砲雷撃戦(物理)するには提督は必要ですか? ~はい。提督は脳筋仕様の化け物です~ 作:elsnoir
●艦娘の日記
side:夕張
昨日の件はよく生きてたと思う。あの二人がいなかったら今頃海の底だったと思う。本当に感謝してる。それに提督にも。でも提督に言いたいことは一つある。あの装備をだれが修理するのか考えてほしい。昨日だって単装砲一つ海に捨てたし……もう少し丁寧に使ってほしいな…
★鎮守府 提督の部屋
side:渚
「お、来たな。そこのソファーに座ってくれ」
榛名と矢矧を呼んで少し話をしようと思った。まずお茶を入れてのんびり聞きたいことを聞くことにした。
「まず、二人は一体どこから来たんだ?」
「地図はある?」
矢矧の問いに答え引き出しをあさる渚。そこから丸められた地図を取り出す。それを机の上に広げる。その後二人でここ?と会話しながらいた場所を探す。そして
「ここ…ですね」
榛名が華奢な指でさした。それはここからかなり離れた小さな島だ。今目標としている輸送ルートにはいくつもの孤島を挟んでいる。この鎮守府と彼女が指さした孤島とは、輸送ルートにある孤島と孤島を結ぶ距離ぐらい離れている。
「こちらは輸送ルートの偵察に戦闘していたところだが、そこから少し離れて合流した………そっちの鎮守府で何があったんだ?」
「私たちも昨日の迎撃戦のようなことをやっていたの。だけど、状況は劣勢で次第にほかの艦娘たちが沈んでいった………向こうの提督に「二人だけでも逃げろ」って言われて追撃されながら出会ったってわけ。私たちが逃げるころには島は燃え盛っていた。もう手の打ちようがないくらいね。鎮守府も大火事になっていた……でも、貴方たちが助けてくれたおかげで今ここにいる」
「榛名たちもお姉さまや皆さんと一緒に沈むんだろうなって思っていました。そこに提督達が助けてくれました。本当にありがとうございます」
二人して笑顔で微笑みながら感謝する。
「…向こうの提督や、艦娘には申し訳ないと思っている。そんな状況も知らなくて……」
「知らなくて当然よ。向こうでは通信はほとんど切っていた。本部との連絡を絶っていたしね…」
「なぜそんなことを?」
「見捨てられたからよ」
本部に見捨てられた。どういう意味か解らなかった。
「矢矧さんの言うとおり、榛名たちは見捨てられたんです。それは提督から聞きました。提督が本部との会議で提督が軍法会議にかけられていたんです。提督は戦果を上げていなくて、それで見捨てられたんです。最後まで守れるなら守って見せろって本部の方がそれを最後に通信を絶ったんです」
「なんて滅茶苦茶な……」
「でもっ、提督はいい人です!!」
榛名は声を上げた。
「誰よりも榛名たち艦娘を大切にしてくれて、兵器としてでなく、一人の人として見てくれていたんです」
「そうね。そういう所は本当に良かったと思うわ」
誰よりも艦娘を大切にする。一度その提督と話してみたいと思った。彼の思考を聞いてみたかった。
「………その提督の優しさゆえ戦果を上げられなかった……というやつか」
「…………」
「…………で、だ」
話を切り替える渚。彼の目にはしみじみとした雰囲気はなかった。
「二人はこれからどうする?」
「どうする、とは?」
「二人は艤装を失った今、一人の人だ。これ以上戦いに参加する必要はない。俺は戦いが嫌なら強制するつもりはない」
「……榛名は戦います」
「私も戦うわ」
二人ともすぐに答えを導き出した。二人の目には灯がともっていた。
「そうか……明石っ!」
渚の声に答えるように扉があく。
「結果は?」
「ばっちりです!」
アルカイックスマイルで答える明石。ちょっと可愛いと思った。
「二人の艤装は今までの状態で使えなくなると言いました。ですが、初期の状態であれば使うことができます」
「本当ですか!?」
「はい。ですが練度も最初から、慣れない装備での戦闘になります」
「それでもいいわ。今は守りたい人がいるから」
「それって俺か?」
冗談交じりで言う渚。
「ええ、そうよ。私の指揮官として守る。変な意味はないわ」
ちょっとぐさりと気がした。ちょっと毒舌なのかもしれない。
「でも、貴方を一人の人として守る日が、来てもいいかもしれないわね」
「おい、それって」
「冗談よ」
ちょっとでも期待した俺が馬鹿に思えた。あれだ、艦娘との私用は絶対に避けよう。それを戦場に持ち込まれてはたまったもんじゃない。
「矢矧さん、それくらいにしたらどうですか?」
「榛名が言うならやめてあげるわ。これからよろしくね、提督」
「提督っ、よろしくお願いします」
二人してぺこりと頭を下げる。
「よろしくな、榛名、矢矧。そう言えば俺の名前を言ってなかったな。俺は朝霧 渚だ。階級は大佐だ」
「大佐ね…一つ聞きたいけど、貴方本当に人間なの?」
「失敬な。幼いころからスパルタの親父に育て上げられただけだよ」
筋肉モリモリマッチョマンの親父に育てられて、今の自分がいる。小学生の頃も細身でありながら喧嘩には強かったため、喧嘩を吹っ掛けてくるやつもいなかった。もともと親父が将来守るべきものを守れる力を持っておけと言い、それに従ったまでだ。海軍の士官学校に行って身体能力はかなりのものを見せた。学力は上の中ぐらいだった。トレーニングしている最中に勉強をするのが親父のやり方だった。
「電と五十鈴の初陣で、ル級が乱入してきて、そこに俺が乱入した。そこで砲撃とかのダメージをあまり与えられていなかったから、物理で攻撃したってわけ。砲撃でだめなら物理で倒せばいいっていう判断をしたまでだ。その結果が今の俺に至る」
「提督、無茶してはダメですからね」
「わかっているさ。あ、お茶飲むか?」
二人はこくんと頷く。空になった湯呑にお茶を入れてあげる。
「提督のも入れてあげるわ」
矢矧が手を伸ばし渚の湯飲みにもお茶を入れる。
「そういえば嫌いな人にもお茶を淹れる行為はぶっかけるためにあるらしいわ。いや、別に提督のことは嫌いじゃないのよ」
「もし、俺が二人に嫌われていたら」
「落ち着いたところでぶっかけていたわ」
恐ろしいことを言う。その榛名はあたふたしていた。
「大丈夫よ。そんなことはしないと思うわ。榛名を泣かせたり、悲しませたら例外だけどね。お茶じゃなくて砲弾が飛ぶかもね」
とりあえずわかったことはこの二人はかなり仲がいいことだ。
●艦娘の日記
side:吹雪
着任してすぐに死ぬかと思いました。でも、司令官が助けてくれました。ここの司令官が普通なのか異常なのか……とにかく深海棲艦相手に物理攻撃をするなんておかしいと思いました。