???side
箱庭のとあるコミュニティ。名前も旗印の無い名無しのコミュニティ。だが名前も旗印も正式に提示していないだけであり実際はもう考えてある。
「いよいよ私たちの出番か」
「やっと、出番」
口を開いたのは二人の少女。
一人はコートを羽織りスカートを着用、腰まで伸ばした髪を紐でポニーテールに結び、街を歩けば誰もが振り向くような容姿をしている。だが少女はその容姿には似つかわしく無い日本刀を真っさらな白色の手袋をつけた手で握っている。その佇まいからかなりの使い手と言えるだろう。
もう一人は全身真っ黒な服だが、腕、足、ヘソなどを露出させており両太ももにはタクティカルナイフが一本ずつ。ハニーブロンドの髪をツーテールにしており、此方も先程の少女とは別のジャンルで人々を魅了するだろう容姿をしている。一番目につくのは少女の右目に付けられた白の眼帯。病気というわけではないが、決して中二病というわけでも無い。
その二人の周りには四人の人影が黙って佇んでいる。その中の一人が一歩前に出て口を開く。
「二人とも頼みましたよ。今回は彼にはかなり頑張ってもらわなければならないのですから。しっかりと支えてあげてください」
「言われるまでもない」
「フーキイーンに任せろ」
「風紀委員は関係ないだろ………」
ソファで足を組んでいたちょっと見た目が不良そうな青年が思わず突っ込んでしまう。
「ゴホンッ!それで今回はあの人が来るのは間違いないんでしょうか?」
空気を引き締めるため一度咳払い。その表情は真剣そのものである。何故なら今回の一件にはあの人が
「ええ、間違いないです。あの人自身からリークされたので」
伝えられた情報とは北の火龍誕生祭に魔王の襲来。だがこのコミュニティにとって逆にチャンスである。コミュニティの最大の目的である、通称
勿論、今回の作戦が失敗すればR計画も失敗するだろう。R計画が失敗すると必然的に起こる事、
それは全世界の滅び。
それは箱庭も例外ではない。
平行世界の全ての世界の滅び。
それを止めるべく私達は動く。
このR計画での一番の目的それはーーー
涼太side
"ノーネーム"本拠。中庭。太陽が顔を覗かせてしばらく経つ。朝露が草木を濡らし、光が反射してキラキラと光っている。ポカポカした陽気が眠気を覚ましてくれて、気持ち良く起きて顔を洗った俺はランニングをした後オーロラを片手剣の二刀流に展開。
何か的が欲しいと思い、近くにあった木を蹴り落ちてきた葉っぱを細切れにした。ノーネームに来てからは日課となり毎日の様に振るってきた。だが所詮は葉っぱでこんな物を何万枚斬ったところで何の意味もない事も分かっていたがやらずにはいられない。
「ふー、やっぱり葉っぱじゃ感じがでないな」
何故こんなことをしているかというと、この前の"ペルセウス"との決闘で自分の力不足を感じていたからだ。普通の人間にはない特殊なギフトを宿しているが、それを使いこなす技術がない。記憶の中では戦いの経験が沢山あるのでイメージする事は容易いが如何にも身体がついていかない。
「リライトしてパワーアップするのは簡単だが、リスクが高いらしいからなぁ」
この前のギフトゲームで一度だけリライトしたが今の所は身体に変化は無いが、調子に乗って使い過ぎるとろくなことにならないことは目に見えている。俺は今の力での技の向上に専念することにした。
「それなら、私が手伝ってやろうか?」
声のする方を向くと一人の少女がこちらを見ていた。彼女はそよ風で靡く金髪の長い髪。華奢な体躯はメイド服に身を包んでおり、百人に聞けば百人が美人と答えるであろう、繊細な美術工芸品のような整った顔。そして見ていると吸い込まれそうな赤みがかった瞳。
「私で良ければ主人殿の相手をさせてもらおう。神格が無くなったとはいえ、葉っぱよりはましだろう」
お人形さんのような見た目。
彼女はレティシア。吸血鬼の元魔王で現メイド。先の一件で俺を含めた問題児達の所有物となった少女。
自分で問題児って言ってるって?そのくらい自覚してるさ、自重はしないけど。
「悪いな、一試合頼むわ」
レティシアの提案は正直有難い。俺は頷き少し距離を取る。
俺は今レティシアとの間には五メートルほどの間合いがある。
レティシアが頭につけたリボンを取ると、その小さな身体は手足が長く身長も高いモデルのような体型になった。顔も大人びている。あのリボンには封印の役目があり、普段は力を抑えているからその分の質量の関係で身体も縮んでいるのだという。俺としてはロリでもお姉さんでも、片や可愛く片や美しいのでどっちでも構わないが。
俺は二刀流のまま構える。レティシアは何も持たずに佇んでおり微かに微笑んでいる。
さっき蹴った木から俺たちの間に葉っぱが風で飛ばされてきた。誰が言ったわけでもなく決めてはいなかったが、葉っぱが落ちた瞬間に動いたのはレティシアだった。
レティシアは距離を詰めながら自身の影を操る。その影は謂わば伸縮自在のゴムで、よく研がれた鋭利な日本刀。無数に別れた影が襲いかかってくる。左右に展開したオーロラの剣で右に左にと弾き、時に受け止め全ていなす。
すると直ぐさま作戦を変えてきたのか槍を構えて突っ込んでくるレティシア。その槍は初めて出会った時の投擲用では無く。レティシアの影とは真反対の色をした真っ白な先が三つの三叉槍。所謂トライデントで見る限りかなりの業物であろう。三叉槍を振るい上下二段ずつ突いてくる。
先程と同様にいなしていくが頬を掠め、少し赤く染まった。いつまでも躱していたんじゃ拉致があかないな。
寸前で躱し、懐に入り込み左から右へ横薙ぎを左右の剣で時間差でいれる。右の剣は三叉槍でガードされるが追撃の左の剣で押し切る。
「くっ」
レティシアはくぐもった声を出しつつも上空に回避。俺はすぐさまオーロラの翼を展開し飛翔。距離を開けさせないようにする。
だが、距離をどうしても距離を取りたいのか、レティシア飛んでいく俺に槍を投擲してきた。
「投げるんかい!」
まさか得物を投げてくるとは思ってもみなかったので防御が遅れる。その隙をつかれ、気付いた時には全方位を影で囲まれていた。どうやら地面にあらかじめ影を待機させておいたようだ。
「もらった!」
勝利を確信したレティシアだったが、その慢心に漬け込む。オーロラの形を変える。今までやった事はなかったが出来るはずだ。ウネウネと蠢いたオーロラはやがて形を安定させた。それはまるで意思を持った生き物のようだった。
「食らいつくせ!オーロラ獣!」
声と共に動き出したオーロラの獣はレティシアの影を食らっていった。唖然としているレティシアに、使ってない左手を向ける。血管の圧力を利用して首のあたりから射出。飛び出した複数のオーロラの塊がレティシアを襲う。
残った影を使いオーロラの弾丸を弾いているが想定内。その隙に俺は一気にレティシアの背後へと移動。
「俺の勝ちだな」
背後にまわって左腕を回してレティシアの身体を動かないようにしっかりホールドし、右手のオーロラの小剣を首元にあてた。もしもレティシアが少しでも動けば、陶器のような白い肌に傷が付いてしまうだろう。勿論、そんな事は誰にもさせないし俺もしない。小剣は消そうと思えばいつでも消せる。女の子の肌に傷なんかつけてはいけません。がモットーです。
「なかなかの作戦だと思ったのだが、まだ詰めが甘かったか………フフ、流石は主殿だ」
そのままの状態で地面に降り立ち、小剣と翼を消す。二刀流に翼、オーロラ獣、弾丸、小剣。一度の戦いに此処まで多くのオーロラを使ったのは初めてだったが、何とか感覚は養えたと思う。
「ありがとうレティシア。おかげで実戦感が養えたよ」
「また体を動かしたくなったらいつでも言ってくれ」
何時の間に用意したのかタオルを渡された。何処から出したんだ?と聞くと、メイドだからな。と言われた。ついでにリボンもすでにしており、ロリなレティシア略してロリシアになっていた。
で、汗を拭いていると誰かがこっちにやってきた。やってきたのはレティシアに負けず劣らずの華奢な身体。触れてしまえば壊れてしまいそうなほどの護ってあげたくなる少女。
春日部耀。動物と心を通わし、その力を使う少女。勿論、美人だが、残念な事にまだ成長してないのか女性のシンボルとも言える胸の方は残念な具合だ。模擬戦中に感じた視線は耀だったのか。
「おお、耀か。どうしたんだ?」
そう言うと、耀の顔はプイッとそっぽを向いてしまった。柔らかそうな頬をプクっと膨らませてるのですら、可愛いと思ってしまう俺はおかしいだろうか。だが俺がそんなことを思っているのとは裏腹に、耀からは不機嫌オーラが滲みでている。
「飛鳥が呼んでる。さっさと来て」
ジト目でそれだけ言うとスタスタと行ってしまった。何故不機嫌なのかは分からないが取りあえずついて行くことにする。
「じゃあレティシアまたよろしくな」
そう言って後を追うと耀が再びジト目で睨んでくる。レティシアはレティシアで別れ際に「主殿は女心がわかっていないようだ」とか言ってきた。訳が分からんと思っていると耀が苛立ち交じりに聞いてきた。
「さっき何でレティシアと抱き合ってたの?」
ハッ?見ていたのは知っていたがどこをどう見たらそうなるんだ?いや、確かにレティシアのような美人なら抱けるならいくらでも抱きたいが、さっきまで模擬試合をやってただけだし、そんな事実はない。
「俺はさっきレティシアと模擬試合をしていただけなんだが」
「嘘。抱き合ってた。それに模擬試合するなら私だって手伝えるし………涼太の役にも立ちたいし」
最後の方はボソボソっと言っていたので聞こえなかったが、またスタスタと行ってしまう耀だった。
その後、一から十まで説明して何とか誤解は解けたが、また今度メシを奢る約束を取り付けられた。あれ、これってデートってことじゃね?
☆
耀side
………何でこんなに胸が苦しいんだろう。
さっき涼太とレティシアが
あの後涼太が必死になって説明してきたので一応納得はしたが、やっぱり痛い。もしホントに抱き合っていたら?涼太が誰かと仲良く話していたら?そう考えるだけで何か嫌な気持ちになる。
茶髪でチャラチャラしていて、女ったらしで空気読めなくて、でも顔は悪くはない。
戦っている時の姿は、まるで研ぎ澄まされた一本の刀のようで凛々しくかっこいい。"ペルセウス"とのギフトゲームの時に庇ってくれた瞬間から気付けば涼太を見ている時間が多かった。
この気持ちが何なのかはまだ良く分からないけど、今思っていることはひとつだけ。
ーーー守られているだけの存在だなんて嫌だ。涼太の隣で闘えるように強くなりたい。
ただそれだけ。
暫くして、涼太を連れて飛鳥達に合流しようと書物室に行くと、何故か飛鳥はジンにシャイニングウィザードをしていた。原因は恐らく十六夜かな?
「何してんだ?お前ら」
隣にいた涼太は状況が理解できないのか不思議な顔をしていた。かくいう私もよく分かっていない。本を片手にアクビをしている十六夜、鼻を赤くして気絶しているジン、スカートの誇りをパッパと払う飛鳥。
わたし達に気づいたのか飛鳥が詰め寄ってきた。
あっ、涼太がまた飛鳥の胸を凝視して鼻を伸ばしている。後でお仕置きしなくちゃ。
「十六夜君、ジン君、涼太君!緊急事態よ!二度寝している場合じゃないわ!」
「いや、俺寝てねえし」
「そうかい。それは嬉しいが側頭部にシャイニングウィザードは止めとけお嬢様。俺は頑丈だから兎も角、御チビの場合は命に関わ」
「って僕を盾に使ったのは十六夜さんでしょう!?」
気絶していたジンが起き上がり文句を言う。どうやら元気ようだ。
「大丈夫よ。だってほら、生きてるじゃない。そんな事よりコレを読みなさい」
ジンは扱いが酷くて拗ねている。拗ねたリーダーはほっといて、涼太と十六夜は開封された招待状に目を通す。私も飛鳥が興奮しているのが気になって二人の後ろからのぞき込む。
「どうやら白夜叉からのようだな。あー何々?北と東の"階級支配者"による共同祭典の招待状?」
「"火龍誕生祭"って書いてるぜ」
「そう。よく分からないけどきっと凄いお祭りだわ。二人ともワクワクしない?」
「オイ、ふざけんなよお嬢様。こんなクソくだらないことで快眠中にも関わらず拘らず俺は側頭部をシャイニングウィザードで襲われたのか!?しかもなんだよこの祭典のラインナップは!?『北側の鬼種や精霊達が作り出した美術工芸品の展覧会および批評会に加え、様々な"主催者"がギフトゲームを開催。メインは"階層支配者"が主催する大祭を予定しています』だと!?クソが、少し面白そうじゃねえか行ってみようかなオイ♪」
プルプルと腕を震わせて叫ぶ十六夜。涼太は目を見開きブツブツ言っている。
「あの"白夜叉"がホストをするんだ。きっとウフフな子達がいっぱいなんだろうなぁ。おっと、コレは心の声。みんなに聞かれたら変な目で見られちまう。特に耀にだけは聞かれたらマズイぜ。へへっ。
オイお前ら何してる!さっさと準備しねえと置いていくぞ!」
ギルティ。有罪決定。どうやらこの人は女の子のことで頭がいっぱいなようだ。何でだろやっぱりイライラする。
「言っておくが涼太。お前が心の声と言っているのは全て口に出てたからな」
「へ、何処から?」
「頭から全部だ」
壊れた人形みたいな動きで涼太がこっちを見てくる。私と目が合った瞬間血の気が引いた顔になった。………まるで鬼でも見るかのように。
そんなに怖い顔してるかな?後で鏡を見よう。取り敢えずこのイライラの原因を突き止めなくちゃ。
「………涼太何かもう知らない。口聞いてやんない。皆涼太何かほっといて早く行こ」
このままいたら殴ってしまいそうだったので置いていく。
十六夜と飛鳥が涼太の方に手を置く。
「自業自得だな♪」
「"火龍誕生祭"でご機嫌とっておくことね」
「ぜ、善処します」
後ろの方で何か言っているがよく聞こえなかった。取り敢えず外に出ることになったのでイライラとともに足を運んだ。
☆
涼太side
黒ウサギ宛に手紙を残した俺達五人は"六本傷"の旗印を掲げるカフェに陣取って話をする。
「それで、北側まではどうやって行けばいいのかしら?」
久遠飛鳥は、スカートからスラリと伸びた足を組み直し、ジンに問う。
今日の彼女は黒ウサギから貰った真紅のドレススカートを着用している。
普段着にドレスとはどうかと思ったが、慣れてしまえばどうという事はない。箱庭ではもっと突拍子もない姿をしている者達がいる。
しかし涼太的には折角のスタイルが引き立つのはいいがもっと露出してもと思う。そこは戦後直後の女の子なので恥じらいがあるらしい。だがコレはコレでなかなかとも思っている。
飛鳥の隣に座っている耀が小首を傾げながら答える。
「んー………でも北にあるっていうなら、とにかく北に歩けばいいんじゃないかな?」
無計画にも程がある。耀の提案を聞いた一同は思わず苦笑した。
その耀の衣装だが、召喚された時のものとさほど代わり映えしない、シャツ・ジャケット・ショートパンツ・ニーハイソックス・ブーツと、全く色気の無い組み合わせである。
オシャレしたら絶対可愛いであろう逸材をみすみす腐らしておく俺ではない。近いうちに必ずトータルコーディネートをしてやると心の中で誓うのだった。
飛鳥のもう片方の隣の十六夜がジンに問う。
「で?我等のリーダーは何か素敵なプランは無いのか?」
ニヤニヤと見下ろす十六夜は、着古した紺の制服と壊れたヘッドホンを首にかけただけの問題児の中では一番簡易な服装だ。
「そうだな、此処はリーダー様の意見を聞こうか」
ちなみに俺は白の上着・オレンジのシャツ・黒のパンツ・緑でチェックのシャツを腰に巻いている。外出用の服の時箱庭に飛ばされてからそのままだ。我らがリーダーのジンはダボダボのローブを着たままため息を吐く。
「予想はしてましたけど………北側の境界壁までの距離を知らないんですね。この箱庭は恒星級の表面積です。大雑把に計算すると………大体北側までは980000kmぐらいあります」
「いくらなんでも遠すぎるでしょう!?」
「980000kmか。流石にちょっと遠いな」
「ちょっとどころじゃねぇだろ………」
飛鳥は驚き、十六夜は打つ手がない様子。ジンはやや落ち着いた口調で四人を諭す。
「今なら笑い話ですみますから………皆さん、もう戻りませんか?」
「断固拒否」
「右に同じ」
「以下同文」
「現実逃避」
ガクリと、肩を落とすジン。みんなに続いて勢い良く立ち上がり、ジンのローブを掴んで走り出す。
「黒ウサギにあんな手紙残して引けるものですか!行くわよ皆!」
「おう!こうなったら駄目で元々!"サウザンドアイズ"へ交渉へ行くぞゴラァ!」
「行くぞコラ」
「………どこでも〇アが欲しいな」
ヤハハと自棄気味にハイテンションな十六夜と飛鳥に続き、その場のノリで声を出す耀。俺はただただ現実逃避をする事にした。
十六夜と飛鳥に引っ張られているジンは、自身のローブに首を絞められながら連れ回され、俺と耀が苦笑しながらついて行った。
ここ迄はなんの問題のなかったのだ。
まさか"サウザントアイズ"で思いも知らない人物が待っているなんて、考えもしてなかった。
しばらくあとがき座談会コーナーはお休みです。
御要望があればまた復活するかもです。
それでは皆さんよいお年を!!