジト目を送った。

 

「やり過ぎ」

 

「啓太様ならと判断しての行動ですよ。それに無理そうでしたら解除するつもりでした」

 

「むー」

 

 なんか上手くやりこまれた気がするが。

 今日はここまでにしましょうとの言葉に頷く。そろそろ昼時だしね。

 お腹減った。

 

 

 

 1

 

 

 

「どうしたんだい啓太くん?」

 

 上京していた親戚のおじさんがこっちにやってきたので挨拶に来た。

 この人とは何度か話したことがあり、ハイエナの親戚共とは違い朗らかで人当たりの良い人だ。

 四十代を過ぎており、特徴的なのはなんといってもその頭。

 見事なまでのハゲ頭なのだ。

 前に会ったときは太陽光を反射していて思わず吹きそうになったほどだ。

 俺は次ぎに会ったら必ずしようと思っていたことがある。

 それを今やろうと思う。

 さあ、有限実行だ。

 

「……? マジックがどうかしたのかな?」

 

 ポケットから取り出したのは一本のポ○カ。色は赤。

 水生ペンのため洗えば落ちます。マ○キーにしようか迷ったが、流石に油性は可愛そうだ。

 そして、まずキャップを取ります。

 次に屈んでもらいます。

 

「屈めばいいのかな?」

 

 ジェスチャーで屈んでもらう。

 次に見えないように手で目隠しをします。片手だと覆いきれないので前腕も使うのがコツです。

 

「これじゃあ何も見えないよ啓太くん」

 

 人が良いおじさんはされるがままです。騙す様で心苦しいでしょうが、心を鬼にして望みましょう。

 そして、最後の仕上げです。

 

【はげ】

 

 額にひらがなを二文字。すばやく書き上げる。

 うん。すばらしい出来だ。

 

「完璧」

 

 大きく頷く。有限実行できたことだし余は大満足だ。

 

「啓太くん? なにをしたのかなぁ?」

 

 ニコニコ顔のおじさんだが、こめかみに血管が浮かんでいるのが見える。

 はい。激おこですね。わかります。

 

「よく似合う」

 

 そんな彼に親指を立て言ったのだった。

 ピキッとさらに血管が浮き出るおじさん。大きく息を吸うのに合わせ、ポケットから取り出した耳栓で耳を塞いだ。

 

「啓太ァァァァァ!!」

 

 怒り心頭のおじさんから逃げる。

 

「待ぁてぇぇぇぇぇぇい!!」

 

 こんなのも俺の日常の一コマである。

 

 





 啓太の能力はぶっちゃけト○ース。ただし作り出せるのは普通の武器に限る。
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