砲雷撃戦(物理)するには提督は必要ですか? ~はい。提督は脳筋仕様の化け物です~   作:elsnoir

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弐拾六話 終戦

★海域

side:渚

 

 深海棲皇を追いながら随伴艦を沈めていく。

 

「このまま行かせれば大陸に到着してもれなく日本は火の海になる……その前に必ず沈める…!!」

 

 艤装速度を上げる。敵は背を向けているが撃つ気になれなかった。本体の背は向いているが、その尾はこちらを見続けていた。赤い瞳に深海魚みたいなずらりと並んだ鋭い歯が目立つ。

 

「……あの尾が他の深海棲艦を捕食し、本体がその力を得る。ならばあの尾を破壊すれば弱体化はできる……」

 

 だがそれも難しそうであった。尾は深海棲艦の戦艦クラスのように硬い装甲を身にまとっている。直接破壊するには骨が折れる。精神的じゃなく物理的に。何度も自らの拳で深海棲艦を沈めてきたが、今回だけはかなり難しい。そもそものサイズが桁違いなのだ。レ級のように小さくはなく単体で姫クラス程巨大なのだ。敵駆逐艦ですら1口なのだ。

 

「提督、どうするつもり?」

 

 矢矧から声をかけられた。

 

「……あのまま戦ってもこちらが不利になるだけだ。あの尾を破壊することを優先したいが……」

「そうね……一つだけ案がある」

「その案にかけるぞ。言ってみろ」

「本体と尾本体を繋いでる部分。あそこを貴方の対艦刀で一刀両断」

 

 単純明快だった。本体と尾を繋いでる部分は肌がモロに見えている。ここなら叩き切れる。

 

「その手があったな。援護を頼むぞ!!」

 

 更に速度を上げ近づく。本体がこちらを見、砲撃を開始した。両手に持つル級が持つような巨大な砲が火を噴く。ジグザクに進みながら砲弾を回避し、背中にある艤装で威嚇射撃を行う。直接当てるのではなくあえてずらしている。自分だけでなく後方から支援の砲撃も飛んでくる。

 

「上手く行ってくれよ…!」

 

 艤装から砲弾を放ち深海棲皇の目の前で着弾させる。巨大な水しぶきがあがる。その横で矢矧たちが放った砲弾も爆発し煙と水しぶきをあげる。

 

「小癪ナ…!!」

 

 深海棲皇が砲弾を放った。砲弾は空を切り、煙をはらった。そこには渚の姿はない。

 

「!?」

「おせぇんだよ!!」

 

 自分は深海棲皇の後ろにいた。右手に持つ対艦刀を大きく振り上げた。刃は本体と尾を繋ぐ肌の部分を的確に捉えた。そのまま力任せに斬った。青黒い液体が飛び散る。斬ったと同時に対艦刀が真っ二つに折れてしまった。

 

「グアッ!?」

「それもういっちょ!!」

 

 折れた対艦刀を捨て、斬った尾を右手で持ちそのまま回りながら勢いを付けて尾で深海棲皇を殴りつけた。

 

「!!!???」

「敵弱体化を確認!!」

「皆、今よ!!」

 

 深海棲皇が怯み、榛名と矢矧が声を上げた。

 

「沈メ提督ガ!!」

 

 体勢をすぐに立て直した深海棲皇。巨大な砲は的確にこちらに向けていた。避ける間もなく砲弾は放たれ、直撃した。爆炎と煙を撒き散らし高い水しぶきがあがった。

 

「ああっ!!」

「大丈夫……」

 

 悲鳴を上げる榛名。その隣で矢矧が平然としていた。

 

「大丈夫…………私達の提督は………渚は……」

 

 風が吹き煙が晴れる。

 

「………とても凄い化物(ひと)だって、知ってるから…!!」

「……はっ、よく言ってくれるよ」

「「「提督!!!」」」

 

 そこに渚は立っていた。左手に装備していた盾は全壊。背中の艤装も6つのうち3つ破損。魚雷も噴進砲も使えなくなっていた。

 

「ナ、ナゼダ……」

 

 にやりと笑う。その表情はきっと誰が見ても悪い表情に見える。ゆっくりと進み、深海棲皇に近づく。

 

「……ク、クルナ…!!」

「どうした、声が震えてるぞ」

 

 背中の艤装から一つ連装砲を剥ぎ取り右手に装備する。

 

「クルナァ!!」

 

 深海棲皇の持つ砲から砲弾が放たれた。それを横に回避し、艤装の速度を今出せる全速力まで引き上げ急接近した。

 

「ッ!?」

「………これが……最後の…」

 

 口を開いた頃には間合いに入っていた。

 

「ブロオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!!!」

 

 右手に力を込め全力で深海棲皇の腹を殴りつけた。同時に引き金を引き砲弾を放つ。至近距離で砲弾を直撃させさらにブローで深海棲皇の体は空高くまで吹き飛んだ。

 

「全砲門、開け!!」

 

 榛名が声を上げた。これで最後だ。他の艦娘達も構えた。右手の連装砲を空に向け

 

「地獄に落ちろ、深海棲皇」

「撃てーー!!!!」

 

 矢矧が声を上げたと同時に爆音が何度も鳴り響いた。残っている弾丸を全て装填し全部放った。空に爆炎が舞い、黒煙が埋め尽くした。

 

「索敵機から通信………敵深海棲艦、全滅を確認」

「……終わったんだな………全部…」

 

 これで戦いは終わった。後は帰るだけだ。

 

「皆……お疲れ様!!」

 

 振り向き皆を見る。

 

「戦いは終わったけど……ちゃんと陸につくまでは終わってないからな!!」

「「「はいっ!!」」」

 

 皆笑って応えた。その笑顔はきっと今まで一緒に戦ってきた中で一番きれいに見えた。




お久しぶりです。ほぼ一年近く更新してませんでした。その間艦これも離れてしまってはいましたが、自分のもの読み返して更新しました。忘れてしまった方も多いとは思いますが、待っていた方大変お待たせしました。

多分次で最後になると思われます。

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