"サウザントアイズ"の支店からコミュニティに帰る途中涼太は黒ウサギ達と合流し、一緒に本拠へと向かった。黒ウサギに案内されるがまま、辿り着いた四人は息を呑んだ。何故なら門をくぐると視界には一面の廃墟が広がっていたからだ。しかも魔王とのギフトゲームがあったのは僅か三年前だという。
これが魔王の力か。今の俺で何処まで戦うことができるかな。これは本当に覚悟決めなくちゃいけないかもな。
涼太は内心そう思いつつ、十六夜をチラッと見るとなんだか楽しそうだった。この状況を見て笑えるって何?怖い。
魔王の傷跡を見た後は子供達との自己紹介があった。皆思うところがあったのかドキマギしている中で、涼太は将来有望そうな子達を見て微笑んでいた。
自己紹介も終わり好きな部屋を使っていいと黒ウサギに言われたので適当な部屋へとそれぞれ入っていって、風呂に入った後涼太はベッドに寝転がり今日のことを振り返っていた。
変な声が連続で頭の中に響いてきて、言われるがままに変な世界に来て、変な力が使えるようになり、変なロリっ子と戦い、変なカードを貰った。一言だけ言わせてもらおう!
「とても濃い一日でした、まる」
こんな一日は今まで過ごしたことがない。記憶の中のことを除けばだけど。そう言えば外に何かの気配を感じる気がする。まぁ、十六夜が出て行ったぽいっから大丈夫だな。
「明日からは取り敢えず、情報収集かなぁ。まだ分からないことが多すぎッ⁉︎オオォゥ⁉︎」
ドゴォォン!
何かが爆発するような音がしたが十六夜がいるから任せようと、もう気にしないことにして涼太は毛布を被って寝ることにした。
☆
十六夜side
次の日、俺と飛鳥、耀、ジン、涼太、黒ウサギ、三毛猫は"フォレス・ガロ"のコミュニティの居住区を訪れた。
「此処が舞台か」
「確か居住区って話ではなかったかしら?」
「………ジャングル?」
「いや、おかしいです。普通の居住区だったはずです………それにこの木々は」
木々に手を伸ばすとその樹枝は生き物のように脈を打っていた。どう考えても普通じゃないことは明白。昨日、とゆうか今日の朝まで徹夜で読んでいた本を思い出す。
「"鬼化"してるな」
「分かるのか?十六夜」
涼太が間抜けヅラで聞いてくるが、こっちはお前が寝てる間に色々してたんだよ。
「ジン君。ここに"契約書類"が貼ってあるわよ」
お嬢様の方を向くと確かにそこには昨日白夜叉とゲームをした時にもあったものが貼り付けられていた。
『ギフトゲーム名"ハンティング"
・プレイヤー 一覧
久遠 飛鳥
春日部 耀
ジン=ラッセル
・クリア条件 ホストの本拠地に潜む ガルド=ガスパーの討伐。
・クリア方法 ホスト側が指定した武具でのみ討伐可能。 指定武具以外は"契約"によってガルド=ガスパーを傷つける事は不可能。
・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
・指定武具 ゲームテリトリーにて配置。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、"ノーネーム"はギフトゲームに参加します。"フォレス・ガロ"印』
"契約書類"を見た飛鳥、耀、ジン、黒ウサギはなんだか揉めているようだったが程なくして参加者三人は門を開けて突入した。
今のうちにこいつの実力を試しておくか。涼太の肩を叩き無言で手招き、黒ウサギからは見えないで、聞こえないであろう場所まで移動し少々密談。
俺は元魔王で元仲間の奴が商品となったギフトゲームがあるということを簡潔に伝える。付け加えてそのギフトゲームに臨む前に涼太の実力を知っておきたいことも。こうでも言わないとこいつは乗ってこない可能性があるからな。
「だから涼太、今から簡単なギフトゲームをしようぜ。実力がわからない以上闘りあうのが一番簡単にわかるからな」
「俺は別に構わないがーーー黒ウサギに見つかると面倒じゃないか?」
何かと理由をつけて回避しようとしている。確かな実力を持ってあろうに何故使わないのか、使おうとすらしないのか。俺はそれが知りたかった。
「だから、黒ウサギが向こうの様子を伺ってるうちにしようってことだ」
涼太が渋々と言った感じに承諾すると、双方の合意が得られた事が分かったからか"契約書類"が出てきた。
『ギフトゲーム名"十六夜の月と天界の王"
・プレイヤー 一覧
逆廻 十六夜
天王寺 涼太
・クリア条件 相手を倒す。無力化する。
・クリア方法 お互い全力を持って戦う。(武器・ギフトの使用は可能)
・敗北条件 降参。無力化される。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下" "はギフトゲームに参加します。" "印』
「よし、開始の合図はコイントスな。トスは譲ってやるよ」
「へえ、太っ腹だな。後で後悔しても知らねえぞ」
ゲームをすることが決まったからには勝ちたいのか威勢が良くなる。コインを受け取った涼太は天高くコイントスし、すぐさま戦闘態勢をとった。
左足を前に右足に少し後ろにしている。恐らくいつでも飛び出せるように体重を後ろにかけているのだろう。上半身は半身にして両腕は軽くボクシングスタイル。別に隙がないと言う感じではない、だが俺の本能が何故か攻撃をためらっている。
対して俺はと言うとはポケットに両手を突っ込んだままだらけている。ぱっと見では好きだらけに見えると思うが、自分で言うのもなんだが隙は無いと確信している。
そんなことを考えているとコインがもうすぐ地面に落ちそうだった。コインの軌跡を見つつ、相手を見ているとコインが落ちた瞬間に涼太は駆け出した。
涼太が駆け出したのと同時に俺も駆け出す。本気は出さない、本気を出すと涼太は粉々になるだろう、だが死なない程度に殴り飛ばすつもりで右腕を突き出す。涼太の拳がぶつかると、大気が揺れた。思ったより力もあるんだな。
主導権をわたさせないようあ、すぐに腕を引きその勢いで風を切る裏拳をお見舞いする。よける暇を与えないようにしたのだが、涼太は受け止めその勢いでバックステップし距離を取る。
なかなかの反応速度だな。本気じゃないとはいえ一発もクリンヒットしないなんて。
涼太がフェイントを2つ入れた後、姿が消えた。だがこんな事で取り乱すことはない。微かな大気の乱れを感じたのは己の背後、意識を狩りとろうとしてか背後にに移動し手刀を首に振るってきた。
ダッキングし避けて、そのままカウンターの蹴りを食らわせてやろうとするが涼太はその足を蹴りまた距離を取る。
今のは俺の全力の攻撃だったのだが、それに反応し対応してきたのは正直驚いた。しかも涼太は今ギフトを使っていない。そろそろ底を知りたいのだがどうするか………
「オイ、涼太!そろそろ本気出せよ!俺は退屈だぞ!」
勿論、そんなことはないが分かりやすく煽る。
その瞬間、涼太から凄まじい威圧感が生まれた。先程までとは違っての正真正銘の本気に反射的に距離をとってしまった。
「いいだろう。挑発に乗ってやる。後悔すんなよ十六夜!」
………コイツ、バカだなぁ。単細胞と言うか単純と言うか、だがそのおかげでようやく本気を見ることが出来る。
重力が十倍にもなったかのような威圧感。本当は力量を見極めるだけだったが、俺の血が沸騰するように滾って来る。箱庭に来るまでの退屈な日々、我慢していた力、抑圧されていた欲求を満たすことが出来る。今の俺はギフトゲームなどどうでもいいと思っている、その嬉しさに身を包んでいた。
軽く煽ったら乗っかってきた涼太の右腕からはオーロラ色の鉤爪が現れた。あれは確か白夜叉とギフトゲームしていた時にも使っていた。少しの間しか使っていなかったので詳細は分からないが、何か特殊能力があるかもしれない。だがそこが面白い。未知の攻撃に突き進み真正面から打ち砕く快楽。
平凡な日常生活にはほんの少しのスパイスが必要。俺は今までに無いくらいに興奮していた。そのこともあってか気づかなかったウサ耳生やした巨乳が接近していたことに。
そのまま足を一歩踏み出したかと思ったときには俺の懐に入り込んでいた。
「ウオィ‼︎」
間一髪避けたはずだが学ランが切り裂かれていた。一瞬のことだったが見えなかったわけでは無いし、だいぶ余裕を持って回避したつもりだったが服を掠めていた。推察するに涼太の武器全般は伸縮が自在と言うこと。
「いいぜ!いいぜ!いいなあオイ‼︎楽しくなってきたぜ。次はこっちから行くぜ」
箱庭に来て白夜叉に続く強い奴に俺は駆け出すのを抑えることができなかった。だが涼太との間に爆音とともに現れたものがいた。俺が気づかずに接近を許したのは黒ウサギだった。やべえと言わんばかりに涼太が逃げようとするのを黒ウサギが捕まえた。涼太には悪いが囮にすることにして逃げようとしたところを捕まってしまった。普段なら捕まることも無いし今もそうだったが、黒ウサギから滲み出る真っ黒なオーラを感じると逆らわない方がいいと身体が勝手に動きを止めてしまった。
「この問題児様!何やってるんですか、ちょっと目を離したらコレなんですから「い、いやこれは十六夜が………」言い訳なんて聞きたくありません‼︎」
そのまま俺は涼太とひきづられて最初の場所に戻る羽目になった。
俺達が戻ってくる頃にはギフトゲームは終わっていて、勝ったらしい。正直、鬼化した相手によくあの面子で勝てたなと思った。だが、どうやら無傷では無いらしく春日部が怪我したのだと言う、俺達を引きずっていた黒ウサギは顔面を真っ青に変えて青ウサギとなり怪我人抱えて走り去っていった。
☆
涼太side
本拠に戻った俺、十六夜、飛鳥、ジンは耀の容体を確認しに行く。部屋に入るとしっかりと治療された耀とベッドの横の椅子に座って安堵した黒ウサギがいた。ノーネームの倉庫で埃を被っていた増血のギフトと治癒のギフトを上手く使ったらしい。
安静にしていれば明日にでも動けるようになるらしいので、ゆっくり休んでもらうため皆が部屋を出て行く。俺も続こうとしたがふと振り向いて耀の顔を見たら何だかほっとけなくなった。
「暇なら、少しいいか?」
様子を見に来た時から変わらない、相変わらずの暗い顔だったがコクリと首を縦に振ってくれた。
「黙っているよりかは話す方が楽だと思うぞ。俺は聞いたところで何もしてやれることはないけど、話を聞くことは出来る。それでも嫌なら今すぐ部屋から出て行くけど?」
「………私は、弱い」
耀は閉ざしていた口を少し開き、ポツリポツリと話し始めた。
「ガルドとのギフトゲームで私は何の役にも立てなかった。箱庭に来て新しい友達も証を手に入れて強くなっていた気でいたけど、実際は自分の力を過信して迷惑をかけただけ………。結局、ガルドは飛鳥が倒したしジンは私を治療していた。ただ悔しかった!私だけ役立たずみたいで!ギフトゲームが終わった後も自分だけ寝てるだけだし。私はノーネームに箱庭に来なかった方が良かったのかもしれない。」
声を荒げ、嗚咽を絞り出しながらの葛藤。俺は黙って聞いていたが次第に怒りがこみ上げて来た。
「なぁ耀。確かに今回のギフトゲームでは耀だけが負傷したかもしれないし、敵との力量を見極めず無茶したかもしれない。だが指定武具を手に入れたのは耀のおかげでそれはアイツら二人じゃ出来なかったことだ。俺達はもう仲間だ、欠点はみんなで補っていけばいい。………あと、来なかった方が良かったなんて言うな。その言葉は仲間にも耀自身にも失礼だ。負けることはダメなことじゃない、次に生かせればいいんだ。ダメなのは諦めて立ち止まる事、耀はこうやって悩んでいるんだから立ち止まってない。だから、そんなこと言うな。そんなの寂しいじゃねえか」
耀の瞳から雫が垂れるのを自前のハンカチで拭ってやる。俺が伝えたい事は伝えた。後は耀自身が決めることなので一人にしてやる。考える時間が必要だからな。
去り際に頭を撫でてやり部屋を出る。部屋の外で俺が見たのは先に出て行ったはずの十六夜と飛鳥が立ち聞きしている姿だった。
「お、お前らまさか聞いてたのか⁉︎」
二人ともニヤニヤして俺の両端を挟むように立つ。
「いや何も聞いてないぜ。なあぁお嬢様?」
「ええ『俺たちはもう仲間だ』とか聞いてないわ」
「そうそう、俺も『寂しいじゃねえか』とか知らないから」
二人が俺の肩に手を起き温かい目で見て来る。
「お前ら、息ピッタリだな」
溜息つきつつ出た言葉は虚空へと消えていき、一つ心に決めた。
次からは大事な話をする時は扉の前をきちんと確認することを。
あとがき座談会コーナー
本日は初登場、春日部耀さんです!!
「よろしく」
はい!よろしくお願いします。それはそうと早速フラグを構築して行きましたね。そこんとこどうお考えなのですか?
「フラグを建てたつもりはないんだが、耀のあの様子は見てられなかったからな。一人で抱え込むのは愚行だ。せっかく仲間がいるんだから心境ぶちまけるのは大事なことだぜ。」
「………涼太」
「黒ウサギにジン、十六夜、飛鳥これだけの人間が周りにいる。まあ、頼りないかもしれないが俺もいるし」
「うん………ありがと」
あーハイハイ、ごちそうさまデース。
「何でそんな投げやりなんだよ俺らの作者は」
えー、それ聞きます?世の中クリスマスが近づいてきてカップルムード満載でイチャつくのが、街中でも学校でもバイト先でも目に入るからイライラするとか思ってないですよ。
「完全に私怨だな」
「醜い男だね」
グサッ!!お二人は良いですよね楽しそうで。今日は気分が優れないのでこの辺で………
「「「次回もよろしくお願いします!!」」」