砲雷撃戦(物理)するには提督は必要ですか? ~はい。提督は脳筋仕様の化け物です~ 作:elsnoir
★鎮守府 出撃ゲート
side:???
二人の艦娘が出撃ゲートに向けて走っている。明石が言っていた。「二人の艤装を一度だけ今までの状態で使えるように修理しました。ですが、使ってしまった後は壊れてしまいます」と。それでもいい。今は守りたい人がいる。借りを作った人がいる。今その人は戦場に出ていて、艦娘と一緒に戦っている。自分たちを生かしてくれた、一人の人。
「「抜錨!!!」」
二人の艦娘が海面を高速で滑り出した。
★鎮守府正面海域 Bエリア
side:渚
状況は劣勢だ。渚を除く全艦が大破。戦える状況ではない。渚に至っては左手を押さえ息を切らしている。
「…ぐ……状況は劣勢…だが……まだ終わったわけでは…!」
痛む体に鞭を撃ち、相手をにらむ。戦艦、重巡、軽巡、雷巡、駆逐それぞれが二体ずつ。どれも金色のオーラをまとっている。そして赤いオーラをまとうフードの少女。
「アハハッ!マダナニカスルツモリ?イイカゲンシズンダラ?」
「黙れっ!!俺はまだ戦えっ、ぅぐ………くそ………体が…」
体が悲鳴を上げている。
「ジャア、オワリニシテアゲル」
異形の頭から砲弾が放たれる。
「…くそっ!」
悔しかった。守ることができなかった。
「……ごめん、皆」
放たれた砲弾は一直線に渚に向かっていった。
「勝手は榛名が許しません!!!!」
突然通信が入り、一人の女性の声が聞こえた。凛としていてどこか柔らかな声。次の瞬間、砲弾がパーカーの少女と渚の間で爆発した。
「なっ」
「ナニ…?」
三時の方向から二つの影が見えた。
「あれって…」
先日やられそうになっているところを助けた艦娘。その二人が今や立場が逆転していて助けてもらっているところになるだろう。
「大丈夫ですか!?」
腰に巨大な艤装を付けた巫女服のような服を身にまとった艦娘が言った。彼女の艤装にある主砲と思われる砲には白と黒の線が引いてあった。名前だけは知っている。ダズル迷彩と呼ばれる迷彩だ。もう一人の艦娘、彼女は先日の夜ご飯を食べさせた覚えはある。真面目な表情で凛とした目つきで戦場を見つめている。
「なんとか…な」
「後は榛名たちに任せてください!!今のあなた達じゃ、レ級は相手できませんから!!」
そう叫び、砲弾を放つ。前方にいた重巡に直撃し高い水しぶきを上げた。一撃で重巡を葬った。
「早くお願いします!」
「全艦撤退だ!」
自分の背後で五人の艦娘が海面を滑り撤退した。
「提督、貴方もよ!!」
「悪いが、お前たち艦娘にすべてを投げるわけには、いかないんでね!!」
海面を高速で滑る。そしてもう一体の重巡に肉薄する。その重巡がこちらに向けて砲弾を放ってくる。一直線に進む砲弾を最低限の動きで避ける。零距離まで接近した瞬間に、拳を振るい、単装砲を顔にめり込ませる。それでも沈まないから、さらに追撃を加えるべく、腹にも殴る。
「沈めえええええええええええええええええええ!!」
もう一度顔面に全力のストレートをぶつける。ぶつけてから力を押し出した瞬間に、その重巡の頭が吹っ飛んだ。文字通り吹っ飛んだ。そして頭を失った体は倒れこみ、深い海に沈んだ。
「行くわよ!」
もう一人の艦娘も砲弾を放つ。放った砲弾は二つ。それを的確に雷巡、チ級に直撃させる。そしてそのまま沈んでいった。
「…フザケルナ!!」
フードの少女が砲弾を放つ。砲弾の行く先は渚。
砲弾が迫る。避けるつもりはない。これは証明だ。一人の提督としての決意と覚悟を。見せてやろう。あの化け物に。俺の、俺たちの覚悟を。空を切って飛んできた砲弾は渚の振るった左手に直撃した。正確には単装砲にだ。
「「提督!!」」
渚が爆炎に包まれた。その景色を見たレ級は高笑いしている。
「…高笑いとは余裕だな」
煙が晴れるととボロボロになった渚が立っていた。軍服のほとんどが焼け焦げていて、顔もさっきより傷だらけになっていた。左手に持っていた単装砲も使い物にならなくなっている。
「生半可な覚悟じゃ、守るものも守れない。俺はこいつたちを守るって決めた。守られる側だけでなく、守る側であり続けてやる!!」
左手に握っている単装砲を海に投げ捨て、海面を走り出した。
side:矢矧
「私たちの提督と違って、変わった人ね」
目の前でル級相手に殴っている提督を見て笑みをこぼす。
「砲雷撃戦、始めます!」
前方にいる駆逐艦、ハ級に向けて砲弾を放つ。
side:榛名
前方で接近戦を行っている提督に対して榛名は後方で支援をしていた。片一方のル級を渚に向かわせないために。
「榛名、全力で参ります!!」
轟音と共に砲身から砲弾が放たれる。同じようにル級も砲弾を放つ。砲弾と砲弾同士がぶつかり合い、大爆発を起こす。煙のせいでル級の行動が見えない。それはあちらにも同じだ。ここは心理戦だ。攻撃に入るか、避けに入るか。
「………来ます」
行動は避けだ。十時の方向に進みんだ。砲弾は一直線に先ほどいた場所を通り抜ける。敵はこちらに気付いていない。それがあだとなった。艤装から今装填されている砲弾を全て放った。砲弾がル級を襲い巨大な爆発を起こした。
side:渚
榛名と矢矧が着々と敵艦を沈めているのを尻目に見て、前方のル級をにらむ。自分の装備が薄い分、倒すのは少し難しいかもしれない。こちらの装備は14cm単装砲一つに三連装魚雷一基だ。
「……どうする…あ」
手っ取り早く武器を入手する方法があった。盗む。それが一番早い方法だ。敵の戦力ダウンをしながらもこちらの戦力を上げることができる。
「どう盗むか…とりあえず、殴るっ!」
なんにせよ、脳筋であることに変わりはない。砲弾を避けながら海面を滑る。魚雷はいざって時に残しておく。妖精もへとへとのようだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
雄たけびをあげ、ル級に殴りかかる。拳は顔面をとらえる。そこに零距離の砲撃も加える。ル級の顔面で爆発が起きる。そして
「もらっていくぞ!!」
ひるんだところでル級の左手に握られている盾のほうな巨大な砲を強奪した。ひるんだル級に追撃を加えるべく、今度はブローを決める。さらに強奪した砲で殴る。最後にもう一度顔面に単装砲をめり込ませ、爆破させた。
ル級を沈め、前方にレ級と呼ばれる艦に目をやる。そのレ級が砲弾を放ってきた。その攻撃に合わせ、先ほど強奪した盾のような砲を構えた。爆音が近くで鳴り響く。レ級の一撃を喰らってもこの方は少しの損傷しか見せなかった。
「ナニッ!?」
声を上げるレ級に向かって渚は海面を高速で滑り出す。盾を前に押し出し、攻撃にも対応できるようにしていた。突っ込んでくる渚に向けていくつか砲弾を放つレ級。その砲弾は砲にあたったり海面にあたったりしている。
「はあっ!!」
海面を高速で滑ってきた渚はそのまま盾でレ級に激突した。激突されたレ級は怯み、のけぞった。そこに
「これでどうだッ!!」
腹に単装砲付きで殴る。そこで砲撃を混ぜダメージをさらにとる。さらに追撃をかけるべく、今度は左手にある強奪した砲で殴った。それも顔面を。
「グッ!」
「まだだ!!」
今度は左足で押し出すように蹴りを叩きこむ。腹部を蹴られたレ級はさらにひるむ。一切の攻撃も与えてはいけない。追撃をかけようとしたときに通信が入った。
「榛名です!敵艦隊殲滅しました!!あとはレ級だけです!!」
通信を耳にしながらレ級の顔面に単装砲をめり込ませる。
「よくやった!!」
自分の背後から二人の艦娘が来た。
「「提督!」」
「ここらでフィニッシュかな」
ボロボロになったレ級にそろそろ終わりの時間が来たようだ。
「向こうで連中に会う機会があったら伝えとけ、今度余計なことを言うと口を縫い合わすぞってな」
実をいうとこのレ級の発言には大分腹が立っていた。その腹が立っていた分を全て拳に込めて、
「そんでもって………………………ブロオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
今出せる限りの全力のブロー。そこに零距離の砲撃を叩きこむ。レ級の体が大きく浮かび上がる。そこに榛名、矢矧は砲身をレ級に向けて。渚は右手の砲をレ級に向けて、左手の指には魚雷を挟ませた。
「勝手は…」
榛名が呟く。この後の言葉は知っている。最初に通信で聞いた。間違ってたら恥ずかしいが。
「榛名が!」
「矢矧が!」
「渚が!!」
それぞれ声を上げる。
「「「許しません(さない)!!!!!!」」」
咆哮とともに一撃を放つ。砲弾を、魚雷を受けたレ級は大爆発した。
「終わったか……うあー、疲れたー……」
ばっさーんと後ろに倒れこみ、海に浮かぶ渚。
「お疲れ様です」
「お疲れ様ね」
榛名と矢矧が上から声をかけてくる。
「さて、帰るか」
★鎮守府
今現在榛名、矢矧を含めた艦娘全ては大入浴場でお風呂。渚は大淀、明石の手によって治療をしてもらっている。塗り薬だったり、包帯だったり、湿布だったりと。とにかく、その日はまるでミイラのようになっていて、電が怖がって近づかなかった。
●艦娘の日記
side:五十鈴
今日は一時期どうなるかと思ったわ。突然深海棲艦が襲撃してきたと思ったら、こっちは全員大破。そんなピンチに先日救出した二人の艦娘に助けられた。その後のことは知らないけど、みんな帰ってきてよかった。提督も包帯でぐるぐる巻きになってたけど、笑ってみんな帰ってきてよかったって言ってた。このまま誰も死なずに過ごせればいいわね。