【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第三百二十六話 復讐と悪意

10月4日(日)

午前――巌戸台分寮

 

 二日前に母が死んだ事故現場で湊に出会った天田は、頭では彼の言った言葉を否定しながらもどこか踏ん切りが着かないでいた。

 荒垣は悪だ。どんな原因があったにせよ、自分の犯した罪から逃げていたのだから。

 そんな男を殺すのに被害者遺族である天田が何かを背負う必要などない。

 奪われたのだから奪い返す。相手の罪を裁く。ただそれだけなのだから。

 けれど、湊は天田の復讐を肯定しながらも、行動の責任を持つように言ってきた。

 荒垣を殺せば仲間たちには恨まれるだろう。特に真田や美紀は同じ孤児院で育ち、月光館学園で再会した幼馴染みなので、家族を奪われた天田と同じように荒垣を殺した相手を憎むかもしれない。

 殺したいほど憎くんだ犯人が傍にいるというのに、それを殺せば自分のような悲しい被害者を作る可能性がある。

 何としても母親の仇は討ちたい。だが、他の仲間を自分の復讐に巻き込むつもりはない少年は、どうすればいいのか分からず机に強く拳を振り下ろした。

 

「でも、ならどうしろって言うんだよっ!!」

 

 机に振り下ろした拳からはジンジンとした痛みが返ってくる。

 けれど、そんな痛みを感じても天田の悩みは一つも解決せず、どうすれば胸の内に渦巻いている黒い感情が晴れるのかも分からない。

 復讐を誓う少年は、相手を殺せばその後は自分も責任をとって命を絶つつもりだ。

 メンバーから二人も抜ければ迷惑が掛かるかもしれないが、その点についてはチドリたちが協力し、さらに背後に湊が控えているとなれば問題ないだろう。

 今日の影時間には全てが終わる。そう考えると謝罪も込めた遺書を用意すべきなのかもしれないが、今のままでは復讐すら出来ないのではないかと天田は悩んでいた。

 自分も復讐のために動いているくせに、どうしてこんな置き土産を残したんだと天田は湊を恨む。

 あの場所には偶然通りがかっただけのようだったが、それもどこまでが本当か分からない。

 情報屋から犯人についての情報を得た事を知っていた彼は、恐らく五代たちから自分の件を聞いていたのだろうと少年は予想する。

 情報屋が客の情報を簡単にバラして良いのかという怒りはある。

 ただ、少年が情報を求めて店を訪れた時、情報屋である五代はここを利用すればそれが天田の弱みの一つになると言っていた。

 五代は湊に裏社会での生き方と銃火器の扱いを教えた人物の一人。どう考えても天田よりも湊を信用して、何かしら騒動の引き金になりそうなら情報を教えてもおかしくない。

 湊と桐条グループで共通しているのは影時間を終わらせる事だけだ。

 湊には湊の計画があり、それは桐条グループだけでなくチドリやアイギスにも邪魔させないようにしている以上、イレギュラーになりそうな存在は排除する必要がある。

 つまり、天田がしようとしている事を知っている湊があの場に来たのは、全てを理解した上で何もするなという忠告だったのかもしれない。

 

(もし、あの人が本気でくれば僕はどうやっても勝てない。でも、そんな簡単に諦められるもんかっ)

 

 湊の強さは知っている。どうやっても勝てない。あれに勝てるほどの強さがあれば、母の事も吹っ切り荒垣の事で悩む事もなかっただろう。

 しかし、勝てない相手が妨害してくるとしても、天田は簡単に諦めるつもりなどなかった。

 相手には相手の事情があるのだろうが、少年も知ってしまった以上は母の仇討ちをする必要がある。

 唯一の懸念があるとすれば、それは荒垣を失った真田たちの心情だけだ。

 妹や友人を失いかけた真田やゆかりに風花の姿は今も記憶に強く残っている。

 あの時は、湊が代償を払いつつも無事に助けた事で彼らも以前と変わらず過ごしているが、天田は湊の妨害が入ろうとも助けられないよう殺すつもりだ。

 彼のペルソナが使う回復スキルは確かに驚異的な治癒効果を齎す。

 スキルを使う対象がペルソナ使いであるという条件は付くが、全身大火傷だろうと元の状態に戻し、切れた腕だろうと後遺症も残さず繋げてしまう。

 だが、流石の湊でも既に死んだ者を蘇生させる事は出来ないし、欠損したものはどうやっても復元出来ない。

 湊は無くなった心臓や眼球が元に戻っているようだが、あれは生命力の高い鬼と龍の力を宿した肉体である事と、その身にデスを宿しているからこそ出来る芸当だ。

 天田はデスについては何も聞いていないが、彼が蘇生出来るのはその生まれが理由である事は他の者から聞いている。

 ならば、荒垣を討つ際に一撃で殺すか、治療出来ないように心臓を身体の外に引っ張り出してしまえばいい。

 

(そうだ。あの人でも出来ない事はある。殺せば、殺してさえしまえば助けられない。だから僕はあの人を殺す)

 

 決意は最後まで固まらないかもしれない。それでも、やるしかないんだと自分に言い聞かせる。

 アルカナシャドウと戦う満月の日にメンバーが二人も抜けると迷惑が掛かるが、どうか湊たちが力を貸して倒してくれる事を願う。

 そうして天田は席を立つと、荒垣に今日の影時間に事故現場へ来るよう伝えるため部屋を出て行った。

 

 

夜――都内・某所

 

 今夜の影時間にアルカナシャドウが現われる。その情報は桐条グループにいた時点で判明していた事もあり、幾月とストレガたちも当然のように把握していた。

 その出現場所も十年前の事故で集められたシャドウが飛び散った場所だと言う事で、幾月からストレガに伝えられている。

 だが、今日のストレガたちは特別課外活動部の戦力を削る事を第一に考えており、以前仕掛けておいた精神的な罠に引っかかった者を狩るつもりでいた。

 天田が荒垣を殺すのであれば残った天田を、天田が殺さないのであれば二人まとめて殺す。

 そもそも二人が現場に現われなければアルカナシャドウの許へ向かうが、そちらには玖美奈と理が最初から向かうので、アルカナシャドウと四人のワイルドがぶつかる戦場に参加するつもりはあまりなかった。

 影時間まではもう少しあるが、遅れて行くよりは現場に先に着いて動けるように準備した方がいい。

 ベルトにロングバレルのリボルバーを差したタカヤは、楽器ケースに偽装した専用のケースに大剣を仕舞いこむ玖美奈と同じく楽器ケースに対物ライフルを仕舞い込んでいる理に声を掛ける。

 

「そちらは二人で大丈夫ですか? 足止めが必要という事なら手伝いもしますが?」

「必要ないわ。別に全滅させる事が目的ではないもの」

「というか、僕や姉さんとまともに戦えるのは同じ力を持ったやつくらいだろ。他のメンバーじゃ姉さんのノートの守りを突破出来ない」

 

 玖美奈と理は湊や七歌のように複数のペルソナを使う事が出来る。

 純粋な適性値で言えば湊と力の管理者を除き最も強いソフィアを超えているため、特別課外活動部のメンバーだけでなくチドリやラビリスらを複数同時に相手しても問題ないだけの実力があった。

 そんな彼らからすれば普通に戦っても勝てる相手に、アルカナシャドウの相手をしている所へ横槍を入れるとなれば余裕すらあるほどだ。

 ここでさらにストレガのメンバーを助っ人に呼べば過剰戦力過ぎて、久方ぶりの戦いを楽しむ事が出来なくなってしまう。

 幾月の調べによれば必要な生贄の数は七人なのだ。それ以上はいらないから間引くだけで、全滅させてしまっては計画が破綻する。

 加えて、もしかするとストレガ以外にも敵対するペルソナ使いがいると思ってくれるかもしれない。

 自分たちの計画を順調に進めながらも、相手から見た状況をかき回したい悪戯心もあるため、玖美奈が自分と理だけで十分だと答えればタカヤも納得したように頷いた。

 

「そういう事なら、我々は自分たちの仕事に集中します」

「敵を排除するか、現場に来なかった時は帰還していいけど、その時は僕に連絡を入れてくれ。間違って殺し過ぎたら生贄の用意が面倒だからな」

「ええ。その時はメノウから連絡を入れます」

 

 今日の現場にはストレガも全員で行く予定だ。実際に戦うのは男たちだけだろうが、相手側にワイルド能力者がいなければ敵が一人多くても勝つ自信がある。

 タカヤとカズキは出来れば湊が来ないかと思っているが、ワイルド能力者が四人も集まるという状況にも興味があった。

 そのため、自分たち側に来た特別課外活動部の人間を殺せば、後は玖美奈たちの戦いを遠くから眺めるつもりでいる。

 理はそれを嫌がるだろうがストレガたちは別に幾月の部下ではない。あくまで世界に滅びを齎すという共通の目的のために手を組んだ同志、同盟でしかないのだ。

 

「じゃあ、お父さん。行ってくるわ」

「ああ。玖美奈も、他の者たちも頑張ってくれ。来たるべき祝祭に向け、余計な者は全て排除してきて欲しい」

 

 幾月の言葉にストレガたちは何も答えない。タカヤだけは笑って頷いたが、他の者たちは黙ってタカヤの後に続いて研究所を出て行く。

 そんな彼らの反応に理は眉を顰めているが、玖美奈が肩に触れて気にしないように言うと、落ち着いたらしい理は幾月に会釈し、玖美奈は手を振ってから研究所を出て行った。

 

 

影時間――巌戸台分寮・作戦室

 

 ついに満月の影時間がやって来た。アルカナシャドウの存在も感知されており、その反応は予想通りに二体いると風花とチドリが断言した。

 二体の感知型ペルソナで調べたならば恐らく間違っていないのだろう。

 今日もチドリとラビリスとコロマルが助っ人で参加してくれるため、早速作戦について話し合おうとしたとき、七歌は自分たち特別課外活動部側のメンバーが足りない事に気付く。

 いつもは早めに集まって待っている天田と荒垣がいない。天田はもしかすると子ども故に寝てしまっている可能性もある。

 だが、順平ならともかく責任感の強い荒垣が遅れるとは珍しいなと七歌は首を傾げた。

 

「およ? 天田君と荒垣さんがまだ来てないね。天田君はおねむかもしれないけど、荒垣さんはもしかしておトイレかな?」

「ったく、あいつは何をしているんだ。俺が見てくるから少し待っててくれ」

 

 子どもで眠気に勝てなかったならばしょうがないが、高校三年生が後輩の前で遅刻するのは頂けない。

 トイレも生理現象なので一定の理解は出来るものの、そういうのは早めに行っておけと呆れながら真田が席を立って呼びに出て行こうとする。

 だが、彼が部屋を出るよりも先に扉が開き、荒垣が遅れてやって来たのかと思ったメンバーらは現われた人物に少しだけ驚いた顔をする。

 

「八雲さん、こんばんはであります。今回も参加していただけるのですか?」

「……ああ。栗原さんから依頼を受けたからな」

「満月の度に悪いね。けど、今回もストレガの襲撃があるなら警戒しない訳にはいかないからさ」

 

 子どもたちの命を預かる以上、栗原も出来るだけの事はしようと思って湊を呼んでいた。

 他のメンバーからすると戦力としては非常に頼りになるが、他のメンバーと連携が取れないのである意味で劇薬のような扱いになる。

 けれど、今回のアルカナシャドウは二体いる。一体を湊に任せて、残りの一体を倒せば時間とメンバーの負担を少なく済ませられるだろう。

 現場で指揮を執る七歌が湊をメンバーに組み込んだ作戦を考え始め、仮にストレガが妨害しに来たときに誰が相手をするか決めようとしたとき、他の者たちが集まるテーブルではなくモニター前の椅子に座っていた栗原に近付いた湊は感情の読めない表情のまま栗原に話しかけた。

 

「あいつらを警戒するのは結構だが、さっさと先月分を払ってくれ。アルカナシャドウ二体の討伐、対シャドウ部隊構成員親族の治療、それら支払いの遅延による利子と今回の依頼の前金で三二〇〇万だ」

「っ……わ、悪い。前回ゴタゴタしたせいで桐条グループに報告し忘れてたんだ。すぐには用意出来ないが今回の影時間が終わったらすぐ報告して大至急用意する。だから、今回もどうか手を貸してくれないかい?」

 

 メンバーたちが湊からの桁違いな請求額に驚く中、自分のミスで湊に報酬が払われていないと分かった栗原が焦った様子で頭を下げる。

 というのも、他のメンバーは助っ人のチドリたちも含めて先月の満月戦の報酬が既に支払われているのだ。

 アルカナシャドウは他の個体よりも圧倒的な力を持っているため、普段のシャドウ狩りよりも随分と奮発した金額を報酬として払っている。

 だが、湊の場合は裏の人間に仕事を頼んだ形になるので、メンバーたち全員に払った報酬を合計したよりも遙かに高い金額になっていた。

 それこそ桐条グループのそれなりの役職持ちの年収に匹敵する額で、簡単には用意出来ないため、桐条総帥に事情を説明してお金を用意してもらわなければならない。

 つまり、どうやっても今すぐ用意する事は出来ないのだが、栗原としてはストレガが来る事を考えるとどうしても湊を味方側に置いておきたい。

 そうして栗原が頭を下げながら湊の返事を待てば、湊が小さく溜息を吐いてから再び口を開いた。

 

「……俺が優しい仕事屋で良かったな。そうじゃなきゃ、今頃お前ら全員生身か臓器(パーツ)で外国に運ばれてるところだ。今回の報酬も合わせて三日以内に四五〇〇万払え。期限を過ぎればここを更地に、眞宵堂は空きテナント、そしてお前ら全員仲良く戸籍をなくした状態で船旅に出てもらう」

 

 日本人の戸籍というのはそういった筋の人間には非常によく売れる。

 さらに高校生の若い身体なら生身でも臓器でも買う人間はたくさんいるので、ここにいる人間を全員売れば違約金を含めた報酬分は全て回収出来るはずだ。

 無論、助っ人であるチドリたちは組織の人間ではないので取り立て対象に含まれず、ラビリスの家族であるアイギスにも恩赦が掛かって免除される。

 これで自分の大切な者たちだけ対象から除外した上で請求出来るなと湊が考えていれば、この青年ならば実際にそうするだろうという確信がある栗原は青い顔をしつつも、どうにか今回も手伝ってもらえる事になり小さく安堵の息を吐く。

 もっとも、他のメンバーからすれば欠片も安心出来る要素はないのだが、栗原も言った通りとりあえず今すぐどうこう出来る問題ではないのは事実。

 よって、湊と入れ替わりで荒垣を呼びに出て行った真田が戻るのを待ってから、改めて湊も組み込んだ作戦について七歌が全員に説明しようと考えていると、入口の扉が勢いよく開いて真田が焦った様子で駆け込んで来た。

 

「おい、シンジも天田も寮内にいないぞ!」

「っ、まさか既にストレガが仕掛けて来たのか!?」

 

 仲間の内二人が寮内から姿を消していると聞いて、また幾月や美紀の時のようにストレガが攻撃を仕掛けて来たのではと美鶴が警戒する。

 話を聞いた時点で風花もペルソナを召喚してルキアの中から二人の反応を探り、他のメンバーらが心配した様子で風花の探知の結果を待つ。

 先ほどまで別の意味で顔を青くしていた栗原も、まさか影時間になる前にストレガが仕掛けて来ていたとは思わず、子どもを預かる立場でとんだ失態だと苦い表情を浮かべた。

 風花の結果を待つ間、妹に続いて幼馴染みまで敵に狙われたと思い真田が怒りから拳を強く握っている。

 その不安が分かるのか他のメンバーたちが静かに待っている時、焦っている他の者たちを冷めた目で見ていた湊が何をそんなに焦っているのかと不思議そうに声を掛けた。

 

「……別に二人とストレガは関係ないだろ。今回の事は完全に別件だ」

「八雲君は何か知ってるの?」

 

 そういえば湊も風花と同等の探知能力を持っていたと、七歌が事情を知っているなら教えて欲しいと説明を求める。

 湊が平然としており、ストレガと別件と断言しているなら恐らくは事実なのだろう。

 ただ、どうしても先月と先々月のストレガの事が頭を過ぎってしまうので、出来るだけ速く教えて欲しいと思っていれば、湊は聞かれた事に素直に答えた。

 

「一応な。二人は揃ってポートアイランド駅の路地裏辺りにいる」

「なんでそんな所におるん?」

「母親の命日に、天田が先輩を殺そうと思って呼び出しただけだ」

 

 七歌に続いてラビリスが尋ねれば、何でもない事のように湊はさらりと答える。

 けれど、その内容は欠片も落ち着いていられるようなものではなく、慌てて立ち上がった順平がどういう事だと状況が理解出来ず混乱した様子を見せる。

 

「だけってお前それかなりヤバい話じゃねーか! つか、何でそんな事になってんだよ!」

「親を殺した犯人を見つけたら普通は殺すだろ」

「はぁ? いや、天田の母親を殺したのはシャドウじゃねぇか。荒垣さんなんも関係ねぇだろ!」

 

 何をトンチンカンな事を言っているんだと順平が湊の言葉を否定する。

 けれど、湊の言葉の意味を真に理解している真田は、やや青ざめた表情になりつつもすぐに正気に戻って入ってきたばかりの扉へと駆け出す。

 

「美鶴、悪いが俺はあいつらの許へ行くっ」

「明彦っ!!」

 

 焦った様子で出て行く真田を美鶴が止めようとするも、幼馴染みの命が危険だと知った少年は一秒たりとも待っていられないようで出て行った。

 確かに今この瞬間にも荒垣が殺されようとしているなら、間に合ってくれと祈り、少しでも速く辿り着きたい事だろう。

 しかし、ここに残された者たちとしては、アルカナシャドウとの戦いも控えているので、少しでも今の状況を整理しておきたい。

 まず、先ほど湊が口にしていた天田と荒垣の因縁が事実なのか。ここで知るのは美鶴しかいないはずなので、七歌が代表して美鶴に質問をぶつけた。

 

「美鶴さん、どういう事ですか? 天田君のお母さんの件と荒垣さんって無関係なんでしょ?」

「……いや、先ほど有里が言ったことは事実だ。天田の母親は荒垣が起こしたペルソナ暴走事故に巻き込まれて死んだんだ」

「じゃあ、天田君が言ってた黒い馬の化け物って騎士系のシャドウじゃなくてカストールって事?」

「ああ。そういう事になる。私と明彦もそれは知っていたんだが、勘違いしている天田に事実を伝えても混乱させると思って話せなかったんだ。それがまさかこういった形になるとは……」

 

 美鶴たちもただ荒垣を庇うために黙っていた訳ではない。

 母親の仇がシャドウだと思っている少年に、真実を伝えてしまえば彼の心がどうなってしまうか分からない。

 もしかすると全ては影時間が悪いと言って変わらなかったかもしれないし、今回のように荒垣への復讐を誓う事も考えられた。

 最悪のパターンとして自ら命を絶ったり、絶望から廃人のようになることもあり得たので、美鶴たちも出来る限り慎重に進めたかった。

 けれど、こうなってしまうと現場に向かう人間以外は手の出しようがない。

 真田が到着するまでどうか無事でいてくれと祈りつつ、美鶴はこちらに残ったメンバーで自分たちのすべき事をしようと思考を切り替え、湊を含めたメンバーでのアルカナシャドウ討伐について話し合うことにするのだった。

 

 

 


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