砲雷撃戦(物理)するには提督は必要ですか? ~はい。提督は脳筋仕様の化け物です~ 作:elsnoir
●艦娘の日記
side:高雄
電ちゃんから渡されたけど、どういったことを書けばいいかわからないわ。提督についてなら書けそうな気がする。初対面の印象は良かったけど戦場に出てから印象は変わったわ。でも、少しだけかっこよかったわ。あくまで少しだけね。
★鎮守府 客室
side:???
薄暗い部屋で、起き上がる自分がいた。外は黒い空に丸い月が浮かんでいた。
「………」
自分の服装は浴衣だった。ここに連れてこられて着せさせられたのだろう。自分の隣に目をやる。一人の女性が寝息を立てている。
「………榛名、ごめんちょっと離れるね」
布団から出て、客室を出る。
★鎮守府 廊下
side:???
廊下は少しの明かりしかついていなかった。でも歩くのには十分だ。危険は少ないはずだ。
「…ここが鎮守府ならどこかに提督がいるはずね」
木製の床をとてとてと歩く。歩いていると見えてきたのは明かりが漏れている一つの部屋だった。
★鎮守府 ラウンジ
side:渚
渚は十二時ごろからずっとラウンジの椅子に座ってぼうっとしていた。縦長の部屋で数多くのテーブルと椅子があるこの部屋で入口に近いところだ。
「やっと起きたか」
席を立ちあがる。目線の先には藍色浴衣を着た長い髪が特徴の女性。もう一人の艦娘とは違って真面目そうな表情だ。
「あなたが提督ね」
「ああ。朝霧 渚。階級は大佐だ。ところで」
後ろを振り向き時計を見る。
「腹減ったろ」
「そ、そんなことないわ!」
彼女がそう声を出した瞬間、ぐうと音が鳴る。
「嘘をつくな。どうせ腹が減ってると思って料理は作ってある。今電子レンジで温めるから少し待っててくれ」
気分転換も含め近所のコンビニに行ってきて適当に弁当を買ってきたわけだ。そして温まったメロディーが流れる。
「ほら。親子丼だがアレルギーとかないよな?」
「ないわ。でも、いただいていいのかしら」
「ああ。食べたら今日は寝ろ。聞きたいことは後で聞く。今は体力の回復に努めてくれ」
彼女は黙々とご飯を食べて「ごちそうさま」と言ってラウンジを出て行った。名前を聞こうとしたがやめた。次に会った時にまとめて聞けばいい。
★鎮守府 玄関
翌日、夕張が設計図とやらを渡してきた。敵艦が時々持っているようだ。どうしてそんなものを持っているかどうかわからない。もしかすれば昔沈んだ艦の断片が何らかの変化を起こしてそうなったのかもしれない。そして新たに新しい戦力が加わった。藍色のセーラー服を身にまとった少女。
「吹雪です!よろしくお願いします!」
びしっと敬礼までしてくる。渚も同じように敬礼して答えた。
「朝霧 渚だ。階級は大佐だ。これからよろしく頼む」
簡単に挨拶を済ませた。
「さっそく、鎮守府を」
案内しようか。と言おうとしたがそれは簡単に巨大なサイレン音にさえぎられた。
「皆さん、聞こえますか!!」
サイレンと同時に大淀の声が響く。
「何事だ!」
「多数の敵艦隊がこちらに接近中です!敵旗艦を叩けば撤退するかと思われます!!」
「全員出られるな!!吹雪、早速実戦だ。行けるな?」
「はい!」
★鎮守府 出撃ゲート
side:吹雪
全員で地下に向けて走る。ここから海域に出ることができる。普段はゲートの扉は締まっているが、緊急事態のため開いている。
そこにある艤装をさっさと装備する。新しく吹雪の艤装もある。
「準備いいよ!」
夕張が声を上げる。その声に続いて高雄、五十鈴、電も声を上げる。
「吹雪、いつでも行けます!!」
「よし!艦隊、出撃だ!!暁の水平線に勝利を刻め!!」
「「「了解!!」」」
出撃ゲートを通り過ぎ、海面を滑る影は六つ。皆一列になって滑っている。単縦陣だ。旗艦は高雄だ。
「あれ…六つ?」
おかしい。自分を含めて艦娘は五人しかいないはずだ。そう渚から直接言われた。前から数えていく。高雄、夕張、五十鈴、電、吹雪。ではもう一人は?ゆっくりと後ろを振り向く。そこにいたのはあってまだ三分と立ってない白い髪の男性。
「し、司令官!?なんでいるんですか!?」
「吹雪ちゃん、突っ込んだら負けよ」
「負けってなんですか!?」
「おしゃべりはここまでだ。敵艦隊を発見した。殲滅する。」
★鎮守府正面海域 エリアA
side:渚
「敵対する者は死ぬ」
そう呟くと同時に加速する。
「とりあえず倒せ!いいな!!」
滅茶苦茶の指示を出して、突き進む。やることは一つ。敵艦隊を殲滅する。それだけの単純作業だ。
「砲雷撃戦……初めっ!!」
本日新たに装備を新調した。両手に14cm単装砲。腰には三連装魚雷を二基だ。これでクラスは軽巡まで上がったと思われる。
一番近くにいた人型の艦。このタイプから艦娘に近くなってくるが肌が異常に白い。重巡リ級。そのリ級は赤いオーラをまとっていた。このタイプはエリートクラスと呼ばれるタイプで、通常のタイプより強化されている。だがそんなことは知らない。いつも通り顔面を殴ってやった。ちゃんと砲撃がめり込んだ瞬間にトリガーも引いた。
「次だ!!」
近くにいる艦を見つけては殴るを繰り返す。時々魚雷を投げたりしている。周りを見渡すと皆少しずつでも戦果を挙げている。それでもあまり数は減っていない気がする。
「いったいどれだけいる!?」
いくら沈めても数が減っていない。
side:吹雪
「ひゃぁっ!!」
砲弾が飛び交う中、吹雪は小さな悲鳴を上げた。目の前にあるは恐怖。握られているは倒す力。逃げたくても逃げることはできない。目の前で戦っているみんなに迷惑をかける。それに後ろにいる人々はどうなるのか。
「撃ちますッ!」
引き金を引く。12.7cm連装砲から放たれた砲弾は赤いオーラをまとうイ級に向けて飛ぶ。飛んできた砲弾にあたるがダメージはないようだ。赤い瞳がこちらを見る。イ級がこちらに迫ってくる。なんとかダメージを与えようと引き金を引く。直撃するもイ級は止まらない。
「そんなっ!?」
イ級が海面を飛んだ。そして口から砲をのぞかせる。
「…ぁぁ」
小さな声を出す。たった数分の話だ。着任してすぐ殺される。戦場だから仕方ない。
side:渚
「ぶっ壊れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
吹雪を襲おうとしている赤いオーラをまとったイ級に向けて全力で殴りかかる。前に出した砲身はイ級の目をえぐり、砲身から砲弾が放たれ爆発を起こす。たて続きに左手で殴りかかる。今度は下から殴り上げた。砲身がめり込んだ。
「シャアアアアアアアアアア!!!!」
イ級が声を上げる。その大きく開いた口に向けて右手の単装砲を向ける。そして砲弾を放つ。イ級が内部から爆発し、体がばらばらになった。
「おい!大丈夫か!?」
とうの吹雪は今にも泣きそうな顔だった。
「司令官……私…生きてますか?」
「ああ!生きてるよ!!」
単装砲の引き金を引きながら吹雪に声をかける。
「司令官……」
「生きたかったら立て!明日がほしかったら引き金を引け!!」
自分たちの手には明日をつくるための武器がある。その引き金を引かなかったらこの武器は何のためにある。
「動かなければいつまでも明日は来ない!!明日、未来を生きたかったら戦え!!」
「……はい!!」
吹雪の目に光がともった。
かれこれ戦っていたが、少しずつ終わりが見えてきているような気がする。だが、その前にこちらの戦力が付きそうだ。こちらは全員中破している。服が破け、一部艤装の意味をなさなくなっている。
「ぐ……さすがに爆風だけでも痛いか……」
左腕を爆風でやられた。軍服が焼け焦げ素肌があらわになっている。あらわになった素肌はやけどを負っている。皆ボロボロで傷だらけだ。
「……ちょっと…いや、かなり不味いか…」
前方には金色のオーラをまとった深海棲艦がいくつもいる。その中に一つだけ赤い影が見る。だが、そいつだけ異質であった。黒いパーカーを着た少女。白い髪はから覗く瞳がまた嫌な目つきをしている。その背後には彼女から尻尾のように生えた異質の化け物。蛇のような竜の頭のような。そいつから砲が見える。
「…クヒヒッ、カンムスモタイシタコトナイネ」
片言の言葉で喋る。
「ああそうかい。実は本気だしてないだけでね」
「ソウカイ。ジャアコッチハサイショカラ、ホンキダスヨ」
彼女の目つきが変わる。笑うことのない。殺意のみの表情だ。
「……ははっ」
皮肉を言う気力もない。
「………今日は厄日だな」