遅くなりましたが、初夏編をば
ぼのたんの胸がなさ過ぎてつr(カットイン)
鹿屋基地からそう遠くない海岸。
梅雨も明けたこの辺りは、すでに夏の陽気が降り注ぎ始めています。じりじりと焦げるような日光を反射する砂浜で、私、軽空母“祥鳳”は、ひとまず広げたパラソルを立て終わって一息を吐いていました。そして隣には、普段とはかけ離れた軽装の彼が、同じように額を拭っています。
私たちがこうして浜辺で束の間の休暇を取っているのには理由がありました。実は、春の反攻作戦が終わってすぐにMO作戦参加となったため、両方分の特別休暇を消化していなかったのです。
「せっかくですし、梅雨明けに休暇を取りましょうか」
とは、彼の言です。そういう訳で、我が艦隊は本日と明日明後日は、特別休暇を申請していました。
それは、よかったのですが・・・。なにがどう巡って、艦隊全員揃ってビーチに行くことに・・・。
「ありがとうございました、祥鳳さん」
今どき珍しい大きな麦藁帽の縁をくいと持ち上げて、彼は微笑みました。どうやら、話すときによく見せるこの仕草は、癖のようですね。なんとなく、可愛いです。
「荷物は自分が見ておきますから、祥鳳さんも着替えてきちゃってください」
「わかりました、ではお願いしますね」
私は荷物の中から自分の着替え―――水着を取り出して、海の家に併設された更衣室へと足を向けます。言葉通り、彼はパラソル下の影に入って、貴重品類を見守りながら海に目を向けていました。
「あ、祥鳳さん」
私を呼ぶ声。そしてほぼ同時にシャッターを切る機械的な音が響きました。まったくもう・・・。
「青葉さん、急に撮るのやめてください」
心の準備が・・・。
「いやー、すいません。つい、祥鳳さんが可愛かったもので」
「も、もう。おだてたってなにも出ませんよ」
愛用のカメラを羽織った薄着の上から提げ、一足先に水着に着替えていた青葉さんは、太陽に負けないくらいに明るい笑顔を見せました。楽しそうですね。いまだに突然シャッターを切られるのには慣れませんが、こうして彼女の笑顔が見れるのなら、悪い気はしません。
「提督と交代してあげてください。荷物を見ていてくれてますので」
「りょーかいです」
砕けた敬礼で答えて、彼女は砂の上を器用に走っていきます。足を取られやすいというのに、なんと言う速さでしょう。
「およ、祥ちゃんパラソル終わった?」
「ええ。漣ちゃんたちも、ちゃんと日焼け止め塗ってね」
「ほいさっさー」
そう言って更衣室から出てきた漣ちゃんは、つい先日買ったばかりという、水色の涼やかな水着です。基地で試着したときにも思いましたが、七駆の娘達が買ってきた水着はどれもシンプルでありながら素朴な爽やかさを感じさせ、大変よく似合っていました。ちなみに、選定は漣ちゃんだとか。クリスマスの衣装といい、七駆のファッション担当といったところでしょうか。
漣ちゃんに続くようにして更衣室から彼の下へと駆け寄っていく七駆の娘たちを見送って、私も自分の水着に着替えるためにビニールの暖簾をくぐりました。
「ほれほれ~、ここか、ここがよいのか~」
「やっ、やめて漣ちゃん~!」
私が戻ると、丁度漣ちゃんが潮ちゃんに日焼け止めを塗っているところでした。それはいいのですが・・・。
「気持ちええんかあ~?」
「ひゃうううううう」
・・・なぜか、潮ちゃんの胸を執拗に責める漣ちゃんの姿が。どういう状況なんでしょうか、これ。まずどこから突っ込むべきでしょう。ちなみに青葉さんは、その様子を笑顔で写真に収めていたりしますが。いついかなる状況でも基本スタンスは変わらない彼女でした。
「いい加減にせい」
「あだっ!?」
涙目の潮ちゃんを見かねたのか、先に日焼け止めを塗り終わった曙ちゃんが、漣ちゃんの脳天にチョップでクリティカルヒットを決めます。悲鳴を上げた漣ちゃんを潮ちゃんから引き剥がし、溜め息を吐く様子は、どう見てもお母さんです。
「ぼのちゃん、いだい・・・」
「知らないわよ、自業自得でしょうが」
「だって目の前にこんな立派なものがあったら揉むでしょ、普通」
「揉まないから」
「あ、そっかぼのちゃんには揉むものがないか」
「OK、海で決着つけようか漣」
言うや否や、曙ちゃんは漣ちゃんをがっしりと掴んで、海の方へ引きずっていってしまいました。漣ちゃんはなにやら助けを求めていたようでしたが、全員が苦笑で見送ります。
「祥ちゃんヘルプ!ヘルプミー!!」
「二人とも、ちゃんと準備運動してねー」
「ブルータスお前もかーっ!!」
それだけを言い残して、漣ちゃんは打ち寄せるさざ波の中へと突っ込んでいきました。
「えっと・・・。どういう状況なんですか?」
一足遅れて更衣室から戻ってきた彼が、盛大にハテナマークを量産しながら首を傾げます。青葉さんが成り行きを説明すると、災難ですねと言って、苦笑いしてしまいました。
「それじゃ提督、朧たちも行ってきますね」
「あ、はい。十分気をつけてくださいね」
「わ、わかりました」
七駆の娘たちが全員海ではしゃぎだしたところで私もそろそろ出ようかと着ていたTシャツに手を掛けたところで、そういえば日焼け止めがまだだったことを思い出しました。レジャーシートに置かれたままの日焼け止めを手にとって、瑞鳳に手渡します。
「瑞鳳、背中に塗ってもらってもいい?」
「あ、うん。わかった―――」
と、そこで妙な間が。嫌な予感がします。
「―――はい、提督」
「はい?」
唐突に日焼け止めを差し出された彼は、間の抜けた声を上げています。案の定過ぎる妹の行動に、顔から火が出る思いでした。
「お姉ちゃんに塗ってあげて?」
「ええっ!?」
「瑞鳳!?」
ほとんど同時に叫んだ私と彼は、ちらと目線が合って、お互いに頬を紅潮させます。こここ、これはその、つまり、そういうことですよね!?
「ほらほら二人とも、見つめ合ってないで。お姉ちゃんは横になってー」
「見つっ・・・!?」
瑞鳳に押されるまま、私はレジャーシートにうつぶせに寝かされてしまいます。というか、わざわざ横になる必要はあるの!?
「はい、司令官の出番ですよー」
「ほ、本当に自分がやるんですか!?」
うろたえる彼を、青葉さんが無理矢理に押しているようです。こういう時に絶妙なのりのよさを発揮するのが青葉さんですが、もう今回に関しては絶対に面白半分でやってますよね。うう、これでは私、まな板の上の鯉じゃないですか・・・。
「ちゃちゃっと塗っちゃってね、提督」
瑞鳳に急かされて彼が私の隣に座り込むのがわかりました。それだけでもう、心臓がばっくんばっくんと大きく、彼にまで聞こえてしまうんじゃないかというほどに打ちます。頬が初夏の陽気だけでない理由で熱くなるのが嫌と言うほど感じられました。
「え、えっと・・・。し、失礼します」
「お、お願いします・・・」
思わず声が上ずってしまいました。曝された背中がむずがゆいです。
ひたっ。
冷たいものが背中に触れました。
「ひゃうっ!?」
「す、すみません」
彼の手でした。優しい手つきで、彼の手が背中を撫でます。それが思いのほか恥ずかしく、それでいて心地のよい感覚が、痺れるような刺激となって背中から頭へ流れました。
な、なんだか変な気分になりそう・・・。
「大丈夫、ですか・・・?」
「は、はい。続けてください」
変な声を抑えるのに必死で、それ以降一言もしゃべりません。彼は彼でだまって作業を続けるので、なんとなく気まずい時間が・・・。
「―――お、終わりましたよ」
「ありがとうございます・・・」
永遠かとも思われた時間が終わって、私も彼も太陽より熱くなった顔が相手と合わないように体を起こしました。
「それじゃあ自分は、焼きそば買ってきますね」
何かをごまかすように彼が去った後、残された私を瑞鳳と青葉さんが覗き込みます。
「いやー、途中でギブすると思ったんですがねー」
「意外とやるじゃない、提督も」
「意外とやるじゃない、じゃないでしょ。瑞鳳!?」
「あ、青葉は海に行ってきますね」
「青葉あーっ!?裏切るのかーっ!?」
今年も、暑い夏がやってきます。
こんな感じでどうでしょうか
祥鳳さんの水着は、一応ビキニを想定。多分青葉か瑞鳳に着せられたんでしょうね
え?作者が着せたかっただけ?ハハハ、そんなわけないでしょう
次は夏真っ盛り、お祭り編になる・・・かも?