【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

307 / 504
第三百七話 影との対面

――稲羽郷土展・最終夜

 

 全ての鳥居を回って封印された扉を開け、メンバーたちは最後の階段を見つけた。

 それを下りた先に最後の宝箱を守る番人がいる。

 ふうかとりせによれば今までとは雰囲気が異なるらしいが、強大な気配である事だけは共通している。

 “不思議な国のアナタ”のハートの女王。

 “ごーこんきっさ”の慈悲深い聖職者。

 “放課後悪霊クラブ”の優しいドクター。

 メンバーたちの知っている大型シャドウと違い、これまでの番人たちはどれも知性があった。

 会話が通じたのはハートの女王くらいだったが、他の二体もその姿に関連した言葉を話していたのだ。

 番人はF.O.E同様あくまでダンジョンのギミックであり、人の無意識から生じるシャドウとは似て非なる存在かもしれない。

 そういう事ならば番人だけが知性を持って言葉を操っていた事も納得できるが、階段を下りた先にいるのはこれまで以上の力を持った番人だ。

 ハートの女王のトランプ兵やドクターの引き連れていたナースのような伏兵もいるかもしれない。

 味方側に成長した状態の湊がいるものの、彼は放課後悪霊クラブで精神的に不安定になっていた事もあり完全に安心することは出来ない。

 なので、全員が気を引き締めてから階段に向けて歩き出すと、不安そうに震えている玲に善が手を差し出した。

 

「玲、怖いのなら私の手を握っておくといい」

「う、うん。ありがとう、善。でも、皆と一緒だからあんまりこわくないよ!」

「……ああ、そうだな」

 

 玲が善の手を握って笑顔を見せれば、善もその通りだと彼女に微笑み返す。

 この世界で出会った二人はどういう訳か生身でシャドウたちと戦う事が出来ていた。

 他の者に比べてその力は微々たるものであり、ダンジョンを進むにつれて敵の強さに対抗出来なくなっている。

 けれど、二人は記憶を取り戻してこの世界から出るために、人任せにしないでダンジョンまで着いてきて一緒に戦った。

 善の後ろに隠れていた玲は徐々に明るさを見せ、自分から進んで赤ん坊の八雲の世話をするなど積極的な部分も見せた。

 八雲の世話は他の女子たちも一緒に手伝い、そういった行動の積み重ねによって彼女も友情を育んで、いつの間にか善の後ろにいるだけの弱い少女から成長していた。

 自分だけが頼られていた善はその事に少し寂しさを覚えていたようだが、彼も他の仲間と一緒に過ごす中で玲を任せられるようになっていった。

 自分と相手しかいない依存し合う関係から、頼れる仲間が出来た事で二人の世界は広がり、精神的に一回りも二回りも成長したのである。

 頼れる仲間と一緒にここまで来た。だから怖れることなどないと二人が視線を階段の先へ向ければ、まわりにいた者たちも二人に同意するように笑顔を見せる。

 両手に小刀を持っていた花村は、階段の先から敵が来ても対処出来るよう警戒しつつ、いよいよ最後の敵となると感慨深いものがあると語る。

 

「へへっ、この先にいるやつを倒したら終わりって考えると、少しだけさみしく感じるな。元の世界に戻ったらそっちの面子で会えるのは記憶失ってる有里だけだし」

「そういや、そっか。オレっちたちの世界とは二年もずれてんだもんな。こっちの君らに会いに行っても中学生への声かけ事案オチになりかねないわ」

 

 青い制服を着た国家権力のお兄さんたちの厄介になるのだけは簡便だと順平が身を震わす。

 順平たちから見れば、元の世界の花村たちは受験勉強真っ最中の中学三年生と中学二年生だ。

 当然ながら、花村たちの過去の姿である本人たちに未来の記憶はないので、女子や湊が声を掛けるならともかく、順平や真田に荒垣といったメンバーが声を掛ければ通報待ったなしだだろう。

 逆に花村たちから見れば、元の世界の順平たちは天田だけは中学生だが、後のメンバーは高校卒業してそれぞれの進路を歩み出している。

 そちらの順平たちは成長した姿なので、女子たちは大人っぽくなっているだろうし、男子はオッサン化が進んでいるはず。

 となると、こちらの世界のようにタメ口を利く訳にもいかないよなと花村が苦笑していれば、八十神高校側で唯一りせだけが二〇〇九年時点で接点のあるため、七歌がりせに昔はどんな風に接していたのか尋ねる。

 

「一応、りせちゃんと八雲君は面識あるんだよね?」

《うん。フェスが終わった後は契約終了で事務所に戻って仕事してたけど、プロデューサーとはプライベートの連絡先も交換してたから、たまにだけど雑談がてら近況報告とかしてたよ》

「え、そういうのって売り出し中のアイドル的にOKなの?」

《別に会ってデートしてた訳じゃないし、徐々に忙しくてメールも出来なくなったから大丈夫だよ。正直、私よりサーヤさんの方がマスコミのマーク強かったしね》

 

 りせが口にしたサーヤとは二〇〇九年時点のアイドル界でトップの座に君臨している柴田さやかの事だ。

 彼女は湊が仕組んだ炎上商法で湊の恋人役を務め、トップアイドルのスキャンダルとして非常に注目を集めたが、炎上商法のために知り合いの新聞社に偽情報を流させたとネタばらしした後もマークは減らなかった。

 というのも、二人は野外フェスの宣伝のためにバラエティ番組やドラマに共演し、特撮のゲストキャラとして映画に出たときには恋人役を演じていた。

 おかげで世間では徐々に二人をセットとして見る認識が広がり、実際に付き合っているのではないかと考えられていたのだ。

 年齢的にも釣り合う高校三年の柴田がいるというのに、中学二年のりせと噂になどなるはずがない。

 故に、りせの所属するタクラプロとしても、りせの存在を大々的に世間に広めてくれた湊とプライベートで交友を持つことに反対する気はなく。

 電話やメールだけでなく、羽目を外しすぎなければ会って遊ぶことも許していた。

 芸能界のそういった裏事情を聞いた七歌は、湊に振り回されるマスコミに思わず同情してしまう。

 

「なるほろぉ。サーヤもすごく頭良さそうだし、八雲君と揃って相手にするなんて想像するだけで胃が痛みそうだよね」

《普通はマスコミを振り回すなんて出来ないんだけどね。相手が悪かったというか、悪いやつがお金も地位も持っていたというか……》

 

 ゴシップ誌の三流記者が相手ならばともかく、キー局も含めた大手マスコミ各社を手玉に取ろうとするなどまともな発想ではない。

 ずっと人助けをしてきた好青年という下地があるからこそ許されているが、彼の行なった炎上商法は普通ならそのまま干されているところだ。

 まぁ、湊なら自分が干されてもりせと柴田の売り込みを続け、最終的に野外フェスを成功に導いていたと思われるが、業界を知っている者ほど驚く行動を取った本人は静かに階段の先を見ている。

 普段以上に静かな様子を七歌が横目で見ていれば、いつまでも雑談を続けている者たちを美鶴が注意した。

 

「君たち、雑談はそれくらいにしておけ。もう着くぞ」

 

 美鶴の言う通り視線を正面に向けると、長い長い階段の終わりが見えてきた。

 祭りをテーマとした熱気と喧噪を感じる造りになったダンジョンだったが、番人のいる最後のフロアは雰囲気がまるで異なっている。

 色褪せた木で出来た鳥居やいくつもの柱が聳え立ち、鳥居や柱同士を繋ぐように七五三縄が結ばれている。

 サウナ状態だった上のフロアで温度を調節してくれていた座敷童子を湊が消しても、周囲は暑いどころか妙な肌寒さを感じた。

 階段を下っているときには聞こえてきていた上のフロアの音が消え、植物を含めた生き物の気配が一切感じられない不思議な場所。

 どうしてこうも急に雰囲気が変わったのか分からぬ順平は、結ばれている七五三縄に近付きながら変な場所だと小さく呟く。

 

「おわ、なんだコリャ? ここだけ雰囲気ちがくないっすか?」

「クマぁ……なんかお化け出そうクマ」

 

 汚れた石で出来た柱からは長い年月を感じ、まるで山奥や森の中にある忘れ去られた神社を想起させる。

 どうして急に雰囲気が変わったのかは不明だが、柱の形状や七五三縄の結び目の数から分かることはないか直斗は入念に観察する。

 

「確かにここだけ雰囲気が大きく違いますね。鳥居も柱も七五三縄も古いもののように見えます」

「探偵の知識で年代とかも分かるんですか?」

「いえ、流石にそれは。そういった考古学的な知識は有里先輩の専門かと」

 

 階段周辺を調べていた直斗の傍にいた天田は、探偵はこんな物からでも何かの情報を得られるのかと尊敬の眼差しを向ける。

 しかし、直斗は鳴上たちの学年のテストは分からないといった感じで、いくら探偵として様々な知識を学んでいようと情報には偏りがある。

 こういった鳥居に石柱や七五三縄といった民俗学や考古学の分野のことは流石に分からないので、役に立てなくて申し訳ないと素直に謝罪してから直斗は湊に視線を向けた。

 

「先輩、ここにあるものから分かる情報はありますか? 年代であったり、どこの地方に見られる特徴かなど、分かることがあれば些細な事でも構わないのですが」

 

 直斗の知っている湊は二年後の世界にいる記憶を失っている状態が基準となる。

 けれど、その湊を基準にしても直斗は彼ならば考古学についても詳しい知識を持っていると考えた。

 どうやら元の時代で彼がそういった知識を持っていると知る機会があったようだが、直斗に言われて七五三縄や石柱を一通り観察すると、湊は首を横に振ってから口を開く。

 

「……見た目だけだな。確かに風化具合や汚れなど、古い質感は本物と遜色ないレベルで再現されている。だが、ここにあるものには年月が感じられない。それが辿ったであろう過去が見えない」

「では、ここにあるものは最初からこの形で作られたという事ですか?」

「ああ。本物も出来てから二百年かそこらだろうが、どこかに実在するものを丸ごとコピーしたってところだろう。考察は無意味だ」

 

 ここに置かれているものは全てが模造品。

 汚れや傷など本来再現不可能な部分までも、本物と全く同一に再現されているため、普通の学者や鑑定士が見れば本物だと騙されてしまう。

 眞宵堂でのバイトや仕事に使う知識を集める内に詳しくなっていた湊も、アナライズしてもおかしな点がない事から騙されて当然だと認める仕上がりだ。

 ただ、構造を含めた外見は完璧にコピー出来ているが、実際に触れてみたとき、そこに宿っているはずの年月の重さを感じる事が出来なかった。

 日本には付喪神のように、物に魂が宿るという考え方がある。

 当然、実際に魂が宿って物が動き出すという事はないが、そこに意思は感じられないものの、その物が纏う空気や雰囲気と言ったものは感じるようになってくる。

 湊が言った年月や過去というのはそれの事で、ここにあるものは“ただ古い”だけのものでしかなかった。

 この場にあるもの全てがコピー品と聞いた直斗は納得したように頷くと、ならばここにようはないと通路の先へ視線を向ける。

 

「本物でないなら調べる意味はありません。では、奥へと向かいましょう」

 

 下りてきた階段周辺を調べていたが、ここにあるものでは何の情報も得ることが出来ないので調べる意味がない。

 となると、残るは奥へと伸びている道を行くしかないため、急に敵が現われても大丈夫なよう鳴上が全員に声を掛けた。

 

「皆、十分に注意していこう!」

『了解!』

 

 全員が武器を手に持って警戒しながら進むと、奥へと続く道が途中で七複数の五三縄と御札によって塞がれている。

 まるで結界を張っているかのようで、この先が特別な場所だと言われているようだ。

 幸いなことに道を塞いでいる七五三縄には大きな隙間があるので、その間を潜って通り抜ける事も可能である。

 ただ、自分たちは最後の番人を倒しにここまで来たのだから、ここで変に遠慮する必要もないだろう。

 邪魔な結界など破壊してしまえばいい。そんな意味も込めて全員が湊に視線を向ければ、青年はコートの内側から人斬り包丁“徒桜”を引き抜いた。

 

「……一応言っておくが、自分で出来る事は自分でやれ。万が一呪われたら嫌だからと人に押しつけるな」

 

 言いながら湊は魔眼のまま袈裟切りに大太刀を振り下ろし、寿命を断たれた七五三縄と御札が朽ちて消えてゆく。

 それを傍で見ている者の中には、呪われたくないという本音がバレている事に気まずそうにしている者もいる。

 現実世界での話ならまだしも、こんな隔絶された異世界の中で結界の触媒を切り裂いたところで呪われるはずがない。

 しかし、頭では分かっていても簡単には割り切れないのが人の心だ。

 本人たちも悪いとは思っているのだが、湊なら即死級の呪いを受けても呪詛破りや呪詛返しが出来そうなので、ここは適材適所だと開き直って開いた通路の奥へ視線を向ける。

 通路の奥はかなり広い大部屋になっているようで、階段周辺と同様に中にも大きな七五三縄や紙垂が張られている。

 ただ、装飾は同じような感じになっているが、一歩大部屋に入ってみると中と外で空気が違うことに嫌でも気付かされる。

 静けさで耳が痛くなるような静寂、何がいる訳でもないのにしんと張り詰めた空気。

 その二つのせいで妙な緊張感を覚えるのかと警戒を強めるメンバーだが、大部屋の奥へと進んでいけば、石で出来た祭壇らしき台座に安置された銅の箱が見えてきた。

 

「あれか……」

 

 見つけた台座へと近付いてゆきながら美鶴が小さく呟く。

 外にあった鳥居や石柱同様、ここにある台座と箱も随分と年季が入っているように見える。

 元はきっと赤褐色をしていたであろう箱は、もはや酸化していない部分を見つける方が難しいほど全体が薄緑色になってしまっている。

 だが、これが他の物と同じであれば、古く見えるだけで実際は置かれてからそれほど経っていないのだろう。

 場所を考えると安置された銅の箱がこれまでの宝箱に当たるものに違いない。

 そう思って一同が箱の置かれた台座へと向かって行けば、

 

《こないで……》

 

 急に感情の籠もらない少女の声が聞こえてきた。

 今いる大部屋には自分たちしかいないと思っていた者らは、ここが番人の待つダンジョン最奥だと思い出して警戒する。

 高い天井は一体どこまで離れているのか暗くて見えず、その暗闇から番人が降ってくる可能性を考慮すると、あまり密集陣形を取っていられない。

 なので、全員が適度に離れたポジションで警戒を強めていれば、箱が安置された台座の正面に黒い靄が集まり始めた。

 もしや番人が出てきてすぐに戦闘に突入するのかと武器を握る手に力が籠もる。

 だが、他の者たちの警戒とは裏腹に集まっている靄は徐々に小さくなり、小さくなった靄がパンッと弾けるように消えれば、そこにはウサギのぬいぐるみを抱いた入院着の玲がいた。

 

「おいおい、玲ちゃんが分身してっぞ」

「順平、よく見て。あっちの玲ちゃんは八雲君みたいな金色の瞳してるよ」

 

 少し距離を開けた正面に現われたのは玲だが、自分たちとずっと一緒に戦って来た玲は善と手を繋いで立っている。

 彼女は自分と同じ姿をした何者かを酷く警戒しているようだが、両者の間には距離があるし、メンバーたちが善と玲を守るように陣形を組んでいる。

 この状態で相手が玲に何かしてくるとは思えないので、全員が瞳の色が異なる玲を見つめて足を止めた。

 

《これは、だめ。だめなの……》

 

 金色の瞳をした玲はメンバーたちに近付かないでと告げる。

 抱いているウサギのぬいぐるみに顔を埋めながら話す彼女は、味方の玲と異なり快活さなど欠片もなく、酷く怯えた表情で箱への接近を拒む。

 これまでのパターンを考えると、箱の中身を渡すまいとする行動から相手が迷宮の番人だと思われる。

 しかし、見た目が知り合いと同じなので、強引に突破して奪い取るのも気が引けると真田が困った表情を浮かべた。

 

「これはどういう事だ? あっちの玲が番人という事でいいのか? 有里といい、玲といい、分裂するのが流行っているのか?」

「アホか。どうみてもあっちは偽もんだろうが。分裂なんて馬鹿みたいな真似できるやつなんて、そう何人もいてたまるか」

 

 湊の場合は退行時に八雲とベアトリーチェに分かれただけだが、真田と荒垣からすれば分裂した事実は変わらない。

 そのため、同じように増えた玲も同類として扱いたくなるが、入院着の玲は瞳の色も雰囲気も違っていてどこか不気味だ。

 おそらく玉藻のように他人に化ける力を持つ敵に違いないと、荒垣が斧を握る手に力を籠めて相手を睨めば、似たような存在を見たことがある鳴上たちが止めてきた。

 

「少し待ってください。あっちの玲は多分、陽介や里中たちの時と同じだと思います」

「だな。つーことは、あっちの玲ちゃんは玲ちゃんのシャドウか……」

 

 箱の前にいる玲は本人ではないが、荒垣が言ったように偽物かというとそうではない。

 どうして最後の迷宮の番人が玲のシャドウなのかは分からないが、これまでと異なりただ倒せばいいという訳ではなくなった。

 己のシャドウとの戦いを知る八十神高校側のメンバーが難しい表情をしていると、相手の正体が分かったのなら教えてくれと美鶴が声を掛ける。

 

「花村、詳しく聞かせてくれ」

「はい。えっと、テレビの中の世界だと、自分自身でも気付いていない自分の見たくない一面がシャドウとして出てくるんです。自分のシャドウと向き合って、弱い一面を受け入れる。そうやって俺たちはペルソナを得たんです」

 

 お互いのペルソナの獲得方法に違いがあるとは聞いていたが、詳しい経緯を聞いていなかった事で、月光館学園側のメンバーは変わった獲得方法だなと感じる。

 月光館学園側のメンバーがペルソナを得たのは完全に自力だ。

 影時間の適性を持った者が、十分な高さの適性を持っている場合に覚醒してペルソナを得る事が出来る。

 一方、八十神高校側の者たちは基本的にペルソナを持っていないとテレビの中に入れないというのに、テレビの中の世界で自分のシャドウと向き合わないとペルソナが手に入らないという。

 力を持った者が一緒なら連れて行って貰う事も出来るが、そうでなければ無理矢理にテレビに入れられない限りシャドウと対面する事は出来ない。

 ペルソナを手に入れに行くためにペルソナが必要など、矛盾しているとしか思えないが、そういう事ならここで玲が自分のシャドウと向き合えば、獲得条件を達成したことになるのではとラビリスは問いかける。

 

「なら、玲ちゃんもペルソナ使いになれるん?」

「あたしらの時はそうだったって話だから、玲ちゃんも同じようになるかは正直分かんないなぁ」

「うん。それに、弱い自分を受け入れればいいって言っても、実際にやってみようとすると難しいから」

 

 千枝も雪子も他の者の手を借り、暴走したシャドウを弱らせて貰ってから何とか受け入れた形なので、間違っても簡単だなどという事は出来ない。

 シャドウは押し殺して見ないフリをしていた一面が顕在化したものだ。自分がこれまで否定していた部分をすぐに受けいれるなど誰にも出来ないと思うと花村たちは話す。

 

「いきなり受け入れろっても無理だと思う。だからまずはシャドウに好きに言わせてやって、暴れさせてやって、そんな自分を見てようやく受け入れられるようになるんだと俺は思う」

 

 シャドウはある意味で自分の本心だ。その本心に好きなようにさせてやり、ちゃんと見つめ直す事でシャドウを受け入れられるようになる。

 だからまずは、玲のシャドウの言いたいことを聞いてやろうと全員が玲のシャドウの方を見た。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。