コードギアス〜暗躍の朱雀〜   作:イレブンAM

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まさかの中編。








再会・中編

 俺達は当たり障りのない近況報告……ルルーシュからは、料理が上手に成っただとか、アッシュフォード家の好意で今の生活が成り立っているだとか。

 俺からは、遠縁の親戚がいる田舎に身を寄せていたので、戦前とあまり変わらない修行に励む生活を送っていただとか、今は学生寮で一人暮らしをしているだとか……嘘ではないけど真実も告げない話を交わしながら、クラブハウスを目指して歩いた。

 そんな俺達の行く手を予想外の人物が遮ったのは、階段を下りきり一階に降りた時のコトだった。

 

「あの……少し、話したいことが有るんだけど、良いかな?」

 

 俺達の行く手を遮り片手を口元にあて、伏し目がちにか細い声で話す赤毛の少女、カレン・シュタットフェルトは儚げだ。

 

 しかし、未来知識を持つ俺は、彼女のこの姿は設定であると知っている。

 実際の彼女は、シンジュクゲットーでレジスタンス活動を行う『扇グループ』の一員で、極めて運動能力の高いテロリスト、紅月カレンだ。

 今だって屋上にいた俺達の事……いや、正確には俺を遠目に探り俺達の移動に合わせ別階段を使って走り、先回りしている。

 その証拠に僅かに息が荒い。

 

「すまない。俺は忙しいんだ」

 

「あなたに用はありませんからお先にどうぞ。用があるのは桜木君です」

 

 ずいっと前に出たルルーシュがカレンをあしらおとするも、逆に素っ気なくあしらわれポカンと口を開いている。

 自信家故に、女に呼び止められると自分に用があると思ってしまうのだろう。

 

「ルルーシュに用がないなら俺に用があるのかな? カレン・シュタットフェルトさん」

 

「お前、コイツを知っているのか!? まさかっ、コイツがお前の!?」

 

「何言ってるんだい……知っているも何も、クラスメイトじゃないか? どうしてルルーシュが知らないのさ」

 

 ルルーシュの記憶力はハッキリ言って異常だ。その気になってモノを見れば、一度見ただけで大抵のモノを覚えてしまう。

 つまりルルーシュにとってカレン・シュタットフェルトは、完全に興味の対象外だったのだろう。

 

「あの……付いてきてくれますか?」

 

 眉を下げてか細い声を出すカレンだが、コメカミの辺りがヒクついている。

 俺達の暢気なやり取りにイラついている様だ……未来知識の通り、短気で直情的か……。

 

 正直、彼女に対して思うところはある。

 未来知識上の紅月カレンは、ルルーシュが演じるゼロの親衛隊として闘うエースパイロットだけど、最後には感情に任せてルルーシュを裏切り敵対する女だ。

 いくらルルーシュの方から離れていくように画策したとはいえ、許せることじゃない。

 

 だけど、今の彼女は未だ何もしていない……未来知識に引き摺られ、必要以上の敵愾心を彼女に向けるつもりはない。

 そもそも俺は、あんな結末を迎えない為に動いている。

 目の前の彼女の狙いは判らないが、新たな関係を築く助けになるかもしれないし、ここは彼女の話を聞いてみるのが良さそうだ。

 

「……ここじゃ話せないのかな?」

 

「出来れば二人きりに……」

 

「分かった。でも俺もこの後用があるから手短に頼む」

 

「なっ!? 間違えているぞ、朱雀! お前にはナナリーがいる! そんな女に付いていってどうするつもりだ!?」

 

 ポカン状態から復活したルルーシュは、またまた意味の分からない事を叫んでいる。

 

 面白いから放っておきたいけれど、流石に少しは訂正しておくとしよう。

 

「はいはい……そんな大袈裟に成らなくても大丈夫だって。多分、ルルーシュが考えている様な話じゃないから」

 

 こうして俺は「場所なら判る」と、狼狽えるルルーシュを先にクラブハウスに向かわせ、カレンに連れられて中庭へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「どうして日本人のお前が、ヘラヘラ笑ってイレブンだなんて言えるんだっ」

 

 中庭で立ち止まった紅月カレンは振り返ると、後ろから付いて歩く俺の胸ぐらを掴んで顔を寄せ、ドスの利いた声で脅しくる。

 

「……直情的だな」

 

 カレンの手首を掴んだ俺は、力ずくで彼女の手を下げさせた。

 

「……っ痛。この馬鹿力!」

 

 俺の手を振り払ったカレンが一歩後退り、俺達は適度な距離で向かいあう。

 

「カレンさん……で良いのかな? キミは日本人がイレブンと自称する度にこんな事をしているんだ?」

 

「違うっ、お前のような奴にダケだっ」

 

「俺のような……? どういう意味かな?」

 

 俺は内心の焦りを隠して冷静を装い、にこやかに聞いてみる。

 扇グループ程度の組織に属するカレンが俺の事を知っているなら……それはつまり、俺こと枢木朱雀は裏の世界では有名人ということになってしまう。

 

 俺の名は極力表に出ないようにしていたハズだが……不十分だったのか?

 

「この学園に入れる日本人なら金持ちに決まっているっ……日本人の中でも力のあるお前達がブリタニアに媚びへつらうからっ、いつまで経っても日本は変わらないんだ」

 

「ハァ……キミはそんな程度の根拠でよく確かめもせず、こんな真似をするのかい?」

 

 あまりの考えなしの行動に、ホッとするやらガックリするやら……俺は、ため息を付いて呆れ眼でカレンに問いかける。

 

 完全な驚き損である。

 

「なんだとっ!?」

 

「もし俺がブリタニアの諜報員だったら、どうするつもりなんだ? キミのその言動はブリタニア国家に対する明らかな反逆だ」

 

「……っ!? お前、まさかっ!?」

 

「あぁ、違う違う。もしもの話だ……俺はただのイレブンさ」

 

「だからっ、イレブンって言うな!」

 

 一周巡ってまたそれか。

 熱意は買うが、これじゃぁ兵士としてはどうなんだ?

 

「キミは間違えている。今現在は、日本という国は存在しないし、俺がイレブンなのは紛れもない事実だ……日本の血を引く君が日本を憂いてくれるのは嬉しいけど、キミの行動はあまりに短絡的だ」

 

「ど、どうして、私の事を!?」

 

「見れば分かる」

 

「そ、そうかな?」

 

 彼女は何故か嬉しそうにハニかんだ。

 

 かなりマズイ会話をしているハズなのに、それで良いのか紅月カレン。

 

「今の話は聞かなかったコトにするけど、変な思想を他人に押し付けるのはホドホドにした方が良いんじゃないかな? 話すなら、せめて相手のコトをもっと調べてからだ」

 

「あぁ、すまなかった……だけど、お前はどうして自分をイレブンだなんて呼べるんだ!?」

 

「ふぅ……聞いてなかったのかい? 現に俺はイレブンだし下手に日本人と名乗れば余計な軋轢を産むだけだから、イレブンと名乗って争いを避ける。日本人らしい行動だとは思わないかい? ……キミの話がこれだけなら俺はもう行くよ」

 

 彼女とこれ以上話すコトはない。

 今日のところは、目の前の彼女がブリタニアに敵意を抱いていると知れただけで十分だ。

 背を向けた俺は軽く手を振った。

 

「あ、待って! 又、話せるかな?」

 

「こんな場所で、物騒な話はしたくないよ」

 

 裏を返せば、違う場所なら話しても良いということだけど、果たして彼女に伝わったのか。

 

 振り返ることなくクラブハウスを目指して歩き始めた俺に、確認する術はなかったのである。

 

 

 

 

「遅かったな、朱雀……皆、待っているぞ」

 

 クラブハウスのインターホンを鳴らすと、不機嫌そうな面持ちのルルーシュがドアを開き、俺を招き入れる。

 

 玄関を入って直ぐのエントランスホールには、真っ白なテーブルクロスの掛けられた丸いテーブルが幾つか置かれている。

 俺の生徒会入りをルルーシュが打診したにしては準備が早すぎるし、何か別の催しモノがあるのかもしれない。

 

「ごめんごめん。イレブンと名乗ったのが気に入らなかったみたいでさ。彼女、卑屈な男は嫌いなんだって」

 

「彼女って、カレンさんよね? なんか意外……もしかして、気が強いのかな?」

 

 そう言って玄関にまでやってきたのはシャーリーだ。

 当初は俺を睨んでいたシャーリーだが、午前中にルルーシュから紹介された彼女に向かって「ルルーシュの彼女?」と聞いたのをきっかけに、すっかり打ち解けてくれた。

 

 未来知識上は若くして死を迎えたシャーリーこそが、ルルーシュの日常の象徴であり、出来ればルルーシュと結ばれて欲しいと思っている。

 

 シャーリーとルルーシュに挟まれる形で、丸いテーブルに向かう俺は、彼女を死なせない……と密かに誓う。

 

「どうだろう? 俺は、少し話しただけだから」

 

「そんなこと言って、ホントは告白されたんじゃないの?」

 

 そう言って茶化してきたのはリヴァルだ。

 当初は俺との距離を図りかねていたリヴァルだが、午前中にルルーシュから紹介された彼に向かって「ルルーシュの友達?」と聞いたのをきっかけに、すっかり打ち解けてくれた。

 

 リヴァルは未来知識上だと最後までルルーシュの秘密に関わることは無かったが、誰よりもルルーシュを信じた男であり、ルルーシュと親友同士といって過言ではない。

 

 出来ることならルルーシュにも自覚させたいと思っている。

 

「それはないよ。俺はイレブンだからね」

 

「そんなの関係ないって。朱雀はルルーシュの友達だから俺とも友達だろ? カレンさんだって分かってくれるさ」

 

「またいい加減なコト言って……それ、どんな理屈よ?」

 

 そう言って話の輪に加わったのはミレイ会長だ。

 ワゴン車を押しながら現れたエプロン姿の彼女は、どこか俺を値踏みする様な視線を向けてくる。

 

 ルルーシュの生い立ちを知る彼女とは、なんとか上手くやっていきたいのだが、俺の第一印象は良くない様だ。

 

「あ、会長」

 

「朱雀、紹介しよう……アッシュフォード学園生徒会のミレイ・アッシュフォード会長だ。この学園の理事長の孫娘でもある」

 

「ミレイ・アッシュフォードよ。あなたが朱雀君かぁ……ルルちゃんの友達なんだってね?」

 

「はい。桜木朱雀です。ルルーシュとは戦前の頃に仲良くしていました」

 

「ふぅ〜ん? 戦争前かぁ……」

 

 軽くお辞儀した俺に、やはり値踏みするような視線を向けてくるミレイ会長だけど、理由が分からない。

 

 ミレイ会長は未来知識上でも掴みどころのない部分が見受けられたが、何か良からぬ企みでも考えているのだろうか?

 

「ねね? ルルって子供の頃はどんなだったの?」

 

 俺とミレイ会長の間に漂う微妙な空気に気付かないシャーリーは、料理を並べながら興味津々といった面持ちだ。

 

「どんなって、今と変わらないんじゃないかな? シスコンで、無駄に偉そうで、負けず嫌いで、意地っ張りで、頭は良いけど貧弱で、シスコンで」

 

「待て、朱雀! シスコンが被っているぞ!」

 

「大事な事だから二回言ったんだよ」

 

「む……そうだな、ナナリーは大事だからな」

 

「否定はしないんだ……」

「っていうか、今のって悪口でしょ」

 

 俺とルルーシュのやり取りに、呆れるシャーリーとリヴァル。

 

「そうかな? さっきの言葉を続けると、シスコンで不器用だけど根は優しいになるんだけど……違うかな?」

 

「誰が優しいというのだ!?」

「うぅぅん、合ってる!」

「確かにルルーシュって不器用だからなぁ」

 

 俺のルルーシュ評に納得したのか、しきりに頷く二人と、納得いかないのか、苦虫を噛み潰したかの様な表情をする一人。

 

「ハイハイ、皆おしゃべりを止めて手を動かす! 話は準備が終わってからにしましょ? 朱雀君、ちょっと手伝ってくれるかな?」

 

「会長、朱雀はゲストですよ。手伝いなら俺が」

 

「クラブハウスの案内も兼ねるから良いの。ルルーシュはナナちゃんを呼んできて、会長命令よ」

 

 そう言ってルルーシュにウインクしたミレイ会長が俺に手招きする。

 

 こうして俺は、会長に従ってクラブハウスの奥へと向かった。

 

 

 

 

「これで良しっ……準備は万全。後は運ぶだけね」

 

 コンロから下ろした鍋をワゴン車に乗せたミレイ会長は、満足そうに腰に手を当て胸を張っている。

 

 胸を反らすことで、エプロン姿でもその抜群のスタイルがハッキリと判る。

 

「はぁ……? コレッて俺は必要なかったんじゃ?」

 

 と言うのも、俺は台所に来てから何もしていない。

 様々な食器をテキパキとワゴン車に乗せて、鍋が煮立つまでの間に後片付けをしたのも会長だ。

 

「そうねぇ〜。実はね、朱雀君に来てもらったのは、話したい事があったからなのよ」

 

「話したい事、ですか?」

 

「回りくどいのは嫌いだから単刀直入に聞くわね…………何の目的でルルーシュ様に近付いてきたの?」

 

 一歩前に出て至近距離で俺の目を見るミレイ・アッシュフォードは真剣そのものだ。

 

「ルルーシュ様?」

 

「そういうお惚けはいらないから。戦争前のルルーシュ様を知っているなら、貴方は素性を知っているハズよ」

 

 紅月カレンとは違い確信が有っての詰問らしい。

 

「ということは、ミレイ会長もご存知なのですね」

 

「えぇ。だから確認しておきたいの。爵位はなくしたけれど、お祖父様の周りには護衛が居るのよ」

 

「それがなにか?」

 

「達人っていうのかしら? そういう人達を見てきているから、朱雀君が只者でないのが判るのよ。ルルーシュ様の過去を知る只者でない貴方が、こんな時期に転校してきた……警戒するなというのが無理な話しじゃないかしら?」

 

 ルルーシュの過去を知る者から見れば、俺は怪しさ満点、と云うことか。

 

「なるほど……そういう見方もあるのですね。勉強になります」

 

 というか、ここでこの考え方を知れたのは大きい。

 これは、俺も素顔を隠して行動する必要がありそうだな……問題を起こした俺を調べるついでにルルーシュの事がバレる、なんてことにもなりかねない。

 

「判ってくれたみたいね? それで、貴方の目的は?」

 

「目的といわれましても困ります。この学園でルルーシュに会ったのは偶然ですから」

 

 困り顔を造った俺は、肩を竦めて両掌を軽く上に上げる。

 

 俺は、伊達にキョウトの妖怪じじぃ相手に嘘をついてきたのではない。ミレイ・アッシュフォードが才覚溢れる女性であったとしても、化かし合いで俺が負けることはないだろう。

 

「それを信じろというの?」

 

「信じるもなにも、どうやったらルルーシュがここに居ると調べられるんですか? アッシュフォードの機密保持は、俺のような学生に破られるモノなのでしょうか?」

 

 俺がルルーシュの在籍を確認したのは数年前に肉眼で一度だけ。

 アッシュフォードの機密情報に侵入する様な真似は一切しておらず、何の証拠も有りはしない。

 

「アイタぁ……それを言われちゃうとそうなのよねぇ。だったらやっぱり、朱雀君が現れたのは偶然かしら?」

 

 証拠がないのはミレイも判っていた様で、露骨なまでに表情を崩した。

 俺を調べても証拠が出ないからカマをかけた……と言ったところか。

 

「偶然ですよ。話はそれだけでしょうか?」

 

「そうねぇ……この際だから聞いても良いかしら? 朱雀君はルルちゃんの事をどう思ってるの?」

 

「どうって……俺はルルーシュのイエスマンでも部下でもなく、友達です。だから、時にはルルーシュと争うことも有るかもしれませんが、基本的にはルルーシュもナナリーも、幸せになってもらいたい……そう思ってます」

 

 こういう話は一度で済ませたい。

 俺は慎重に言葉を選んで出来るだけ真実に近くなる様に答えた。

 

 核心部分は言えないが、これも嘘ではないハズだ。

 

「そっか……そうよね。友達だもんね」

 

 俺の思いが通じたのか、ミレイは「友達ってそうよね」と呟きながら頷いている。

 

「信じてくれるのですか?」

 

「勿論。って言っても、正確には貴方じゃなくルルーシュを信じているから……貴方はルルーシュが選んだ友達なんだから、本来は私が疑うコトが間違いなのよねぇ」

 

 そう言って自嘲気味に笑ったミレイは、どこか悲しげだ。

 

「そんなことは……ルルーシュはアレで結構抜けているところもありますから、貴女の様な方のフォローがあれば俺も心強いです」

 

「そんな気を使ってくれなくて良いのよ……正直に言うとね? 悔しかったんだぁ……朱雀君の事を話すルルーシュはナナちゃんに向ける顔をしていたわ。あの笑顔はナナちゃんにだけ向けられるモノだとばかり思っていたからね? それが……はぁ……私達ってルルーシュにとっては何なのかしら……」

 

 俺に言うではなく、天井を見上げて呟いたミレイの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 

「大切な人達じゃないですか? 俺は、ルルーシュが目的を持つ前の、子供の頃に知り合えたから友達に成れただけですよ。今は、目的の前にルルーシュ自身がそれに気付かないフリをしていますが、いつかルルーシュもこの学園が大切なモノだと気付くハズです」

 

「ありがとう……でも、ルルーシュの目的って?」

 

 涙を拭ったミレイは俺の失言を聞き逃していなかったようだ。

 首を傾げて聞いてくるも、その目が光って見えるのは涙のせいだけではないだろう。

 

「それは…………言えません。少し話し過ぎましたね。ルルーシュが貴女に話していないなら、それはルルーシュの意思です。俺の口からは言えません」

 

 未来知識を参考にすれば、ルルーシュの目的が『ブリタニアをぶっ壊す』と知ってもミレイ・アッシュフォードならば協力してくれる可能性はある。

 だが、出会ったバカリの俺の一存で決められる事ではないだろう。

 

「そっか…………ガァーーッツ!」

 

 ミレイは落ち込んで俯いたかと思いきや、いきなり大声で叫びだした。

 

「急にどうしたんですか!?」

 

「自分に気合いを入れてみたの。朱雀君が言うようにルルーシュ様が話してくれないのは、私に問題が有るからじゃない? だから、いつか話してもらえる様にもっと精進せねば……ってね?」

 

 どちらかと言えばミレイよりもルルーシュに問題があるけれど、話が纏まりかけているし、言わぬが花ってモノだろう。

 

 それにしても、

 

「会長さんは強いんですね」

 

「もっと誉めるが良い。このミレイさんこそがルルーシュ様のたった一人の部下だと思っているんだから。でも、主に気を使わせてどうするのっ、って話よね」

 

「そうですね。さぁ、話が終わったならそろそろ行きませんか? あ、わかってると思いますが」

 

 日本人らしく曖昧な笑顔を見せた俺は、一応の確認をとっておく。

 

「この話はここだけの話でしょ? だけど、朱雀君がルルちゃんを悪の道に誘ったら、会長権限で退学にしちゃうんだから」

 

「誘いませんから。大体、悪の道って何なんですか?」

 

「うーん? 授業を脱け出して屋上でタバコを吸うとか?」

 

「やりませんって。何時の時代の不良ですかっ!?」

 

 等と笑いながら話した俺は、ワゴン車を突いてエントランスホールにもどるのだった。

 

 

 

 

 

 エントランスホールに戻ると、丸いテーブルに食器や料理が並べられ、全ての準備が終わっているのか、ルルーシュ達は和やかに談笑している。

 

 その輪の中で俺の目的の人物も、瞳を閉じて車椅子に座り笑っていた。

 

「あ、ミレイさん? 良い匂い……一体何のパーティーなんですか? お兄さまったら教えてくれないんです。楽しみにしてろ、もうすぐ分かるって」

 

 ワゴン車の音と料理の匂いで気付いたのか、車椅子の少女、ナナリーが此方に顔を向けて小首を傾げた。

 

「俺の歓迎会を開いてくれるみたいだよ、ナナリー……久しぶりだね? 目はまだ開かないのかい?」

 

 俺がナナリーに近付きそう告げた瞬間、何故か笑い声が消え、周囲の空気が固まったのだった。

 









次回は後編、のハズw


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