永久の軌跡   作:お倉坊主

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FE風花雪月を四周したり、新大陸でハンターやっていたりしたら三か月たっていました。まだ監獄都市の冒険にも繰り出さなくてはいけないので、今後も亀更新になると思います。


第58話 星の観測者

 いざテラへ向かう段になり、トワは自宅へと戻る道を再び辿っていた。いったいどのようにしてあの遺跡の中に入るのだろうか。首をかしげながらも、身を任せるほかにないクロウたちは黙ってついていく。絶対に常識的な方法ではないのだろうな、とこの時点で想像はついていた。

 自宅も通り過ぎ、彼女が足を止めたのは先刻にテラの威容を目の当たりにすることになった崖先、そこにそびえる大樹の前だった。あまり時間は経っていないが、改めてこの光景を見ても圧倒されてしまう。

 

「うーん、とてもじゃないけど慣れそうにないね」

「よくもまあ、こんなデカブツが落っこちてきて無事だったもんだ。この辺の島全部沈んでもおかしく無かったろうに」

 

 あんな桁違いの大質量だ。落下の余波でシエンシア諸島一帯が沈没するのはもとより、ゼムリア大陸西岸が大津波に呑み込まれていても不思議ではない。現実にはその一切が無事となれば、クロウの感想は尤もだった。

 

「あの時は本当に必死だったんだから。話せば長くなるけど……上手くいったのが不思議なくらいなの」

 

 しみじみと呟くノイは思い出すだけで疲れると言わんばかりの様子。詳しい状況は分からないが、相当に切羽詰まっていたことは眼前の光景を見れば理解できる。テラの周囲を覆うように凍り付いて固まった波濤、これがそのまま打ち付けていたら残され島はひとたまりもなかったに違いない。

 それが今こうして立っていられるのは、文字通りの神業によるものなのだろう。トワと同じ白銀の髪を持った二人が脳裏に浮かぶ――説教のたびに雷を落とすための力ではないのだ、多分。

 

「気にはなるが、それは置いておこう。結局、どうやってテラに入るんだい?」

 

 仕切り直して今の状況へと意識を向ける。ここからテラはよく見えるが、数歩進めば崖である上に、間に海も隔たっている。異様なスケールから勘違いしやすいだけで、その距離は決して近くはない。よしんば近付けたとしても、分厚い氷の壁があっては入り口があるかも定かではなかった。

 下からが難しいとなると、やはりトワの力で空を一つ飛びでもするのだろうか。自然とそんな考えが浮かぶあたり、三人もなかなか毒されてきている。

 

「テラに行くにはこの『門』を使うんだ」

「『門』って……その木に埋まっているやつか?」

「うん。今開けるから待っていて」

 

 ところが、その想像は外れていたらしい。トワの視線の先にあるものを認め、クロウたちは揃って頭に疑問符を浮かべた。

 先ほどもチラリと目にした大樹に取り込まれた遺物。呼び名に違わずアーチ状の門のような形状をしているが、その奥に見えるのは木肌ばかり。歯車のような装飾がついていたり他のものに比べて原形を保っているものの、それだけだ。クロウたちには島に散見される遺物の一つにしか見えなかった。

 言って聞かすより見せる方が早いとばかりにトワは行動に移る。おもむろに門へ手のひらを向けると、そこに淡い光を灯す。

 

「ミトスの名において命ず、庭園への道を開け」

 

 紡がれる言霊、それを合図に遥か昔の遺物は息を吹き返す。唸り声をあげて回り始める歯車。いったい何が起きるのか、そう思った矢先に門が強く発光し反射的に目を逸らした。

 強い発光は一瞬のこと。視線を戻すと、門は完全に起動を果たしていた。アーチの奥に見えるのは木肌ではなく薄いカーテンのように揺蕩う光。規則正しく回る歯車とそれを認め、トワは満足げに頷いた。

 

「お待たせ。それじゃ行こうか」

「別に危なくはないから安心してついてくるの」

 

 軽い調子で先を促すトワとノイ。普段の歩調のままで門に向かい、光の波に触れると同時にその姿は呑み込まれるように消え去った。残されたのは変わらず光を放つ門に、目まぐるしい事態に気持ちが追い付かないクロウたち。穏やかな潮風に交じってため息がこぼれた。

 

「僕たちはあと何度驚かされればいいんだろうね」

「さあな。俺はもう諦めたぜ」

「私はなんだか楽しくなってきた。トワと共にいざ行かん!」

 

 やけにテンションを高くしたアンゼリカが門へと駆け込み、同じく光に包まれて姿を消す。現実逃避というよりかは開き直りなのだろう。彼女の場合はトワが関わることなら何にでも喜んで突っ込んでいけるのだから。常識を二の次にできる精神性がこの時ばかりは羨ましい。

 生憎と男性陣はそう易々と常識を投げ捨てられる性質ではない。いったい誰がこんな家のそばに転がっている遺物が生きていると思うのだ。しかも門は門でも『転移門』という代物などと。

 言いたいことは数あれど、ここで足踏みしていても仕方がない。あまり待たせて文句を言われるのも御免だ。再度の大きなため息を吐き、クロウとジョルジュも門の光へと足を踏み出していくのだった。

 

 

 

 

 

 光に呑み込まれ、一瞬の浮遊感が身を包む。ただそれだけの後、踏み出した一歩は見知らぬ土地へとついていた。

 いったいどこに飛ばされたのか、そんなことを考えるよりも先に眼前の光景に目を奪われた。静謐な石造りの庭園、そこを彩る豊かな緑に澄んだ水辺。どこか現実離れした美しさに声も出せぬまま見入ってしまう。

 

「《星の庭園》へようこそなの」

「綺麗なところだから見惚れるのも分かるけど、ちょっと門から離れてね」

 

 先に門を通過していったトワとノイがすぐ傍で待っていた。その言葉に「お、おう」と覚束ない返事をしながらも従う。クロウとジョルジュが門から離れると、トワは手を一つ振るう。それだけで門の光は消え失せ、単なるアーチ状の構造物へと変わった。

 

「開けっ放しにしておくと、やんちゃな子が入ってきたりするから。勝手に来たらいけないって教えているんだけど」

「はは……こんな場所があったら、子供たちにとっては絶好の遊び場だろうね」

「気持ちは分からないでもないけど、迷子になられたら困るの」

 

 こんな目を奪われるほどに美しい場所だ。好奇心旺盛な子供たちからしたら冒険したくて仕方がなくなるかもしれない。容易く想像できるだけにジョルジュは小さく笑みを浮かべ、実際に苦労したのであろうノイは渋い顔で首を横に振った。

 

「……ゼリカ? 何してんだ、そんなとこでボケっとして」

 

 ふと視線を巡らせると、ノリノリで突撃していったアンゼリカが少し離れたところにいた。四本の石柱が立つ傍で彼女は口を半開きにして呆然と何かを見上げている。先ほどからの落差もそうだが、こんな様子になるのも珍しい。

 気になって視線の先を追うクロウとジョルジュ。そうして彼らも思わず顎を落とす。

 天を衝く巨大な塔。いったいどれだけの高さがあるのか、いくら見上げようとも天頂は見えもしない。既存の建築技術では絶対に実現不可能な巨塔は、圧倒的な存在感をもってそびえていた。

 

 テラ自体もそうだが、あまりにもスケールが違いすぎて常識が音を立てて崩れていく気分だ。しかし、幾分か気分が落ち着いてくると気が付くものがある。

 どこかで目にしたことがあるような既視感。勿論、こんな現実離れどころか幻想的でさえある光景を実際に見たことがあるわけではない。思い起こされるのは五月半ばくらいのこと、トワのもとに実家から仕送りが届いた時に見たものだ。

 

「あの塔……確か、星の欠片に映っていた?」

「覚えていたんだ。そう、あれが《ヘリオグラード》だよ」

 

 星片観測機の実演がてらに見せてもらった幾つかの星の欠片。そのうちの一つに映っていたものに巨大な塔があった。あの蒼白い景色と今目の前にある光景は確かに符合する。

 あの時も見入ってしまったものだが、実物となるとやはりインパクトが違う。しばしの間、天を貫く巨塔からは目を離せなかった。

 

「心の準備はしていたつもりだったんだけどな……最初から度肝を抜かれた気分だよ」

「まったくだ。で、ここからどこに行くんだ?」

「みしーるを探すにしても、まずは手掛かりがいるよね。だから調べに行くんだ」

 

 初っ端からの途轍もない光景をひとしきり堪能したところで次の指針を尋ねる。対するトワの答えは筋の通ったものだった。

 行方不明のみっしぃを探すにしても、この広大なテラ――クロウたちには全容さえ掴み切れていない――を虱潰しにいくのは非効率極まりない。何かしらの手掛かりを掴んで捜索範囲を特定しなければ到底見つけることは出来ないだろう。

 理屈自体は納得のいくもの。ただ、その手掛かりをどうやって手に入れるというのだろうか。その答えがある行く先をトワは指差す。

 

「ヘリオグラードの根元、そこにテラの管理システムがあるんだ。みしーるの行方もきっとわかるはずだよ」

 

 

 

 

 

 星の庭園からヘリオグラード向けて伸びる林道を歩くこと数分。近付くにつれて巨大さを増していく塔の威容を見上げながらも、トワたちはその根元に設けられた施設に足を踏み入れる。しばらくの暗がりの後に空間が開がった。

 そこにあったのは叡智の結晶。精緻なプラネタリウムという言葉さえも安っぽく感じてしまうほどに現実と遜色のない星の海が瞬く空間。その中央に鎮座するのは巨大な幾つもの歯車の集合体。金色の燐光を放ちながらも稼働するそこには四色の光の流れが絶えず巡り、中央には天球に光の帯を纏う紋章が輝いている。

 何も言われずとも、それが途轍もない代物なのだと理解した。テラやヘリオグラードのように、その威容に圧倒されたのではない。神々しささえも感じる未知の遺物。それが放つ力の波動に息を呑み、ミトスの民に由来する超常的なものを肌で感じ取っていたのだ。

 

「これがテラの管理システム……」

「そう、《星の観測者(アストロラーベ)》。私の本体なの」

「こいつはまた……って、本体?」

 

 絶え間なく巡る歯車と力の流れに目を奪われていると、ノイから気になる言葉が。横合いからトワがその疑問に答えた。

 

「ノイを紹介するときに言ったの、覚えているかな。アストロラーベの神像っていうの。ノイの本来の役目はこれの管理人格としてテラ全体を守ることなんだ」

 

 神像とは、テラの要所を守る防衛機構にして管理するための高度な知性と人格を兼ね備えた存在。または管理者とも呼ばれる彼女たちは、テラを構成する欠かすことのできない者たちだ。

 このテラと神像を作り上げたのはミトスの民だが、今日この日まで十全に機能を保っているのは間違いなく彼ら彼女らの功績である。シグナとクレハが眠りについてより、およそ千年余りもの間、テラに生きる生命を守り続けてきたのだから。

 

 そんな大層な存在の一角であるノイであるが、今更になってそんなことを言われてもクロウたちとしては“口煩い小さな姉貴分”といった印象で固定化されている。伝承に聞く《七の至宝》に迫る古代遺物の管理者と知っても、この半年ばかりで定着したものが簡単に覆るわけもない。

 であるからして、大仰に驚くわけもなく三人の反応は淡白なもの。「ふーん」と軽く受け止めていた。自慢げに胸を張ろうとしていたノイとしては肩透かしを食らった気分だ。

 

「……ちょっと、もう少し何かないの?」

「何かって言われても……なあ?」

「ノイはノイだからね。君が何者だろうと、私たちの態度が変わるわけもないだろう」

 

 いい感じの言葉で丸め込もうとしているが、実際のところ驚き通しで一々反応するのに面倒臭くなってきているだけだ。残され島における現実離れした体験は彼らの感覚を麻痺させ始めていた。

 この機に自分の凄さをアピールしたかったのか知らないが、目論見が外れたノイは釈然としない様子。アンゼリカの言葉にも反論しづらく、不満げな顔で「むう」と唸り声を漏らすのみだった。

 

 そんなじゃれ合いをしていた彼女たちの間に入ってきたのは、どこからともなく響いてきた重々しい声だった。

 

『――戻ったか。ノイ、それにトワよ』

 

 突然のそれにジョルジュなどは身を硬くするが、耳にした瞬間に誰のものか理解していたトワとノイはむしろ表情を明るくする。

 トワたちの眼前に蒼白い光が広がった。一瞬の輝きだったそれが晴れた先にいたのは、彫りの深い顔立ちの男性の姿。長い金髪に白い装束、やや厳めしい表情はきっと素なのだろう。

 外見的には人間と変わりないが、きっと違うとクロウたちは確信していた。その身に纏う雰囲気が、あまりにも常人離れしたものだったが為に。

 

「ただいま、星座球。わざわざ迎えに来てくれたの?」

「代理とはいえアストロラーベを預かっている身、訪ねるものがいればすぐに分かる。息災のようで何よりだ」

「相変わらずお堅いの。まあ、それがあなたらしいんだけど」

 

 低い声を響かせる男と言葉を交わすトワとノイに遠慮はない。それ以外の三人としては妙な緊張感を抱かせる風格があるだけに、その鋭い双眸が向けられるにあたって身を硬くしかけた。

 

「そしてよくぞ参った、人の子らよ。ここに余人が足を踏み入れるのは久方ぶりのこと……もてなしの用意はないが、歓迎させてもらおう」

「ど、どうも……」

 

 向こうに威圧する気がないのは分かっているのだが、その冷厳な雰囲気にどうにも返答はぎこちなくなる。

 彼はいったい何者なのか。緊張気味な仲間たちにトワが紹介する。

 

「彼は星座球。アストロラーベと対を成すテラの核、《星座球》を司る神像だよ」

 

 神像、そう聞いてクロウたちは目を瞬いた。直近の話を聞いて抱いていたイメージが間を置かずして覆されたのだから。

 てっきり神像、もとい管理者というのは全てノイのような姿かたちを取っているものと思っていた。それに反して星座球は外見こそ成人男性と変わりない。身に纏う空気は常人ではないものの、ミトスの民の一人と言われた方が納得いくものだ。

 

「へえ……神像って一口に言っても色々あるものなんだな」

「ちょっと、その目はどういう意味なの?」

「……この身はかつて在った人の姿を映したもの。特殊なのは私の方だ」

 

 可愛らしい妖精と威厳を放つ偉丈夫。テラの根幹として対を成すにしては随分と落差がある。いや、対照的という意味ではその通りなのだが。

 そこに揶揄いの色を感じ取って眉を寄せるノイ。本人の言葉通り、星座球が特殊なだけで他の神像は非人間的な容姿が多い。とはいえ、その中でもノイが一際に小柄であるのは事実。それを口にしないでおく分別がトワにはあった。

 

 いくらか言葉を交わしたところで、星座球が踵を返す。おや、とトワは首を傾げた。

 

「もう戻るの?」

「顔を見に来たに過ぎない。実習、とやらだったか。必要があれば声を掛けるといい。手は貸そう」

 

 必要最低限、ただそれだけを告げて星座球は現れた時と同じように転移して姿を消した。どうやら本当に顔を出しに来ただけの様子。当人が言葉少なであることもあって、余計にあっさりと去ってしまったように感じる。

 

「どうも愛想のない御仁だね。いつもあの調子なのかい?」

「うーん……愛想が無いというか、下手に責任感が強いせいというか……」

「昔に色々あったみたいだから。今は一歩引いたところにいることが多いんだ」

 

 根は悪い人物ではないようだ。それとは別に、本人の心情から距離を置きがちなところがあるらしい。そんな同胞にノイは呆れ気味のようであるが、半ば諦めてもいるのだろう。あれはそういう性分だと。

 

 さて、と話を仕切り直す。

 アストロラーベの威容に圧倒されたり、星座球の登場に緊張したりもしたが、ここに来た目的はみしーる捜索の手掛かりを得ること。そろそろ手を付けるとしよう。

 絶えず駆動するアストロラーベ。その前に設置された祭壇のようなものに歩み寄る。付近の四本の柱には精緻な構造の歯車――ノイ曰く、《マスターギア》というらしい――嵌り、そこを通して色とりどりの光が周囲を巡っている。クロウたちには理解の及ばないものばかりだ。

 

「それで、結局のところどうやって探すのかな?」

「まずはどこの区域にいるか確かめないと。ログでみっしぃの反応を探してみるの」

 

 ここは神像であるノイの本領発揮である。祭壇の前で彼女の小さな手が宙にかざされる。

 変化は顕著だった。虚空に投影される幾つもの情報の奔流。現れては消えていくそれらの中から辛うじて読み取れるのは、この地に住まう多種多様な生物についてのものらしいということ。

 目まぐるしく流れていく情報量に頭が痛くなりそうだ。自分の目で状況を把握することを諦めたクロウは、眉間を抑えながら隣の少女に問うた。

 

「……どうなってんだ、こりゃ」

「テラ全土の管理履歴からみっしぃに合致するものを探しているんだ。そんなに時間はかからないと思うけど」

「そうか、このテラ全ての……え?」

 

 全土とは、その通りテラの全てを指す。小国にも匹敵する面積を誇る超弩級遺跡の全てだ。動物に植物、目に見えない微生物から魔獣に至るまで、この地に息づく数多の生命の悉くをアストロラーベは管理している。その中からただ一種、一匹だけのみっしぃを探し求める。

 広大な砂漠から砂粒一つを見つけ出すような真似だ。現代の導力演算機ではまず不可能だとジョルジュは胸中で断じる。そもそも、全生物の莫大な情報を収めるのにどれだけの記憶媒体が必要になるのか想像もつかない。

 ミトスの民の叡智の結晶はそれを容易く実現する。生物に留まらず環境までも管理し、それを意のままに操ることさえ可能とする古代遺物。迷子探しなどお安い御用でしかない。

 

「――見つけたの! 場所は《オルタピア》、数日前から居付いているみたいなの」

 

 はじき出される回答。映し出された映像には確かに月見亭にいたみしーと同じ、惚けた顔の猫っぽい姿があった。

 

「よかった、怪我はしていないみたい」

「それは何より。そのオルタピアというのはどこなんだい?」

 

 映像の中のみしーるという名の珍獣は緑豊かな土地で平然としているようだった。飼い主たちの気持ちなど知らずに呑気なものである。

 それはさておき、肝心の居場所について尋ねる。トワの目配せに頷いたノイが再び祭壇に手をかざすと、映像が移り変わって地上を見下ろす形のものになる。テラの上面視だ。

 

「いま私たちがいるのが中央の《星の庭園》。その四方に陸地があって、中でも豊かな植物で覆われているところが《オルタピア》だよ」

 

 遥か上空からの視点でも際立つ天を衝かんばかりの巨塔、それを擁する庭園を囲う形で存在する四つの陸地がテラの全容だった。いずれも異なる特徴を有していることが遠目にも地形から窺い知れるが、詳しくは赴けばわかることだろう。

 おおよその位置関係も把握したところで、迷子のみっしぃを捕まえに行くとしよう。また庭園から転移門を使うのだろうか。そんな三人の予想を裏切り、トワはおもむろに明後日の方向へ手をかざした。

 

「じゃあ早速行こうか。えいっ」

 

 その手の先に広がる金色の波紋。アストロラーベに刻まれたものと同じ紋章が輝くや、何もなかったはずの虚空に門が開かれる。

 あまりに軽い調子で出現してくれた光の門は、間違いなく件のオルタピアへと繋がっているのだろう。もはや驚くことはなくとも、感じざるを得ない軽い頭痛にジョルジュが眉間を揉んだ。

 

「ええっと……ミトスの民っていうのは、そんな簡単に転移術が使えるのかい?」

「あはは、テラは人工的な地脈が整備されているから。外だと流石に地脈の結節点とかにしか転移できないかな」

「自由に《精霊の道》が使えるってことじゃねえか、インチキ臭え……」

 

 星の力を司るミトスの民にとって、地脈の流れの中に道を作り出すことなど造作もないこと。自身らの手で創造したテラの中を自在に行き来できるくらい当然だった。

 何やらクロウがぼそぼそと言っていたが、ノイが「どうかしたの?」と聞いたところで彼は無言のままに首を横に振った。その表情にはどこか諦観が浮かんでいる。

 色々と自分が常識破りなのは理解しているが、トワとしては慣れてもらう他にやりようがない。どの道、この実習の中で細かいことは気にならなくなるだろうし、お構いなく進んでしまっても問題ないだろう。

 三人が聞いたら気を遠くしそうな結論のもと、トワはノイを伴って光の波紋の中に飛び込んでいく。クロウたちはそれに付き合う他に選択肢を持たない。それぞれ苦笑なり疲れた表情を浮かべながらも、後を追って深緑の大地へとその身を飛ばすのだった。

 


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