涼太side
「貴方は誇りを賭けて、私は命を賭けてギフトゲームをしよう」
契約書類を読み終わると耀がすぐに手を上げた。どうやらグリフォンを跨るのが昔からの夢だったようだ。十六夜と飛鳥も了承したところで、俺は先ほどからの疑問を口に出す。
「なぁ、ところで白夜叉さんよ。このギフトゲームの参加者に俺の名前が入ってないんだけど」
「お主には違うギフトゲームを受けてもらう。さっき聞きたいことがあるといっただろう?ならばギフトゲームにクリアする事だ。」
何やら企んでいるような顔で言ってくるが、仕方が無い。クリアしろと言うならしてやる。俺は縦に頷いた。
そうこうしているうちに耀のギフトゲームが始まった。耀はグリフォンの鬣をしっかりと掴み、しがみつく。必然的に身体が密着することに羨ましいと思った。発達途上の身体の耀だが、それはそれで需要がある。かく言う俺もその一人。(決してロリコンでは無いが)
グリフォンが疾走。始めから凄まじい速度で空を駆け抜ける。途中、上下左右に駆け振り解こうとするが今のところ落ちる気配が無い。山をぐるりと回ったところであと半分。最後は今まで以上の速度をだすグリフォンだが必死にくらいついている。ゴールまであと、十m、五m、ゴールラインを超えた。
耀の体格からしてクリアは難しいと思われたが、これで一安心。したのもつかの間ゴールとほぼ同時に耀の手が離れその華奢な身体が宙を舞う。助けに行こうと黒ウサギと飛鳥が飛び出すが、それを十六夜が止めた。俺も飛び出そうとしたところで気づく。
宙で身体を入れ替え、そのまま階段を降りるように空を跳ねて戻ってきた。今度こそ一安心だが、今度は俺の番。皆が集まる中、俺は意識を高めるのだった。
☆
白夜叉side
「よもや、本当に勝ってしまうとはのう。ならば次はお主の番じゃの」
目を向けた先には、瞳を瞑り集中する小童の姿があった。隙がない、素直にそう思った。何百年も生きて来た自分にとっては小僧一人相手にするぐらい造作もないことだが、此奴は違う。
あの時感じた感覚が正しければ、此奴はもしや………
白夜叉は思い浮かべていた。昔戦った黒のコートを着て、その身を武器にしていた
ーーーもしかしたら私の知り合いがこの世界に来るかもしれません。その時は力になって上げてください。
あれから何百年経ったかは定かではないが、恐らく此奴があの男の言っていた知り合い。ならば今こそ約束を守ろう。少し、試させてはもらうがな。
「ほれ、涼太。コレがお主の受けるギフトゲームじゃ」
ギフトゲーム名"白夜の王と天界の王"
プレイヤー一覧 天王寺涼太
クリア条件 白夜叉に一撃与える。
クリア方法 ギフト、武器、個人の能力全て使用可能。
敗北条件 降参、上記の条件を満たせない場合。
宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。"サウザンドアイズ"印
契約書類を読み終わった涼太は何やら考える仕草をしたが、考えが纏まったのか此方に鋭い眼差しを向けて来る。その瞳は先代のリライターを彷彿させ、血を滾らせた。
「それでは始めようかの」
開始の合図と共に涼太が此方に駆けてくる。右の拳を振り抜き、左足を蹴り上げてくるがバックステップをして避ける。
「どうしのじゃ、こんなものかの?」
攻撃後の膠着したところを狙い、扇子で顔を殴り岩に向かって吹っ飛ばす。岩が砕ける音と一緒に瓦礫となる。死んではないだろうが少し心配になったので涼太の方へと足を進め、瓦礫を覗き込む形になる。
あの時の感覚は錯覚だったのかのう。実際、此奴が彼奴の言っていた少年かどうかは分からないからのう。
ッ⁉︎
そこまで考えたところで気が付けば、瓦礫からかなりの距離をとって下がっていた。今の感覚は彼奴と一戦交えた時に感じた感覚、殺気とも違う不思議な感覚。そして不意に飛んで来た何かを扇子で受け止めていた。
☆
涼太side
やっぱり、一筋縄ではいかないな。東側最強は伊達でなかったというところか。渾身の攻撃も子供の児戯のようにあしらわれて、瓦礫の山にいる。どうすればいい。このまま負けるのは癪に障る、試しにこれを使ってみるか。
記憶の中を図書館に見たてて、一つの本を取り出す。ここの本一つ一つは俺の記憶、ページをめくり記憶を呼び起こす。
記憶の中を覗いて、再現する。イメージは車のアクセルを踏んで上空から油滴を歯車に落とす感覚。歯車を動かすと別の歯車が動き出し、次第に無数の歯車が動きを連ねていく。そして落ちてきた油滴を書き換えたい部分に浸透させる。
ーーー今、それを使うのはあまりお勧めしないぞ。
また頭の中で何かが言って来る。俺は無視しようとするが言葉が続いて聞こえる。
ーーーこんなところで使わず、もっと大事な場面があるはずだ。それは便利だがリスクを伴う。やめておいたほうがいい。
強制させるような言葉ではなかったが、俺は何故か従ってしまった。書き換えるのをやめてアウロラだけを使うことにする。白夜叉の動きは素早く、捉えるのは難しい、十六夜を追いかけた時の大剣ではなくもっと速さを追求したもの。
イメージが固まり、力を流し込む。俺の右手にアウロラが収束したところで俺は瓦礫の山から飛び出し、白夜叉めがけて右手を突き出す。
ガキンッ!
金属同士がぶつかり合う音がした。どうやらさっき殴って来た扇子で受け止められたようだ。対して俺が顕現させたのはアウロラで造った鉤爪のようなもの。力を入れて押し込んでいく。
再び力を入れた時、扇子が半ばから切り離される。白夜叉に一瞬できた隙を見逃さず、手首を返し斬りつける。
さすがの反射神経なのか直撃は避けられたが、頬から血がほんの少し流れ出ている。俺が自分の頬を触り教えてやるとどうやら向こうも気づいたようだ。
「確か一撃入れれば勝ちだったよな。ならこのゲームは俺の勝ちだ」
ゲームに勝利した俺と問題児三人と黒ウサギを自分の周りに集め、口を開こうとした白夜叉だが俺が近づき話をとめる。
「いくらギフトゲームとはいえ女の子の肌に傷を負わせてすまなかった。化膿しないように消毒したいところだが、今はコレを使ってくれ」
ポケットから取り出したハンカチを頬に当て傷口を押さえ、血を止めようとする。すると当然顔の距離は近い状態である。白夜叉の顔が紅くなり、目があったところをプイッとそっぽを向かれてしまった。
「………し、して、ギフトゲームに勝ったおんしらには"恩恵"を与えなければのう。コミュニティ復興の前祝いじゃ、受け取るがよい」
白夜叉が柏手を打つと俺たち四人の前に光り輝く四枚のカードが現れた。
コバルトブルーのカードに逆廻十六夜・ギフトネーム"正体不明"
ワインレッドのカードに久遠飛鳥・ギフトネーム"威光"
パールエメラルドのカードに春日部耀・ギフトネーム"生命の目録" "ノーフォーマー"
オーロラのカードに天王寺涼太・ギフトネーム"
それぞれの名とギフトが記されたカードを受け取る。 黒ウサギは驚いたような、興奮したような顔で四人のカードを覗き込んだ。
「ギフトカード!」
「お中元?」
「お歳暮?」
「お年玉?」
「お小遣い?」
「ち、違います!というかなんでそんなに息ぴったりなんですか?このカードはギフトを収納できる超高価カードなのですよ!」
「そのギフトカードに刻まれるギフトネームはおんしらの魂と繋がった"恩恵"の名称。それを見れば大体のギフトの正体がわかるというものだ」
興奮する黒ウサギと自信満々に無い胸をはる白夜叉。
俺のギフトカードに書いてある。"書き換えし者"と"極光"。"書き換えし者"は記憶の中の自分が使っていた力。さっき直感的に使おうとした力も同様のものだろう。謎の声の男も言っていたし、記憶を探ったらわかったのだがなかなかハイリスクな力のようだ。ここぞって時に使うしかないな。次に"極光"。先程も使ったオーロラ、形はイメージさえできれば自由自在だが、使うと少し頭がクラクラする。コレも同様に記憶を探ったら分かったことだが、このオーロラは俺の生命エネルギーを使っている。一回につきの使用量、俺自身の生命エネルギーの残エネルギーも分からないが、多用し過ぎないようにしなければ。
ギフトカードを受け取った三人はマシマジと自分のカードを見ていると十六夜が口を開いた。
「へえ?じゃあ俺のはレアケースなわけだ?」
白夜叉が十六夜のギフトカードを覗き込むと確かにそこには"正体不明"と刻まれていた。
「"正体不明"だと……?ありえん、全知である"ラプラスの紙片"にエラーが起こるはずなど!………それに予想通りお主が次代の"書き換えし者"だったか」
白夜叉はなんだか納得できていない様子だった。(ついでに最後の方はボソボソ言ってて聞こえなかった)
ずっと我慢していたのか、痺れを切らした耀がお腹が空いたと駄々をこねはじめたので、貰うものだけ貰った俺たちは"サウザントアイズ"の支店を後にしようとしたが俺にとっての本題はまだ解決していない。
「白夜叉、さっきのギフトゲームに勝ったんだから質問に答えろ」
「よかろう。約束は守る、今なら聞いてやるから残っておれ。他の皆は帰って良いぞ、ちと二人で話したいことがあるからのう」
お腹が空いた耀と追いかける飛鳥と黒ウサギは直ぐに出て行ったが、十六夜は探るような視線を向けて来た。幸い、諦めてくれたのかニヤリとして出て行ったが面倒くさい奴だ。
最初にいた白夜叉の私室で従業員さんにお茶を貰い、一息つく。無言の時間が続くが、鹿威しがコーンッ!となったのをキッカケに口を開く。回りくどいのは嫌いなので一気に確信を付く。
「俺のギフトカードに書いてある"書き換えし者" "極光"について白夜叉の知っていることを教えてくれ」
「別に教えてやらんことはないが、まずはお主のことを何も知らんからのう。小童の情報を元に私が知っていることを教えるから、まずはお主の事を話せ」
別に話すのは構わないが、こんな夢物語みたいな事を信じてくれるかどうか………。白夜叉が信じてくれると信じ、今の俺の状況を詳しく話していく。
「まず、俺の頭の中には知らない記憶がある。所謂、前世の記憶みたいなやつで、度々フラッシュバックする。その中で俺はいろんな敵と戦っていた、俺がさっきのギフトゲームで使った武器もその記憶から見様見真似でやってみたことだ。この武器になるものが"極光"だと思う。俺のもう一つのギフトである"書き換えし者"の力もおおよその検討は付いている。だがこの力はリスクが高くあまり多用すべきではないらしい。そう頭の中で男の声が忠告してくる。他にも助言やらなんやら突然頭の中に響いてくる。俺はこの声に従い、空からの招待状を受け取り、箱庭に来た。俺が聞きたいのは、俺に何故こんな記憶があるのか、突如響いてくる男の声は一体なんなのか、俺が何故身に覚えのない二つのギフトを持っているかの三つだ。わかる限りでいいから教えてくれ」
俺について一気に話し尽くす。本当の事を言っているのだがどこまで信じてもらえるか。うーんと、目を瞑り自身の記憶を絞り出すように白夜叉の口が開かれた。
「あれは………もう何百年前かの、私がまだ魔王だった頃に出会った男じゃった。その頃はまだ魔王としてブイブイ言わせていた時で、出会う奴らに片っ端からギフトゲームを仕掛けていた。その時の一人で中々骨のある奴がいた。其奴の名は咲夜、黒のコートを身に纏い颯爽と掛ける男だった。」
黒のコートの男。それは俺の記憶の中で幾度となく現れてた奴だ。
「三日三晩死力を尽くし、森が焼け野原になるまでなった頃、突然其奴は『どうやら時間切れのようです』と言い動きを止めた。其の後少しだけ時間があったので其奴の話しを聞いた。私とここまで対等に戦える奴は其の時代にも少なかったからのう、それぐらいの敬意を払ってやる気持ちで頼みを聞いた。奴はおんしと同じ"書き換えし者"であった。奴曰く、知り合いががいつか箱庭に来るから面倒を見てやってほしいとの事だった。店の前でおんしの手に触れた時、あの男と同じ感じがした。よもやとは思ったが話を聞く限り、その男とその謎の声の人物は同一人物であるかまでは分からんが、可能性は高いじゃろう」
謎の男の声は先代の"書き換えし者"らしい咲夜という男の可能性が濃厚。白夜叉のおかげで謎が一つ解けそうだ。だが少し引っかかる。白夜叉の言ってた咲夜の口調が正しければ、俺の頭で響く声とは違うのかもしれない。
「そして何故おんしにそのような記憶があるかについてじゃが………それは知らん。ギフトについてもその記憶について分かれば自ずと分かるじゃろう」
「いや、十分だ。時間をとらせて悪かったな」
やはり、箱庭に来てよかった。この様子だと謎が全て解けるのも遠くない未来かもしれない。そう思うと自然に笑みがこぼれた。白夜叉には感謝しているので一応礼をいっておく。
「ありがとうな白夜叉」
あれ?なんか白夜叉の顔がまた紅くなってる気がする。熱でもあるのか。まあ、気にしないことにして予め教えられていたノーネームの本拠へと向かった。
☆
白夜叉side
涼太が帰って数分後、誰もいない和室で白夜叉はそっと呟いた。
「一瞬、ドキッとしてしまったではないか」
実は、この事を従業員に聞かれ少し噂になっていたとかいないとか。
あとがき座談会コーナー
今回のゲストは白夜叉さんです。
「うむ、よろしく頼む」
それにしても今回で涼太さんのギフトについて少しはわかったんじゃないですか?
「ああ、そうだなまさか咲夜も箱庭に来ていたとは」
「ん?おんし本文では知らない人とか言っておったが知っておったのか」
それについては私が答えましょう。本文の方の涼太さんはなんにも知りませんが、座談会の涼太さんはあちらと似て非になる者。よって、都合のいい具合にいろいろ知っています。
「………まあ、そう言う事だ」
話は変わりますが白夜叉さんにもフラグを建てるなんて流石に主人公様は違いますねぇ。
「何言ってやがる、お前が書いたんだろ、クソ作者!なあ、白夜叉?」
「だって、だって今まで女の子として扱われる事がなかったんだもん」
「どうしたー!?そんなしゃべり方したらホントにただのロリじゃねぇか!」
まあこれからもフラグを建てていきますが、それも涼太さんの魅力ということで、
それではこの辺で………
「テメェ待ちやがれ!話はまだ………」
「私がヒロインなのか?そうなのか?」
あっ、それはないんで安心してください。
それではまた次回もよろしくお願いします!ΣΣΣ≡┏|*´・Д・|┛ダッシュ
「あの野郎!逃げやがった」
「私の事はただの遊びだったのか………」