コードギアス〜暗躍の朱雀〜 作:イレブンAM
「俺の歓迎会を開いてくれるみたいだよ、ナナリー……久しぶりだね? 目はまだ開かないのかい?」
俺のこの言葉を聞いた生徒会の面々は、動きを止めて固まった。
ミレイ会長とルルーシュの会話から俺の歓迎会とアタリをつけたのだが、間違えたのだろうか?
「何を言い出すんだ、朱雀っ! ナナリーの目が現代医学で治せないのは、お前だって知っているだろう!? それを……そうもあっけらかんと口にするとはっ! 相変わらずデリカシーの無いヤツめ!」
いち早く活動停止状態から復活したルルーシュが声を荒げている。
ルルーシュが言う様にナナリー目は、10年程前の事件を切っ掛けに開かなくされている。
その事件とは、ナナリーの実の父のシャルルの双子の兄V・Vが、弟であるシャルルを取られまいと、ルルーシュとナナリーの実の母であるマリアンヌ皇妃を殺害せしめた、といったモノだ。
自分でも何を言っているのか判らないが、これがルルーシュも知りたがっている、『アリエスの悲劇』と呼ばれるマリアンヌ殺害の真相だ。
そして、V・Vの魔の手が子供達にも伸びる事を危惧したシャルルは、ギアスを使ってナナリーを偽りの目撃者に仕立てあげ、ルルーシュと共に日本に送る事で身の安全を確保したつもりになったらしい。
シャルル皇帝の行いは突っ込み所が満載過ぎて、未来知識が正しいのか疑わしくなるレベルだが、髪形もアレだし常人と同じようにに考えてはいけないのだろう。
因みに、シャルルのギアスは、他人に偽りの記憶を刻み込む、といった便利なモノであり、俺も欲しい……じゃなく、ナナリーはこのギアスの力で『目が見えない』と思い込まされているのである。
従って、『見たい』とナナリーが強く念じれば見える様になる。これは、未来知識上のナナリーが実践したことであり、俺はこの情報を元にナナリーの開眼を促そうと思っている。
ナナリーの目が開けばルルーシュが反逆しなくなりそうな気がしないでもないが、ルルーシュのより良い未来にはナナリーの開眼は欠かせない。
もしも、ルルーシュが反逆しないなら、その時は……日本の力をキョウトの名の元に結集させて、ブリタニアに真っ向から独立戦争を挑むのみだ。
「あぁ、それで皆が固まってるのか。相変わらずのルルーシュだけじゃなく、生徒会の皆も過保護なんだ……でも、この話は俺とナナリーの問題なんだ。ルルーシュ達は少しの間黙って見ていて欲しい」
「なんだとっ!?」
「七年前のあの時……俺が言った言葉をナナリーは覚えているかな?」
そんな事は認めない、そう言いたげなルルーシュをスルーしてもう一歩踏み出した俺は、ナナリーが座る車椅子の前で跪いて彼女の手をギュッと握りしめる。
「覚えています。『病は気から、見たいと思えば見える。だから頑張って』でしたよね……ですが、いくら見たいと願ってもこの通り見えていません。私の願いが足りていないのでしょうか?」
「そうかもしれない……良いかい、ナナリー? 俺の言葉をよく聞いて『感じて』ほしい。そうすれば、きっとキミの目は開くから」
ナナリーにだけ解る様に告げた俺は、未来知識を思い浮かべる。
脳の劣化の影響か、未来知識は年々思い出し辛くなっているけれど、それでも重要そうな部分はなんとかキープが出来ている。
そして、ナナリー・ヴィ・ブリタニアは、人の手を握る事で考えを読み取る、といった異能の力の持ち主であり、この異能の力を通せば俺の未来知識を伝える事が出来る。
七年前のナナリーは7歳の子供であった為に、過酷な未来図を伝えるのは躊躇われたが、14歳を迎えた今なら受け止めてくれるだろう。
「このっ、体力バカが! 見たいと思って見えるならば、医師等必要なくなるではないかっ」
「足が悪いのは別にして、ナナリーの目が開かないのは病気じゃないだろ? ルルーシュの言っていた事じゃないか……医師にも原因が判らない、って。だったら、後は意思の問題だ」
「誰が上手いことを言えとっ」
「ごめんごめん。そんなつもりで言ったんじゃないんだ。本当に日本には『病は気から』っていう格言があるんだ……ですよね? そこのメイドの方」
俺は僅かに顔を持ち上げて笑顔を造ると、ナナリーの背後で車椅子を支えるメイド、篠崎サヨコだったかに同意を求める。
ナナリーに記憶を伝えるにはどれくらい掛かるか判らないので、ちょっとした時間稼ぎだ。
「はい。何事も心構え次第といった精神論になります。ルルーシュ様」
「日本人が得意の根性論か……だが、そんなものではっ」
「そうやって否定しても何も変わらない……ルルーシュは黙って見てるといいさ。別に危ないことをしようってんじゃないんだから」
「む……それはそうだが。いや、ダメだっ、ナナリーが傷付く」
「良いんです、お兄さま……それより、朱雀さんはコレを信じているのでしょうか?」
ナナリーの言う『コレ』とは未来知識の事だろう。
代名詞を言い間違えたのでなければ、上手くナナリーに伝わったとみて良さそうだ。
「勿論。そうでなければこんなことは言わないさ……良いかい、ナナリー? 世界は優しくない。辛いことや、苦しいこと、悲しい事に満ち溢れている……特に俺のようなナンバーズには、とても辛い世界だ」
「朱雀……お前……」
「だけど目を背けちゃいけない。辛い世界であっても目を見開いて向き合い立ち向かう事で、未来はきっと開かれるし、楽しい事だって沢山ある」
「朱雀さん……ですが……」
「ナナリー、キミは強い子の筈だ。いつまでもルルーシュに頼ってないで安心させてあげなきゃ。だから、刻まれた記憶に囚われたりしないで、その目を開くんだ。キミなら出来る……俺の言ってる意味が判るよね?」
「ですが……今の私には覚悟が足りていません」
「大丈夫。キミの事は俺が守ってみせるし、ルルーシュの事も支えてみせる。俺はそれだけの修練を積んできた……キミの目が開けば全てが上手くいく……いや、違うか……答えはもっと単純だ。ナナリーはルルーシュの笑顔が見たくないのか? キミの目が開けばルルーシュが喜ぶ。それが全てだ!」
ナナリーに語り掛ける内に自分の意思に気が付き、思わず声が大きくなる。
そうだ。
元々俺はルルーシュの為に未来に抗おうとしていたんだ。
後から後から背負うモノが増えてきたが、ルルーシュが幸せなら俺の目的の一つは達成だ。
「ハ……っ!?」
急に息を飲んだナナリーが、慌てた様に俺の手を放した。
「どうしたナナリー!?」
「朱雀さんは七年前……私達の為に……」
ナナリーが申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
これは……七年前の父殺しまで伝わってしまったとみるべきか。
「ん……別に大したことじゃないよ。誰に言われたでもなく、これが俺の選んだ道だから」
俺は出来るだけ明るく話すが、周りの人達は「コイツら何を話しているんだ?」とでも言いたげな面持ちで神妙にしている。
幾度も突っ込みを入れてきたルルーシュでさえも黙ってしまい、広いエントランスホールが一瞬の静寂に包まれる。
その時、ナナリーの頬を一筋の涙が流れ落ちた。
「朱雀さん……はじめまして、と言えば宜しいのでしょうか? ごめんなさい……とても優しそうで、悲しそうなお顔をしてますね」
ゆっくりと瞼を開き、光を取り戻した瞳で俺を見据えたナナリーが、何故か謝罪の言葉を述べている。
「違うよ。コレはね、嬉しいんだ……色々あるけど、開いてくれて、ありがとう」
未来知識を知る俺は、正直、ナナリーに対して思う所が無くはない。
だけど、今は、ただただ嬉しく思い、ナナリーに釣られる様に涙を流した俺は、自然と感謝の言葉を口にする。
俺にもまだ感情が残っていたらしい。
「バッ、馬鹿な!? ナナリー……お前、目が? 朱雀っ、お前は一体ナナリーに何をした!?」
「ルルーシュも見ていたハズだよ……俺は何もしていない。刻まれた辛い記憶に打ち勝ったのはナナリーさ」
ルルーシュが疑うのは想定内……だからこそ、こうして堂々と疚しいことはないと、やってみせたんだ。
制服の袖で涙を拭った俺は、そう言って立ち上がるとナナリーの正面の席をルルーシュに譲った。
「朱雀さんのお陰です。お兄さまのお顔を見るのは随分と久しぶりですね。お兄さまには今まで苦労をかけてしまいました……でも、コレからは朱雀さんと一緒にお兄さまを支えていきたいです」
「ナナリー……苦労なもんかっ。俺はお前の為ならっ」
そこまで言ったルルーシュは感極まったのか、ナナリーを抱き締めるとそのまま口を閉ざし、ナナリーを抱き締めるルルーシュの肩は小刻みに震えていた。
これでは本当にルルーシュは反逆を行わないかもしれない……日本の解放には大きな痛手だが、日本をあまねく照らす光となる、過剰スペック機『天照』を完成させればなんとかなる。
今は、兄妹の喜びを共に分かち合おう。
それから、生徒会の面々も涙を流してナナリーの開眼を喜び、俺の歓迎会はナナリー開眼記念パーティーとなって夜更け迄行われたのだった。
そして、俺の学園生活はルルーシュとナナリーの笑顔に囲まれ、誰もが反逆者としての顔を見せずに穏やかに過ぎてゆき……運命の日を迎えた。
次回から地の文を、イニシャルでC・Cさんの語りによる三人称で話を進めてみようと思ってます。
たまに朱雀の一人称。
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