永久の軌跡   作:お倉坊主

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最近、炎天下が続いておりますが皆さまいかがお過ごしでしょうか。私は仕事に励みつつも、家に帰れば趣味にどっぷり浸かる毎日を過ごしております。
その割には相変わらず更新が遅い? イースⅧが面白いから仕方ないじゃないですか。アクションが軽快だし、ストーリーも面白いし、何よりダーナちゃんが可愛い。最高だね。

さて、前置きはここまでとして本編です。今回は六月の士官学院、つまりは皆さまの記憶にもよく残っているだろうあのイベントです。文中にも簡単なものを作っておいたので、よければ答えを考えてみてくださいな。


第25話 学びのすゝめ

「さあ、ハーシェルさん。今日こそは逃がしませんよ。大人しく堪忍なさい」

「あ、あはは……」

 

 トワは自身に向けられた言葉に苦笑いを浮かべた。目の前にはにっこりと笑みを浮かべる保険医のベアトリクス教官。しかし目は笑っておらず、いつも生徒を温かく迎え入れてくれる温和な雰囲気に代わり漂うのは威圧感。優しい人を怒らせると怖い。正にその通りであった。

 

 六月となり外ではしとしと雨が降る朝のトールズ士官学院。その保健室でなぜトワが静かな怒りに晒されているかというと、話は先月の試験実習にさかのぼる。

 帝都に張り巡らされた地下水路における魔鰐との死闘。互いに信じ合い、本当の意味で仲間となった四人の戦術リンクにより打倒はしたものの、最後の最後で不意を突かれてトワは軽くない負傷をしてしまっていた。頭部裂傷、肋骨骨折、左腕に罅。特に頭の傷は包帯が目立つこともあって、エミリーをはじめとしたクラスメイトたちにも大いに心配された。

 怪我をした直後にもアーツによる手当などはしたが、そもそも回復アーツというものは作用した途端に傷が塞がるというものではない。傷の消毒、止血、それ以上の悪化を防ぐための応急処置の側面が強く、軽い切り傷程度ならともかく骨折などの重傷を即座に治癒することが出来る訳ではないのだ。そのため今回のような場合は、しかるべき処置をした後に自然治癒を待つことになる。

 当然、ちゃんと傷が治りつつあるか医者に経過を診てもらった方がよい。素人判断で傷が悪化しては元も子もないのだから。ベアトリクス教官が怒っている理由もそこにあった。

 

「まったく、いくら忙しいからといって自分の身体を蔑ろにしてはいけませんよ。その気になれば保健室に寄るくらいの時間は作れたでしょうに」

「ええっと、生徒会のことに集中するあまり、うっかり忘れてしまっていたというか……」

「生徒会長にもあなたを保健室に行かせるようにお願いしたはずですが?」

 

 うっ、と言葉が詰まる。仕事を切り上げて診察を受けるよう促す会長の言葉を右から左に流し、なんだかんだ有耶無耶にして依頼の処理に没頭していたのは否定できない事実である。返す言葉もなかった。

 トワも理由も無しに診察から逃げ回っていた訳ではない。無論、消毒液の臭いが苦手とか愚にもつかない我儘のようなものではなく、もっと深刻で切実な問題に起因するものである。しかし、それは同時に非常に個人的な理由であり、そして口外することが憚られるものでもあった。

 だから、ただ「ごめんなさい」という謝罪と頭を下げることしかトワにはできない。ぺこぺこと頭を下げる彼女にベアトリクス教官は何か言い掛けたが、やめた。代わりにトワの頭に巻かれた包帯に手を伸ばす。

 

「まあ、いいでしょう。今度からは気を付けるのですよ。せっかくの美人さんに傷が残っては――」

 

 包帯を解き、患部を診る。トワが少し身構える。

 はた、とベアトリクス教官の声が止まった。直前まで仕方ない子と言わんばかりの苦笑を浮かべていた表情は、唖然とした、想定外の事態に対して反応が追いついていないそれに変わっていた。

 傷が、なかった。

 先月の試験実習で負った、重症と判断されるくらいに深かった頭の傷が、きれいさっぱり消え去っていた。確かに実習から半月は経っている。もう治りかけていてもおかしくはないだろう。だが、どう考えても傷痕一つ残さずに消えてなくなっているのは異常としか言えなかった。

 それが分かっているからこそトワは焦ったように口を挟む。ベアトリクス教官が気を取り直さない内に、自身の秘密に立ち入られない内に。

 

「あの、私、傷の治りは早い方で……教官にも確認いただけたと思いますし、これで失礼しますね!」

「え……? え、ええ」

 

 思わず、といった様子で返事をしてしまった教官の言葉を聞き終えない内にトワは保健室から逃げ出すように飛び出ていった。背中に刺さる視線を感じながら、それでも振り返らずに脱兎の如く駆ける。

 正面入り口の掲示板まで来たところで、彼女はようやく立ち止まった。一息ついて、それから不安気に今しがた逃げ出してきた保健室の方を見遣る。

 

「……やっぱり怪しまれちゃったよね。はあ、これからどんな顔で会えばいいんだろ」

『それはもう、素知らぬ顔で押し通すしかないの。堂々としていれば大丈夫だって』

「簡単に言わないでよぉ……」

 

 若干他人事なノイの言葉に頭を抱えたくなる。保健の授業では否応なしに会うことになるのに、しかも思っていた以上に怒ったベアトリクス教官が怖かったこともあってトワは今から憂鬱な気持ちだった。

 そんな彼女の様子を見てか、ノイが溜息を吐く気配がした。

 

『やっぱり治りが早いのも良いことばかりじゃないね。あれくらいの傷、ほんの五日で(・・・)完治していたのに』

 

 包帯を巻いていた頭に手を伸ばす。周囲に不審に思われないためとはいえ、一週間以上は余計に巻いていたのだ。ようやく頭が軽くなってすっきりした心地である。

 ふっ、と口元に笑みが浮かぶ。小さなそれは淡い色を宿していた。

 

「仕方ないよ。そういう体質なんだし」

『……ま、それもそうなの。今はそんなことに頭を悩ます時期でもないものね』

 

 ノイから少し何か言いたそうな雰囲気がしたが、僅かな逡巡の末にそれは胸の内に秘めたらしい。代わりに口から出てきたのは、トワを一息に学生生活という現実へと引き戻す効力を持ち合わせていた。

 近くの掲示板へと目を移す。そこに貼られた一枚のプリントに、見覚えのある格式ばった文字で今月の生徒会からの通知が記されていた。

 

 

 

生徒会より

 六月となり一年生は本学院での生活に順応し、二年生はより一層の精進を重ねていることと思う。今月第三週に予定されている定期テストにおいては各々、常日頃の勉学の成果を存分に示すことを期待する。一年生は三カ月間の成長と今後の課題の確認を、二年生は将来を見据え己の道を見極める機会とするべし。

 尚、学院より通達されている通り、考査一週間前より原則部活動等の課外活動は休止とする。学生の本分たる勉学に励み、最良の結果を出せるよう努力されたし。

 諸君の健闘を祈る。

                    生徒会長 アウグスト・ルグィン

 

 

 

「初めての定期テスト、だね。大丈夫だよ、忘れてないから」

『正直、トワに限ってあまり心配はしていないけど……クロウとか大丈夫なの?』

「……なんか不安になってきた、凄く」

 

 試験実習にばかりかまけていると忘れがちだが、トワたちも一介の士官学院生。当然、定期的に学力を測る試験がその時々に待ち受けている。赤点を取ってしまえば進級に響く重要な試験である。

 仮にも入試トップのトワに隙はない。普段の授業から予習復習を欠かさない秀才である。

 が、よく授業をサボると聞くバンダナの彼とかはどうだろう。考えただけで憂鬱になってくる。

 自然と大きな溜息を吐いてしまう。定期テスト一週間前の月曜、トワの胸中は窓から覗く雨雲と同じ曇り模様からスタートした。

 

 

 

 

 

「うう……なんでテストなんてあるのよぉ……ラクロスできないとか死にそう……」

 

 そして、どうやら心配な友人は思い浮かべた彼に限らなかったらしい。机に突っ伏し、怨嗟の如き呻き声を上げる隣席のクラスメイトにトワは苦笑いを浮かべざるを得なかった。

 

「エミリーちゃん、そうは言ってもテストはなくならないんだから勉強しなきゃ。赤点になったら部活どころじゃなくなっちゃうよ」

「分かっているわよ。分かっているけど憂鬱なのには変わりないのよ……」

「憂鬱になっている暇があるなら勉強するほうが建設的だと思うけどね、僕は」

 

 Ⅳ組のクラスメイトですっかりいつものメンバーになったトワ、エミリー、ハイベルの三人。呆れ顔のハイベルの言にエミリーは「ハイベルのいけず……」と突っ伏したままくぐもった文句を零す。零したのは文句だけで、それ以上の反論は捻りだせなかったようだが。

 SHRも終わり放課後となったこの時間、いつもならグラウンドに向けて飛び出していくエミリーの前には定期テスト一週間前という現実が立ちはだかっていた。つまるところ、部活が休止期間に入ったことでラクロス命な彼女は致命的なダメージを受けている訳だ。一日通して降り続いている雨もそれに追い打ちを掛けているように思えた。

 部活ができないなら勉強するしかない。吹奏楽部のハイベルが現にそうであるように、普通ならそうして目の前のことに取り組もうとするべきなのだろうが、どうやら彼女の場合は落ち込んだ状態から立ち直ることがまず必要らしかった。

 

「ほら、テストが終わったらまたラクロスもできるんだから。その時を気持ちよく迎えるためには今から努力して、テストでいい結果を残せるようにしないと」

 

 トワの励ましにエミリーがのろのろと顔を上げる。黒板が視界に入った。一日目――導力学、帝国史、美術・音楽……SHRでトマス教官が説明した定期テストの日程を目が追っていく。

 不意に、ぽてりと顔は再び突っ伏された。

 

「無理よぉ……アタシはトワみたいに頭の出来がよくないの……」

「さ、流石に諦めがよすぎるんじゃないか?」

 

 普段の熱血ぶりはどこに消えたのか。悄然と呟くエミリーにさしものハイベルも戸惑い気味である。

 

「だって入試でもう精一杯だったのに、定期テストなんてどうなっちゃうのよ。どこから手を付ければいいかすらさっぱり分からないし」

「んー……まあ、確かに初めてのことだからね。勝手が分からないのはみんな同じだと思うよ」

 

 情けない声音を受けて辺りを見回す。教室内にはテスト一週間前ということで、教科書やノートを見直したりして対策をしている人が多い。しかし、それが一様に順調という訳ではなさそうだ。大半は難しい顔をして文字とにらめっこしているのが現状だった。

 そんなクラスの風景を眺めていると、ふと近くの席の人物が目に入る。髪を逆立てた、強面気味のクラスメイトが他の面々と同じく教科書とノートを前に眉間に縦皺を刻んでいた。ただでさえ怖がられそうな顔が三割増しでおっかなくなっている。

 首を伸ばして覗き込む。どうやら導力学の問題に取り組んでいるらしい。視線に気付いた彼が更に皺を増やしてトワを睨みつけた。

 

「……ハーシェル、何じろじろ見てやがんだ」

「あ、ううん。大したことじゃないんだけど――」

 

 そう前置いて、トワはひょいと彼――ロギンスの懐の内に潜り込む。突然のことに反応が追いつかない当人を余所にペンとノートの余白を拝借する。

 

「この問題は単に導力圧の公式を当て嵌めるんじゃなくて、その前に全体の抵抗値を求めないといけないんだ。簡単に見せかけた引っ掛け問題だからマカロフ教官も出してきそうだよね……ロギンス君?」

 

 さらさらと余白に数式を書き連ね、すんなり答えまで導き出したトワは、解説が終わったところで相手からの反応が無いことに気付く。ロギンスは顔を俯かせ、その表情は窺い知れない。

 途端、彼はペンを取り上げられて空になった手を振り上げると、自分の机へと叩き付けた。

 

「余計なお世話だ! 軽々しく近づいてくんじゃねえ!」

「ふえっ!?」

 

 それだけ言って、彼は教科書などをかき集めてカバンに詰め込み、肩を怒らせて教室から出て行ってしまった。ピシャン、と勢いよく閉じられた少し立てつけの悪い扉が悲鳴を上げる。突然のことにクラスは静まり返り、トワも目をパチクリさせることしかできなかった。

 

「……私、なにかロギンス君に悪いことしちゃったかな?」

「いや、あれはトワが悪いというよりも……」

「あっちが勝手に根に持っているんでしょ。この前の授業でのこと」

 

 のっそり顔を上げたエミリーに首を傾げる。この前の授業といわれてもどの授業か分からない。いま一つピンと来ていない様子のトワに、エミリーは少しニヤニヤ笑いを浮かべて続けた。

 

「サラ教官の実技での模擬戦よ。トワってば、ロギンスのことコテンパンにしていたじゃない」

 

 模擬戦と言われて思い出す。先週、確かにそんなこともあったなと。

 サラ教官受け持ちの武術・実践技術の授業における一幕。個々の実力を測るためと一対一の模擬戦を言い渡された際、トワの相手はロギンスであった。彼は一年生の中でも腕が立つという評判で、対戦相手のバランスを考えてのサラ教官の采配だったのだろう。

 模擬戦とはいえ勝負となれば本気で相手をするのが礼儀というもの。なので全力を出して挑んだのだが……どうにも拍子抜けというか、あっけない結果になってしまった。ロギンスはトワのトリッキーな動きに対応できずあっという間に有効打を受けてしまったのである。

 

「あれは、私が怪我をしていたから気を遣ってくれていたせいだと思うのだけど」

「なに言っているんだか。あんなのトワを舐めて油断していたに決まっているでしょ。少し腕が立つからって調子に乗って、勝手に鼻っ柱を折られただけなんだから、トワが気にすることなんて無いの」

 

 そうかなぁ、と素直に頷けないトワ。競技者であるエミリーはそこのところの意識が厳しいようだが、剣士であってもお人好しなトワはあまり他者を批判しないタイプである。怒鳴られたことに対して不快よりも心配が勝っていることも相俟って、気懸かりな様子は晴れないでいた。

 

「……ま、この前の模擬戦を抜きにしても、彼がこのところ不機嫌なのは確かだね」

 

 するとハイベルが意味深なことを口にする。何か知っていそうな雰囲気にトワは首を傾げた。

 

「どういうこと?」

「僕も噂で聞いただけだけど……彼、フェンシング部の方でもこっ酷く打ち負かされたらしくてね。それも貴族生徒の女子に」

 

 肩を竦めながら告げられた言葉にトワは目を瞬かせ、エミリーが「あれま」と驚きと納得の色を浮かべる。確かにそれが事実ならば、ロギンスがあそこまで邪険に扱ってきた理由も理解できるというものだ。

 

「そりゃ荒れるわね。ロギンスってプライド高そうだし」

「だろう? それに重ねて先週の模擬戦だ。テスト期間でフラストレーションも溜まっているだろうし、しばらくは不用意に話し掛けない方がいいかもしれないね」

「とどのつまり本人の問題だし、口出しできないもんね」

 

 なにかしら迷惑を掛けていたか、困っていることがあるならば力にもなれるが、ロギンスが抱えている問題は自分自身でしか解決できない類のものである。外野から余計なお節介を焼いても反発されるだけだろう。トワにできることは再挑戦をされた時に受けて立つことくらいだ。

 それにしても、と思う。油断してトワにあっけなくやられてしまったとはいえ、ロギンスが腕の立つ剣士であることは間違いない。そんな彼をこっ酷く打ち負かした女子生徒とはいったいどのような人物なのか。他人事ながら気になるところではあった。

 アンゼリカなら知っているだろうか。後で聞いてみようと思い、ふとエミリーの表情が硬くなっていることに気付く。

 

「エミリーちゃん、どうかしたの?」

「ん……いや、貴族生徒って聞いたらちょっと嫌なこと思い出しちゃってさ」

 

 常ならぬ渋い顔でそういうものだから余計に気になってしまう。

 ハイベルが「ふむ」と一息おいて口を開いた。

 

「察するに、君も部活関連で何かあった口かな?」

 

 ぐっ、とエミリーが息をつまらせる。どうやら図星らしい。

 

「……ラクロス部の貴族生徒と上手くいってないのよ。同じ一年の子と」

「エミリーちゃんが? 珍しいね」

 

 誰が相手でも大抵は熱血と根性で押し通すエミリーである。暑苦しく感じる時もあるが、真っ直ぐで清廉な彼女のことを嫌う人をトワは知らない。なんだかんだ仲良くなる魅力がエミリーにはあった。

 だからこそ珍しいと感じてしまう。本人が上手くいっていないというからには、相当に拗れてしまっているのだろう。実際、エミリーの表情は何時にない苦々しいものだった。

 

「だって、人が一生懸命にやっている横で涼しい顔してスタンドプレーまでするのよ。ラクロスはチーム皆で力を合わせなきゃいけないっていうのに、一人だけ勝手する奴なんか幾ら上手かろうが認める訳にはいかないのよ!」

 

 次第に熱が入ってきたエミリーを「まあまあ」とハイベルと二人がかりで諌める。試験前ということで勉強している人も多い教室内である。あまり大声ばかり出していては迷惑になってしまう。エミリーもそこまで頭が回らない訳ではない。一つ大きな溜息を吐くと荷物を持って立ち上がった。

 

「……帰って寮で頭でも冷やしておくわ。勉強もしなくちゃいけないし。また夕飯の時にね」

「あ、うん。またあとでね」

 

 教室を出て行く赤髪の背中を見送る。その姿が見えなくなり、トワはハイベルと目を見合わせた。

 

「なんだか皆、色々と大変みたいだね。ハイベル君はどうなの?」

「僕はそんな大層な問題は抱えていないよ。精々、部員が少なくて演奏のレパートリーが限られてしまうことくらいかな」

「そっか。なら、いいんだけど……」

 

 ロギンスにしてもエミリーにしても、どちらも部活や学内での人間関係に苦労していることは共通しているように思える。入学してからそろそろ三か月。学院生活に順応したからこそ、次第に生徒間での問題も起き始める時期ということなのだろうか。人当たりがよくて何でもそつなくこなすハイベルは特に困っていないようだが、これからの生徒会活動にも影響してくるかもしれなかった。

 そんな考えが顔に出ていたのだろうか。ハイベルが苦笑のような小さな笑みを漏らした。

 

「まったく、色々と大変そうとか君が言うセリフかな」

「え?」

 

 唐突な発言に心当たりがないトワは戸惑ってしまう。ハイベルは今度こそはっきりと苦笑いした。

 

「生徒会の用事で学内を飛び回ったり、実習とやらで怪我して帰ってくるようなトワの方がよほど大変そうだということさ。あまり無茶はしないで、困ったときは人に頼ったりするようにしてくれよ?」

 

 一瞬きょとんとなり、そして理解する。なるほど、傍から見れば大変そうで忙しくしているのは自分の方だったらしい。今更ながら第三者からの認識を知ったトワはなんだか新鮮な気分であった。

 しかし、その大変さを苦にも思わなければ改める気もないのだから手の施しようもない。一応は「気を付けるよ」と返したものの、ハイベルにもそのことはお見通しだったのだろう。呆れたような溜息に、トワはいつもの愛想笑いを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

「ふむ、そのフェンシング部の女傑はフリーデル君だろうね」

 

 そんな一幕からしばらく後、アンゼリカに聞いてみた結果の答えは思いの外明瞭であった。

 

「とある伯爵家の令嬢なんだが、なかなかどうして剣の腕が立つ。私の見立てではトワといい勝負じゃないかな」

「そんな子が……アンちゃんとは仲が良いの?」

 

 少なくとも腕前を知っているくらいの関係はあるのだ。貴族クラスにおけるアンゼリカの交友はあまり知らないが、そのフリーデルという女子生徒が友人の一人に含まれているのだろうと思っての問い掛けだった。

 ふっ、とアンゼリカが小さく笑う。なんだか妙な予感がした。

 

「いいところに行かないかと誘ったところを、逆に組手に誘われてしまった。今ではたまにお相手を務めさせてもらう仲さ」

 

 どうやら彼女たちの交友関係はあまり普通のものではないようだ。それともアンゼリカにとっては、そういった関係もよくあるものなのだろうか。いずれにせよ、返ってきた答えにトワは「そ、そうなんだ」と戸惑いがちに納得するしかなかった。

 ただ、アンゼリカのことはさて置いて、そのフリーデルという人がかなり我が強いことは間違いないだろう。一緒にいる中でアンゼリカの我の強さは知っている。そんな彼女の誘いを蹴って組手に持ち込んだという辺り、フリーデルも負けず劣らず強烈な個性を持っているのだろうと容易に推測できた。

 

「その点、ラクロス部のテレジア君は初心で可愛かったな。返事はつれなかったが」

「アン、ちょっと変態くさいよ」

「失礼な。品のある彼女が戸惑いに揺れる姿を思い出して酔っていただけなのに」

 

 微妙な面持ちのジョルジュからのツッコミが入るが、彼女はそれに対する返答さえも一般的に言えば変態染みていると分かっているのだろうか。女性同士だからまだしも、仮に男性が言っていたとすればセクハラ事案である。

 そんな周囲の視線をものともせずにアンゼリカは「まあ、そうだね」と言葉を続ける。

 

「そのトワのクラスメイトと反りが合わないのは、貴族生徒であることも含めて互いが全く異なるタイプだからだろう。しばらくは放っておいて様子を見るのが賢明だと思うよ」

「んー、やっぱりそうだよねぇ」

 

 アンゼリカからの話を聞く限り、フリーデルもテレジアもなかなか個性が強そうだ。また同じくして、ロギンスもエミリーも確固とした個を持っている。それがぶつかり合った結果が今の彼ら彼女らの不仲なのかもしれない。ロギンスに関しては彼が勝手に鬱屈を溜めているようにも思えるが。

 何にせよ、それぞれ当人にしか解決しえない問題だ。ハイベルと話した時と同じ結論に至り、やはり今回ばかりは余計なお節介は無用のようだと再認識する。

 ならばトワが一人で頭を悩ましていても仕方がない。ふう、と溜息をついて思案の対象を目の前のことに移す。

 

「……ところでアンちゃん、それにクロウ君も」

「あん? 何だよ」

「もしやデートのお誘いかな? それならそこの男は放っておいて今すぐ……」

 

 何やら自分に都合のいいよう話を解釈し始めたアンゼリカを「そうじゃなくて」と制止する。それなりに真面目なことを言おうとしたトワは自然とジト目になって続きを口にした。

 

「――二人とも、テスト勉強しなくていいの?」

 

 その台詞に、呑気に茶を飲んでいたサボり常習犯たちは何のことやらと目を瞬かせる。目の前で教科書とノートを広げていた真面目組は大きく溜息をついた。

 

 時刻は日暮れ間近、場所は学院内の技術部でのことである。最近、トワたちはジョルジュが管理するこの部室を四人の溜まり場としていた。

 明確なきっかけがあった訳ではない。空いている時間はたいてい技術部にいるジョルジュのところへトワが顔を出すようになり、そこへアンゼリカも足を運ぶようになって、暇を持て余したクロウもふらっと顔を出すようになった結果として、技術部は試験実習班の根城と化したのである。

 強いてその理由を語るとすれば、やはり先月の実習で仲間としての絆を確かなものとしたことが大きいだろう。一日の内に顔を合わせないことが不自然に思うくらいには、彼女たちは近しい関係になれていた。

 

 放課後に集まって、授業の課題や次の実習について話し合ったり、はたまた他愛のないお喋りを楽しむ。ジョルジュが溜め込んだ菓子やお茶を供にして、そんな時間を過ごすのが常のこと。

 しかし、今週ばかりはそうのんびりしている時期ではないとトワは思うのだ。

 

「定期テストはもう来週だよ。ただでさえ普段から勉強していないのに、そんな調子で大丈夫なの?」

「今さら何言ってやがんだ。なあ、ゼリカ」

「ふっ、これに関しては君とも意見が合うようだね」

「クロウもアンも仲良くなってくれたのは結構だけど、そんなところで意気投合しないで欲しかったな」

 

 言外に勉強しても無駄と開き直った様子の二人に、ジョルジュと揃って呆れかえる。あと一週間、されど一週間あるというのに今から諦めきっていてどうするというのか。ついこの間までいがみ合っていたクロウとアンゼリカの一致団結ぶりにジョルジュが苦言を零すのも無理はなかった。

 

「そういうジョルジュもようやく私のことをあだ名で呼んでくれるようになったじゃないか。それとも、もっと近しい関係になることをお望みかな?」

「ええっ……?」

 

 それに対して都合のいい部分だけ切り取った挙句、あまり色恋事に免疫がなさそうなジョルジュ相手にそんなことを言うものだからアンゼリカも意地が悪い。

 

「もうアンちゃん、そうやって有耶無耶にしようとしないの。今はテストの話でしょ」

「はは、すまないすまない。でも実際、あだ名で呼んでくれるようになって嬉しいのは本当だよ」

 

 笑いながら言うアンゼリカ。前半の謝罪はちっとも悪く思っていなさそうだが、その後の言葉は本当なのだろう。

 溜まり場に集まるようになる他に変化がもう一つ。トワだけでなくクロウとジョルジュもアンゼリカをあだ名で呼ぶようになっていた。入学式の日に行われた特別オリエンテーション、あの場でのアンゼリカの言葉が三カ月近く越しに実現した形であった。

 アンちゃん、アン、ゼリカ、仲間がそれぞれ彼女を呼ぶ名はお互いの距離が縮まったことを如実に表していた。一人だけ他とは異なる呼び方をするのも、クロウの捻くれぶりをよく表しているとも言えるのかもしれない。

 確かにそれ自体はいいことだ。トワとしても喜ばしいことである。ただ、やはり今は目前に迫ったことを直視するべきだと二人にも分かってもらいたい。

 

「ぶっちゃけ、やる気もねえのに勉強したって仕方ねえだろ。テストなんざぁ、なるようにしかならねえさ」

 

 だが、対する相手の不真面目さ加減も筋金入りのようである。菓子を片手にティーカップを呷るクロウの『やる気ありませんオーラ』は、同じく纏うアンゼリカとの相乗効果によって可視化せんばかりに堅固だ。並大抵の説得では崩せそうにない。

 ならば、とトワはむっと眉間を寄せる。並大抵で無理ならこちらも心を鬼とするしかない。

 

「クロウ君、そんなこと言っていていいの?」

「は?」

 

 一体なんのことだと首を傾げるクロウ。全く心当たりがなさそうな彼にトワは無情な宣告を下す。

 

「ちゃんとテスト勉強しないなら、今度から課題もノートも見せてあげないから」

 

 瞬間、クロウの頬が盛大に引き攣る。不意の一撃は見事にクリティカルヒットした。

 放課後に集まる中で当然、授業の復習や課題をこなす時もある。そんな時に決まってノートの写しや課題を参考にとせがんでくるのが彼である。

 友達に色々と甘いトワは何時もなんだかんだ見せてしまうのだが、テストさえも真剣に取り組まないというのであれば断固とした態度を取る必要がある。珍しく眉を吊り上げたトワは本気であった。

 

「くっ……! お、お前そんな手を取るとか卑怯だろうが!」

「本来、ノートや課題を写していること自体が卑怯だと思うけどね」

 

 当たり前の事実を突いたジョルジュの一言に抗議の声さえも沈黙する。ぐぬぬ、と唸り声を上げる内心ではテスト勉強への拒否感と今後もノートなどを写せる旨みがせめぎ合っているのだろうか。葛藤の表情を浮かべるクロウに、そんなに悩むくらいなら普段から勉強すればいいのにと思わずにはいられない。

 

「一本取られたね、クロウ。ここは大人しく従ったらどうなんだい?」

「ぐぐぐ……他人事だと思いやがって……!」

「むざむざ弱みを晒している君が悪いのさ」

 

 涼しげに余裕綽々の笑みを浮かべるアンゼリカ。自分は攻め崩されない自信があるのだろう。

 しかし、容赦のなくなったトワは彼女の弱点さえもはっきりと分かっていた。

 

「……アンちゃんも勉強する気はないんだね」

「悪いが、わざわざそんなことに時間を費やす主義じゃなくてね。それなら街へ繰り出す方がよほど有意義というものさ」

 

 まるで悪気も無くのたまうアンゼリカ。トワは「ふうん」と前置いてからその一撃を解き放った。

 

「じゃあアンゼリカさん(・・・・・・・)、これからのお付き合いの仕方は少し考えさせてもらいますね」

 

 ピシリ、とアンゼリカの身体が硬直する。彼女が恐る恐るトワの方へ向き直れば、今まさに恐るべき一言を言い放った当人は異様に冷たい眼差しをしていた。

 

「と、トワ……? それは何の冗談かな?」

「冗談? 何のことですか、アンゼリカさん。私、あまり悪ふざけする人は嫌い(・・)なんですけど」

「ぐっはああああ!!?」

 

 致命の一撃は深く、深く彼女の身体を貫いた。喀血せんばかりの声を上げ、アンゼリカはテーブルに倒れ込む。

 理由はよく分からないが、出会った当初から自分はアンゼリカに気に入られているとトワは自覚している。そして彼女は気に入った相手とは特に親密でいたいという傾向が強いとも一緒に過ごす中で分かっていた。

 ならば、アンゼリカの守りを崩すにはわざと冷たく接すればいい。心を鬼にしたトワの情けの欠片もない一手に男性陣は知らず身を寄せ合った。

 

「いちいち五月蠅いですね。もう少し静かに出来ないんですか」

「ぐふぅっ! お、おや……? なんだか気持ちよくなってきたような……」

「トワ、アンが変な扉を開きそうだからその辺にしてあげよう」

「ああ。これ以上、変人になっちまったら救いようがねえ」

 

 見かねた男性陣からストップが入る。トワも好きで言葉責めなどやっているわけではないので素直に従った。はあはあ、と若干あやしい吐息を漏らすアンゼリカが落ち着いたところを見計らって、大きく嘆息して改めて二人の方を見る。

 

「ねえ、クロウ君にアンちゃんも。私だって好きでいじわる言っている訳じゃないんだよ。テストくらいちゃんと受けないと二人が困ることになるから言っているの」

 

 真剣な顔のトワに茶々を入れる余地はなさそうだと二人も察する。大人しく耳を傾けた。

 

「授業はサボりがちだからただでさえ評価が芳しくないのに、テストまで悪かったら教官たちだって放っておいてくれないと思う。もしかしたら試験実習にも行かせてもらえなくなっちゃうかもしれない。そんなの、二人だって嫌でしょ?」

「それは……まあ、な」

 

 居心地悪そうにクロウが頭を掻く。最悪の想定は確かに彼にとっても望ましくないものだった。

 試験実習はあくまで来年度の新設クラスのための予備試験。カリキュラムに組み込まれている訳でもなければ、必ずやらなくてはならない義務でもない。新設クラスを円滑にスタートさせるための手段であり、そして数多の中の一つでしかないのだ。

 それに参加する生徒が素行不良に加えてテストで散々な結果を残したらどうだろうか。学院側としても、そんな生徒を学外に実習へ活かせる暇があるのなら補習の一つでもやらせようとするだろう。教育者として成績が低迷しているものを放っておく訳にもいかないのだから。

 

 クロウとアンゼリカは目を見合わせる。

 どうする?

 仕方ないだろう。

 無言のうちに視線でやり取りを交わし、二人はとうとう降伏した。

 

「わーったよ。一週間くらいは大人しくお勉強に付き合えばいいんだろ」

「トワがそこまで言うのなら仕方がない。なに、君と共に過ごせる時間が増えると考えればそう悪くもないさ」

 

 渋々と、飄々と了承の意を示した問題児たちにトワはパッと顔を華やがせる。屈託のない純真な笑顔につられて笑ってしまう。

 これだから彼女には敵わない。いつも好き勝手している二人が、なんだかんだトワの言葉に逆らえ切れない理由がそこにあった。あれこれ言葉を弄しても最終的にはどうにも絆されてしまうのだ。

 よーし、とトワは張り切ったように声を上げる。やる気満々の姿は見ていて微笑ましい。

 

「じゃあ早速テスト対策を始めなきゃ!」

 

 しかし、次の瞬間にクロウとアンゼリカは頬を引き攣らせることになる。

 カバンから取り出されるやテーブルにずどんと置かれる紙の山。手作りの冊子らしきものが何束も積み重なった重量がティーカップに波を立たせる。どうしてカバンの底が抜けなかったのか不思議なくらいの質量を前に、ついさっきまで穏やかな気持ちでいた胸中には急速に悪寒が迫りつつあった。

 

「……トワ、これは?」

「私が復習ついでに作った問題集。もしかしたら役に立つかもって思ったんだ」

 

 固まって動かない二人に代わりジョルジュが問う。トワの答えは明瞭で屈託のない笑顔もそのままだったが、今度はつられて笑えなかった。返ってきた言葉にジョルジュでさえも「はは……」と乾いた笑みを浮かべるしかない。

 

「まずはこれを一通り解いてもらって、そこから分からないところを洗い出していこう。大丈夫、クロウ君だって一週間みっちりやれば平均点以上も楽勝なんだから!」

 

 一通り、この山を一通りと言ったか。

 ペラペラとめくってみればこの三カ月ばかりで学んだことが所狭しと並び、その束が全教科分あるのだ。その一通りとやらはどれくらいの時間を掛けてやる想定なのだろうか。クロウなどは疑問に思いつつも恐ろしさから口に出せなかった。

 されど時はすでに遅し。勉強に付き合うという言葉は今更になって口の中に戻ってくることはない。彼にとって地獄に等しい一週間が始まりの鐘を鳴らした瞬間であった。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 結論から言えば、トワたちは無事にテスト期間を乗り越えた。コンスタントに勉強を重ねてきたトワとジョルジュは勿論のこと、一週間前になってようやく重い腰を上げたクロウとアンゼリカも、テスト本番を終えて息苦しい日々から解放されたのである。

 特にクロウにとっては、あの月曜から毎日が熾烈な戦いの連続であったといえよう。普段から机と向き合っている時間が少ない彼にとって一日中教科書やノートなどに噛り付いているのはただでさえ苦痛を感じたし、そのテスト勉強を見てくれるトワがえげつない速度で――本人は普通のつもりだったが――進めていくものだからついていくのにさえ血反吐を吐く思いだった。

 だが、辛うじてテストを乗り越えられたのは偏にその指導があったからこそ。クロウだけではきっと勉強していたとしても、あの問題の数々を解くことはできなかったに違いない。

 何よりも彼自身がしみじみとそう感じる設問を少し振り返ってみよう。

 

・導力学

 以下の①~⑤の選択肢は導力について説明したものである。この中から導力の説明として誤っているものを1つ選べ。

①導力は時間経過で回復し再利用が可能である。

②導力はC・エプスタイン博士が一から新開発したエネルギーである。

③導力器の発明による導力革命は約五十年前のことである。

④導力は導力器を介して様々な効力を発揮し、飛翔機関など多様な形で利用されている。

⑤導力と密接な関係にある七耀石は重要資源として取り扱われている。

 

・帝国史

 帝国各地の夏至祭は六月に行われることが一般的であるが、帝都ヘイムダルにおいては七月下旬に行われることが通例となっている。その理由を二行程度で簡単に説明せよ。

 

・政経

 近年、エレボニア帝国とカルバード共和国は緊張状態が続いていたが、昨年末にリベール王国の仲立ちにより締結された条約によりこれが大幅に緩和された。この条約名を答えよ。

 

 ――と、このように意地が悪かったり薀蓄に近かったり最近の時事であったりと、一筋縄ではいかない問題も多々あったのである。半ばスパルタでありながらも、授業内容を的確に押さえたトワ監修のテスト勉強がなければ、きっとクロウはテスト後の自由行動日を死んだ魚のような目をして過ごさなければいけなかっただろう。

 幸いにしてそのようなことにはならず、開放感に身を任せて遊びまわって自由行動日を満喫したその翌日。殆どの生徒たちにとって胃が痛い朝を迎える。一部の優等生を除き、登校する彼ら彼女らの表情は硬い。

 理由はもはや語らなくとも明らかだろう。テストの結果発表である。

 

「…………」

 

 そして掲示板に張り出された順位表。個人成績とクラス成績を記したその前に、トワたち四人もまた群がる生徒に混じって目を凝らす。

 そこから読み取った事実を前にクロウは一人仏頂面を浮かべていた。

 

「と、とりあえず良かったね、クロウ君。無事に赤点は取らずに済んだじゃない」

「それどころか平均点以上だ。僕は頑張ったと思うよ、うん」

 

 横合いからトワとジョルジュが称賛の声を掛けてくる。確かにそれは良かった。一週間、煉獄の如き責め苦を味わった甲斐があったというものだ。そのことを否定する気はクロウにもない。

 

「私も君にしては随分と健闘したと思うがね。何が不満なんだい?」

 

 ただ、隣からの気障ったらしい声がどうしても癇に障る。口元が引き攣るのを自覚した。

 

「……ああ、確かに大健闘だったさ。おかげさんで赤点も免れたしな」

 

 言葉はそこで止まらず「だがな」と続く。これだけは言わねば気が済まなかった。

 順位表に視線を戻す。そこに記された四人の成績、それぞれは以下のようであった。

 

 

 

1.トワ・ハーシェル     Ⅰ-Ⅳ 991pts.

9.アンゼリカ・ログナー   Ⅰ-Ⅰ 908pts.

16.ジョルジュ・ノーム   Ⅰ-Ⅲ 896pts.

58.クロウ・アームブラスト Ⅰ-Ⅴ 672pts.

 

 

 

「どうして碌に勉強していなかったはずのゼリカが十位以内に入っていやがるんだ……?」

 

 それは、自分と同類だろうと思っていたならば抱いて当然の疑問。いくら目を擦ろうとも変わることのない結果に釈然とした感情は募り、そして返ってくる答えが予想できるからこそ、同時にはらわたが煮えたぎるようにふつふつと怒りも湧いてくる。

 問われたアンゼリカは「なんだ、そんなことか」と軽い調子。いつも通りの不敵な笑みで、クロウの主観で言えば嘲笑を浮かべ、言い放った言葉はやはり想像の通りだった。

 

「何時から私が、勉強が苦手と錯覚していたんだい?」

「ゼエエエエリィィカアアアアッ!!」

 

 叫び、じゃれ合い、苦笑しつつも止めはしないトワたち。

 どこかで桃髪の妖精が呆れたように溜息をついた気がした。

 


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