砲雷撃戦(物理)するには提督は必要ですか? ~はい。提督は脳筋仕様の化け物です~   作:elsnoir

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エピローグ

★本土 港

side:渚

 深海棲皇を沈め、作戦は終了。残存している敵深海棲艦の姿もない。島と本土の輸送ルートは無事に繋がった。

 帰還し、陸についた頃には海軍のお偉いさんたちがお出迎えしていた。

 

「渚大佐、まだ誰か残っているのか?」

「(深海棲艦の)死体だけです」

「し、深海棲艦の死体だけです…!民間人は皆無事です」

 

 渚の発言に対し、矢矧がフォローを入れる。

 

「とにかく皆無事でよかった……大佐、良いニュースと悪いニュースがある」

「良いニュースだけ聞かせてくれ。悪いニュースはどうせ個人での話だろ?」

 

 悪いニュースについてはだいたい検討はついていた。

 

「近くのリゾートホテルを貸し切り状態にした。そこで3日間程ゆっくりと休むと良い」

「ありがとうございます」

 

 矢矧と一緒に頭を下げる。後ろではワイワイとはしゃぐ声が聞こえた。皆十分頑張った。自分もよくやったと言ってやりたい。

 

「大佐」

「はい」

「君の行動はかなりめちゃくちゃだったが、よくやってきた」

「ありがとうございます」

「提督、にやけてるわよ」

「うるせー」

 

 矢矧に言われたので、少し笑いながら適当に返してやった。

 

 

 さっそく皆色々楽しもうと思うが、先に修理が先だ。艤装は任せるとして体の方だ。皆ぼろぼろだ。自分も含めて。とりあえず入浴。高速修復材すぐに使ってあげた。自分も使ってみたが、ある程度治癒は早くなったが、最低4時間は安静にしていないとダメだったようだ。それでも4時間だと周りは絶句していたが。

 

「提督」

「ん……なんだ寝かせないつもりか」

 

 安静にしている間寝ていようと思ったが、矢矧が訪ねてきた。

 

「少しだけ言いたいことがあるだけ」

「ん。で、ご用件は?」

「…………ふぅ」

 

 小さく息を吐く矢矧。

 

「渚のばかぁ!!!」

 

 悲鳴にも近いような甲高い声で怒られた。それも当然だ。

 

「心配したのよ……貴方が沈んで…またあの人みたいに自分の提督を守れなかったって……約束を……貴方のそばにいるっていう約束を…守れなかったって……」

「……ごめんな……心配をかけた……」

 

 ゆっくりと体を起こし、矢矧に近づき

 

「っ!?」

 

 抱きしめてやった。

 

「な、ななななな…!」

 

 顔を真っ赤にして小さく震える矢矧。何も考えずに抱きしめたが、怒っている可能性があるのは抱きしめた後に気づいた。

 

「……こ、こんな形で……誤っても…許さない………」

 

 それも当然か。殴られる覚悟はできた。

 

「……でも、今回だけは許してあげる。ばーかっ」

 

 矢矧の手が自分の背に触れた。

 

 

side:榛名

 

 渚の様子を見に来たつもりだったが、先客がいた。それにちょうどいい雰囲気で入る気にもならなかった。

 

「…もう、大丈夫そうですね」

「そうだな」

 

 自分の目の前には武蔵と大鳳がいた。一緒に来たのだ。

 

「今後私達どうなるんですかね」

 

 大鳳が呟いた。

 

「いつも通り艦娘として深海棲艦を倒す。違うか?」

「ですよね……」

 

 当たり前の返答に苦笑いする大鳳。榛名もくすりと笑った。

 

「……だが」

「「だが?」」

 

 武蔵の表情が変わった。ブリーフィングの時によく見た深刻な表情。

 

「上の人が言っていたな。悪いニュースがあるって」

 

 確かに言っていた。それに対し渚はわかりきっていた口だった。

 

「個人のこと…確かそう言っていましたね」

「ですが提督は憶測で発言していた可能性もあります……もしかすれば…」

 

 渚の予想が外れていれば自分たちにも関連性のある話だ。戦う以外の選択肢となれば容易に想像ができる。

 

「……解体…ですかね…」

「「………」」

 

 榛名の答えに武蔵と大鳳は何も言わなかった。自分たちの役目は終わった。他の鎮守府に行くという選択肢もあるだろうが、もしそれがなかった場合、役目は終了する。

 

「………今は考えてもしょうがないな。提督からの指示通り、今は休む。そのうち報告があるだろう」

 

 そう言って武蔵は立ち去った。

 

「……何も無いといいですけど……」

 

 病室の扉の隙間から二人の様子を覗いて立ち去った。

 

 

★会議室

side:渚

 

 3日めにしてようやく悪いニュースについて話があると連絡があった。誰もよってこない小さな会議室でお偉いさんと二人で話になった。話の内容は予測していた内容と一緒だった。

 

「……まあ、わかりきっていた」

「…すまないな。これも国の為だと思ってくれ……」

「……確認だが、やっぱり支援も何一つ無いのか」

「…………そうだな…なるべくいい形で検討しておく」

 

 その一言を最後に立ち去った。

 この話を皆にすればなんて言うだろうか。怒るに決まっている。でも黙っているわけには絶対にいかない。

 話の内容として形だけみれば彼女たちに一切の関連性は無い話だが、それはただの兵器として扱っていた場合の話だ。彼女たちにも感情と言うものはある。最も最初からこうなる可能性は少しでも予測はできていた。

 

「……辛いことかもしれんが、あの子達のことを考えれば出発間際のほうが良いんだろうな……」

 

 今日話せば皆まず寝れないだろう。夕食の時に話をしたとしても食事がまずくなるのもよくない。必然的に出発間際としか考えは出なかった。

 

 

★客室

 

 3日間自分は一人一室で部屋を借りていた。2日間誰も来なかったが、3日目にして来客が来た。

 

「失礼する」

「……珍しい来客だな」

 

 矢矧でも榛名でもなく来たのは武蔵だった。

 

「……悪いニュースについて……だろ?」

 

 彼女の表情を見れば分かった。ブリーフィングの時によく見た深刻な表情だ。

 

「そのとおりだ。あの話、聞かせてはくれないか?」

「……条件が3つ。この話を皆が出発するまで誰にも言わない。決して後悔しないこと。そしてしっかり寝れることを約束すること」

「その覚悟はできている」

 

 彼女の目を見る。迷いの無い瞳だった。

 

「…いいだろう」

 

 話の内容とそれに対する自分の答えを武蔵に伝えた。武蔵は何も言わず理解してくれた。

 

「……そうか…確かにそうだな………」

「…皆からすればとても苦しい内容だろう………すまない…」

「提督が謝ることじゃない…提督が……渚がいなかったら今頃私たちはここにいないだろう」

「…ありがとう……この話を聞いて条件通り寝れるな?」

「…努力はする」

 

 こんな話を聞いて誰も驚かない訳がない。武蔵が立ち去った後、本当に寝れなかったのは自分だと後々痛感した。

 

 

★港

 

 翌日の朝、皆港に集まった。隣には矢矧がいる。

 

「提督、なんで皆を集めたの?」

「これから一緒にそれについて話す」

 

 皆を改めて見る。軽く息を吐き、口を開いた。

 

「皆…よく頑張ってきた。ありがとう。で、皆に伝えることが有る………今後のことについてだが……皆はこの後別の鎮守府にそれぞれ移動してもらう。誰がどこに行くかはこの後お偉いさんから発表があるだろう」

「提督は?」

「………俺は……海軍…いや軍を辞めることになった」

「「「!!!???」」」

 

 突然の報告に皆表情が凍りついた。

 

「な…なんでそんなことを黙っていたの!!」

 

 矢矧が胸ぐらをつかんだ。本気で怒っている。

 

「……これにはわけがある。俺も何も言うことができないぐらいの、大きなわけが」

「わけって……」

「……最後の戦い、各国の軍もしっかり見ていたんだ」

「そ、そんな理由で…わたし、上の人に…!!」

「待て!」

 

 矢矧が走り出そうとしたところを手を掴み止める。皆その気持はよくわかる。

 

「……皆よく考えてくれ。皆見ていたように、俺は深海棲艦相手に砲弾を生身で受けても大ダメージにはならず、武器は使わなくても拳だけで倒せる。これを深海棲艦無しで考えてみろ。戦車の砲弾、空爆を普通に受けきれる可能性があり、たった一人で大きな武器もたせれば制圧できる可能性だってある危険な人間だ。こんな人間を軍にいさせて、各国が黙っていると思うか?」

 

 防衛手段としては立派かもしれない。だがこの先未来の平和の関係上、邪魔でしか無い。少なくとも日本では軍にいられないだろう。どちらにせよ、彼女たちと離れることは変わらない。

 

「………くっ……」

 

 矢矧の手に力は入っていなかった。

 

「……確かに…そのとおりだわ……でも……いくらなんでも…急すぎない……?」

「……そうだな……すまない」

「………皆、提督の話は納得できたわね」

 

 皆無言で頷いた。彼女たちは泣いていたり、うつむいていたりといい表情ではなかった。

 

「…提督」

 

 武蔵が口を開いた。

 

「………昨日このことで話をした。だが、皆もある程度はわかっていたようだ。遅かれ早かれ提督と別れる日が来ると」

「…提督が寝ている間に、皆で話しあっていたんです。今後どうなるのかって」

「……予想通りの結果が来てしまったんですけどね……」

 

 榛名、大鳳が呟いた。

 

「さて、電」

「…ひぐっ、はい…なのです…」

 

 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら大きな紙袋を持ってこちらに来た。電はあの鎮守府で最初に出会った艦娘だ。それから一緒に戦ってきた。電が持っている紙袋を渡された。

 

「…これは…?」

 

 中身は大量のポストカードのようだった。中には封筒も入ったりしている。一つ手にとって見てみた。途端に目が熱くなってきた。

 

「皆で書いたお礼のお手紙です」

 

 榛名が言った。手に取ったポストカードには長い文とともにありがとうと書いてあった。

 

「…はっ…何だよ……最後の最後で……こんなサプライズ用意して……」

「私達も書いたんですからね」

「ちゃんと読んで下さいね」

 

 大淀と明石が言った。

 

「……ああ…………皆……ありがとう……皆と戦えて…光栄でした……!!」

 

 震える声で頭を下げた。その途端、拍手が鳴り響いた。今ここにいる皆と戦えて幸せだったのだろう。

 その後記念写真を撮ることになった。秘書艦として自分の隣に矢矧を。そして中心に。他の皆は前に座ったり横に立ったり。皆で敬礼したりピースしたりと色々変えながら写真を撮った。全員だけでなく、駆逐艦たちと、戦艦達とそれぞれの艦種ごとにも撮った。

 

「さ、最後の1枚っ」

「最後?」

 

 皆離れ、矢矧と自分だけが残った。

 

「提督と秘書艦。そういうことでしょ」

 

 その形でのツーショットだった。二人して敬礼して撮ってもらった。

 

 

 写真を撮り終わると同時に、出発の時間が近づいていた。

 

「…提督……いや、もう提督じゃないか。渚っ」

 

 最後に矢矧が口を開いた。

 

「皆から代表して言うわ。貴方と戦えて光栄でした」

「こちらこそ」

 

 差し出された右手を握り握手を交わした。

 

「…もう会うことはないでしょう…なんて別れセリフも嫌。またいつか…どこかで会いましょう」

「ああ…またいつか」

 

 そう言うと矢矧が少し踏み出した。

 

「っ!?」

「……貴方に祝福がありますように」

 

 額に唇が一瞬だけ触れた。額へのキスの意味は友情・祝福だったはず。そして小さな声で言われた。

 

「渚、いままでありがとう!!!」

 

 驚いているうちに皆動き出していた。矢矧も走り出した。

 

「…皆……気をつけてなーーーーー!!!」

 

 手を思いっきり振り、彼女たちを見送った。

 

 

 それからのこと。渚は仕事を探すことから始まった。結局上の人達は探してくれてはいたが、分厚いリストを貰っただけで話は何一つつけてくれていなかった。要は仕事を探したが電話からなにやらは全部自分でやれ。ということだ。ちょっとぐらい何かしてほしかった感じはあるが、仕方ないと言ったら仕方ない。ただ、退職?金とか今までの分のお金が口座に振り込まれていたのだが、なんとも恐ろしい値段だった。親が見れば泡を吹くだろう。実際自分も金額を見た時にめまいがした。特別賞与とかなんとか色々有るらしいが、詳しいことは聞かないことにした。

 そして皆から貰った手紙。あれは全部じっくり読んでファイルした。一つ一つ読んでる時は涙をボロボロ流していた。シンプルに書かれたものやダイレクトに書かれたもの、封筒に入れ丁寧に書き込まれたものと様々だった。それと写真。撮ったものは全部枠に飾ってある。一つ見るだけでちょっと目が熱くなる。それだけ大切な思い出だ。

 

「お兄さん、お客様来てるけど?」

 

 部屋で仕事を探していると妹が来てそんなことを言った。来客。もしかして海軍だろうか。とりあえず出ることにした。

 

「またおっさん?」

「んーん?女性の人。黒い長い髪のきれいな人だったよ」

「んんんん!!!???」

 

 思い当たるフシはあるがありえない。そうは思っても体は走っていた。

 大きな音を立て扉をあけた。そこには

 

「び、びっくりした……扉の前に人がいるってこと忘れないでね」

「や、矢矧!!??」

 

 別の鎮守府に行ったはずの矢矧が私服姿で目の前にいた。自分の家は鎮守府から遠く離れた田舎。なのに何故だろうか。

 

「それについてはわたしから」

 

 矢矧の後ろから例のお偉いさんが出てきた。

 

「彼女が選んだ結果だ」

「選んだ結果?」

「そう。このまま艦娘として生きるか、一人の人として生きるか。わたしは後者を選んだ」

「というわけだ。住民票の登録もしてあるし、生活するには何も支障はない」

 

 自分の知らないところでいろんなことが起きていたようだ。話を聞いてみれば艦娘以外の選択肢を選んだのは矢矧だけだったそうだ。

 

「では、あとは頼んだよ」

 

 そう一言残しお偉いさんは去った。

 

「…………」

「ねぇ、渚」

「ん、え、ああ…なんだ」

 

 一瞬の出来事で呆然としていた。

 

「私は戦いたくないからここに来たんじゃない。私は貴方の秘書艦だった艦。私がいなくなった今、誰が貴方の面倒を見るのかなって…ね」

「それって…」

「ふふっ、これからよろしくねっ!、朝霧 渚元大佐っ!」

 

 にっこり笑って挨拶をした矢矧。

 

「ああ、改めてよろしくな!!」

 

~fin~




最後ちょっとハイペースな流れでしたが、これにて本編終了です。こちらの方はアフターの話は無いと思います。たぶん。

色々あって更新日付が遅かったりしまして申し訳ありませんでした。

メチャクチャな内容も多々ありましたが、見てくださった皆様ありがとうございました。

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