砲雷撃戦(物理)するには提督は必要ですか? ~はい。提督は脳筋仕様の化け物です~ 作:elsnoir
●艦娘の日記
side:矢矧
あの時助けられた提督を助けて、これからともに戦うことになったわ。とても危なっかしい提督だけど、とても頼りになる提督。前の提督と同じぐらいかな。でも、戦場を駆け抜けて殴りに行くのは少し不安になるわ。でも、さすがにそこまで馬鹿じゃないようだし、ちゃんと私たちを守ろうとしている。ただ、提督には死んでほしくないわ。今書けることはそれだけね。
★鎮守府 正面海域 浅瀬
side:渚
「うおおおおおおお!!!!」
的に向けて単装砲をめり込ませる渚。今は訓練だ。もともとは榛名と矢矧を過去の艤装に慣れさせるために始めた訓練だ。どうせならというわけで全員で訓練なのだが、このありさまだ。
「あ、あの、提督?的はそうやって…」
「榛名さん、提督にそれを言っても無駄ですよ…」
「そうよ…敵=殴り倒すの脳筋提督だから…」
高雄と五十鈴が眉間を押さえながら呟いた。
「それに久々に体を動かせるからテンションも上がっているんでしょうか…」
吹雪が呟く。あの日から今日にいたるまで三日。それだけの間体を思いっきり動かすことができなかった。その分この訓練で発散しているのだろう。
ちなみに離れた的になぜ殴りこんでいるかというと、最初は十発砲撃をしたのだが一発も的に当たらなかったため拳で的を撃ちぬくことにしたのだ。
★鎮守府 提督の部屋
訓練から翌日、輸送ルートの確保に移ることにした。徐々に制海権を得て、最終的には本土とこの島を結ぶ安全な輸送ルートを作るのが目的だ、小さくても制海権を得れば次につながる。
「でだ。今回は榛名を旗艦とした主力艦隊と矢矧を旗艦とした支援艦隊として戦う。矢矧、夕張、電、吹雪の支援艦隊だ。今言われなかった艦は主力艦隊となる。俺は主力艦隊につく」
渚が出撃するのは大前提となっていた。
「それでですね、提督」
突然大淀が口を開く。
「今回提督には別の装備で出てもらいます。いつもの装備は補強中です。提督が扱っても壊れないように特別に補強しているところです」
「そうか。で、何を装備するんだ?」
「すみません、用意するのに時間がかかりますので、皆さんとは一緒に出撃できません」
「そうか。じゃあ、先に出撃していてくれ。後で全速力で追いかける」
★出撃ゲート
side:榛名
今回艤装が増えたため、今までの形ではでは全部艤装をしまいきれなくなった。そこで、榛名と矢矧のいた鎮守府と同じようにすることにした。艤装を全て海中にしまいこみ、ゲートから出撃すると同時に装備する形になる。艦娘一人一人が走れるようなレーンも作られた。これを全て妖精がやったのだ。驚きだ。
「金剛型三番艦、榛名!全力で参ります!!」
掛け声とともに海面を滑り出す。榛名が動き出すと同時にレーンのそばにあった鎖が動き出す。海面から巨大な艤装が引きずり出される。
「主力艦隊っ、抜錨します!!」
腰に艤装が装備される。そのまま海面を滑り出す。榛名の後ろを高雄、五十鈴が追従する。さらにその後ろを
「阿賀野型三番艦、矢矧、出るわ!!」
榛名と同じように海面から艤装が引きずり出され、背中に装備される。矢矧の後ろを夕張、電、吹雪の順でついてくる。
★鎮守府正面海域 エリアC
事前にある程度の制海権は取得しているため、目的の海域に到着するには問題なかった。そして前方に敵の影が見える。
「報告します。敵はヲ級が四、ル級が二、タ級が一、チ級が五。さらに泊地凄姫が一体です!!」
榛名の通信と同時に上空に艦載機が見えた。これが開戦の合図だった。
★出撃ゲート
side:渚
「やっとか!」
待たされた挙句、渡された装備は貧相。どうしてこうなった。その言葉しか出なかった。
「朝霧 渚、出るぞ!!」
海面を滑り出す。渚の装備も艦娘と同じように海中に保管されている。かといって艦娘のように大きな艤装を引きずりだすことはなく、使う武装だけ引きずり出される。海面から引きずり出された装備を手にし、海面を走り出す。
★鎮守府正面海域 エリアC
side:榛名
「榛名、全力で参ります!!」
上空に向けて砲身を上に向ける。そして轟音と共に砲弾が放たれる。ただの砲弾ではない、対空用の砲弾だ。榛名の放った砲弾が突然爆発した。そこから大量の子弾が放たれた。無数の子弾が艦載機を襲い、上空を真っ赤に染め上げた。
「砲雷撃戦、始め!」
高雄が声を上げ、腰の装備された艤装から砲弾を放つ。放たれた砲弾はル級に向かっていったが、惜しくも外れた。
「そう簡単には当たらないわね…」
「悔やんでる暇はないわ!まだ始まったばかりよ!!」
矢矧が声を上げながら引き金を引く。砲弾はチ級に直撃する。一撃をもらったチ級は碧い眼を光らせ、反撃の砲弾を放ってきた。それが向かう先は矢矧ではなく、吹雪だった。
「くっ!」
吹雪は迫る砲弾のことが見えていない。
「吹雪!!」
「えっ」
矢矧が海面を滑り、吹雪の前に立つ。そして被弾した。
「矢矧さんっ!」
「平気よ……魚雷五、六本くらい打ち込まなければ、私は沈まないわ」
矢矧の艤装は半壊していた。服も焼け焦げていた。
「吹雪、行けるわね?」
「はいっ!!」
二人のやり取りを見て、少しだけ安堵した。前方には武装が半壊したル級がいる。
「これ以上は負けませんから!!」
ル級をにらみ、砲弾を放つ。砲弾は直撃し、ル級を撃破する。
「次ですっ!」
次の狙いを定めようとした瞬間、通信が入った。
「皆待たせたな!!」
渚だ。ようやくご到着のようだ。
「提督!」
背後に白い髪が特徴の提督が見えた。だが、いつもの彼とは違った。両手に握られているのは砲じゃなかったからだ。彼の近くで海面が揺れた。艤装を滑った時の波ではなく、全く別の波。何かくる。それはすぐにわかったことだ。
水しぶきを上げ、海面からイ級が現れた。
「提督!!」
イ級が口を開き、砲身を現す。
「さっそくやってみようじゃないの!」
渚が大きく右腕を振るう。彼の手に握られているのは鎖。その先には……
口を開けたい級の顔に灰色の巨大な何かが激突した。ごおうぅん、という空洞のあるような音を響かせて。鎖の先には輸送用のドラム缶がついていた。ただ真新しい銀色を放っていた。
つづけさまに左手の鎖を振り下ろす。鎖に連動してイ級に向けてドラム缶が上空から高速で振り下ろされる。イ級を海面に叩きつける。そして再び右腕を振り、ドラム缶でイ級を殴りつける。次の瞬間、イ級が爆発した。
「「「なっ…」」」
艦娘全員が唖然とした。敵艦も唖然としていた。その瞬間、渚以外のすべてが時が止まったような感じだった。
side:渚
先ほどから振り回しているドラム缶、これを用意するために時間がかかっていた。出撃するまでにドラム缶を鋼材でコーティングしていた。それもかなりの厚さでだ。おかげで単装砲で殴りつけることと同じくらいの威力を引き出すことに成功した。念のために、14cm単装砲も持ってきているが、今は腰につけられている。
「おい、皆顔色悪いが大丈夫か?体調悪いなら今から撤退するぞ」
「あの……提督……」
「なんだ」
「……………なんでもありません」
榛名は言いたいことをうちにしまって、砲身を敵艦に向けた。