コードギアス〜暗躍の朱雀〜   作:イレブンAM

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再会・前編

 皇暦2017年、9月某日、早朝。

 

 学生服に身を包んだ俺は、アッシュフォード学園の正門前で佇んでいた。

 と言っても、既に学園の敷地内にある寮への入居を済ませているので、学園に初めて訪れたというわけでなく、この行為は気分によるところが大きい。

 

 アッシュフォード学園は今日から新学期を迎え、俺にとっては、実に七年ぶりとなる学校生活が始まるのだ。

 

 学園生活は大目標を叶える為の手段に過ぎないと理解していても、どこかソワソワした気分の自分がいるのを否定出来ない。

 未来知識の俺やルルーシュは学園で楽しそうに笑っていたんだ……お祭り好きのミレイ会長や、ルルーシュの親友リヴァル、ルルーシュに恋心を寄せるシャーリー、テロ活動に励む紅月カレン達が、血塗られた今の俺とも仲良くしてくれるのか……そもそも、ルルーシュと仲良くなれるのかだって未知数だ。

 等といった不安の種もあるが、やはり、どうしてもワクワクした気分が勝ってしまう。

 

 因みに、イレブンに対する差別意識の強い、ヒステリックなニーナに関しては仲良くしたくもないし、どうでもいい。

 とは言え、ニーナが独自に研究している大量破壊兵器『フレイヤ』に関するコトは捨て置けないので扱いに困る。

 何らかの手段を講じてニーナにフレイヤ研究を止めさせたとしても、いずれは誰かが発明するかも知れず、それならば最初から手の内に収めた方が……。

 

 はぁ……。

 我ながら嫌になる。

 俺はいつから人を駒のように見て、パズルでもするかのような謀略めいたコトを考える人間に成ったんだろう…………って、最初からか。

 

 まぁ、これも未来知識なんて余計なモノを背負った者の定めだろう……俺のワクワクや葛藤なんかはどうでもよく、重要なのはルルーシュに関するコトだ。今日まで割と好き勝手にやってきたけれど、これより先は難しい選択を迫られるコトになりそうだ。

 

 未来知識のルルーシュは変な仮面を被って『ゼロ』と名乗り、卓越した頭脳と『絶対尊守のギアス』の力を使って組織を作り、ブリタニア相手に戦争を仕掛けるのだが、何も好き好んで変な仮面を被って戦争していた訳じゃない。

 ルルーシュにはそうするなりの理由があり、そうするより他に無かったのだろう……そしてそれは、未来知識を知る俺であっても無視の出来ないモノになる。

 その最たるモノがルルーシュの素性の秘匿だ。

 ブリタニア皇族の中にはルルーシュ達を溺愛している者が少なからず存在し、特に厄介なのが『ブリタニアの魔女』の異名を持つルルーシュの異母姉、コーネリア・リ・ブリタニア。

 コイツに生存を知られれば、ルルーシュの反逆はその時点で終わりを迎えるだろう……それ故に俺も細心の注意を払わな付けなければ、ルルーシュの反逆は始まる前に終わってしまう、と言った具合だ。

 尤も、コーネリアに生存を知られるのがルルーシュにとって良い事なのか悪い事なのか、俺にはなんとも言えないのが辛いところでもある。

 

 ルルーシュには未来知識のように反逆を起こし、俺と協力してコトに当たって欲しいと思っている。

 日本解放独立戦争の作戦立案に、ルルーシュの頭脳は欠かせないからだ。

 しかし、これは俺の都合でしかなく、未来情報を伏せて操るかのような真似をするのは、友達に対して余りにも不誠実だ。

 だから俺は、未来知識をルルーシュに伝えた上で、どうするか本人の意思に任せたいと思っている。

 今は未だ時期尚早で伝えられないが、時さえくれば上手く未来知識を伝える方法は既に考えてある。

 それに……ルルーシュは未来知識を知っても反逆する、と確信めいたモノが俺にはある。

 

 ルルーシュが反逆する理由はいくつかあるが、結局ルルーシュは、

 

『ルルーシュだから反逆する』

 

 この一言に尽きる。

 

 俺のようにルルーシュ自身が知識を得たならまだしも、本来知り得ない真実や未来の可能性を人から聞いた程度で反逆しなくなる男なら、最初から反逆なんて無謀な考えには至らない。

 こんな事をルルーシュに言えば、きっと必死になって否定するだろうけど、ルルーシュは父であるシャルル・ジ・ブリタニアに誰よりも似ている。尊大なところも、不器用なところも、才覚溢れるところも、負けず嫌いなところも、目的の為なら手段を選ばず世界を巻き込むところもソックリだ。

 もしかしたらルルーシュの反逆の理由には、同族嫌悪的なモノがあるのかも知れず、心配なのは寧ろ、未来知識を知っても尚『ゼロレクイエム』を計画しかねないコトだったりする。

 

 まぁ、実際のところルルーシュがどう判断するのかは、未来知識を明かすまでは判らない。

 もしかしたら、俺と敵対する道や、皇帝と和解する道だってあるかもしれず、まさに、未来は無数の可能性があり、必要以上に頭を悩ますだけ無駄だろう。

 

 とりあえず、未来知識が始まる迄にルルーシュの信を得て、ゼロレクイエムを避ける為に、とある人物の協力を得ようと考えているが、これでさえ上手くいくどうかはコレからの俺次第だ。

 

「さぁ、行くか」

 

 遥か先の校舎を見つめた俺は小さく呟き、新生活の第一歩を踏み出したのだった。

 

 

 

 

「ホームルームを始める前に、今日から皆さんと一緒に勉強する転校生を紹介します。では、桜木君」

 

「はい、先生!」

 

――SAKURAGI

   SUZAKU――

 

「俺は、桜木朱雀。エスツーとでも呼んで下さい。見ての通りイレブンですが、仲良くしていただければ嬉しく思います」

 

 黒板に偽りの名をデカデカと書き記した俺は、静まり返る教室内を見渡して深々と御辞儀する。

 偽名を名乗るのはルルーシュと問題なく友達関係を築く為だ。

 未来知識の枢木スザクは、自身が日本国最後の首相の子供であるのを気にしてか、ルルーシュと距離を取ろうとしていた。ブリタニア人が首相の子供と知り合いでは、変に勘繰られたとしてもおかしくない、との判断だろう。

 しかし、こうして偽名を名乗っておけば、俺がルルーシュと知り合いでも単なるご近所の友達で説明が付く。ブリタニア人が戦争前の日本に全く居なかったワケでもないのである。

 

「えっ……と、桜木君は優秀な成績で転入試験に合格しています。皆さん仲良くしてあげてください……席は一番後ろの空いている所にどうぞ」

 

 何故か困惑した感じの教員に従い、空いている後ろの席……片肘突いて眠るルルーシュの後方に向かって教室の中央を歩く。

 

「ルルーシュ? お前、ルルーシュか!?」

 

 俺はルルーシュとスレ違い様に気付いた風を装って声をかけた。

 

「なにっ!? お前……朱雀か?」

 

 ガクッと体勢を崩したルルーシュは、頭を持ち上げ俺の顔を見るなり驚きの表情で眠気眼を見開いた。

 どうやら、器用にも完全に寝ていた様だ。

 

「驚きすぎだよ。さっき桜木朱雀、エスツーって呼んでくれって自己紹介したじゃないか……聞いてなかったのかい?」

 

「あ、あぁ……考え事をしていたんだ。そうか、桜木朱雀でエスツーか……随分と久しぶりだな。又会えて嬉しいよ」

 

 一瞬真剣な表情を浮かべたルルーシュは、即座に理解したのだろう。昔と変わらぬ穏和な表情を浮かべ右手を出して握手を求めてきた。

 どうやら、俺の杞憂は杞憂だった様だ。内心でホッと胸を撫で下ろす。

 

「お前が居るだなんて思ってもいなかったから、びっくりしたけど会えて嬉しいよ……ナナリーも元気にしてるのかい?」

 

 実際は未来知識を参考に在籍調査を事前に行い、ルルーシュ達が居ると知った上での転入だが、嬉しいコトは事実だ。

 俺も笑顔を浮かべてルルーシュの手を握り返す。

 

 そんな俺達のやりとりを見た教室内が『嘘っ!? ルルがあんな顔を!?』等と騒がしくなっているが気にしない。

 

「あぁ、お前に会えればナナリーも喜ぶ……だが、今はホームルームの最中だ。後で話そう」

 

「そうだな。つもる話もあるけれど、又、後で」

 

 離した右手で学生服の襟首を掴み合図を送った俺は、ルルーシュの後ろの席へと着席した。

 この場では話せない事がある……ルルーシュにならこれで十分伝わるハズだ。

 

 余談になるが着席した俺は、先ほど声を上げて驚いていた長い髪の少女、シャーリー・フェネットに何故か睨まれていたので、手を振っておいた。

 

 こうして無事にルルーシュとの再会を果たした俺は、休み時間毎に質問責めにあいながら学園生活の初日を終え、漸く迎えた午後になってから屋上へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「お前……少し変わったな」

 

 屋上で待っていた俺の前に姿を現したルルーシュの、最初の言葉がこれだ。

 

「そうかい?」

 

 確かに俺は子供だった頃と比べて大きく変わった。

 内心でギクリとしながらも、素っ気なく小首を傾げてみせる。

 

「あぁ……前はもっと考えなしに動いていたぞ? この合図を送るのだって、何時も俺の役割だった」

 

 ルルーシュは俺がしたように襟首を掴んで軽く上げている。

 この合図は元々はルルーシュが考案したモノであり、本来は『屋根裏部屋で話そう』といった意味だ。

 

「あはは。確かにそうだったな。イタズラでも何でも、俺は思い付いたら直ぐに実行しようとして、ルルーシュに止められ計画を練った……懐かしいよ。だけど、俺もアレから色々有って少しは成長したんだ」

 

「そうか……やはり、お前も苦労しているんだな」

 

「ルルーシュ程じゃないさ……名前、なんて呼べば良い?」

 

「ランペルージ……ルルーシュ・ランペルージ。昔の俺は公式には死んだコトになっている。これが今の俺の名だ。お互い、昔が知られればマズイ境遇だからな? しかし、お前のエスツーはやりすぎだ。人の名前になっていないぞ」

 

「そうかな? カッコいいと思ったんだけど……それに、この呼び名には意味があるんだ」

 

「意味だと?」

 

「そう……だけど、今はまだ言えない」

 

「バカなっ!? 言えないだとっ!? お前が隠し事をするのを覚えたとでもいうのか!?」

 

 ルルーシュは何もない前面の空間を振り払う様に手を振っては、大袈裟に驚いている。

 

「酷いなぁ……それだと俺が、嘘も付けない考え無しの馬鹿みたいじゃないか?」

 

「あぁ、すまない……そんなつもりは……いや、だが、実際お前は嘘を付かない男だった。だからこそ、俺とナナリーもお前を信用する事が出来たんだ」

 

「そうか……そうだったな……だったら今の俺は……ルルーシュの友達の資格は無いのかも知れない」

 

「ふんっ……成長したんだろ? 大人になれば誰しもが嘘を覚える。おまけに枢木家の当主なら言えない事の1つや2つは出来て当然だ。だから俺は、嘘そのものではなく、嘘を付いた意味こそが重要だと宣言しよう。従って俺に嘘を付くコトに罪悪感を感じているお前は、信頼に値するということに他ならない!」

 

 よく判らない力説するルルーシュだが、俺が枢木家の当主と知る辺りは流石の情報収集能力だと言える。

 この分だと俺が何をしているのか知っていてもおかしくない……今、聞けば話は早い。

 

 だけど、今はまだ……もう少しだけ学生をやってみたいんだ。

 

「宣言って……相変わらずルルーシュは大袈裟だなぁ。要するに、俺はお前の友達でいてもいいってコトだろ?」

 

 笑顔を浮かべた俺は、浮かんだ疑念と全く関係無いコトを口にする。

 

「当たり前だ。お前は俺にとってのたった一人の友達だ……って、こんな恥ずかしい事を言わせるなっ」

 

「はいはい……でも、たった一人ってコトはないと思うよ」

 

「なにっ? どういうコトだ!? まさかお前……俺以外にも友達がいるのか!?」

 

 頭の回転が速すぎる故の弊害か、ルルーシュは見当違いの答に辿り着いた様で、一人で勝手に狼狽えている。

 

 面白いので暫く放っておこう。

 

「なんでそうなる? それより、ルルーシュに頼みたい事があるんだ……」

 

 こうして、頼みたい事……生徒会への参加の意向を告げた俺は、2つ返事でルルーシュからの了承を貰い、ミレイ会長の許可を得るために生徒会室となっているクラブハウスへと向かうのだった。

 


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